我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
自称「護廷十三隊十四番隊隊長」。八番隊五席。週に一度のペースで十一番隊へ現れては一角の頭を叩き、更木剣八すら「ファンシーな曲」と「支離滅裂な構文」で煙に巻く謎の男。
斑目一角(まだらめ いっかく)
十一番隊三席。頭が光っているという理不尽な理由で古男から毎週頭を叩かれまくる悲しき被害者。
更木剣八(あらき けんぱち)
十一番隊隊長。古男の不吉な煽りに乗って斬りかかるが、魁湛の流す極上の脱力BGMによって不発に終わる。
草鹿やちる(くさじし やちる)
十一番隊副隊長。古男を「ふるおっきー」と呼び、一角が叩かれる様子をのんきに楽しんでいる。
綾瀬川弓親(あやせがわ ゆみちか)
十一番隊五席。古男の支離滅裂な言動に対し、極めて冷静かつ的確に「解読不能」を言い渡す。
十一番隊 前庭
古男は一角の後ろへぴたりと張り付き、逃げるたびに距離を詰め、振り返ればひらりと避け、その隙に磨き上げられた頭を両手で軽快に叩いている。
腰の魁湛も主人の悪ふざけに律儀に付き合っているらしく、一発叩くごとに「ポン」、連打すれば「スポポポポーン」と景気のいい音を鳴らし、一角が刀を鞘ごと振り回して追い払おうとしても、古男は身体をぐにゃぐにゃと捻じ曲げながら、そのことごとくをぬるりとかわしてしまう。
「こ……このっ、やめろって!! やめろっつってんだろ!!! なんなんだよこの音はよおっ!!」
「クックック……この頭……叩き心地が実にすばらしい……。この丸み、この反響、この手へ返る確かな感触……まさに天が与えし天然の打楽器よ」
「人の頭を楽器扱いすんじゃねえ!!」
一角が怒鳴りながら横薙ぎに刀を振るうと、古男は上半身だけを後ろへ折り曲げ、刃が鼻先を通り過ぎたところで元へ戻った。
そのまま一角の懐へ滑り込み、今度は左右の手を交互に使って頭頂部を連打する。
「スポポポポン!! ポン!!」という妙に小気味よい音が響き、一角の額に青筋が浮かんだところで、とうとう我慢の限界を迎えた。
「てめえ……もう許さねえ!! 伸びろ!! ――『鬼灯丸』!!!!」
三節槍となった鬼灯丸が前庭いっぱいに唸りを上げる。
さすがに始解まで出せば終わるだろうと見ていた隊士たちも、一角が本気で突きを繰り出し始めると少し距離を取ったが、古男は相変わらずまともに付き合う気がなかった。
突き出された穂先を首だけ傾けて避け、返す柄を腰だけ沈めてかわし、連結部分を足場にするように踏みつけたかと思えば、そのまま槍の柄を走って一角の目前まで迫る。
「お前どういう身体してんだよ!!」
「クックック……神に愛されし肉体とは、時に人の理解を超えるものよ……」
「絶対そんな大層なもんじゃねえだろ!!」
「スポポポポーン!!」
「ぐあああああああ!!」
結局、一角の頭だけが順調に赤くなっていった。
なぜ古男が毎週のように十一番隊を訪れ、そのたびに一角の頭を叩きに来るのかを知る者はいない。
一角はもちろん知らないし、弓親にも分からない。
やちるは「楽しいからじゃない?」と笑っているが、おそらく当の古男本人に聞いても、もっともらしい言葉を並べるだけで本当の理由など出てこないだろう。
十分に叩き終えた頃になると、古男はいつも通り満足げに手を止め、一仕事終えた職人のように額を拭った。
「ふむ…………いい汗をかいた」
「汗かいてんの俺だけだろうが!! なんで俺が週一でこんな目にあわなきゃならねえんだよ!!!」
近くで見ていたやちるが楽しそうに拍手する。
「ふるおっきーすごいね!! 今日もいい音鳴ってた!!」
「クックック……褒めるなよ、愛しき幼子よ。芸術とは賞賛を求めて生まれるものではない」
古男は真っ赤になった一角の頭を眺め、ひどく満足そうに頷いた。
「クックック……そこに『至高のハゲ』があるからだ!!!」
「全世界のスキンヘッドに謝れコラ!!!」
そこへ道場の奥から大きな足音が近づいてきた。剣八が斬魄刀を肩へ担いだまま姿を現し、地面へしゃがみ込んで頭を押さえている一角を見て、いかにも面倒そうな顔をする。
「一角よう……ちょっと頭冷やしてきたほうが良いんじゃねえか? 見てるこっちまでヒリヒリしてきやがる」
「くっ……隊長……ヒリヒリしやがる……。こいつ毎週来るんですよ……」
「お前も毎週やられてんじゃねえよ」
剣八がそのまま通り過ぎようとしたところへ、古男がするりと回り込んだ。
先ほどまで一角を叩いて遊んでいた顔から一転し、いかにも重大な宿命を背負う者のように目を細め、髪の先に鈴を付けた大男を見上げる。
「クックック……鈴付きの剣八よ。我がなぜ生きているかわかるか……?」
「あ?」
「クックック……鈴付きの剣八よ。我がなぜ生きているかわかるか……?」
「いや、聞こえなかったんじゃねーよ。意味がわかんねーって言ってんだよ」
「クックック……鈴付きの剣八よ……」
「いい加減にしやがれ! ケンカ売ってんのかコラ!」
剣八の機嫌が見る間に悪くなっていくが、古男は一歩も退かず、むしろその反応を待っていたかのように大きく笑った。
「カーカッカッカッ! 貴様程度の剣八が、我が剣八と気取るような剣八と思うか!?」
さすがの剣八も言葉に詰まり、少し離れたところにいた弓親へ振り返った。
「……弓親。今の、どういう意味だ?」
「さっぱりです!! 一言も理解できません!」
「だよな」
「クックック……それほどまでに剣八の魂として剣八イズムを『剣八り』たいのであれば……」
「まだ続くのかよ」
古男の手が魁湛の柄へ掛かると、先ほどまで呆れていた剣八の顔にようやく笑みが戻った。意味不明な言葉には付き合いきれなくとも、刀を抜くというなら話は別らしい。
一角も痛む頭を押さえながら振り返り、弓親も何か面白いものが始まるのではないかと目を細める。
「『伸びろ』――魁湛!!」
「それは一角の解号だろうが!!」
「俺の解号を勝手に使うんじゃねえ!!!」
それでも魁湛は何の問題もなく応じた。刀身へ見たこともない文字が浮かび上がり、刃は墨を流したような漆黒へ変わる。前庭を覆う空気も一気に重くなり、地面を這う黒い靄の向こうで刀身だけが怪しく光っている。ようやくまともな戦いになりそうだと剣八が斬魄刀を肩から下ろした、その瞬間だった。
♪〜きらめくハートで〜♪ だきしめて〜♪
キラキラ〜ン。
前庭に沈黙が落ちた。
続けて、やけに甘ったるい少女の声が、
♪〜恋する気持ちは〜♪ 止められないの〜♪
と高らかに歌い始める。
黒く禍々しい魁湛の周囲には、いつの間にか小さな星と花びらまで舞っていた。
背景だけ見れば死地へ赴く魔王のようなのに、流れている曲だけは恋する少女が初恋を告白する場面にしか聞こえない。やちるだけは「かわいい!」と大喜びしているが、一角も弓親も完全に固まっている。
剣八はしばらく黙って聞いていたが、やがて眉間へ深い皺を寄せた。
「……なんだこの力が入らねえ曲は……」
「クックック……さあ!! どこからでも『剣八』ろうぜ!! 剣八よ!!」
「ぬがあああああ!!! わけのわからんこと言ってんじゃねえ!!!」
剣八が苛立ち任せに斬魄刀を振り下ろす。片手とはいえ、更木剣八の斬撃である。
真正面から受ければ並の死神などひとたまりもない一撃だが、その耳元では「あなたの笑顔が宝物」だの「夢見る未来」だのと歌声が鳴り続けている。踏み込みの瞬間には「キラリン♪」、力を込めれば「ドキドキ♪」、ついには刃がぶつかった火花まで途中から小さなハートへ変わって散り始めた。
「気色悪ィ!!」
「クックック……非力!!」
「誰が非力だコラァ!!」
剣八の一撃を魁湛で真正面から止めることはせず、古男は刃を斜めに滑らせてその力を外へ流した。
巨体が僅かに前へ崩れたところですれ違い、そのまま数歩離れた場所へ抜ける。剣八はすぐに振り返ったが、古男はすでに口元を不敵に歪めていた。
そこには、小さな鈴が咥えられていた。
一角が先に気づき、剣八の頭を見る。
「隊長……鈴、一個ねえぞ」
「……あ?」
剣八が頭へ手を伸ばすより早く、古男は鈴を歯で咥えたまま胸を張った。
「フッ……この鈴は我が十四番隊の至宝として保管させてもらう! さらばだ!!」
「待てコラぁぁぁ!! 鈴返せ!!!」
古男はその場で踵を返し、少女漫画の主題歌を大音量で流したまま十一番隊舎の外へ向かって走り出した。剣八も即座に追い、やちるまで「ふるおっきー待ってー!」と楽しそうについていく。
その場に残された一角は、真っ赤に腫れ上がった頭を押さえたまま、しばらく何も言えずにその光景を見送っていた。
鬼灯丸(ほうずきまる)
斑目一角の所持する斬魄刀。解号は「伸びろ」。柄を叩くことで槍から三節槍へと変化する。古男は今回、自分の斬魄刀「魁湛」を解放する際にこの他人の解号を堂々とパクった。
剣八(けんぱち)
代々、護廷十三隊で最も強い死神に与えられる称号。古男の手にかかると「剣八る」「剣八イズム」など、あらゆる文脈を崩壊させる万能の動詞・形容詞として乱用される。
魁湛のキャラソン演出
魁湛が巻き起こした謎の演出。漆黒の刀身や空間振動という禍々しい視覚効果とは裏腹に、少女漫画のような甘いファンシーソングを流すことで、剣八の持つ純粋な闘争心を「脱力」によって無力化させた。