我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。始解ができない原因を探る中で、白鷹から浅打を持たない異常性を指摘される。白鷹の容赦ない猛攻を受け、鎖結と魄睡を破壊されて瀕死に陥り、精神世界で「謎のオッサン」と対峙する。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席・朽木家家臣。普段の慇懃な執事モードから一転、戦闘時は「白哉至上主義」の冷徹かつ狂気的な戦闘狂へと豹変する。自らを焼きながら敵を滅ぼす自傷型斬魄刀『天蝋』を操る。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護を庇うため袖白雪を解放し、白鷹の狂行に立ち向かう。
???(斬月のオッサン)
一護の精神世界に佇む漆黒のコートの男。瀕死の一護に対し、一切の濁流も誤魔化しも挟まずに衝撃の真名を名乗る。
「……………これは………『浅打』では………ありませんね」
白鷹が鍔元から切っ先まで調べた末、一護の斬魄刀は刀としての常識を守っていないと判定された。
地面へ立てれば一護の肩まで届き、刃の幅も長さも一般的な刀の範囲には収まらない。
白鷹の声は遠くの岩壁へぶつかり、同じ結論を何度も返した。
駄菓子屋の地下に声が反響するほどの荒野があることも調査すべきなのだが、今日の議題は建築基準法ではなく斬魄刀だった。
「どういうことだ、光四郎?」
「この力……表面上は若奥様から譲渡された死神の力のようですが……それだけでもなさそうです。本来、他者から霊力を譲渡されただけの一時的な力であれば、魂が耐えきれずに霧散するか、器相応の小さな形にしかなり得ません。しかし若旦那は志波家のご血筋……内なる死神の力がないはずがないのです」
「俺の中に、もともと死神の力がある……?」
「ええ。それなのに、体に巡る力の大半が若奥様の霊力で上書きされたまま残留している。何より……正式な『浅打』を貸与されていないにもかかわらず、すでに己の斬魄刀の形を成している……。実に不可解です」
護廷十三隊の備品管理簿に一護の名はない。
「おいおい、斬魄刀ってのは死神になったら誰でも最初から持ってるもんじゃねえのかよ?」
「何を言うか一護! 斬魄刀とは、真央霊術院や護廷十三隊に入隊した際に名もなき『浅打』が一人一振りに貸与され、日々の研鑽で己の魂を染み込ませていくものなのだ! 除隊時には返還せねばならん!」
教えられる内容がこれほど綺麗に揃っているなら、もっと早く教えてもよかったはずである。
「……そんなこと、お前今まで一言も教えてくれなかったじゃねえか」
「ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
ルキアの顔が一護から外れ、誰もいない岩壁へ向いた。地下訓練場には風がないため、口笛はよく響いた。
「若奥様への常識指導は後回しにするとして……。こうなっては仕方ありませんね。若旦那の内側に眠る『真の力』を、無理やりにでも外へ引きずり出すしかなさそうです」
「…………どうやって引き出すんだよ?」
一護へ返されたのは、普段どおりの微笑だった。
一つ教えよう。朽木家では、指導者の笑顔から修行の安全性を判断してはいけない。
「まずは…………」
言葉の続きより先に、正拳が一護の胴へ突き込まれた。
両足が地面から離れ、身体が飛ぶ。背中から岩壁へ叩きつけられた衝撃で肺の空気が押し出され、崩れ落ちた岩片が肩や頭へ降った。
「がはっ……!? な………何しやがるテメエエエッ!!?」
「一護!! 光四郎、待て!! なぜいきなり!?」
ルキアの手が袖白雪へ掛かった。白鷹はそちらを見ず、岩壁の下で身を起こそうとしている一護へ歩みを進める。
「若奥様は下がっていてください。――これは、朽木家の未来に関わる大切な試練です」
先ほどまでの微笑も消えており、一護が納得してから修行を始める予定はないらしい。
「……まずは、己の真の力を自覚しなさい。白哉から『刃禅』は全く効果がなかったと聞いている。ならば道は一つ……死の淵で斬り合いながら、己の内なる力を強引に覚醒させるしかない」
座禅で刀の声が聞こえなかったため、次は殺し合いになった。
朽木家には中間の難易度がない。
鞘走る音が岩壁へ届き、白鷹の斬魄刀が露わになる。刃を下げたまま近づいてくる姿には、寸止めを期待できる要素がなかった。
「覚醒できれば良し。……もし出来ねば…………」
一護が岩壁へ手をつきながら立ち上がると、白鷹の刃が持ち上がり、その切っ先が喉へ向けられた。
「……………出来ねば、どうなるんだよ」
「白哉の義弟になる資格など…………貴様には端から無かった。それだけのことだ」
「……おいおい、マジかよ……!!」
斬魄刀の柄革が、一護の掌で軋んだ。
「――我が痛みよ、かの敵を討て。『天蝋(てんろう)』」
刀身から噴き上がった炎は、一護へ向かわない。
柄を握る白鷹の指へ絡みつき、手の甲から腕、肩、胸へ這い上がる。死覇装が焼け落ちた内側で皮膚が赤く裂け、脂の焦げる音と臭いが岩場へ広がった。
「お………お前ッッ!!? 自分が燃えてるじゃねえかァァッ!!?」
白鷹は答える間にも前へ出た。炎に包まれた足が地面を踏み、焼けた腕は刀を下げることもない。
「……『痛いこと』と、『動けないこと』は……まったく別の問題だ」
一般には、身体が焼ければ動きを止める。白鷹には一般へ合わせる予定がない。それだけのことだ。
草鞋が岩を蹴った音は聞こえたが、そこにいた白鷹の姿を一護の目は捉えられなかった。正面から炎が消え、代わりに背中の皮膚が熱波に打たれる。
「しまっ――! 瞬歩なら、俺だって鍛えられて負け――」
「――遅い」
燃える脚が脇腹を薙ぎ、一護の身体が地面へ落ちた。肩から岩へぶつかり、二度、三度と跳ねて土煙の中を転がっていく。
「まずは、貴様の体を覆っているルキアの死神の力を引き剥がす」
止まった先で一護が斬魄刀を支えに起き上がる頃には、炎が土煙を裂いて目前まで迫っていた。頭上から落ちてきた刃を刀身で受ける。
白鷹の刀が一護の斬魄刀へ食い込み、受け止めた腕へ重さが伝わる前に刀身を断ち切った。上半分を失った刃が回転しながら岩へ突き立つ。
「う、嘘だろ……ッッ!?」
折れた刀へ目を奪われた一護の胸へ、白鷹の切っ先が入った。引き抜かれた刃は角度を変え、続けて腹を穿つ。
「鎖結(さけつ)と魄睡(はくすい)を穿った。これで貴様の借り物の力は消滅した」
傷口から血が溢れ、膝が落ちた。身体の内側を満たしていた力が穴から抜け出す感覚に襲われ、腕に残っていた重さも、指先の感覚も失われていく。
「が…………はっ…………」
地面へ倒れた一護の下で血が広がった。離れた場所からルキアが叫んでいるはずなのに、声は岩壁の向こうへ遠ざかっていく。炎に包まれた白鷹の刀が、頭上へ掲げられた。
「浦原殿であれば、ここから這い上がる猶予を与えるのだろうがな。……私は甘くはない。このまま貴様を斬り捨てる」
息を吸おうとしても胸が動かず、胸も腹も熱いはずなのに痛みさえ遠い。
閉じかけた視界から炎の赤が失われた時、その奥で男の声が響いた。
『――一護よ。一護…………起きろ』
「待てと言うておろうがァァァッッ!!!!」
振り下ろされた天蝋へ、純白の刃が横から食い込んだ。
「舞え――『袖白雪(そでのしらゆき)』ッッ!!」
白鷹の炎と袖白雪の冷気が互いを削り、二人の間で水が弾けた。生じた蒸気が岩場を白く塞ぎ、一護の身体を守るように前へ立ったルキアの死覇装を濡らしていく。
「……ルキア。貴様、分家の養女の分際で……この俺に刃を向けるか」
若奥様という呼び名は消えていた。燃えた頬の皮膚が剥がれても、白鷹の刀は袖白雪を押し下げ続けている。
「相変わらずの二重人格め!! 一護を殺させはせんぞ!!」
「勘違いするな。今破壊したのは、貴様が分け与えた不完全な力だけだ。奴本来の魂は壊していない」
白鷹の採点基準では、魂が壊れていなければ試練は続行できる。地面に広がる血は、採点項目に入っていなかった。
天蝋の炎が黒く焼けた皮膚を食い破り、肩から背へ回った。
白鷹の足元から砂が輪を描いて退き、袖白雪を支えるルキアの腕が押し戻される。
「退け。退かねば、貴様とて火傷では済まさんぞ」
足元の砂を踏み締めたルキアは、袖白雪を退かなかった。
「このっ……! 兄様に言いつけてやるからな!!」
「言いつけるがいい! 白哉は甘すぎるのだ! この程度の死線の試練すら越えられぬ男など、我が朽木家には断じて不要ッッ!!」
袖白雪を引いたルキアは、切っ先を足元へ突き立てた。白い軌跡が地面へ四角を刻み、枠の内側から冷気が噴き出す。
「次の舞――『白蓮(はくれん)』ッッッ!!!!」
白鷹の両肩から炎が伸び、背後で翼を形作った。
燃えるほど出力を増していく天蝋が、既に炭化した身体をさらに焼いていく。
攻撃技の使用者が敵より先に炭化しているが、天蝋はそこを不具合として扱わない。
「――『蝋翼・天翔(ろうよく・てんしょう)』ッッッ!!!!」
氷雪の奔流へ、紅蓮の翼が正面から突入した。
白と赤が地下訓練場を二つに分け、衝突した境目から水蒸気が噴き上がる。砕けた氷が岩壁へ突き刺さり、炎に触れたものから水へ変わって地面を叩いた。
◇◇
その轟音は、一護のいる場所まで届かなかった。
背中に触れているのは滑らかな硝子だった。目を開けると、青空を貫くはずの高層ビルが横倒しになり、その側面が地面として果てまで続いている。
「……ここは……? 俺は、あの執事に殺されたはずじゃ……」
胸へ手を当てても傷はなく、血もつかなかった。立ち上がった一護の頭上から、先ほど聞いた声が降ってくる。
「……一護よ」
横倒しになった別のビルの壁に、男が立っていた。漆黒のサングラスにロングコート、口元を覆う髭。一護の身体はその姿を知っていると訴えているのに、記憶のどこにも名前がない。
「……誰だ、アンタ。……オッサン、どっかで見たことあるような……」
風がロングコートの裾を持ち上げる。男は一護の疑問へ正面から答えた。
「――私だ。ユーハバッハだ」
始解の修行は斬魄刀の名を聞くところから始めると、白哉は確かにそう教えていた。先に別人の本名を聞かされる手順は、朽木家の指導書にも載っていない。
天蝋(てんろう)
白鷹光四郎の斬魄刀。
解号:「我が痛みよ、かの敵を討て」
能力:使用者自身の肉体を激しく燃焼させる代償として、耐久力以外の全ステータス(攻撃力、速度、反応速度、霊圧出力、斬撃・鬼道威力)を爆発的に強化する。
弱点:肉体の耐久力や火傷耐性は一切強化されないため、強くなるほど本人の肉体が自壊していく。「痛いことと動けないことは別問題」と言い切る白鷹の狂気によってのみ成立する、四番隊(治療班)から最も嫌われる自傷特攻型の刀。
技・蝋翼天翔(ろうよくてんしょう):自らを焼く炎を背中に巨大な翼として展開し、超高速で敵へ突撃する肉体破壊技。
浅打(あさうち)
すべての死神が真央霊術院や入隊時に貸与される「名もなき刀」。寝食を共にし魂を染み込ませることで独自の斬魄刀へと進化する。一護が浅打を経ずに斬魄刀の形を成していた事実は、彼の特異な出自を示している。
鎖結(さけつ)と魄睡(はくすい)
死神の霊力の発生源と循環を司る急所。ここを破壊されると死神の力を失う。白鷹はルキアから渡された力を強制的に消滅させ、一護本来の力を引き出す荒療治としてここを穿った。
私だ、ユーハバッハだ
精神世界に現れた「斬月のオッサン」の第一声。本来であれば終盤まで隠されるはずの正体(滅却師の始祖・千年前のユーハバッハの姿)を、名前の濁流による検閲を完全に無視して開幕からド直球に自白した歴史的瞬間。