我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。精神世界でオッサン(滅却師の力)と白一護(死神・虚の力)を力づくで掌握。虚の仮面を被った死神として完全覚醒を果たし、自らの斬魄刀『斬月』の名を叫んで月牙天衝を放つ。
オッサン(ユーハバッハの姿をした滅却師の力)
一護の精神世界に座す存在。自らの名をあっさり名乗ったものの「その名で呼ばれるのは好まぬ」とオッサン呼びを承諾。ルキアを「婚約者」と呼んで一護を煽り、覚醒へと導く。
白一護(内なる虚・真の斬月)
一護の精神世界の深淵に潜む死神と虚の力。もったいぶって登場しようとした瞬間、急ぐ一護に顔面を鷲掴みにされて力を強奪される。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席・朽木家家臣。自傷強化の始解『天蝋』を全開にしてルキアを圧倒。一護の覚醒に歓喜し、「蝋翼天翔」で正面から激突する。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。血を流しながらも一護の復活を信じて命がけで白鷹を食い止め続ける。
「…………なるほどな。つまりアンタ……ユーハバッハのオッサンは、死んだ俺のお袋の方の遠いご先祖様ってことだな。で、お袋の実家は『滅却師(クインシー)』っていう、退魔師みたいな特殊な一族だったと」
横倒しの高層ビルの上で、一護は腕を組んだまま、聞かされた事情をそこまで整理した。
魂の内側には戸籍係がいないため、本人を名乗る男の説明を信じるほかなかった。
漆黒のサングラスの奥で、男の瞼が伏せられる。
「うむ、概ねその理解で相違ない。……だが、私はその名で呼ばれることを好まない」
「……分かった、じゃあ『オッサン』でいいや」
呼称の相談は、それで終わった。遠い先祖へ向ける敬意として適切かはさておき、男は長い沈黙の末に受け入れた。
「まあ……よかろう。呼び名など本質ではない。それよりも一護よ、まずはお前自身の奥底に眠る『真の死神の力』を探し出すがよい」
「探すって……どうすりゃいいんだ? このビルの瓦礫でもそこら辺掘り返すのか??」
「いや……掘る必要はない。お前の後ろを見ろ」
促されて背後へ顔を向けた一護は、そこにあるはずの青空を失った。
地平線まで木箱が積み上がっていた。高さも列も揃えられ、横倒しの摩天楼を埋め尽くしている。数千で済むのか、数万を越えているのか、数えること自体が修行になりそうな物量だった。
「この中の一つにお前の死神の力が入っている。それを自らの手で探し当てるのだ」
「…………マジかよォォッ!? こんなにあんのかよ!!」
探し物に自信がある人間でも、ここまで箱を用意されると自信から先に帰る。
「まあ……時間は多少はある。焦らず探すがよい」
「多少って……どれくらいだよ!?」
虚空を指すと、青空の一角が四角く切り取られ、地下訓練場の光景を映し出した。
人の魂には家系図と倉庫のほか、現実を中継する設備まで備わっていた。
氷雪と業火の衝突で濡れた岩場を、ルキアの身体が転がっていく。袖白雪を杖にして膝を起こしても、血を吸った死覇装が腕へまとわりつき、立ち上がる前に白鷹の草鞋が目前へ降りた。
天蝋の炎は、敵を斬る間にも持ち主を焼いている。炭化した肩から刃を振り下ろすたびに火の粉が散り、ルキアが受けた袖白雪の鍔元から白い蒸気が噴いた。二度目の斬撃で足場が割れ、続けて脇腹へ入った燃える蹴りが、その身体を岩壁まで運んだ。
「ああああああっっ!!」
背中から岩へ打ちつけられ、口から血が落ちた。
袖白雪を手放さないルキアへ、白鷹は焼けた腕を伸ばし、切っ先を喉元へ合わせる。
「さあ……そこを退け、ルキア!! 貴様が死ぬ筋合いはない!!」
「……お前の『婚約者』が斬り殺される前に、見つけるんだな」
「だから婚約者じゃねえええええええええっっっ!!!! うおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
訂正の声を上げたまま木箱へ飛びつき、一護は蓋を片端から開け始めた。婚約は否定したが、救出を急ぐ理由までは否定していない。
最初の蓋が外れると、中から淡い光景が立ち上がった。
八歳の一護が、濡れたシーツを裏返して布団へ戻している。
証拠品の上下を入れ替えれば事件そのものも裏返せると、当時は信じていたらしい。
オッサンが箱の中を覗き込み、髭の奥から懐かしむ声を出した。
「ふむ…………これはお前が八歳の時、おねしょをしたのを隠そうとしてシーツを裏返し、父親にバレて腹を抱えて笑われた時の記憶だな……。実に懐かしいものよ……」
「うわああああああああっっ!! 見るな! 喋るな!! 精神攻撃してくんじゃねえええええええっ!!!!」
最初に掘り当てたのは八歳の失敗だった。
魂の倉庫は、必要な物ほど奥へしまい、忘れたい物には分かりやすい蓋をつけている。
次の箱へ伸ばしかけた手を止め、一護は両の掌で自分の頬を打った。痛みが頭の中に残っていた羞恥を追い払い、乱れていた呼吸が腹の底へ戻っていく。
「……落ち着け……集中しろ……! 何のためにこの二か月間、白哉のクソ兄貴の座禅や、古男の電波特訓に付き合わされてきたと思ってんだ……! 俺の魂の、本当の『匂い』を辿れ……!!」
目を閉じても、木箱の数は減らない。だが一つずつ開ける必要もなくなった。
声、記憶、霊力。自分を形作るものが重なった世界で、なお自分から遠ざかろうとする気配がある。一護は並んだ箱から意識を外し、横倒しの街の底へ沈んでいく細い繋がりを手繰った。
「………っ、そんなところに隠れていやがったか……!!」
拳を落とすと、足元の硝子が内側から弾けた。
亀裂の奥に押し込められていた闇が噴き上がり、白い手が縁を掴む。続いて現れた顔も髪も死覇装も、すべて一護から色だけを奪った姿をしていた。黒い眼球の中央で金色の瞳が一護を捉え、剥き出しの歯が歓待の形に並ぶ。
「ヒャハハッ!! いいじゃねえか相棒ォォッ!! 一足飛びにオレの居場所を見つけやがるとはよォォォッ!! だがこの力は、そう簡単に貴様なんぞに――」
最後まで名乗らせる義務は、一護にも精神世界にもなかった。
突き出した右手が白い一護の顔を掴み、そのまま身体ごと闇から引きずり出す。後頭部へ回った指が締まり、白い足が硝子から離れた。
「ぶへっ……!? なっ……!?」
「四の五の言わずにさっさと力を渡せ。――外で、ルキアが危ねえんだよ」
白い一護が両手で手首を剥がそうとしても、指は頬へ食い込んだまま動かない。
黒と白の顔が鼻先まで近づき、互いの霊圧が接触した場所から色の境が崩れていく。
「なっ…………て、テメエ……話の腰を折りやがっ……う、ウオオオオッ!?」
白い腕が霊子へほどけ、一護の右腕へ吸い込まれた。肩、胸、脚も同じ流れへ呑まれ、最後に金色の瞳が黒い身体の奥へ沈む。二つの声が同じ名へ重なった。
◇◇
切っ先が、ルキアの喉へ入る手前で止まった。
背後の血溜まりから光が立ち昇り、岩盤を割ったためである。
訓練場に残っていた水が地面を離れ、砕けた岩片とともに柱の周囲を巡る。
上方へ伸びた光は地下の天井を突き破り、どこまでが浦原商店の敷地なのかという問題もまとめて吹き飛ばした。
光の柱が細くなり、巻き上げられた霊子が黒い衣へ集まっていく。
そこに立っていた一護は、漆黒の死覇装をまとっていた。胸と腹を穿たれた傷は塞がり、折れた斬魄刀の柄が右手に残っている。そして顔を覆う白の仮面には、左側から赤い縞が走っていた。
「い……一護……!?」
「……クッ……ハハッ! これは………予想以上だ……! 魂の急所を穿たれてなお、これほどの力を呼び覚ますとはな……!」
白鷹の笑いに合わせ、焼けた頬から黒い皮膚が剥がれた。本人はそちらへ関心を向けず、天蝋の切っ先を一護へ移す。
一護は右手を仮面へ掛け、頭の斜め上まで押しずらした。露わになった顔に傷はなく、視線は岩壁の下に座り込んだルキアへ向いている。
「……待たせたな、ルキア」
ルキアは声を返す代わりに顎を引いた。
「まずは見事。己の内に眠る真の力を呼び覚ましたようだな。だが……勝負はここからだ。若旦那……貴様、自らの斬魄刀の『真の名』は聞けたのか?」
呼び名が若旦那へ戻っていた。白鷹の人格は復帰したらしいが、修行を中止する兆候はなかった。
「ああ、バッチリ聞かせてもらったぜ」
一護が折れた柄を正面へ構えると、白鷹も刀を正面へ戻した。
二人の間には、白蓮が削った地面と、天蝋が溶かした岩が長く伸びている。
まっすぐ踏み込める足場は残っていなかった。
「ならば…………この一撃!! 見事、我が身を焼く業火ごと防いでみせろ!! ――はあああああっっ!!!!」
天蝋の炎が白鷹の背へ流れ、左右へ広がった。翼の輪郭が地下の暗がりを赤く押し退け、熱にさらされた岩肌から亀裂が走る。燃え残った死覇装が肩から崩れても、刀を握る両腕の高さは変わらない。
一護は目蓋を閉じ、柄に添えた左手で呼吸を測った。
敵は一人。
『恐れる必要はない。……逃げれば老いるぞ』
「――臆せば、死ぬぞ!!」
さらに白い一護の声が割り込み、同じ魂の内側で獣じみた笑いを響かせた。
『ハハッ! 叫べ、相棒!! 俺たちの名は――!!』
柄を天へ掲げる。
「――『斬月(ざんげつ)』ッッッ!!!!」
残されていた刀身の根元から、黒と金の霊子が噴き出した。柄を中心に渦を巻き、折れた刃の先へ骨格を伸ばしていく。光が剥がれ落ちたあとには、鍔を持たない巨大な漆黒の刀身が、出刃包丁を思わせる形で完成していた。
白鷹が右足で岩を踏み砕いた。翼を閉じて背へ炎を集め、その反動で身体を前へ射出する。溶けた地面を避けて斜めに踏み込み、天蝋の切っ先を一護の胸へ揃えたまま加速した。
「――『蝋翼・天翔(ろうよく・てんしょう)』ッッッ!!!!」
両翼が白鷹の背後で合わさり、紅蓮の鳥となって刀の軌道を包む。羽ばたきに押された炎が左右の岩壁を削り、退路から先に焼き潰していく。
両手で斬月を握り、黒い刃を右肩へ引く。白鷹の切っ先が間合いへ入るまで待ち、刀身に集めた霊圧が腕を軋ませるところで上体を前へ倒した。
「……親父のマネをするのはちっと癪だがよ…………」
斬月が頭上から振り下ろされ、刃へ凝縮されていた霊圧が三日月の輪郭を得る。
「――『月牙(げつが)…………天衝(てんしょう)』ッッッ!!!!」
漆黒の中心を青白い光が走り、斬撃は地面を抉りながら紅蓮の鳥へ食い込んだ。
炎の翼が左右へ割れ、月牙の奔流が白鷹の振り下ろした天蝋ごと正面から押し返す。黒、青、赤が岩場を満たし、耐えきれなくなった壁面が外側へ崩れていく。
放たれた月牙は地下訓練場の端まで届いてなお途切れず、その先に残っていた闇まで呑み込んだ――。
精神世界の無数の箱
一護の記憶と霊力の源泉が封印されている精神の貯蔵庫。本来は時間をかけてじっくり自分と向き合い探すものだが、ルキアの危機と「おねしょの記憶」という精神的ダメージにより、一護は超人的な集中力で一瞬にして本質(死神・虚の力)を引き当てた。
白一護の顔面鷲掴み
通常なら内なる虚との対話や力比べ(主導権争い)を経て引き継ぐべき力を、「ルキアが危ない」という緊急事態の怒りと膂力だけで強引に分捕った一護の荒業。
半仮面形態(初期覚醒)
死神の力(斬月)と虚の力が融合した状態で目覚めた一護の姿。顔に現れた仮面を頭の上にずらすスタイルは、後の虚化・完全虚化の片鱗を感じさせる。
斬月(ざんげつ)
黒崎一護の真の斬魄刀。常時解放型の巨大な漆黒の出刃包丁。精神世界のオッサン(滅却師の力)と白一護(死神・虚の力)の双方が一体となって一護に名を授けた。
月牙天衝(げつがてんしょう)
斬月の刀身に己の霊圧を喰わせ、刃先から高密度に圧縮された斬撃を放つ必殺技。父・一心がグランドフィッシャー戦で見せた技と同じ名を叫び、一護は自らの血筋の力を完全に覚醒させた。