我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

58 / 58
井上織姫(いのうえ おりひめ)

尸魂界突入部隊の中でも、攻撃・防御・治療・人心掌握のすべてが危険な領域へ入り始めた少女。断界では新技「複天滅盾」によって拘突を物質結合ごと消滅させ、流魂街では自分を襲おうとした荒くれ者たちを笑顔と全面的な信頼だけで善人へ変えた。本人はどちらも特別なことをしたつもりがない。


朽木ルキア(くちき ルキア)

卍解修行へ力を割きすぎた結果、断界で一人だけ走力不足へ陥った死神。途中で何者かに足を引っかけられて転倒し、正妻の座を狙う仲間から一度は置き去り候補にされた。
流魂街では三日間真面目に案内と見張りを担当したにもかかわらず、織姫と一護の関係を知った荒くれ者たちから完全に敵視される。


有沢たつき(ありさわ たつき)

山籠り修行で身につけた霊力操作を歩法へ応用し、断界を高速で走破する。一護救出への意志は揺るがないが、織姫が「ここでルキアが脱落すれば正妻になれる」と考えた際には、なぜか即座に賛同した。流魂街では荒くれ者たちから腕っ節を高く評価され、更木地区への嫁入りまで勧められる。


茶渡泰虎(さど やすとら)

自身の巨体に適した歩法として、滅却師の飛廉脚に近い霊子運用を独自に習得しつつある。一行では相変わらず冷静な分析担当であり、織姫によって荒くれ者たちが「最初から善人だった」のではなく「接するうちに本当に善人になった」と最も正確に見抜いた。


石田雨竜(いしだ うりゅう)

断界でも飛廉脚を駆使して先行する滅却師。流魂街の劣悪な生活環境を目にして死神社会への評価をさらに下げるが、荒くれ者たちとは三日間の旅で普通に打ち解ける。最後には彼らから「織姫ちゃんを守れ」と父親目線で託され、律儀に約束した。


四楓院夜一(しほういん よるいち)/タマ

ルキアの肩に乗って断界を移動する元隠密機動総司令。拘突の危険性を誰より理解しているためルキアを叱咤するが、織姫が拘突そのものを消したことで言葉を失う。さらに流魂街では、荒くれ者集団を笑顔だけで懐柔する織姫を目撃し、「敵軍へ送り込めば翌朝には全員反乱しているのではないか」と恐れ始める。


流魂街最外縁の荒くれ者たち

当初は一行を襲い、女性陣から金品その他諸々を奪うつもりだった男たち。しかし織姫から一切疑われず、善人として全面的に信用された結果、捨てたはずの良心を強制的に回収することになる。三日後には織姫を実の娘同然に扱い、一護救出まで応援する父親集団へ進化した。


黒崎一護(くろさき いちご)

本人は懺罪宮に収監中のため登場しない。しかし荒くれ者たちの中では、いつの間にか「織姫ちゃんを待たせている旦那」として認識されている。正式な婚約者は別にいるが、その情報は父親集団の支持率へ一切反映されなかった。


織姫ちゃん流魂街征服記

断界の景色は、前へ進んでいるのか、同じ場所を走らされているのかさえ判然としない。

 

立ち止まれば尸魂界へ着けないだけでは済まず、この空間を定期的に走る掃除屋へ轢き潰される。浦原は出発前、その事実と制限時間だけを笑顔で伝えていた。

 

「浦原めーーーっ!! 四分でこの断界を駆け抜けろなど、無茶に決まっておるだろうがァァッ!!」

 

ルキアは肩で息をしながら、はるか前方を走る仲間たちへ叫んだ。

卍解を習得する修行へ集中していたため、走力を鍛え直す時間まで取れなかったのである。

対する四人は、山中で手足と良識を失う修行を重ねただけあって、断界をものともしていない。

 

「置いてっちゃうよ〜、朽木さん!!」

 

織姫は先頭を走りながら振り返り、遠足で遅れた友人を呼ぶような笑顔で手を振った。

その横では、たつきが足裏へ霊力を集中させ、踏み込むたびに光を弾けさせている。

 

「瞬歩の応用だな!! 脚だけで走ろうとするな、体重を前へ投げるんだ! 霊力を地面へ叩き込む位置を変えれば、もっと加速できるぞ!!」

 

チャドも腕を振って重い身体を運びながら、足元に集めた霊子へ乗って速度を保っている。

 

「俺の身体には、飛廉脚の歩法が合っている。地面を蹴るより、霊子の流れへ足を載せた方が安定する……!」

 

「歩法の研究発表は後にしてくれ! ここで時間を使えば全員まとめて終わりだ。喋る余力があるなら、出口まで全力で駆け抜けるんだ!!」

 

純白のマントをなびかせた石田が先を急がせる。

もっとも、一番長く喋っているのは今のところ彼だった。

 

「ま、待て!! 皆、待ってくれェェェッッ!!」

 

ルキアの肩へしがみついていた夜一が、後方を睨んだ。

断界の闇は光の歪みを呑み込み、その奥から、地面を押し潰すような振動が伝わり始めている。

 

「拘突に追いつかれれば全員圧死じゃぞ!!泣き言を口にする前に足を動かさんか!!」

 

「わかっておる! 瞬歩で追いつけば――わぷッッ!?」

 

ルキアが霊力を足元へ集めた時、黄色い光が靴の前を横切った。

妖精めいた影である。足首を引っかけられたルキアは踏み出す先を失い、顔面から派手に転倒した。

 

光の正体を見た者はいなかった。前方を走っていた織姫の髪飾りでは、六花の数が揃っているように見えたので、おそらく無関係である。ここで数え直してはいけない。

 

織姫は足を止め、床へ倒れたルキアを振り返った。瞳から普段の温かい光が消え、頭の中では恐ろしい計算が始まっている。

 

「ここで朽木さんが拘突に巻き込まれて脱落すれば、黒崎くんの正妻の座は晴れて私のものになるんじゃ――」

 

「おいおい……それ、めちゃくちゃいい考えじゃねえか」

 

「やめんか貴様らァァァッッ!!!!!!!」

 

夜一の怒声を浴びると、織姫の顔へ笑みが戻った。

 

「えへへ〜、冗談だよ〜〜ん♪」

 

冗談なら、見下ろして正妻交代の可能性を計算する前に助け起こすべきだった。

ルキアが抗議しようと口を開いたところで、断界全体が鳴動し、その声を遥かに上回る轟音が背後から迫ってきた。

 

闇の奥を埋め尽くし、巨大な岩塊に似た拘突が姿を現した。断界を走りながら異物を排除する掃除屋であり、その先端には進路を塞ぐ者への慈悲はない。

 

ルキアは顔から血の気を失い、起き上がりかけた姿勢のまま床へ座り込んだ。

 

「拘突ッ……! もう逃げ切れん……!!」

 

織姫は背後の巨体を見定めると、ルキアを見捨てるか悩んでいた時より冷たい無表情になった。

 

「……さすがに邪魔だね。――複天滅盾ッッ!!」

 

髪飾りから六花が飛び出し、そのうち四体が拘突の前方へ展開した。上下左右へ散った妖精たちを結ぶ光が、空中へ四角形を描く。孤天斬盾のように一枚の盾を飛ばすのではなく、四つの頂点と、それらを結ぶ線そのものが術式の中核になっていた。

 

四体の六花が同時に前進する。

 

黄金の結線が作る面は、拘突の先端へ衝突して止まらない。硬度を競い、力で押し返す技ではないからである。

光が岩石めいた外殻を通過した箇所から、拘突を形作る物質と霊子の結合が拒絶されていく。先端が崩れ、胴体へ幾何学的な線が走り、四体の軌道が変わるたび、空間を立体的に薙ぐ新たな断絶面が生まれた。

 

切断された断面さえ残らない。

 

結合を失った拘突は、輪郭を保てなくなった箇所から微粒子へ還り、砂の城が自重に耐えられず崩れるように流れ落ちた。断界を塞いでいた巨体が前進する力まで粉へ変わり、黄金の光が通過し終えた後には、白い粒子の帯だけが残された。

 

複天滅盾とは、六花同士を結ぶ線上にある物質の結合を拒絶する技である。

二体なら一本の線、三体以上なら面を作り、使用する六花と軌道を増やせば、対象を包む空間そのものを立体的に分断できる。

 

ルキアは顎が外れそうなほど口を開き、拘突の残骸が流れる光景を見送った。

自分が卍解を習得している間、仲間たちが何を目指して修行していたのか、いよいよ理解したくなくなった。

 

織姫は何事もなかったようにルキアの手を取り、床から引き起こした。

 

「よし! じゃあ行こう、朽木さん!!」

 

「ま、待て井上! 今の技は何だ!? 拘突を消す技など浦原から聞いておらぬぞ!!」

 

「説明は走りながらにしよう! 四分を過ぎちゃうよ〜!」

 

時間制限を指摘され、ルキアは反論する機会を失った。一行は再び出口へ向けて走りだし、微粒子となった掃除屋が、役目を奪われたまま断界の霊子へ溶けていった。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

穿界門を抜けた一行を待っていたのは、瀞霊廷ではなかった。

 

乾いた風が土埃を巻き上げ、ひび割れた大地の上へ傾いた長屋が並んでいる。

 

「ここは……流魂街の最外縁に近い。七十九地区か、八十地区の境だろう」

 

ルキアは見覚えのある荒れ方に眉を寄せた。

流魂街は瀞霊廷を中心として番号が増えるほど治安と生活環境が悪化し、八十地区ともなれば、明日の食事を得るために命を奪われることさえ珍しくない。

 

彼女が恋次たちと育った南流魂街七十八地区・戌吊も、この地と大差のない場所だった。

 

「はへー。ずいぶんと荒れたところなんだね、尸魂界って!」

 

織姫は周囲を見回し、観光地へ着いたような声を上げた。

石田はマントについた埃を払いながら、崩れかけた長屋と道端へ座る男たちへ冷たい視線を送る。

 

「死神の連中が野蛮なのも頷ける環境だね。魂を管理する社会が、住民へまともな衣食住も用意できていないとは」

 

「しかし、これは思っていた以上に過酷な場所だ。瀞霊廷まで、食料と水が保つかも考えた方がいい」

 

チャドが荷物を確かめた時、路地裏から二人の男が現れた。

擦り切れた着物から腕を出し、一人は錆びた短刀を手にしている。

獲物を見つけた笑みを浮かべ、一行の進路を塞いだ。

 

「おいおいおい……見かけねえ可愛い嬢ちゃんばかりじゃねえか。そっちの眼鏡とデカい兄ちゃんも、この辺りじゃ見ねえ顔だな。……おい、あっちのチビは死神か?」

 

「こんな無法地帯を余所者だけで歩くなんて危ねえぞ? 俺たちが優しく可愛がってやるから、こっちへ来な」

 

石田は指へ霊子を集め、弓を形作ろうとした。

 

「想像以上の治安だ。下がっていてくれ、井上さん。話し合いができる顔には見えない」

 

ところが織姫は怯えるどころか、満面の笑みで二人へ駆け寄った。

 

「そうなんですか? わざわざ教えてくれて、ありがとうございます〜!」

 

「井上、ついていくな!!」

 

チャドが肩を掴もうと手を伸ばし、たつきも織姫の服を引こうとする。

 

「知らない人へ簡単についていっちゃ駄目だって、子供の頃から教えただろ!! どう見ても親切な道案内じゃないからな!?」

 

「大丈夫だよ! 昔から、こういう危険そうに見える人ほど、本当は心の奥が優しいんだもん!」

 

織姫は男たちの目の前まで進み、疑うことを知らない瞳で見上げた。

 

「ね? おじさんたち?」

 

至近距離から純度百パーセントの信頼を浴び、短刀を持っていた男の腕が止まった。

隣の男も口元へ浮かべていた笑みを崩し、仲間へ助けを求めるように目を泳がせる。

 

「い、いや……俺たちは本当に怖い奴らだぞ? その……ついてきたら、怖い目に遭わせるかもしれねえんだぞ?」

 

被害者へ最終確認を始めた時点で、襲撃計画は崩壊していた。

織姫は首を傾け、追い打ちとなる笑顔を向ける。

 

「ふふっ。本当に悪いことをする人は、最初から『怖い目に遭わせる』なんて親切に教えてくれないもん。私たちが危ない目に遭わないように、教えてくれたんだよね?」

 

男たちは言葉を失った。

 

他人に信用された記憶もなく、住民からは姿を見ただけで戸を閉ざされ、仲間内でさえ背中を見せれば荷物を盗まれる環境で生きてきた。

 

そんな自分を、織姫だけは最初から善人として扱っている。

良心などとうに捨てたつもりだったが、自分たちを信じる少女の前で拾い直す以外の道を塞がれてしまった。

 

短刀を持っていた男の目頭が熱くなり、鼻を啜る音が路地へ響いた。

彼は刃を懐へ戻すと、長屋の陰に潜んでいた仲間たちへ向かって吠えた。

 

「おい、野郎ども!! ここは治安が最悪だ!! こんな良いお嬢ちゃんたちを置いていけるか!! 瀞霊廷まで俺たちが命懸けで案内してやるぞォォッ!!」

 

男たちを迎え撃つつもりだった石田、チャド、たつきは、構えを解けないまま黙り込んだ。織姫は得意げに振り返り、先ほどと同じ言葉を繰り返す。

 

「ね?」

 

夜一はルキアの肩で口を開けたまま、声を失っていた。

 

天然の人心掌握は、隠密機動総司令を務めた夜一にも真似できない。

織姫が敵軍の中央へ笑顔で入っていけば、翌朝には兵士全員が彼女のために反乱を起こしていても不思議ではなかった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

荒くれ者たちの案内で始まった三日間は、奇妙な旅になった。

 

初日、彼らは一行を狙って近づいた別の盗賊を追い払い、安全な井戸と崩れていない長屋を教えた。

 

二日目には、織姫が自分の握り飯を腹の減った子供へ渡したため、男たちが夜通し食料を集め、朝までに人数分の芋と干し肉を用意した。

織姫が礼を言うたび、彼らは「これくらい当然だ」と顔を逸らし、その直後に物陰で泣いた。

 

野宿の夜、冷たい風が吹けば自分たちの上着を織姫へ重ね、たつきが「本人は丈夫だから平気だ」と止めても、父親のような顔で首を横へ振った。

 

石田とチャドは薪集めと見張りを手伝い、ルキアは瀞霊廷への道と一護の事情を説明した。話を聞き終えた男たちは、会ったこともない黒崎一護を「織姫ちゃんを待たせている旦那」と呼び、処刑を決めた中央四十六室への怒りまで共有していた。

 

そして三日目、地平線の向こうへ瀞霊廷を囲む白い壁が現れた時には、最初に襲おうとした男たちは完全に消え、愛娘を危険な嫁ぎ先へ送り出す父親集団が完成していた。

 

「織姫ちゃん! そろそろ瀞霊廷の壁が見えてくるぞ!!」

 

別の男は握り飯と果物を包んだ布を織姫へ渡し、名残惜しそうに何度も頷いた。

 

「織姫ちゃん、気をつけてな!! 捕まってる旦那を絶対に助けてやるんだぞ! 腹が減ったら、これを皆で食うんだ。喧嘩して一人で全部食べちゃ駄目だからな!」

 

「おじさんたち、三日間も案内してくれてありがと〜〜!!」

 

織姫が包みを抱えて笑うと、短刀を持っていた男は照れを隠すように頭を掻いた。

 

「いや……その……あのな。もし俺たちに娘がいたら、きっとこんなに可愛かったんだろうって思ってよ。立派になったな、織姫ちゃん……!」

 

知り合って三日なので、立派になる前の織姫を彼らは知らない。

それでも男は感極まり、袖で涙を拭った。

背後の仲間たちも鼻を啜り、誰かが「幸せになれよ」と呟いている。

 

石田は相手を眺め、眼鏡を押し上げた。

 

「僕たちの警戒が過剰だったのかな。こうして見ると、本当に良い人たちだったようだね」

 

「最初から良い人だったかはわからないが、井上と過ごすうちに、本当に良い人になったのだろう」

 

チャドの分析が最も正しかった。

荒くれ者たちの頭は二人の前へ進み、父親の威厳を作るため腕を組んだ。

 

「おい、石田! 茶渡!! 男として織姫ちゃんをしっかり守れよ! お前たちは見どころのある良い男だ。織姫ちゃんを泣かせたら、瀞霊廷へ入ってでも俺たちが殴りに行くからな!!」

 

石田は応じ、チャドも「約束する」と続けた。二人は三日間世話になった男たちへ律儀に頭を下げる。次に頭領はたつきへ向き直り、親指で背後の更木方面を示した。

 

「たつきちゃん!! お前も骨のある良い女だ! もし一護って奴が頼りなかったら、いつでもこの更木地区へ嫁に来いよ! 腕っ節が強くて気の良い婿を、俺たちが総出で探してやるからな!!」

 

「あはは……前向きに考えておくよ!」

 

たつきは爽やかに笑って手を振った。相手を傷つけない社交辞令のつもりだったが、男たちは本気で候補者を探す相談を始めている。

戻る頃には、見合い相手の名簿が完成している可能性があった。

 

最後に、全員の視線がルキアへ集まった。

 

三日間の旅で、ルキアだけが男たちから食料を余分にもらえず、休憩中も「織姫ちゃんを待たせるな」と急かされていた。

理由を尋ねても誰も答えなかったが、彼らは一護の婚約者がルキアであり、織姫が側室を目指しているという話を正確に把握している。

 

「――おいッッ!! そこのチビ女ァァッッ!!!!」

 

先ほどまで娘との別れに泣いていた父親集団が、腹の底から低い怒声を浴びせた。

ルキアは肩を跳ね上げ、その場で飛び上がる。

 

「ひっ……!? な、何だ!?」

 

「とっとと足を動かして歩けやコラァッ!! 織姫ちゃんにこれ以上迷惑をかけるんじゃねえぞ! 断界でも転んで助けてもらったそうじゃねえか!!」

 

「くっ……な、なぜ私にだけ当たりが強いのだ!? 私も三日間、道案内と見張りをしておっただろう!!」

 

別の男が前へ出て、ルキアの頭から足元まで値踏みするように見た。

織姫へ向けていた慈愛は欠片も残っていない。

 

「ああん!? てめえが一護の正妻候補だァ!? 織姫ちゃんに勝てるわけねえだろ、身の程を知れ!! 抱く気にもならねえ幼児体型がよォォォッッ!!!!」

 

ルキアは反射的に胸元を両腕で隠した。

目の縁へ涙が溜まり、三日間積み重なった理不尽が決壊する。

 

「なんで私だけ、そんなボロクソに言われなきゃならんのだァァァァッッッ!!!!」

 

こうして一行は、戦うことなく流魂街最外縁の荒くれ者を味方につけ、食料と護衛と父親集団からの祝福を得て、瀞霊廷の巨大な門へ到達した。

 

ただし、祝福された花嫁候補は織姫だけであり、正式な婚約者は到着前から流魂街の支持率を完全に失っていたのであった。




断界(だんがい)

現世と尸魂界の間に存在する特殊空間。

通常の空間とは時間や構造が異なり、内部を通過する際には制限時間が存在する。

今回、浦原から一行へ提示された突破時間は、

四分。

そのうえ後方から拘突まで迫ってくるため、道中で立ち止まることは事実上許されない。


拘突(こうとつ)

断界内部を定期的に走行する巨大な掃除屋。

断界へ入り込んだ異物を排除する役割を持ち、進路上の存在を巨大な質量で押し潰していく。

本来なら、

「遭遇したら逃げる」

以外の選択肢を考えるような相手ではない。

今回は織姫から、

「さすがに邪魔」

と判断された結果、複天滅盾によって消滅した。

掃除する側が掃除された。


複天滅盾(ふくてんめっしゅん)

織姫が山籠り修行を経て実用化した六花の新技。

複数の六花を空間へ配置し、

六花同士を結ぶ線上に存在する物質の結合そのものを拒絶する。

二体なら線。

三体以上なら面。

さらに六花自体を移動させることで、断絶面を立体的に変化させることもできる。

単純に「切れ味の鋭い斬撃」ではなく、

対象を構成している結合を成立しなかったことにする

ため、硬度や質量による防御が成立しにくい。



複天滅盾による立体断絶

複天滅盾最大の特徴。

六花は発動後も位置を変えられるため、複数の結線によって作られた面そのものを移動させることができる。

これにより、

正面から一度斬る
のではなく、

対象内部へ断絶面を通過させ続ける

ことが可能。

今回の拘突は、外殻を破壊されたのではなく、構成物質と霊子の結合を広範囲に失ったことで形状そのものを維持できなくなった。



孤天斬盾との違い

孤天斬盾は、六花の力によって対象を拒絶する攻撃技。

一方の複天滅盾は、

複数の六花同士を結ぶ空間そのものを術式化する。

つまり攻撃の主体が一枚の盾ではなく、

六花同士の間に成立する線・面

へ移っている。

使用する六花の数と配置によって攻撃範囲や形状を自在に変えられるため、応用性が非常に高い。



流魂街(るこんがい)

瀞霊廷を取り囲む、尸魂界の一般魂魄が暮らす地域。

瀞霊廷に近い地区ほど比較的治安が良く、地区番号が大きくなるほど生活環境や治安が悪化していく傾向がある。

今回、一行が到着したのは七十九地区から八十地区に近い最外縁部。

ルキアが育った南流魂街七十八地区・戌吊と同等、あるいはそれ以上に過酷な地域である。



天然人心掌握

織姫が意図せず使用している特殊技能。

能力ではない。

洗脳でもない。

単純に、

「この人はきっと本当は優しい人だ」

と心の底から信じ、その前提で接するだけ。

しかし善人として扱われた経験のない相手へ使用すると、

「ここまで信じてくれる子を裏切れるか」

という良心が発生し、結果として本当に善人へ変わる場合がある。



流魂街の父親集団

元は織姫たちを襲おうとしていた荒くれ者たち。

織姫から無条件に信頼され、さらに三日間の旅で交流を重ねた結果、

護衛

世話係

心配性のおじさん

娘を嫁へ送り出す父親

という順序で変化した。

最終的には一護の救出まで全面的に応援している。



「織姫ちゃんを待たせている旦那」

荒くれ者たちによる黒崎一護の認識。

正確には一護の正式な婚約者はルキアであり、織姫は側室の座も含めた別ルートを狙っている。

事情について男たちは三日間で説明を受けている。

そのうえで、

一護=織姫ちゃんの旦那

として処理した。

理解できなかったのではない。

採用したくない情報を無視しただけである。



たつきの更木地区嫁入り計画

荒くれ者たちが勝手に提案した縁談。

三日間の同行によって、たつきの腕っ節と性格を高く評価した結果、

「一護が駄目なら更木地区へ嫁へ来い」

と勧誘された。

本人は社交辞令として、

「前向きに考えておく」

と答えた。

荒くれ者たちは本気で受け取った。

帰還時には見合い候補者一覧が完成している可能性がある。



流魂街におけるルキア支持率

極めて低い。

原因は、

一護の正式な婚約者であること。

織姫を実の娘同然に可愛がるようになった荒くれ者たちにとって、ルキアは、

愛娘の恋路を阻む正妻候補

という認識になった。

三日間の見張りや案内への貢献も支持率改善には繋がらなかった。



「抱く気にもならねえ幼児体型」

荒くれ者がルキアへ放った暴言。

織姫への父性愛が過剰に発展した結果、一護の正妻候補であるルキアへの敵意まで同時に育った。

なお、言われた本人は即座に胸元を隠している。

身体的特徴を攻撃された場合、朽木家の誇りより少女としての精神的ダメージの方が早く届くらしい。



瀞霊廷到達

穿界門突破後、三日間の流魂街横断を経て、一行はついに瀞霊廷の巨大な白壁へ到達した。

ここまでに得たものは、

修行による戦闘能力
流魂街での食料
荒くれ者による護衛
父親集団からの祝福

など。

失ったものは、

ルキアの流魂街支持率。

いよいよ一護救出の本番が始まる。



白鷹

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

スリザリンの凡人、なぜか闇の帝王候補扱いされる(作者:ノア)(原作:ハリー・ポッター)

ノア・セルウィンは、スリザリンに入る予定の純血少年である。▼野心はない。▼度胸もない。▼特別な才能も、今のところ特にない。▼あるのは、面倒事を避けるための少しばかりの言葉選びと、最初に小さく嫌だと言わないと後でもっと面倒になる、という妙に現実的な処世術だけだった。▼だが、魔法界は面倒だった。▼血筋。▼家名。▼寮の派閥。▼有名人。▼闇魔術。▼そして、見捨てるに…


総合評価:2376/評価:8.34/連載:5話/更新日時:2026年06月13日(土) 07:10 小説情報

伏黒宿儺に「そろそろ狩るか…♠︎」する転生者(作者:羂索は踊り狂って死ぬ♠︎)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦を知らない転生者が伏黒宿儺相手に「そろそろ狩るか…♠︎」するだけの話。▼タグは随時追加


総合評価:5615/評価:7.35/連載:7話/更新日時:2026年08月06日(木) 18:19 小説情報

ハグキ転生(作者:増えるヤバイ奴)(原作:ワンパンマン)

ワンパンマンに登場する怪人、ハグキになっちゃった転生者が生き抜こうと頑張る話。▼ONE版、村田版ともに最新話までのネタバレを含みます。▼原作既読推奨です。▼【挿絵表示】▼↑主人公ハグキの人間擬態形態『タベル』のイメージです。


総合評価:3610/評価:8.55/連載:19話/更新日時:2026年08月29日(土) 16:05 小説情報

100年に一人の天才と史上最強の弟子(作者:やぶゆー)(原作:史上最強の弟子ケンイチ)

金剛阿含は100年に一人の天才だ。▼勉強、スポーツ、格闘技、何をやらせても栄光を掴むだろう。▼ただちょっと近所が梁山泊なだけ……▼※ケンイチ2発表前から執筆していたため、世界観が異なる場合があります▼現在は毎週月曜夜と金曜夜に固定更新予定です


総合評価:4088/評価:8.27/連載:53話/更新日時:2026年08月28日(金) 19:46 小説情報

氷叢家の種馬(ガチ)(作者:のりしー)(原作:僕のヒーローアカデミア)

氷叢零至(ひむられいじ)▼落ち目の氷叢一族に産まれてしまった鬼子。▼現役No.2ヒーローであるエンデヴァーの炎系個性に対抗しうる程の才を持ち産まれ……故にその個性は『コキュートス』と名付けられた。周囲の希望の願いと共に。▼ ▼しかし……▼幼き頃は神童で、育てば秀才……成人後はただのクズ。▼『あの』雄英高校に華麗なる推薦合格ゴールをブチかました後、この男は才を…


総合評価:3780/評価:7.86/連載:26話/更新日時:2026年08月24日(月) 22:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>