我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年3組担任・英語教師「GTT」。自称「十四番隊隊長」。織姫・たつき・チャドを極上の焼肉屋に連れて行き、霊的覚醒の事実と死神の真実を告げる。飄々としつつも、孫のように見守る一心の息子・一護と志波家の未来を深く案じている。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
空座高校1年。霊が見える自覚は薄かったが、霊力覚醒の兆候を見抜かれる。一護の隣に立つため、古男の導きを受け入れる。
有沢たつき(ありさわ たつき)
空手部所属。一護の幼馴染。古男の電波発言に警戒しつつも、一護の背負う重荷を知り、力を欲する。
茶渡泰虎(チャド)
空座高校1年。シバタ(インコ)の件以来、霊的な感覚を明確に捉え始めていた。一護を支える力になるべく、古男の問いに静かに頷く。
焼肉屋のマスター
古男の知り合いである個人経営の焼肉店主。実はすでに死亡しており、古男の計らいで流魂街の特等地へ出店する約束と引き換えに店を続けている地縛霊。
「マスター、入るぞ」
古男が引き戸を開けると、暖簾の向こうから炭と脂の匂いが流れてきた。表通りから外れた路地の奥、赤提灯を頼りに探さなければ通り過ぎそうな焼肉屋である。
「「「お邪魔します……」」」
座敷へ通されたたつき、織姫、チャドの前には、注文を待つ間もなくカルビやロースの大皿が運ばれてきた。古男が予約していたらしく、七輪にはすでに炭が熾っている。
「さて………三人とも、まずは確認だが………『霊』が見えるな?」
肉を網へ並べながら出された質問に、織姫は首を傾げた。
「えっ? 幽霊さん?? う〜ん、私、透けてる人とか見たことないよう?」
「そ……そんなの見えるわけないだろ。アタシはただの空手少女だしさ」
たつきも否定したが、チャドには別の答えがあった。
「……気配みたいなものは、前々からわかっていた。だが………あのインコのシバタの件以来、割とはっきり輪郭まで視えている」
「クックック……まあ、全員バッチリ見えているのは確定だがな!!!!」
「なんで決めつけるんだよ!! 織姫もアタシも見えてないって言ってんだろ!」
古男は反論せず、追加の皿を運んできた店主へ声を掛けた。
「――なあ、マスター!!」
「はい。……私…………幽霊ですので」
織姫とたつきの口が止まった。
先ほど店へ入った時から店主の姿は、二人にも何の違和感もなく見えていた。いまさら「見えていない」と主張するには、すでに会話までしてしまっている。
七輪の上では、誰からも構われなくなったカルビが焼け続けていた。
「マスター、怪しい客の実験台に付き合ってくれてありがとうよ。成仏して尸魂界へ行ったら、流魂街の一等地に良い店を出せるよう便宜を図ってやるからな」
「へい! ありがとうございます、戸川の旦那!」
「……マジかよ。店主がすでに幽霊だったのかよ……」
たつきが店主を見直している間にも、本人は何事もなかったように空いた皿を片づけていく。幽霊だからといって、接客に支障はないらしい。
「でだ、三人とも。――ここからが本題だ。一護のことなんだがな……」
古男が話した内容は、焼肉へ誘われただけの三人には重かった。
黒崎一護が死神代行として虚を斬っていること。死者が送られる尸魂界と、そこで魂を守る死神たちのこと。そして古男や梢綾だけでなく、ルキアも光四郎も同じ死神であることまで聞かされれば、学校で見慣れた顔ぶれの意味まで変わってくる。
「黒崎くんが死神!!? でも大きな鎌持ってないよ!!? 黒いローブも着てないよ!!?」
織姫が最初に引っかかったのは服装だった。
「井上…………問題はそこではないと思う……」
チャドは焼けた肉を自分の皿へ移しながら答えた。
「ああ……この電波丸出しの英語教師が、本当にあの世の死神だなんて……世も末だわ……」
「有沢………だから、突っ込むべき問題はそこではない……」
チャドが二度続けて同じ役目を担うことになった。
自分たちが知らなかっただけで、一護の周囲には死神が何人も紛れ込んでいたらしい。もっとも、そのうち一人は英語教師として暗黒を連呼し、もう一人は体育教師として生徒を走らせているため、死神だと知らなくても充分に目立っていた。
「で?? アンタがアタシらにそれをバラして、ただ教えてくれるだけなワケないだろ。何が目的なんだよ」
たつきが尋ねると、古男は待っていたと言わんばかりに笑った。
「クックック!! 無論それだけではない。貴様たち三人には、ただ霊が見えるという枠に収まらぬ、特殊な霊的異能が芽生えつつある。……まあ、啓吾や水色は純粋に見えるだけの素質だろうから、シャオに押し付けたがな」
「……あいつら、シャオ先生についていったよな?」
「うむ!!」
たつきはそこで口を閉じた。何をされているのか想像する材料が足りなかったし、確認したところで古男が把握しているとも思えない。
「……私たちが力を手に入れて、それで……どうなるんですか?」
「……お前たちが、一護の背負う重荷を分かち合い、あいつの隣に立ちたいと願うなら――俺はその力の引き出し方を手伝ってやることができる」
「先生は……どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「そうだ。アンタみたいな胡散臭い男に、アタシらを鍛える得なんて何一つないだろ? なんでそこまで一護に肩入れするんだよ」
「バカめ。無論、俺に特大の得があるからに決まっておろうが!!」
「……嘘でも『教師だから生徒の力になりたい』とかは絶対に言わないのね、アンタは」
「俺が嘘をついて何になる。生徒の力になり、そのついでに俺の望む結果まで手に入るなら万々歳であろうが」
「あいつは言ったとおり、尸魂界の五大貴族・志波家の血筋だ。だが今は現世の人間として生きている。いずれ年老いて寿命を迎えれば、当然のように尸魂界へ送られ、正式な死神として生きることになるだろう」
一護の将来と聞いて、たつきたちが想像するのはせいぜい数年先だった。進学するのか、就職するのか、どこに住むのか。
「だがな……今の尸魂界において、志波家は他の大貴族と比べて勢力争いで劣勢に立たされている。何より、一護には死後、背中を預けられる信頼に足る臣下も、対等に肩を並べられる友人もいないのだ」
「だから……私たちに、そうなってほしいと……? 黒崎くんを支えられる存在に……?」
「そうだ。今の志波家は致命的な人材不足でな。現当主の海燕と、分家の一心、それに空鶴だけでは、貴族社会のしがらみや外敵を相手取るには限界がある」
「……それも志波家の都合だ。先生個人の得ではないはずだ」
「そうだな……。一心は、俺にとっては手のかかる孫みたいなものだからな。……その孫の家に肩入れして地盤を固めてやることが、爺にとって何の得にもならないと……そう思うかい?」
「……孫……」
「まあ、先の遠い話は抜きにしてもだ。ここまで霊力が跳ね上がってしまった人間は、放っておいても美味そうな餌として凶悪な虚に狙われる。自分の命を護る最低限の術は、今のうちに覚えておきなさい」
「「「は……はい」」」
三人の前へ、護身術、死後の就職先、五大貴族の勢力問題まで並べられた。テーブルの上にはカルビとロースしか注文していない。
「現世で一護の隣で共に戦う戦友となるも良し。死後に志波家へ仕えるも良し。……まあ、どちらかが一護の嫁になって家を支えるかも、俺からは一切強制はせん。だが……期待はしているぞ? クックック……!」
護身術の説明を受けていたはずなのに、いつの間にか婚姻まで選択肢へ追加されていた。古男の中では戦力補強と嫁探しが同じ志波家人材計画に入っているらしい。
「だ、誰が嫁だバカ教師ィィッ!!」
「よ、よ、お嫁さん……!? 黒崎くんの……!?」
「クックック……俺は何も強制しておらんぞ?」
「期待もすんな!!」
古男だけはどちらでも構わない顔をしているあたり、本人にとって重要なのは恋愛事情ではなく志波家の将来だった。
「……先生、肉が焦げる」
「ぬおおおおッ!? 俺の特上カルビがァァァッ!!」
「知らねえよ!! さっきから喋ってばっかりだっただろ!!」
「チャド!! まだ間に合う!! 救出せよ!!」
「……無理だ」
数十年後の一護の死後まで見通していた計画は壮大だったが、特上カルビの数分先までは計画に含まれていなかった。
志波家の現状
尸魂界における五大貴族の一角。現在は志波海燕が宗家の当主を務め、一心は分家の血筋にあたる。没落は免れているものの、朽木家や四楓院家などの他貴族と比べて実力者・臣下の層が薄く、勢力としては劣勢に立たされている。
孫のような一心
古男にとって、黒崎一心はまさに手のかかる孫のような存在。古男が一護や現世の仲間たちに目をかける最大の動機であり、志波家の未来を固めるための布石となっている。
潜在的異能の覚醒
一護の強大な霊圧に当てられたことで、織姫(盾舜六花)やチャド(巨人の右腕)、たつきの中に眠っていた霊的才能が急速に目覚めつつある状態。
地縛霊の焼肉店主
現世に未練を残していたが、古男から「成仏後に流魂街の一等地へ出店できるよう便宜を図る」と約束されたことで、成仏前の協力者として一役買った。