我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
死神代行。「使えるものは全部使う」という極めて合理的な精神で、斬月、滅却師の弓、静血装(ブルート・ヴェーネ)、さらには虚の力まで同時並行で使いこなすハイブリッドチート主人公。チャドの冗談を真に受けて同性愛的な危機感を覚える。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士。一護の規格外の特訓に付き合わされるうちに、無意識に氷の防御壁を構築するなど地味に実力を底上げしている。光四郎が卍解を持っていた事実に衝撃を受ける。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席。始解の『天蝋』では虚化混じりの一護に押し負けるが、しれっと「卍解できる」とカミングアウトする。
黒崎一心(くろさき いっしん)
一護の父。元十番隊隊長。いつの間にか浦原の地下特訓に合流しており、妻・真咲の面影を一護の静血装に重ねて目を細める。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
空座高校1年。古男の修行の理由をごまかすため「キングドアリバーになりたい」という謎の嘘をつく。
茶渡泰虎(チャド)
空座高校1年。真顔で「一護の側室になるため」と爆弾発言を投下し、一護に別の意味で恐怖を抱かせる。
石田雨竜(いしだ うりゅう)
「最後の滅却師(※基本用語未修修)」。尾行してきた一護をスタイリッシュに待ち受けるが、またしても自分が知らない滅却師用語(血装)で煽られ、ルキアをダシにした安い挑発に走る。
コン
改造魂魄。カバンの中で油断していたところを強制的に肉体へ放り込まれる。
「ふう…………こんなもんか……」
青白い矢が岩壁を射抜き、穿たれた穴の奥で霊子へほどけた。
一護の右手には斬月、左手には光で形作られた神聖弓がある。
巨大な刀と弓を同時に扱う姿は二刀流と呼ぶにも分類が難しいが、本人は分類へ協力する気がなかった。
刀だけにこだわる理由はない。自分の血に流れていて、使える力なら全部使う。
その方針に従った結果、死神の修行場へ滅却師の弓が持ち込まれた。
内なるオッサンの指導は、種族間の歴史より一護の実用性を優先している。
「隙ありッッ!!」
声は背後から届いた。
瞬歩で間合いへ入ったルキアが、一護の首筋へ袖白雪を振り下ろす。一護は斬月を動かさず、神聖弓を握った左腕を刃の下へ差し入れた。
肉を断つはずの白刃が、生身の腕に触れたところで硬い音を立てた。
「な…………ッ!?」
一護の皮膚の下へ青白い線が走っている。血管から枝分かれした幾何学模様が肩口まで広がり、袖白雪の刃を皮一枚の外で止めていた。
滅却師の防御術、静血装である。
「……真咲の静血装にはまだ及ばねえが……。一週間でそこまで形にするとは、すげえじゃねえか一護」
座って見ていた一心の声を受け、一護は左腕を振り抜いた。
袖白雪が弾かれ、ルキアの身体が半歩だけ開く。
「よし!! 行くぞ斬月!!」
空いた正面へ、斬月が落ちた。
「くっ……氷結防壁!!」
ルキアの足元から氷が噴き上がり、何層もの壁となって斬月を受ける。刀身から放たれた月牙が表面を砕き、ひびを奥へ走らせたが、最後の一層を抜く前に勢いを失った。
一護を相手にしているうちに、ルキアの実力は以前の水準から引き上げられていた。
修行相手が理不尽な場合、成長するか入院するかの二択になる。ルキアは今のところ前者に残っている。
「ならば!!! これでどうです若旦那様!!」
氷の壁に一護の視界が塞がれた瞬間、背後から天蝋の炎が伸びた。白鷹の踏み込みに合わせて火勢が増し、燃える切っ先が一護の背へ迫る。
「……試してみるか…………」
白い骨が一護の左頬から額へ広がり、顔の四分の一を覆った。
仮面が形を得た途端、霊圧が岩場を押し潰す。天蝋の炎まで一護を避けるように左右へ分かれた。
一護は振り返りざまに斬月を薙いだ。
「ふっ!!」
刃から放たれた霊圧が炎を呑み、白鷹を正面から押し返す。草鞋が地面へ二本の跡を刻み、十数メートル先で片膝が岩へついた。
「……………参りましたね。始解の出力では、これ以上は無理のようです」
先週は始解の出力だけで焼死寸前まで追い込んだ男である。
無理の基準が敵を倒せるかどうかにしか置かれておらず、術者本人の生存は今回も評価欄にない。
一護が左頬へ手を掛けると、仮面は乾いた音を立てて砕けた。白い欠片は地面へ届く前に消え、残った息が重く吐き出される。
「……でも、これ以上仮面の面積を広げられねえな。無理に出そうとすると、頭の奥でアイツに乗っ取られる気がして危ねえ」
「まあ、お前が『卍解』を覚えりゃ、基本の器がデカくなって制御できる割合もまた上がるだろうがな……」
一心が岩から腰を上げると、ルキアが崩れた氷壁の向こうから声を返した。
「死神の力を使ってまだ二か月だぞ!? そんな短期間で卍解など覚えられてたまるものか!! 数十年はかかるのが常識だ!」
「そうですね。才能を持つ私ですら、卍解の習得には三十年ほどかかりましたし……若旦那様といえど、少々時間が――」
「………………光四郎………お前、卍解できるのか?」
「はい」
返事は軽かった。到達点が天気の確認と同じ調子で開示された。
「聞いておらぬぞッッ!! なぜ隠していた!!」
「聞かれませんでしたので。白哉様はご存知ですよ?」
朽木家では、卍解の習得は申告事項ではなく質問事項らしい。
当主と家臣の間で共有されていれば、養女へ知らせる必要はないという運用になっていた。
◇◇
翌日の休み時間、一護は自分の席へ集まっていた三人へ、教室の反対側を顎で示した。
「なあ、そういや井上。あっちの席で本読んでる『石田』って、結局どんなやつなんだ? なんか妙に突っかかってくるんだけどよ」
「……ほんと、お前は自分に興味ない人間を覚えねえんだな……」
たつきの評価は、人物紹介より先に一護本人へ向けられた。
「うるせ! クラスメイト全員のプロフィールなんて把握してねえよ!」
「えっとね………メガネをかけてて、手芸部で、すっごく器用で……あと、霊力が高いんだよ!」
「うん、手芸部……って……おい、霊力が高いって今言ったか?」
「うん! だからこの一週間、私たちと一緒に戸川先生に鍛えてもらってるの」
手芸部と霊力の間に説明はなかった。
織姫の中では、同じ人物を構成する特徴として隣り合っている。
「………そうか。なんでまたお前らまでそんな危ねえ真似してんだ??」
「えっ……!? そ、その………あの……………」
織姫の答えは母音だけで止まり、視線が一護と床の間を何度も往復した。
――黒崎君を護るためなんて、恥ずかしくて言えないよ〜〜!!
「……一護。わかるだろう? そう野暮なことを聞くものじゃない」
チャドの助け舟は静かに差し出された。織姫は乗る方向を間違えた。
「あのね!! 私! 『キングドアリバー』になりたくて!! だから修行してるの!!」
その答えだけは冗談として流せず、一護は織姫の両肩を掴んだ。
「おいおい井上。あんな電波こじらせた痛い大人になるのはやめときゃいいぜ。人生棒に振るぞ」
たつきの平手が一護の後頭部を打った。
「信じるなよ!! そして織姫も誤魔化すために変な嘘をつくな!!」
「痛ぇな! じゃあ本当はなんなんだよ??」
チャドは織姫とたつきを順に見た。二人の代わりに答える役目を引き受けた顔には、迷いがない。
「――お前の『側室』になるためだ、一護」
助け舟は岸へ着く前に軍艦へ変わった。
一護は動きを止め、目の前に立つ大男を見上げた。
「………………ち……チャド?? あ………その……お前、俺の側室に……?」
返事を待つ間にも一護の顔色が失われ、椅子が床を擦った。
「……ごめんチャド。俺、ダチとしては信頼してるけど……その、恋愛対象としては至ってノーマルっていうか……男の側室はちょっと……」
「……俺じゃない。井上と有沢の話だ」
親友からの信頼は確認できたが、確認の方法には大きな問題があった。
「誰が側室だバカチャドォォッ!! 一護も変な勘違いして引いてんじゃねええッ!!」
たつきの声が教室を横断し、少し離れた席で文庫本を読んでいた石田まで届いた。
石田はページから顔を上げなかった。
――やれやれ。あいつの頭の中は相変わらずお花畑か……。
◇◇
「……どこまでついてくるつもりだい?」
放課後の路地で足を止めた石田は、前を向いたまま問いかけた。
「へえ……バレてたか。いつから気づいてた?」
電柱の陰から出てきた一護は制服姿のまま、両手をポケットへ入れていた。
「霊圧を消して尾行するつもりなら、学校に来る前からにしておくんだね。それに……『君の周辺だけ霊圧がゼロの空間ができている』のは、逆に目立ちすぎる。素人の浅知恵だね」
オッサンに教わった完全隠蔽は、現世の住宅街で使うと人型の空白を作るらしい。
――オッサンの『完全隠蔽』も現世じゃ逆に浮くのか。失敗したな。
尾行に失敗した本人の反省は短かった。石田はようやく振り返り、一護の前へ向き直る。
「君が五月の半ばに、朽木ルキアから死神の力を奪い……身に着けてから、ずいぶんと成長したようだね」
「……わかってんじゃねえか。俺が死神だってこと」
「僕と勝負しないか? 黒崎一護。――死神と滅却師、どちらがこの世界において優れた存在か、白黒つけようじゃないか」
一護の返事は、石田が用意していた決闘の空気を正面から素通りした。
「くだらねえ。お前が死神に何の恨みがあるか知らねえが、俺には関係ねえよ。帰るわ」
「おや……逃げるのかい? 意外だね。自称・天才の死神代行殿は、負けるのが怖いらしい」
一護の足が止まった。
「挑発には乗らねえよ。……そもそも、『血装(ブルート)』の張り方すら知らねえようなド素人と勝負したって、ハンデ戦にもならねえって言ってんだよ」
「………………血???? 何を……言っているんだ君は? 血装……?」
初めて聞く単語だと認めれば、一護の指摘を自分で証明することになる。
「だ、だがなるほど……! 君は朽木ルキア君に力を与えてもらった借り物の死神。そして……『婚約者(仮)』だったか? 要するに君は、彼女の許可がないと一ミリも動けない、首輪のついた犬というわけだ!」
今度は一護が止まった。
先ほどまでの無関心が消え、振り返った顔から路地の温度が下がる。
「………………何だと? テメエ、今なんつった?」
「彼女のスカートの陰に隠れているのがお似合いだと言ったん――」
「……まあ良いぜ。そこまで死にてえなら、血筋の格の違いってやつを教えてやらあ……」
挑発には乗らないという宣言は、三呼吸ほど有効だった。
石田が選んだ単語の中で、首輪と犬とルキアのスカートが協力して期限を縮めたようだ。
「代わるぜ、コン」
「えっ? 一護!? なにしやが――」
一護の指がコンの魂を収めた丸薬をつまみ出す。ライオンの顔から表情が消えるより早く、丸薬は一護の口へ押し込まれた。
「おえええええええええっっっ!!!???」
抗議の続きは、一護の肉体から聞こえた。
同時に霊圧が路地を満たし死覇装をまとった一護の魂が肉体から抜け出す。
「言い忘れてたがよ。――俺はもう、誰の借り物でもねえ『俺自身の力』の死神だ」
静血装(ブルート・ヴェーネ)
血管に霊子を直接流し込み、圧倒的な防御力を得る滅却師の高等技術。一護は精神世界のオッサンからの直接指導と、母・真咲の血筋により、たった1週間で習得してしまった。
白鷹の卍解
隊長格の強さを持つ光四郎が当然のように習得していた卍解。ルキアに隠していたわけではなく、「単に聞かれなかったから言わなかっただけ」という護廷十三隊あるあるのコミュニケーション不足。
側室の誤解(チャドルート)
「お前(一護)の側室になるため(に織姫とたつきが修行している)」というチャドの言葉の主語が抜け落ちたため、一護が「チャドが俺の側室になりたがっている」と激しく勘違いし、ガチのトーンで断りを入れた悲劇。
霊圧ゼロの完全隠蔽
オッサンの指導で一護が行った霊圧操作。完全に霊圧を消し去ったが、「何もない空間が逆に浮き彫りになる」という達人ゆえのミスを犯し、石田に看破された。
血装(ブルート)も使えない素人
滅却師の始祖直伝の英才教育を受ける一護から、現世で独学修行を続ける石田へ放たれた残酷なマウント。石田はまたしても自分の知らない専門用語で殴られ、致命的な精神ダメージを負った。