我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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朽木ルキア(くちき るきあ)
現世で一護の記憶が周囲から消し去られている絶望的な状況に直面するが、浦原の元へ駆け込み、仲間たちと共に命がけの一護救出を決意する。

井上織姫(いのうえ おりひめ)
「日暮れまで殴り合って友情を育もう」と提案し、五天・六天の技の完成を目指す。自分の傷も含めて一瞬で完全修復できる『双天帰盾』を盾に、仲間たちの四肢がもげ飛ぶ超過激なスプラッタ修行を無邪気に主導する。

有沢たつき(ありさわ たつき)
チャドや石田、織姫と生死を賭けたガチの殺し合いレベルの修行を重ね、戦闘力を極限まで高めていく。

茶渡泰虎(チャド)
全身の骨や腕を砕かれながらも、一護を救うために仲間たちと狂気の修行に身を投じる。

石田雨竜(いしだ うりゅう)
ルキアを泣かせた一護に怒りを覚えつつ、「決着をつける前に死なれては困る」という強烈なツンデレを発揮して救出隊に合流。常軌を逸したスプラッタ修行に巻き込まれる。

四楓院夜一 / タマ
猫の姿でルキアたちを浦原の元へ導くが、若者たちによって有無を言わさず「タマ」が定着してしまう。彼らの物騒すぎる修行(自傷の嵐)に終始ドン引きする。

浦原喜助(うらはら きすけ)
現世組の凄まじい覚悟を受け止め、尸魂界突入のための穿界門の準備を進める。

名探偵L&高校生探偵(コナン等)
修行の過程で山中に放置・飛散した四肢や肉片がハイカーに発見されたことで、特殊なクローン技術や猟奇殺人事件として世界的な大捜査に乗り出す羽目になる。


死ぬ気の修行と増殖する死体

『穿界門の準備には時間がかかるッス。それまでは皆さん、瀞霊廷の隊長格に勝つための修行をしていてください』

 

浦原の指示を受けた翌朝、織姫たちは空座町から離れた山中に立っていた。

 

人が訪れる可能性が低く、周辺へ被害が出ず、全力で霊圧を放っても目撃されないと判断した場所である。

 

浦原商店の地下には立派な訓練場があるのだが、五人全員が暴れた場合は店の土台ごと崩れる可能性があり、店主から丁重に山へ追い出された。

 

「よしっ!! それじゃ、みんなで山籠りだね!!」

 

「うっしゃああ!!! 限界まで鍛えるぞ!!! 死ぬ気でいくよ!! 一護を処刑台から引きずり下ろすまで、誰一人として脱落すんじゃないからね!」

 

「山籠りって……君たち、発想が昭和のスポ根アニメすぎないかい? 霊子兵装の強化と山中で寝泊まりすることに、どういう因果関係があるんだ」

 

石田は旅行用の荷物を背負ったまま、朝から気合の完成している二人を見た。

 

「発想が古いことより、一般の山で暴れる方が問題だ。我らの霊圧をそのまま解放すれば、木々を薙ぎ倒し、山肌まで崩しかねぬ。浦原から借りた結界で修行場を覆うが、外へ出る技は絶対に撃つな。山火事を起こして一護を助ける前に逮捕されては笑い話にもならんぞ」

 

「……ちなみに井上、山中にはシャワーも宿もない。衛生面は大丈夫なのか?」

 

チャドの問いは現実的だった。食料と水は運び込めても、数日に及ぶ野営で入浴環境まで整えるのは難しい。

 

「大丈夫だよ! 私の身体、すごくいい匂いがするって、前に知らないおじさんが教えてくれたもん♪」

 

「なんだって!? いつ、どこで言われたんだ! それで何もされなかったのかい!?」

 

「商店街の裏で声をかけられたの。そのおじさんが『お兄さんとプロレスしようか』みたいなことを言うから、私、『空手の方が得意です』って答えて拳を動かしたら、うっかり顎に当たって吹き飛ばしちゃってさ。壁へ頭から刺さったまま動かなくなったから、今思えば悪いことしちゃったなあって」

 

「……自業自得ってやつだな。次に同じのが来たら、アタシを呼びな。壁の反対側まで通してやるから」

 

たつきの返事で、この件に関する反省会は終了した。

見知らぬ男の安否より、声をかける相手を間違えた判断の方が悪いという結論で四人の意見は一致している。

 

ルキアは結界の最後の一角を閉じると、四人へ向き直った。

 

「それに、私は皆と同じ修行へ加わることが難しい。浦原のところの地下へ戻り、斬魄刀の修練を進める」

 

「えー、一緒にやろうよ〜。日が暮れるまで殴り合って、本当の友情を育もうよ〜!」

 

織姫の誘いは友情を育てる手段として決定的に間違っていた。

 

「井上さんって、元からこんなに好戦的な性格だったかい?」

 

「……黒崎と朽木が婚約した頃から、こう……内側に溜めていたものが目を覚ました感じはあるな」

 

チャドの分析に、織姫は首を傾げた。本人は一護の幸せを心から願っており、その幸せの隣に自分の席も増設したいだけなので、変わったという自覚がない。

 

「私は尸魂界へ戻った時に備え、卍解の習得を進めたいのだ」

 

「卍……?」

 

石田が聞き返すと、ルキアは腰の斬魄刀へ手を添えた。

 

「死神は斬魄刀の始解によって固有の力を引き出すが、その先に真の奥義と呼ぶべき卍解がある。瀞霊廷へ殴り込めば、隊長格と刃を交える可能性が高い。卍解を会得せぬまま正面から挑めば、私では足止めすらできん」

 

「隊長さんって、黒崎くんより強いの……?」

 

「ああ。私は隊長方が本気で卍解する姿をほとんど見たことがない。それでも、隊長へ就くための基準に卍解の修得が含まれるほどだ。兄様を含め、今の一護でも確実に勝てるとは言えぬ者が十三人いると思え」

 

石田の脳裏に、斬月を振り回し、虚の仮面をつけ、滅却師の弓から光の矢まで放つ一護の姿が浮かんだ。あれ一人でも戦闘体系として過積載なのに、尸魂界にはさらに上が並んでいるらしい。

 

「そうか……。あの黒崎より強い化け物が、瀞霊廷には普通の顔で歩いているわけか」

 

「気を引き締めなければならないな」

 

チャドが両拳を握ると、織姫も六花の髪留めへ触れた。

 

「私も、五天と六天の技まであと一歩で使えそうだから、ちょうどよかった! みんな、容赦しなくていいからね。首や腕が飛んでも、後でちゃんと繋げて治すから!」

 

「いや、首が飛んだら普通は死ぬだろ!?」

 

「えー? この前、山にいたリスさんの虫刺されを治した時は、間違えて身体がばらばらになっても元どおりになったよ? 治したらピーッて走っていったし、大丈夫だと思うなあ」

 

虫刺されの治療中に、なぜリスが解体されたのか。誰も尋ねなかったのは、答えを聞いたところで本日の修行内容が安全になる見込みはなかったからである。

 

杉の枝に乗り、夜一が五人を見下ろしていた。

山へ移動する前は、尸魂界の戦い方を教えてやるつもりだった。

話を聞くうちに、教えるべきものが戦闘技術ではなく生命倫理ではないかという疑問が生まれている。

 

「……ふん。ならば、その命知らずな修行、この儂が手伝ってやってもよいぞ」

 

「む……タマか」

 

「ええい! いい加減、そのふざけた名で呼ぶのをやめよ! 儂には夜一という誇り高き名があると教えたであろう!」

 

「えー、タマちゃんの方が可愛いよ」

 

織姫の反対票に石田とたつきも続き、黒猫本人の意思を無視した改名議案は三対一で可決された。チャドはどちらでも構わなかったため棄権している。

 

「タマの方が今の君には似合っている。夜一と名乗る猫より、聞いた側も受け入れやすいだろう」

 

「うん。夜一は今日から捨てて、タマで決定。新しい人生だと思って諦めな」

 

「…………何という屈辱じゃ。これでは、まるで飼い猫ではないか……」

 

元四楓院家当主、元隠密機動総司令、元二番隊隊長。数々の肩書を持つ夜一へ新たに加わった名は、飼い猫のタマだった。本人の経歴上、最も拒否権の弱い就任である。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

修行開始から十分後、夜一は早くも自分の判断を後悔していた。

 

たつきの踵が、チャドの頭頂部へ落ちる。チャドは腕を漆黒の巨盾へ変え、頭上で十字に交差させた。受け止めた衝撃が腕から地面へ抜け、山肌が円形に陥没し、両脚は膝まで土へ埋まった。

 

「ぐっ……!!」

 

防いだチャドは身体を沈めたまま右拳を引き、たつきの腹部へ叩き込んだ。重い音とともに腹の右半分が抉れとび、口から血が噴き出す。たつきは後方へ飛ばされながら腹へ霊力を集中し、裂けた血管を筋肉ごと締め上げた。

 

「がはっ……! この野郎……止まると思うなよ!!」

 

着地と同時に両手の間へ霊力を編み、暗い光刃を作り上げる。

 

「暗黒魔闘術奥義――魔人烈光殺ッ!!」

 

刃がチャドの防御を斜めに走り、巨盾となった右腕を肩口から抉り飛ばした。黒い装甲と肉が回転しながら木の幹へ衝突し、チャドの喉から唸りが漏れる。

 

頭上では、銀嶺弧雀を構えた石田が矢を放っていた。光の雨が山肌へ降り、チャドの退路を塞ぐ。チャドは左腕を横へ振り、拳圧で正面の矢を薙ぎ払ったが、石田はすでに飛廉脚で霊子の足場を蹴り、射線の外へ出ている。

 

「動きが鈍っているぞ、茶渡君!もらった!!」

 

弓を引き絞って肉薄したところで、チャドの左拳が地面を打った。衝撃が土をめくり上げ、石田の身体を下から襲う。飛廉脚で上へ逃げたものの、間に合わなかった左脚が膝の上から千切れ、血を引きながら谷側へ落ちた。

 

石田は悲鳴を噛み殺し、残った右脚の下へ霊子を集めた。

通常なら立つこともできない姿勢から空中へ足場を作り、矢を放つ。

光がチャドの胸と肩を貫き、巨体を斜面の反対側まで押し飛ばした。

 

「よし……これで、とどめだ……!」

 

左脚の断面から血を流しながら弓を構えた石田の背後で、六枚の光が開いた。

 

「隙あり! ――孤天斬盾、六つ星ッッ!!」

 

織姫の周囲から飛んだ六枚の光刃が、それぞれ異なる角度で石田を囲み、交差しながら複雑な軌道を描いた。

白装束が裂け、胸、背、両腕から血が散る。弓を持つ指まで切られ、石田は斜面へ墜落した。

 

「織姫……!! お前、最近は格闘戦の反応までおかしなことになってるぞ!!!」

 

たつきは腹を押さえながら織姫へ向かう。呼吸のたびに口端から血が落ちている。

 

「だって、古男先生に『近接戦もできなければ、相手が刀を振り下ろすまでに死んでいるぞ』って特訓を受けたもん! 六花を出す前に捕まらない練習もしたんだよ!」

 

答えながら織姫が身を沈め、たつきの拳をかわす。続く蹴りを三天結盾で受け、反射した力でたつきの身体を弾いた。たつきは空中で腰を捻り、着地を待たずに裏拳を振り抜く。

 

拳が織姫の右肩を捉えた。

 

骨が砕け、肩から先が制服の袖ごと千切れ、地面へ転がった。織姫は片腕となった自分の身体を見下ろし、落ちている右腕を拾い上げた。

 

「いい加減にやめんか、阿呆どもォォォッ!!!」

 

夜一が木の上から飛び降り、四人の中央へ着地した。

修行場というより、惨殺現場だった。

 

「本当に死んでしまうぞ!!! 手足が山肌を転がり、血で沢の色まで変わっておるではないか!!!」

 

「あ、大丈夫だよ。みんな、今治すから。――双天帰盾、三枚重ね!!」

 

織姫の呼びかけに四体の六花が応じ、三重の黄金結界が修行場を覆った。

 

チャドの肩から骨と筋肉が伸び、黒い装甲をまとった右腕を再構成する。

石田の左脚は大腿部から形を取り戻し、切り開かれた身体も白い装束ごと閉じた。

たつきのは裂けた臓器が元の位置へ戻り、織姫の肩にも新しい右腕が生まれていく。

 

地面へ落ちた腕や脚は、結界の外に残ったままだった。

 

双天帰盾は本体から欠損したという事象を拒絶したが、すでに切り離され、別の物体として地面へ転がった組織まで消してはいない。

 

結果として、右腕を取り戻した織姫の足元には、同じ遺伝情報を持つもう一本の右腕が残された。

 

本人たちは身体が治ったことへ満足し、余った方を修行場の背景として扱った。

 

夜一は驚く場所が多すぎて、どこから叱ればよいのか分からない。

 

「……お主ら、今の死にかける傷を負って、痛くないのか……?」

 

「…………痛い。間違いなく激痛だ」

 

チャドは再生した右腕を動かした。元に戻っても、切断された時の痛みと記憶は消えていない。

 

「でも、白鷹先輩が言ってたんだよ。『痛いことと、動かなくなることは別問題だ』って。痛いから止まるんじゃなくて、動けなくなるまで戦えばいいってさ」

 

たつきが腹を叩き、損傷が残っていないことを確かめる。織姫も笑顔で頷いた。

 

「そうそう! 痛みなんて、脳へ送られる電気信号にすぎないんだって!」

 

「実に深い言葉だね。痛みは脳が受け取る信号であり、それ以上でも以下でもない。仕組みを理解すれば、耐える理由にはなる」

 

石田は眼鏡を押し上げた。信号だと理解したところで激痛が軽くなるわけではないが、三人ともそこは問題にしていない。

科学的説明は鎮痛剤ではなく、根性論を理論武装するために使われていた。

 

「朽木の話によれば、護廷十三隊の隊長たちは俺たちが及ばない実力者だ。そんな相手へ挑むなら、痛みで止まるわけにはいかない」

 

「うん! 腕を失っても、脚が飛んでも、何度でも敵へ食らいつくくらいの気概がないと、一護くんを助けられないよ!」

 

「いや、隊長連中は確かに化け物じゃが、そこまで自傷を前提にせずともよい。今のお主らなら、戦い方と相性次第で総隊長と更木剣八以外には食い下がれる。儂が言いたいのは、命を使い捨てる前に技を磨けということじゃ」

 

夜一は止めるつもりで評価を口にした。織姫の耳には、まだ勝てない相手が二人いるという部分だけが届いた。

 

「じゃあ、総隊長と更木さんには勝てないんだね!! みんな、聞いてた!? 夜の部はもっと激しく、手加減なしでいこうね!!」

 

「「「おう!!!」」」

 

たつき、チャド、石田の返事が山へ響いた。

死神の修行を監督してきた夜一でさえ、人間が自発的に四肢切断の強度を引き上げる場面は初めてだった。

 

「……こやつら、もう人間の領域を越えておる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、四人は修行場の中央で焚き火を囲んでいた。

 

昼夜を問わない乱戦を繰り返し、織姫が双天帰盾で戻し、食事を取って再開する。

修行計画はその三工程だけで構成されている。野営用の予定表には技術訓練、休息、反省会と書かれていたが、すべて乱戦へ統合された。

 

肉体は毎回完全に戻り、戦闘経験だけが残る。通常なら致命傷となる攻撃を何度も受けたことで、四人は負傷した状態で霊圧を扱い、欠けた手足を別の技で補い、治療まで相手を逃がさない戦い方を身につけていた。

 

その成果に満足しかけたところで、たつきが焚き火の向こうへ顔を上げた。

 

「……そういえばさ。修行中に飛んでいった後の腕とか脚とか、どうしてたっけ?」

 

チャドは右手に持っていた干し肉を止め、周囲を見た。

 

「……毎回、織姫が本体を再生していた。切断された方の腕、脚、指、歯は、そのまま山のどこかに残っているな」

 

日中は戦闘の邪魔になる大きな部位だけ谷側へ放り、細かい肉片は土や草と区別せず踏み越えていた。夜になれば暗く、翌朝には次の修行が始まる。

 

「まずいね。僕たちが帰った後、山へ入った人間に見つかれば、どう説明しても猟奇殺人事件になる」

 

「すぐ集めよう! 大丈夫だよ、そんな遠くまで飛んでないと思うから!」

 

織姫の見通しは、開始から十五分で崩れた。

 

チャドの拳で吹き飛んだ部位は木々を越え、たつきの光刃で刻まれた組織は風に乗り、石田の矢で削られた骨片は岩場まで散っていた。

織姫の六枚の光刃に至っては、どの方向へ何を飛ばしたのか本人にも分からない。

 

四人は見つけたものを一か所へ集め、人目へ触れないよう処理した。だが、拾い上げられたのは、どこに落ちたか覚えている大きな部位が中心だった。

 

日が暮れる頃、石田は眼鏡の位置を直し、集め終えたことにした。正確には終わっていなかったが、翌朝から尸魂界突入の最終準備があり、山へ残れる時間も尽きていた。

 

彼らは結界を解除し、荷物を背負って下山した。

 

修行で得た力は持ち帰り、修行で失った身体の部品は山へ残された。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

発見者は、数日後に山菜を採りに入った男性だった。

 

沢の近くで人間の指を見つけ、獣が運んだものだと思って周辺を調べたところ、落ち葉の下から若い女性の右腕が出てきた。さらに離れた斜面から男性の脚と骨片が見つかり、通報を受けた警察は山一帯を封鎖した。

 

捜索範囲を広げるほど、発見される人体組織は増えていった。

 

報道各社は当初、複数の若者が犠牲となった大規模なバラバラ死体遺棄事件として扱った。行方不明者の照合が始まり、山中には警察車両と鑑識員が集まり、空座町周辺の住民は連日取材を受けた。

 

ところが、鑑定結果が出るにつれて、事件は猟奇殺人という言葉でも説明できなくなった。

 

同じ女性のDNAを持つ右腕が二本あり、どちらにも生体反応があった痕跡が残っている。同一人物の指が、人体に存在する本数を超えて別々の地点から発見された。男性の左脚に至っては、切断時期の近い組織が複数見つかりながら、該当する遺体も行方不明者も存在しない。

 

鑑識員は検体の取り違えを疑い、別の機関で再検査した。結果は変わらなかった。

 

警察の記者会見では質問へ答えられない項目が増え、専門家はテレビ番組で再生医療、未知の動物被害、組織培養技術の可能性を語った。世間では、単なる殺人ではなく、政府が秘密裏に進めているクローン実験の廃棄場ではないかという説まで広がった。

 

そこから先は、現世の名探偵たちの領分だった。

 

世界最高の名探偵Lが資料を取り寄せ、偉大な祖父を持つ事件へ興味を持った高校生探偵が山の周辺を歩き、頭脳は大人でも中身は子どもと評される有名な探偵まで、別々の推理から同じ山へ目を向け始めた。

 

警察が捜しているのは犯人と遺体であり、真相は推理する側へ喧嘩を売る内容なのだが

名探偵が何人集まっても、六花による事象の拒絶を証拠から導くのは難しい。

むしろ、論理的に考えるほど国家規模の人体複製実験へ近づいていった。

 

事件が日本中の報道を占拠し、警察と探偵と都市伝説愛好家が山へ殺到していた頃、当事者たちは浦原商店の地下に集まっていた。

 

穿界門の準備は整い、修行で得た力も身体へ馴染み、全員が一護を救い出すことだけを考えている。

置き忘れた自分たちの腕や脚が、国家を揺るがす怪事件へ成長したことなど知る由もなかった。

 

彼らは万全の準備を整え、尸魂界へ旅立った。

 

なお、帰還後に自分たちが政府のクローン実験から逃げた被検体ではないと証明するため、死ぬほど苦労することになる。

 

それは、また別の話である。




山籠り修行

尸魂界へ突入する前に、織姫、たつき、チャド、石田が行った強化訓練。

浦原商店地下で実施すると建物ごと壊しかねないため、人里離れた山中へ移動して行われた。

本来は、

技術訓練
休息
反省会
実戦形式の乱戦

などを組み合わせる予定だった。

しかし最終的には、

乱戦

双天帰盾

食事

乱戦

へ一本化された。

効率はよい。

安全性は知らない。



孤天斬盾・六つ星

織姫が使用した孤天斬盾の発展技。

六枚の六花を同時に展開し、それぞれ異なる軌道から対象へ斬撃を加える。

単一方向から飛ぶ通常の孤天斬盾より回避が難しく、複数方向から立体的に攻撃できる。

今回の修行では石田を囲み、胸、背中、両腕をまとめて切り裂いた。

修行で使う技としては殺意が高い。



双天帰盾・三枚重ね

双天帰盾を複数重ねて展開する治療法。

織姫の能力は「治療」ではなく、対象へ起きた事象そのものを拒絶する。

そのため、

腕を切断された
という出来事そのものを拒絶すれば、失われた腕を身体側から再構成することも可能。

今回、チャド、石田、たつき、織姫自身の致命傷をまとめて元へ戻した。




余った腕と脚

今回の大事件の元凶。

双天帰盾によって、

「身体から腕が失われた」という事象

は拒絶された。

しかし地面へ落ちた切断済みの腕は、すでに本体とは別個の物質として存在している。

そのため本体に新しい腕が再構成されても、地面に落ちている元の腕までは消滅しない。

結果、

一人の人間について、正常な身体と切断された同一部位が同時に存在する

という異常現象が発生した。




「痛いことと、動かなくなることは別問題」

白鷹が語った教え。

要するに、

痛みがあること



身体的に戦闘不能であること

を同一視するな、という意味。

負傷時にも冷静さを失わないための精神論としては成立している。

しかし現世組はこれを、

「腕がなくても残った腕で殴れる」
「脚がなくても飛廉脚なら動ける」
「治るなら致命傷も練習できる」

という方向へ発展させた。

教えた本人が想定した運用かどうかは不明。





「痛みは脳へ送られる電気信号」

織姫たちが採用した新たな精神論。

医学的な説明としては間違っていない。

ただし、

信号であると理解しても痛みは普通に痛い。

現世組はそこを問題にせず、

「なら無視して戦えばいい」

という結論へ到達した。

科学が根性論を止めるどころか補強してしまった例。





空座町山中バラバラ事件

現世組が修行を終えた後に発生した怪事件。

山菜採りへ来た男性が人間の指と女性の腕を発見したことで発覚した。

警察が捜索した結果、

同一女性のDNAを持つ右腕が複数
人体の本数を超える同一人物の指
同時期に切断された同一男性の脚が複数

という、通常の殺人事件では説明不能な状況が判明した。




国家規模の人体複製実験説

現世の専門家や世間が到達し始めた推論。

殺人事件として説明しようとすると、

一人の人間から同じ腕が二本出てくる

という時点で破綻する。

そこで、

クローン
再生医療
人体培養
政府の秘密実験

といった説が登場した。




現世の名探偵たち

異常なバラバラ事件へ興味を持ち始めた探偵たち。

世界最高峰の名探偵。

偉大な祖父を持つ高校生探偵。

見た目と実年齢の釣り合わない有名な少年探偵。

それぞれ別の角度から事件を追うものの、証拠を論理的に分析すればするほど、

「人体が何らかの方法で複製された」

という方向へ近づいていく。

今回ばかりは探偵側に非はない。





修行の成果

数日間の乱戦によって、四人は単なる霊力強化以上の経験を獲得した。

具体的には、

重傷を負った状態での霊圧操作
欠損部位がある状態での戦闘続行
致命傷を受けても敵から意識を外さない精神力
相手を確実に戦闘不能へ追い込む攻撃経験

など。

織姫の双天帰盾によって肉体そのものは毎回元へ戻るため、通常なら一度しか経験できない致命傷を繰り返し経験できる。

尸魂界側からすれば、非常に嫌な相手が四人完成した。





帰還後

現時点では未来の話。

尸魂界から帰還した四人には、

「自分たちは政府の人体複製実験から逃亡した被検体ではない」

ことを説明するという、護廷十三隊との戦いとは別種の難題が待っている。

なお、真実をそのまま説明すると、

「仲間同士で腕や脚を切断し、織姫が新しいものを生やしました」

となる。

政府の人体実験説の方がまだ信じてもらえる可能性がある。
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