我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座高校1年・死神代行。ルキアとの同衾や腕組み登校が日常化し、白哉からの「手を出さないのは不健全」という手紙に退路を絶たれ、死後も含めた結婚の既成事実を受け入れつつある。
朽木ルキア(くちき るきあ)
十三番隊隊士・朽木家養女。一護のベッドで密着して眠る生活にすっかり馴染み、学校でも公認のイチャつきを見せる。
白鷹光四郎(しろたか こうしろう)
六番隊四席・朽木家家臣。若旦那と若奥様の未来のため、死後の尸魂界での夫婦生活の保証から現世の偽造戸籍の用意まで完璧にこなす有能執事。
井上織姫(いのうえ おりひめ)
空座高校1年。現世での正妻ルートを狙うも、白鷹の用意周到な「現世戸籍」により阻まれ、思わず素の舌打ちが漏れる。
有沢たつき(ありさわ たつき)
空手部。一護の結婚の現実味に激しく動揺しつつ、無自覚な間接キスジュースに胸をざわつかせる。
茶渡泰虎(チャド)
空座高校1年。「死んだ後も支えてやる」と友情の契りを交わす。
浅野啓吾(あさの けいご)& 小島水色(こじま みずいろ)
空座高校1年。砕蜂の地獄の特訓によって「死後は隠密機動に入隊してシャオ隊長に永遠に尽くす」という歪んだ解脱(煩悩100%)を果たす。
緋山染華(ひやま せんか)
十一番隊十席。在籍300年を誇る古株の御局死神。そこそこ偉くそこそこサボれる十席の地位を満喫しているが、「痛いのが死ぬほど嫌い」という十一番隊にあるまじき体質。なぜか鬼道は縛道しか使えない。
斑目一角(まだらめ いっかく)
十一番隊三席。任務をサボり続ける染華にキレて口喧嘩を繰り広げるが、他隊から勝手にやってくる古男(八番隊五席)に頭を打楽器扱いされている件を突かれて悶絶する。
――最近、俺には妙な朝の習慣ができた。目を覚ますと、隣で寝ているルキアを起こすことだ。
一護が目を開けると、同じ枕でルキアが寝息を立てていた。狭いシングルベッドへ二人で収まった結果、肩から腰まで密着している。冷房は朝を忘れた出力で動いていたが、布団の中は温かい。
冷やした部屋で互いを暖房に使う生活は、電気代の面で破綻している。朽木家の資金支援と黒崎家のクリニック収入が、その破綻を家計へ届く前に押し潰していた。
最初は偽装夫婦の体裁を守るためだと考えていた。
しかし一護が夜中に起きた際、部屋の四隅へ高度な監視結界が張られ、家具の陰で隠しカメラの赤い灯が点滅しているのを見つけるまでは。
先週には白哉の直筆による巻物まで届いた。
『同衾は夫婦の絆を深める良き儀である。しかし、毎夜隣にいながら一切手を出さずにいるのは、男としていささか不健全ではないのか? 我が妹に魅力がないとでも言うつもりか?』
――退路は、完全に断たれた。
最初の頃なら、全部嘘でしたと土下座すれば許された可能性もある。
今になって妹と毎晩同じ布団で寝ているが偽装でしたと説明すれば、白哉は弁明を聞き終える前に千本桜を解放するだろう。
一護も兄として理解できる。夏梨や遊子の部屋へ毎晩入り込み、何もしていないから安心しろと言う男が現れたなら、事情聴取より月牙天衝を先に撃つ。
困ったことに、朝になれば互いの腕が相手の身体へ回り、登校中に腕を絡めても確認する者はいない。学校では公認のバカップルとして処理され、周囲の悪乗りで頬へ口づけた回数も両手の指を超えていた。
「……うん。俺はたぶん、このまま順当にルキアと結婚することになりそうだ。……しかし、俺は生身の人間で、ルキアは死神なんだが……その辺の寿命とかどうすんだ……?」
ルキアは答えず、寝返りを打って一護の胸元へ額を押しつけた。寿命の相談は昼まで延期されたが、結婚するという部分には寝言でも反論が出なかった。
◇◇
「ご安心ください、若旦那様。若旦那様は名門・志波家のご血筋でございます。現世で寿命を全うされた後も、尸魂界において霊力・地位ともに安泰でございますので、お亡くなりになった後に改めて瀞霊廷にて盛大な祝言を挙げ、永遠にご夫婦を続けられればよろしゅうございます」
昼休み、朝の疑問を話した一護へ、白鷹は死後の人生設計まで含めて回答した。
貴族の婚姻は、片方が死亡しても契約終了を認めない。
「……………そうか。死後のアフターサービスまで完璧か」
「あ……あ、あ……あ、あのさ……一護……」
隣にいたたつきの手で、ジュースの紙パックが潰れていた。
「どうしたたつき? 喉でも乾いたのか? ほら、これ飲めよ」
一護は自分が飲んでいたスポーツドリンクを差し出した。たつきはボトルと一護を交互に見てから、椅子ごと後ろへ退いた。
「!! な、飲みかけのやつなんて急に渡すなよバカ!!」
「何言ってんだよ。昔から組手の後とか普通に回し飲みしてただろうが」
「…………そ、そうだっけ……? ……じゃあ、もらうわ……」
一護には幼馴染の態度が変わった理由が分からず、たつきには昔と同じ距離で接してくる一護の方が分からない。
「……なんなんだ一体?」
「安心しろ一護。お前が死んで尸魂界へ行っても、俺たちがお前を支えてやる」
チャドの手が一護の肩へ置かれた。
死亡後の移住先まで同行する友は、生命保険より長い保障期間を提示している。
「おお……? チャド、お前マジで頼もしいな!」
「でもでも……! 死んでからはそうかもしれないけど、朽木さんは現世の日本の『戸籍』がないんだよね? なら、現世にいる間は……現世の奥さんを別にもらっても法律的にはセーフなんじゃないかな〜〜なんて……!」
織姫の提案は、婚姻問題を解決せず妻の人数を増やしていた。
法律相談の形を取っているが、希望する当事者の席には本人が座っている。
「ご安心ください。若奥様の現世における戸籍および住民票は、すでに用意してございます。こちらになります」
白鷹が取り出した書類には、朽木ルキアの名が印字されていた。婚姻可能年齢に達していない一護より先に、書類が結婚を待っている。
「…………………ちっ」
織姫の舌打ちは小さかったが、婚姻届を出す前の一護には十分聞こえた。
「……井上、今すげえ舌打ちしなかったか……?」
答えが返る前に教室の引き戸が開き、啓吾と水色が並んで入ってきた。
いつもなら入口から声量を持ち込む二人が、葬儀帰りの僧侶に近い顔で席へ向かっている。
「おい……啓吾、水色。お前らどうしたんだよ? 妙に静かじゃねえか」
「一護………俺たちは、解脱(げだつ)したのさ」
「…………人妻への執着? 太ももへの煩悩? いや、そのような俗世の欲など、最初から必要なかったんだ」
「ああ……俺たちは真理に至った。俺たちには、あの気高き総帥(シャオ先生)さえいれば他に何もいらなかったんだ…………。一護、俺たち死んだらな………隠密機動に就職することにしたよ……」
「うん………そして、砕蜂隊長に永遠の忠誠を尽くすんだ……。そしていつか、功績を立てて……あの小さく引き締まった体を我が物にするんだ……」
「煩悩が一ミリも消えてねえどころか死後まで持ち越してんじゃねえかバカタレ!! てかお前ら、シャオ先生の正体まで知らされたのかよ!!」
解脱した二人は煩悩を捨てたのではなく、就職活動と来世へ分散していた。長期計画へ移した欲望は、本人たちの中で浄化に分類されている。
「ああ…………美しき暗殺の女王、砕蜂隊長…………」
「……大丈夫かよ、こいつら……」
たつきの疑問に答えられる者は教室にいなかった。
教員側にもキング・ドアリバーと暗殺の女王がいるため、生徒だけを問題にするのは公平ではない。
◇◇
「……はぁ〜あ。こんにちは。私の名前は緋山染華(ひやま・せんか)護廷十三隊・十一番隊の『十席』よ! これでもこの隊に三百年くらい居座り続けている筋金入りの古株なのよね」
十一番隊隊舎、その道場裏の縁側で、染華はキセルの煙を軒下へ流していた。
両腕と太腿を露わにした死覇装は、血と汗を好む隊の装いから外れ、艶やかさだけが独自の規律を守っている。
「ここの待遇は悪くないし、有給休暇もきっちり取れる! 一角君や弓親君みたいな上席は年中呼び出されて忙しそうだけど、十席なんて半端な地位には面倒な仕事は回ってこない! そこそこ偉くて、そこそこ自由! もう最高のポジションよ!」
三百年をかけて出世競争から最適な距離を測った結果が十席だった。
権限はあり、責任は薄く、名前は席官名簿へ載る。
染華にとって昇進とは、仕事が増える方向へ進む制度でしかない。
「……でもねぇ、悩みもあるのよ。――この隊、頭のおかしい野蛮人しかいないこと!! 年がら年中、誰を斬ったとか誰に斬られたとか、血の気の多い話題ばっかり! しかも今の剣八さん、特にやっべー人なのよ!? 知ってる!? わざわざ敵に斬られたいからって、自分で右目に霊圧を喰う眼帯をつけて霊圧を抑えて戦ってるのよ!? 正気の沙汰じゃないわ!!」
十一番隊では、その評価を隊長への賛辞として受け取る者が多い。
染華の悩みは内容ではなく、相談相手を隊内で見つけられないことにあった。
「……昔の刳屋敷隊長の頃は、まだ話のわかる人だったから良かったわねぇ〜。まあ、その後に就任した歴代の剣八どもが揃いも揃って救いようのないクズばっかりだったから、それらに比べれば更木隊長の方がまだ百倍マシではあるけれど……」
キセルを置いて横になり直したところで、向こうから草履の音が近づいてきた。
「緋山十席ーッ!! 緊急任務です!! 現世に凶悪な虚が出現しました、討伐へ出撃してください!!」
「えーーーっ!? めんどくさい!! あなたたちで行ってきなさいよ〜。十席なんて私以外にも何人かいるじゃないの〜」
任務を伝えた隊士が返事を探す前に、道場の奥から一角の怒声が飛んだ。
「――おいコラァ!! 緋山ァァッ!! てめえ、今月に入ってから一度も隊舎の外に出てねえだろうが!! つべこべ言わずにとっとと出撃しやがれ!!」
「はんっ!! たかだか数十年前に入ってきたばかりの、つるっぱげの若造が私に説教かい!? ずいぶんと偉くなったもんじゃないのさ、斑目三席ィ!!」
「誰がつるっぱげだこのクソ御局(おつぼね)があああああッッ!!!!」
「あーーーっ!! 私が一番気にしてる禁句を言ったわね!? 見た目と肌年齢はまだまだピチピチの二十代前半なんだからねッッ!!」
「はっ! どうだかな!! 見えない腹やケツの肉はだらしなくたるんでんじゃねえのか!? だからそんな露出度の高い死覇装着て若作りしてんだろ!!」
「好きでこんなエロい格好してるんじゃないヤイ!! ――だいたいアンタこそ、戸川五席(古男)に毎週『ハゲ頭がいい音鳴るな〜』ってペシペシ叩かれて遊ばれてるくせにィィッッ!!」
「関係ねえだろバカタレがァァッ!! 戸川の話を今ここで出すんじゃねえええッッ!!」
染華の不満は、仕事の量でも一角の説教でもなかった。
――痛いのが死ぬほど大嫌いなのよ!!
敵の刃を受ければ傷が痛み、全力で動けば翌日の筋肉が痛み、刀を握り続ければ掌の皮が擦れる。
十一番隊が戦闘の充実感として受け入れているものを、染華はすべて避けるべき不利益として数えていた。
だから刀を抜きたくない。戦いたくない。可能なら縁側から動きたくない。
八番隊五席・戸川古男の乱入セッション
古男の尸魂界における本来の所属(八番隊五席)。京楽春水の下で気ままに過ごしているはずだが、退屈しのぎに他隊である十一番隊へ勝手にフラッと侵入し、一角のつるつる頭をボンゴやコンガのようにリズミカルに叩いて打楽器扱いしている。一角の実力をもってしても速すぎて回避不能な天災。
白哉の催促状
朽木白哉から一護に送られた手紙。「妹と同衾しておいて手を出さないのは不健全=妹に魅力がないと言っているのか」という、貴族社会とシスコンの歪んだ論理が生み出した脅迫状。一護の退路を完全に断った。
ルキアの現世戸籍
白鷹が裏工作で用意した本物の公的住民票。これにより「現世では戸籍がないから別の正妻をもらう」という織姫の抜け穴ルートが完全に封殺された。
隠密機動への死後就職(啓吾・水色)
砕蜂による過酷な密着特訓の果てに、二人が下した究極の進路希望。純粋な忠誠心ではなく「死んだら合法的に砕蜂隊長の体を独占する」という究極の煩悩に基づいている。
緋山染華(ひやま せんか)※オリキャラ
十一番隊十席。300年以上前から在籍している古株死神。歴代の剣八(刳屋敷時代から現在まで)の変遷を知る生き証人。出世を望まず、痛みを極限まで嫌うため、十一番隊でありながら戦いを徹底的に避けてサボり続けている。