我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。真の斬魄刀『斬月』と月牙天衝に目覚めるが、ルキアの負傷が「迫真の小芝居(血糊)」だったと知り激怒。直後、天蝋の自傷で本当に死にかけた白鷹にツッコミを入れながら鉄斎を呼ぶ。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護の力を引き出すため光四郎と事前に打ち合わせて「血糊の芝居」を打っていたが、光四郎がアドリブで鎖結と魄睡を本当に穿ったためガチギレしていた。倒れた光四郎に慌てふためく。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席・朽木家家臣。一護の覚醒とルキアへの愛(勘違い)に感銘を受け、慇懃な執事モードへ復帰。しかし、斬魄刀『天蝋』の自傷ダメージを平然と放置していたため、限界を迎えて「私が死ぬかもしれません」と言い残しバタンと卒倒する。
浦原喜助(うらはら きすけ)
浦原商店店主。地下の惨状と破壊された施設に扇子片手で冷や汗を流す。
握菱鉄斎(つむびし てっさい)
浦原商店店員・元鬼道衆大鬼道長。瀕死の重傷を負った白鷹を救うため、高度な回道を施す。
「……この度は大変な非礼、平にご容赦願います。若旦那様」
月牙が通過した跡には、二本の亀裂が交差していた。地面だけでなく岩壁まで抉られ、崩れた岩の隙間では斬撃の残滓が火花を散らしている。
その中心にいた白鷹は、煤にまみれた姿で刀を納めると、焼け残った死覇装の裾を整えて一護へ頭を下げた。
肌は炭のように黒く変わり、立っていられること自体が異常なのだが、声音は変わらない。白鷹の中では、戦闘が終わった時点で狂犬の勤務時間も終了したらしい。
「若旦那様が見事に真の力へと目覚められた由、この白鷹光四郎、心底より感服いたしました。これも全ては、若旦那様の内に眠る至高の器を信じておりましたゆえの試練。……とはいえ、行き過ぎた無礼はお詫び申し上げます」
「…………おい」
斬月を肩へ担いだ一護の額で青筋が盛り上がった。
血溜まりへ倒された者へ向かって「行き過ぎた無礼」の一言で済ませるなら、謝罪には広大な適用範囲がある。
ところが、その怒りを叩きつける前に、地面へ倒れているルキアが見えた。
死覇装は胸から腹まで赤く染まり、袖白雪も手から離れていた。
「そんな綺麗事言ってんじゃねえよコラァァッ!! 見ろ、ルキアをこんな血だらけにしやがって!! ルキア、大丈夫か!? おい、誰か布か包帯持ってこい! すぐに止血しねえと……!!」
斬月を放り出した一護は、岩を蹴ってルキアの傍らへ滑り込んだ。
赤く濡れた胸元へ両手を押し当てると、生温かな液体が指の間から溢れ、鼻につく甘い臭いが上がってくる。
破れた死覇装を開いて傷口を探そうとする一護の手首を、ルキアが慌てて掴む。
「一護…………その……あの…………」
「何言ってやがる! 喋るな、出血がヤバすぎる!! 意識が朦朧としてんのか!?」
「いや……すまぬ。これは……その…………『血糊』なのだ……」
押さえていた一護の手が止まった。顔を上げた先で、ルキアが胸元へ仕込んでいた破れたビニール袋を引き出す。中に残った赤い液体が袋の隅へ集まり、押さえた場所を間違えた救助者の指へ垂れていた。
「………………あ?」
「光四郎に一護の始解のことを相談した時にだな……『死の極限状態と、大切な者が傷つく怒りを利用するのが最も手っ取り早い』と言われてな……その……一芝居、打ったのだ……」
指で摘まんだ袋から、残っていた血糊が一滴落ちた。
本物らしさを追求した色と粘りは見事であり、救命の役には立たないが、人を激怒させる小道具としては期待された働きを果たしていた。
「………………はあああああああ???? じゃあなにか!!? 俺はテメエらのくだらねえ三文芝居に乗せられて、本気で焦って、死にかけたってのかァァッ!!?」
額の青筋が三本に増えた。
斬魄刀の覚醒に必要だったのが死線なのか、騙された男の怒りなのか、これでは判定することは難しい。
「仮に目覚めなかったとしても、命までは奪いませんでしたよ」
「ただ……その時は白哉様にご報告の上、若奥様とのご婚約は白紙撤回とさせていただく手はずでした。……ですが、杞憂でしたな。実に若旦那様の深き愛は、若奥様を暖かく包んでおられる……! 朽木家の家臣として、これ以上の慶事はございません!」
一護は答えなかった。相手が重傷でなければ、素手で殴りかかっていただろう。
新しく得た技を初めて人へ撃ち込む相手として、白鷹は急速に有力候補へ浮上していた。
ルキアにも、光四郎へ抗議する理由はある。死覇装を染めている赤の大半は芝居に使ったものだが、白鷹の蹴りを受けた脇腹と、岩壁へ打ちつけられた背中は偽物ではない。
唇の端にも、口の中を切った血が固まっていた。
「でも……だな! 最初の打ち合わせでは『軽く斬り結ぶフリをする』だけだったはずだ! 実際に一護の鎖結と魄睡を本気で貫くなどと聞いておらんかったぞ! だから私は途中から本気で怒って立ち塞がったのだ!!」
「……ルキア……」
一護の怒気は行き場を失った。
自分を騙したのもルキアなら、自分を庇って天蝋へ刃を向けたのもルキアだったからだ。
「――さて。そろそろ治療していただかないと、本当に死ぬかもしれません」
「……え? 誰が?」
「私が」
「「お前かよ!!!!」」
白鷹は自分へ集まった二人分の怒声を聞き届け、ようやく要件が伝わったと判断して言葉を継いだ。
「なにぶん、我が『天蝋』は己の肉体を激しく燃やす刃……。先ほどの大技の反動で、全身の皮膚の七割が炭化し、内臓の水分も蒸発寸前でございます。……どなたか、回道の専門家はいらっしゃいませ……ん……か…………」
最後の音が喉から漏れたところで、白鷹の膝から力が抜けた。
身体は前にも横にも傾かず、直立していた形を保ったまま後方へ倒れ、木を思わせる音を岩場へ響かせる。
「光四郎ーーーーーッッ!!!!? おい、しっかりしろ光四郎!! 浦原ァァッ!! 浦原はどこだァァァッッ!!!!」
ルキアが黒焦げの身体へ飛びつき、肩を揺さぶるたびに炭化した死覇装が砕けていく。止めた方がよいのだが、「患者が崩れるので揺らすな」と教える係はまだ到着していなかった。
「自分の命かけすぎだろ!!!! 鉄斎さん!! 鉄斎さん早く来てくれーッ!! こいつマジで灰になっちまうぞォォォッッ!!!!」
朽木家が用意した始解修行は成功したが、参加者全員が生きて帰るという項目だけが未達成のままだった。
◇◇
「ふんぬッ!! 生体霊子循環!!」
地下訓練場の一角へ張られた注連縄の内側で、鉄斎の両手から濃密な緑の霊光が放たれていた。横たえられた光四郎の全身を光の網が覆い、炭化した皮膚の下へ霊子を送り込んでいく。
鉄斎が術式を組み替えるたび、細くなっていた呼吸が胸を持ち上げた。
回道で傷を塞ぐ前に、止まりかけた霊子の循環を縛道で繋ぎ留めなければならず、治療を受ける側が常識的な負傷をしてくれないため、治す側にも常識外の技量が求められていた。
「……なんという無茶な斬魄刀の使い方でございましょうか……! もう一撃放っていれば、肉体が骨ごと灰燼に帰すところでございましたぞ!」
「いやはや~……。白哉さんちの家臣は、相変わらず主家に似て融通が利かないというか、命知らずっスねぇ~。まあ、ウチの特注地下訓練場に刻まれた、あの見事な十字の穴の修理代は、きっちり朽木家のツケに回しておきますけどねぇ」
「……浦原、アンタ最初からこの茶番知ってたんだろ?」
包帯を巻かれた一護が、救護所の柱へ背を預けたまま問い詰める。
自分の傷は斬月の覚醒と同時に塞がっており、巻かれている包帯の大半は鉄斎の安心のためである。
「さあて? 何のことやら~。でも若旦那、無事に始解できたんで結果オーライっスよね?」
「……まあな。おかげで、親父と同じ技まで撃てるようになっちまったぜ」
床の上には、鍔を持たない漆黒の斬月が置かれていた。刃へ指を触れなくても、自分の霊圧が刀身の奥を巡っていることが分かる。
借り受けた力を握っていた時にはなかった感覚であり、名を知った斬魄刀は、黙っていても一護の魂へ存在を返してくる。
浦原へ聞きたいことは残っていた。精神世界で会った男のこと、白い自分のこと、顔へ現れた仮面のことまで、どれも結果オーライの一言へ畳んでよい話ではない。
だが、問い詰めたところで扇子の裏へ逃げられるだけだった。
「ふう……。光四郎の命も取り留めたようだし、これで一件落着だな、一護」
安堵したルキアが息を吐き終えるのを待ち、一護の手刀が頭へ落ちた。
「痛っ……! 何をするのだ、一護!」
「落着してねえよ!! お前らのせいで俺の心臓と寿命が何年分縮んだと思ってんだバカタレ!!」
「礼を言われる筋合いこそあれ、なぜ叩かれねばならんのだ理不尽な!!」
一護は自らの斬魄刀の名を知り、斬月と月牙天衝を手に入れた。
なお、訓練場の修理費は朽木家へ請求され、血糊の代金だけはルキア個人の立替経費として差し戻された。
血糊の小芝居(ちのりのこしばい)
一護の内に眠る死神の力を引き出すため、白鷹とルキアが事前に仕組んだドッキリ企画。大切な者が傷つく怒りで潜在能力を爆発させる狙いだったが、白鷹が途中でガチの重傷(鎖結・魄睡の破壊)を一護に負わせたため、ルキアも途中で本気の制止に入ることとなった。
天蝋の代償(全身炭化)
自らを燃やすことで全能力を爆発させる白鷹の斬魄刀の反動。本人は「動けるなら問題ない」と平然としていたが、戦いが終わった瞬間に生命活動の限界を迎え、肉体の7割が炭化・脱水症状を起こして昏倒した。
握菱鉄斎の高度回道
元大鬼道長としての神業的な治癒鬼道。霊子循環術により、灰になりかけていた白鷹の肉体を瞬く間に繋ぎ止め、命を救った。
朽木家への修理代請求
浦原喜助が地下訓練場の損壊(一護の月牙天衝による十字のクレーター)の補修費用を、すべて朽木家の請求書に計上する行為。財力があるため何の問題もなく決済される予定。