我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年3組担任・英語教師「GTT」。暗黒英語でクラス全体の偏差値を底上げした張本人。霊力の覚醒兆候があるチャド・織姫・たつきを焼肉で釣って弟子候補(?)としてスカウトする。
戸川梢綾(とがわ しゃおりー) / 砕蜂(ソイフォン)
空座高校体育教師「シャオ先生」。二番隊隊長。余った啓吾と水色を引き取り、10kgの重りをつけたスパルタ外周ランニングを課すが、二人の隠れた霊力適性に目をつけ「人妻の甘い誘惑」としか思えない言葉でスカウトする。
黒崎一護(くろさき いちご)
空座高校1年・死神代行。期末テスト学年1位(満点)。ルキアの偽装腕組み、織姫の手芸部勧誘、たつきの空手部勧誘に巻き込まれる。
朽木ルキア(くちき るきあ)
空座高校1年・十三番隊隊士。期末テスト26位。光四郎の小言を回避するため、とっさに一護の腕に絡みついて「夫婦の時間」を言い訳にする。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席・朽木家家臣。空座高校2年生・学年1位。ルキアの不甲斐ない順位に説教を垂れつつ、一護のモテっぷりに「側室は日本の法律では肩身が狭い」と大真面目に忠告する。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
空座高校1年・学年2位。天然の高スペックを発揮。ルキアに対抗して一護を手芸部に誘う。古男の「焼肉」の誘いに大喜びで乗っかる。
有沢たつき(ありさわ たつき)
空手部・学年12位。古男の暗黒英語で急上昇。白鷹の「側室」発言に一瞬思考が揺らぎつつ、空手部に一護を勧誘。焼肉につられて古男組へ。
茶渡泰虎(さど やすとら チャド)
空座高校1年・学年8位。安定の成績上位者。焼肉に惹かれて古男の指導を受けることに。
浅野啓吾(あさの けいご)
空座高校1年・学年41位。裏切り者を探していたら自分が50位以内に入っていた。シャオ先生の「良いこと」「秘密の関係」という言葉に脳内ピンクで悶絶する。
小島水色(こじま みずいろ)
空座高校1年・学年50位。達観した女たらしだが、シャオ先生の無自覚な人妻トラップに興味を示す。
石田雨竜(いしだ うりゅう)
空座高校1年・学年3位。滅却師(クインシー)。トップを死神(一護)と人間(織姫)に奪われ、廊下の陰で静かにプライドを打ち砕かれる。
「フッ……! 見ろよ水色! 俺たちの『赤点同盟』から抜け駆けして、50位以内なんていう高みに逃げた卑劣な裏切り者は………この中に…………あ、あれ???」
啓吾の指が、ずらりと並んだ名前の途中で止まった。
【1年3組 浅野啓吾 41位】
探していたのは裏切り者の名前だったはずなのに、そこに書かれている名字には見覚えがありすぎた。
「どうやら、啓吾自身が一番の裏切り者だったみたいだね」
水色にまで言われ、慌ててその名前から逃げるように視線を下へ動かすと、今度はちょうど50位に別の見慣れた名前があった。
【1年3組 小島水色 50位】
赤点同盟から抜け駆けした敵を糾弾するはずが、蓋を開けてみれば構成員が二人とも抜け駆けしていた。
「な、なんでだァァッ!? 俺、テスト前日に徹夜でゲームしてただけだぞ!? なんで50位以内に入ってんだよォォッ!!」
「戸川先生の『暗黒英語』のおかげだよ。あの呪文みたいな構文を聴いてたら、なぜか現代文の読解も数学の公式も頭にスルスル入ってくるようになったからね」
普段なら啓吾も即座に否定しただろうが、今回は妙に思い当たるところがあった。古男の授業で何を聞かされていたかと問われれば、英単語より先に漆黒だの魂の渇望だのが浮かんでくる…が、試験問題を前にすると文章の区切りや条件だけは妙にはっきり見える。
なぜ数学まで効いたのかは知らない。
少なくとも、本人が赤点同盟を名乗れなくなる程度には効いていた。
「む…………」
すぐ近くで、チャドが低い声を漏らした。
【1年3組 茶渡泰虎 8位】
「おおっ! 凄いではないかチャド!! 堂々の1桁台だな!」
ルキアが嬉しそうにチャドの背中を叩く。そのまま自分の名前については何食わぬ顔で通り過ぎようとしたが、一護の目はそこまで都合よくできていなかった。
【1年3組 朽木ルキア 26位】
「……おいルキア。お前、あれだけ毎晩ドヤ顔で机に向かってた割には、もう少しなんとかならなかったのか?」
「うるさいわ! 現世の『化学』の元素記号がどうにも頭に入らんのだ! 『地理』の県庁所在地も多すぎる!! 貴族の教養とは畑が違うのだ!!」
現世へ来るまで都道府県という概念すら必要なかった人間に、いきなり要求する教育課程にも多少の酷さはある。
もっとも、それを考慮して点数を加算してくれる制度はなかった。
「………うそ、驚いた。アタシ、結構やるじゃん!!」
たつきも自分の順位を見つけていた。
【1年3組 有沢たつき 12位】
「わぁぁっ! たつきちゃんすごーい!! 中間テストのときは200位くらいだったのに、大ジャンプアップだよ!!」
「……いや、それを言うなら織姫、アンタこそ何なのよそれ……」
褒められたたつきの方が、すぐに呆れた顔になった。
【1年3組 井上織姫 2位】
「えへへへ…………でも、1位には届かなかったから、この順位でいいかな〜なんて!」
二位を取った本人だけが、なぜか申し訳なさそうだった。
そして、その一つ上にいる男はもっと平然としていた。
「まあ、こんなもんだろ。今回は結構ヤマも当たって自信あったしな」
【1年3組 黒崎一護 1位――全教科満点】
「お、おのれ…………満点だと……!? 完全に負けた…………!!」
「いや、なんでお前が俺と勝負してたことになってんだよ」
ルキアにはルキアなりの戦いがあったらしい。
ただ、一護がその戦いに参加していた覚えはない。
「――若奥様」
その呼び方が聞こえた瞬間、ルキアの顔から一護への対抗心が消えた。
「な、なんだ光四郎? 私と一護様の仲睦まじい語らいの邪魔をして……」
一護の右腕へ絡みつくまでが早い。
つい先ほどまで「完全に負けた」と歯噛みしていた人間とは思えない変わり身だったが、光四郎の前でだけはこれくらいやらなければならないらしい。
【2年1組 白鷹光四郎 1位――全教科満点】
しかも、その光四郎まで満点だった。
現世の学校へ転入してきたばかりの家臣にまで学年一位を取られると、ルキアの26位が急に肩身の狭い数字に見えてくる。
「四大貴族筆頭・朽木家の養女たる者が、現世のこの程度の初歩的な試験で26位などという不甲斐ない成績ではいけませんな。……これは当主である白哉………様にお願いし、瀞霊廷より超一流の家庭教師を派遣していただかねば……」
――こいつ、今『白哉』って呼び捨てにしかけただろ。
一護が引っかかったのはそこだった。
「そ、それには及ばん! 私はその……放課後は一護との愛を育む時間が何よりも大切でだな……勉強どころでは――」
「むむむ……! く、黒崎くん!! 放課後は私と一緒に手芸部に来るよね!? 可愛いマスコットの作り方教えてあげるから!!」
今度は左袖を織姫に引かれた。
「ん? いや、俺はそもそも帰宅部だし、手芸は……」
一護としてはどちらの話にも頷いた覚えがないのだが、右腕にはルキア、左袖には織姫がいる。
そこへ光四郎が、さらに余計な価値観を持ち込んだ。
「若旦那。我が国の古い風習として『側室』を持つこと自体は否定いたしませんが……一夫一婦制を重んじる現代の日本社会においては、周囲からの肩身が非常に狭くなりますぞ!!」
「誰が側室持つって言ったんだよ!!」
光四郎本人は真面目に忠告している。
その言葉を聞いたたつきの眉が動いた。
「一護ォッ!! 空手部はお前の入部をいつでも待ってるからな!! アタシが一からみっちり組手で可愛がってやるよ!!」
「なんでお前まで急に来るんだよ!? どうしたんだよお前らァァッ!! 離せェェッ!!」
右腕をルキア、左袖を織姫、首根っこをたつきに押さえられた一護は、もはや何も解決できなくなっていた。
少なくとも、この状況に使える公式は試験範囲には入っていなかった。
「もしもし? 水色さん? いやですわね〜、あちらの黒崎さんは無自覚天然ハーレムの主人公でも気取っていらっしゃるのかしら? 爆発なさらないかしら?」
「別にいいんじゃない? 女なんて、駄菓子みたいなものだよ。選び放題なんだからさ」
啓吾の嫉妬は、その一言で一度止まった。
「………………お前も大概だな」
「そう?」
水色は平常運転だった。
「………心配するな啓吾。一護は、硬派だ」
「………………おう」
チャドは励ましてくれた。
ただ、女子三人に囲まれている硬派な男を眺めながら聞く慰めとしては、あまり効かなかった。
【1年3組 石田雨竜 3位】
「……ぼ、僕が…………3位……!? いや……ショックなんか受けてないぞ……! 滅却師の誇りが、たかが現世のペーパーテストごときで揺らぐものか……! だが……1位が死神の黒崎で……2位が井上さん……!? 死神め……! いや……井上さんは普通の人間……つまり僕の学力は……くっ……!」
黒崎だけなら死神を理由に悔しがれた。
ところが、その間には織姫までいる。
滅却師の誇りでどう処理すればいいのか、本人にもよく分からなくなっていた。
◇◇
「クックック………!! 刮目せよ、我が愛弟子たちよ!!」
放課後になり、生徒の数がだいぶ減った一年三組へ古男の声が響いた。
「…………おい、いつから俺たちがアンタの弟子になったんだよ」
「貴様に言っているのではないわッッ!!!!」
「じゃあなんで俺の顔のド真ん前で叫ぶんだよ!! ツバが飛ぶじゃねえかバカタレ!!」
その疑問に答える気はないらしく、古男は一護を押し退けるようにして奥へ向き直った。
「たつき!! 織姫!!! チャド!!! お前たちに、我が深淵なる暗黒の秘術を授けてやろう!! 今日の晩飯は我が直々に奢ってやる、ついてくるがよい!! ――極上の『焼肉』だぞッッ!!!!」
「「「はい!! 喜んで行きます!!!」」」
三人の返事は、暗黒の秘術を聞いた時ではなく焼肉が出たところで揃った。
古男もそこについては何も追及しなかったので、おそらく最初から分かって使っている。
「えっ!? 先生、俺たちは!?」
当然、啓吾も食いついた。
「……そうか…………うん………まあ………お前たちか……。そうだな。――シャオ!!」
「お前達二人は、私と来い!! ……特別に、良いことをしてやろう」
啓吾の目の色が変わった。
「え……? い、良いこと………?」
「参ったなあ……。生徒と女性教師で……ですか? いけない大人の階段ですね」
水色まで珍しく声を弾ませた。
「うむ。さあ、ついてこい!!」
「「はいっっっ!!!!」」
この時点では、二人とも一切内容を確認しなかった。
◇◇
「し、死ぬ……!! 絶対これ死ぬってシャオ先生ぇぇぇ……!!」
数時間後、その判断を最も後悔しているのは啓吾だった。
両手両足へ取り付けられているのは、霊力を測定しながら負荷を掛ける十キロの特製ウェイト。普段の体育では当然使わない代物を装着したまま、空座町外周二十キロを走らされている。
「先生……僕、女性からこんなに重いものを貰ったの初めてですよ……」
水色もまだ冗談を口にしているものの、いつもの涼しい顔を維持する余裕まではなかった。
「口を動かす余裕があるなら走れ!! あと五キロだ!!」
「まだ五キロもあんのかよォォォッ!!」
二人が期待していた「良いこと」の中に、少なくとも鉛と二十キロ走は含まれていなかった。
何度か速度を落としながらも、結局二人とも最後まで走り切った。啓吾は途中から「焼肉の方へ行けばよかった」と何度叫んだか分からず、水色も最後の数キロでは女性教師への洒落た軽口すらほとんど出なくなっていた。
梢綾は負荷を軽くしなかった。二人がどこまで走れるのか見たかったからだ。
そして走り終えたあと、梢綾は二人を連れて別の店へ向かった。
「うっめぇぇぇぇ!! なにこれ!? 大トロって口の中で本当に溶けんの!?」
「先生、ウニもう一つ頼んでもいいですか?」
「好きなだけ食え。今日使った分はしっかり補給しておけ」
連れてこられたのは、高校生だけなら入口で値段を見て引き返しそうな寿司屋だった。
大トロもウニも好きなだけ注文して構わない。
苦しみは消えないが、人間の恨みというものは大トロによってかなり薄めることができるらしい。
「シャオ先生!! 俺、先生のこと誤解してました!! 一生ついていきます!!」
「さっきまで一生信用しないって言ってなかった?」
「寿司を食う前の俺と今の俺は別人だ!!」
「すごい理屈だね」
二人が寿司へ夢中になっている間も、梢綾の視線は時折その手足へ落ちていた。
二人とも、最初に想像していたよりずっとしぶとい。
もし、霊力の扱いまで覚えさせたら。
追跡を教えたら。
気配を殺す方法まで仕込んだら。
梢綾の考えていることを知らない二人は、そんな視線を別の意味に受け取っていた。
「……二人とも。この先……私と、さらに『深い関係』に進むつもりはないか……? 誰にも……他の生徒や、古男にすら言えない関係だがな……」
「………………ごくり。マ、マジで言ってるんですか、シャオ先生……?」
「…………人妻教師と、秘密の放課後レッスン…………悪くないですね」
寿司へ向いていた二人の意識が梢綾へ戻った。
「うむ。かなり厳しくなるぞ。今日程度で音を上げるようでは話にならん。私が直接、一から仕込んでやろう」
「い、一から……仕込む……」
「しかも秘密で……」
「当然だ。下手に他人へ知られるわけにはいかんからな」
梢綾の頭にあるのは、今日よりさらに本格的な霊力訓練だった。
啓吾と水色の頭にあるものは、どう考えても違う。
ところが言葉だけを拾えば、不気味なほど会話が成立している。
「では決まりだな。明日から放課後、私のところへ来い」
「「はいっっっ!!!!」」
翌日の放課後を、三人とも非常に楽しみにしていた。
理由だけは、教師と生徒でまったく一致していなかった。
暗黒英語(学習ブースト効果)
古男が授業で行う厨二病全開の英語講義。意味不明な魔方陣と暗黒構文を解説しているだけのはずだが、生徒たちの脳を極限まで活性化させ、現代文・数学・歴史など全教科の学力を底上げするチート効果を持つ。
白鷹光四郎の成績
2年生の部・学年1位(満点)。文武両道であり、現世の高校カリキュラムすら完璧にマスターしている。当主・白哉のメンツを保つため、ルキアの26位という成績には極めて厳しい。
側室容認発言
白鷹が一護に対して放った貴族社会基準の価値観。「側室を持つのは構わないが現代日本では肩身が狭い」という大真面目な忠告だったが、これを聞いたたつきや織姫の競争心に奇妙な火をつけてしまった。
霊力測定用アンクルウェイト(10kg)
砕蜂が二人に装着させた隠密機動の訓練器具。着用者の霊力を吸い取りながら負荷をかけるため、常人なら数歩で歩行不能になる。これを付けて完走した啓吾と水色は、一般人としては異例の霊力と根性を持っている証拠となった。
人妻の無自覚スカウト
砕蜂が隠密機動の斥候(修行生)として啓吾と水色を勧誘した際の言葉。「誰にも言えない深い関係」という表現が、不倫願望と人妻フェチを刺激する最悪の言葉選びとなり、男子高校生二人を激しく誤解させた。