我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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井上織姫

一護救出のため瀞霊廷へ潜入した旅禍。妙なところで肝が据わっており、本人にも予測不能な方法で窮地を突破する。


朽木ルキア

現世組唯一の正規死神。尸魂界の常識を知っているがゆえに、仲間たちの行動へ誰より頭を抱える立場。


石田雨竜

滅却師。旅禍でありながら死神へ変装中。即興の嘘にも妙に適応し始めている。


四楓院夜一

黒猫姿で一行へ同行する元隠密機動総司令。現世組の潜入を見守る経験豊富な案内役……のはず。


浮竹十四郎

十三番隊隊長。温厚な人格で知られ、ルキアにとっては直属の上官。


斑目一角

十一番隊第三席。強者との戦いを好む戦闘狂。旅禍の霊圧を嗅ぎつけ、自ら姿を現す。

※読み仮名はもういいかな~と。


十三番隊二十席と伸びない蓮華丸

壁の外では五百人の荒くれ者が武器を掲げ、織姫の名を叫びながら白道門の周囲を走り回っている。

 

門番と警備隊は反乱軍の突撃に備え、鬼道を準備し、梯子を持ち出した男へ特に厳しい視線を注いでいた。その梯子が壁の半分にも届かない事実は、彼らの決意を評価するうえで何の慰めにもならない。

 

警備所の屋上では、隊士が望遠鏡を動かしながら首を傾げていた。

 

「おかしいな。壁の外にいるのは暴れ回る荒くれ者ばかりで、肝心の旅禍らしい奴らが見当たらないぞ。あいつらの中に紛れているのか?」

 

隣の隊士は、緊急報告の書状をもう一度開いた。穿界門が開いた際に観測された侵入者の霊圧は六つ。ところが壁の外に集まった連中は、人数だけなら五百を超えているものの、誰からも旅禍と断定できる霊圧が感じられない。

 

「侵入時の反応は、確かに六つだったそうだ。五百人の中へ隠れたとしても、六つ揃って消えるのはおかしい。壁を下ろす直前、西の街道からここまでの間で反応を見失ったとなると……」

 

二人の視線が、降りきった瀞霊壁の下端へ向かった。

 

「まさか、壁と地面が接する前に、もう内部へ潜り込んでいるんじゃないか?」

 

正解である。

 

しかも旅禍たちは物陰に潜伏しておらず、警備側が想定するより遥かに見つけやすい場所にいた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

死覇装をまとった五人は、瀞霊廷の大通りを堂々と歩いていた。

 

隠密行動で重要なのは、人目を避けることではない。そこにいて当然の顔をすることである。

その理屈を誰から教わったわけでもない織姫は、向こうから歩いてきた死神へ満面の笑顔で手を振った。

 

「お疲れ様ですっ!」

 

挨拶を受けた男は足を止めた。

警報中に見知らぬ隊士から声をかけられれば、本来なら所属と任務を確認すべきである。

 

しかし、織姫があまりにも元気よく笑うので、警戒心は職務質問へ育つ前に照れへ変わった。

 

「お、おう! お疲れさん。見ない顔だな。いや、その……すごく可愛いって意味で言ったんだが」

 

織姫は右手を額へ添えた。死神の敬礼がその形で正しいかは知らない。

ハキハキしていれば大抵のことは正しく見えるという、人間社会で得た知恵を信じた。

 

「はい! 十三番隊所属、井上織姫二十席です! 先日、席官になりたてのペーペーですので、よろしくご指導ください!」

 

架空の経歴が、一点の曇りもなく飛び出した。

 

「うんうん、元気でよろしい! 俺は七番隊の相原、十一席だ。分からないことがあれば何でも聞いてくれていいぞ。後ろの皆は同期かい?」

 

相原は疑うどころか、先輩として胸を張った。

二十席なら席官の最下位であり、他隊の者が顔を知らなくても不自然ではない。

実に巧妙な人選だった。

 

石田は眼鏡を押し上げ、非番の途中で緊急招集された者にふさわしい迷惑顔を作った。

 

「ええ。今日は同期で二十席就任祝いの打ち上げを開く予定だったのですが、この警報騒ぎでしょう? 旅禍にも困ったものです。捕まるなら、せめて宴会が終わってからにしてほしかったですよ」

 

「まったくだぜ。どこの迷惑な連中なんだか」

 

たつきも腕を組んで溜息を吐き、茶渡は深く頷いた。一切の迷いがない。

ルキアだけは顔を伏せたまま、余計な発言を避けている。

 

相原の目が、その小柄な姿を捉えた。

 

「おっ、後ろにいるのは朽木ルキアじゃないか! なら本当に十三番隊だな。大変な日に当たったものだが、気をつけて持ち場へ戻れよ!」

 

ルキア本人が反論しないのだから、相原にとって疑う余地はなかった。

もっとも、彼女が顔を上げられなかった理由は、嘘が露見する恐怖ではなく、十三番隊の名を使って隊士を裸に剥き、席まで捏造されたことへの羞恥である。

 

石田の懐から顔を覗かせた黒猫は、目を細めて織姫を見た。

 

一番下の二十席を名乗ることで、顔を知られていない理由まで成立させる。

井上織姫、天然に見えて恐ろしい嘘をつく娘である。夜一が胸中で評価した直後、背後から穏やかな声が届いた。

 

「――君たち」

 

一同が振り返る。

 

路地の角から現れたのは、隊長羽織をまとった長髪の男だった。

物腰は柔らかく、緊張に包まれた瀞霊廷でありながら、表情には人を怯えさせる険がない。

 

織姫は警戒せず、相原へ向けたものと同じ笑顔で挨拶した。

 

「はい! こんにちは!」

 

誰だろう、この優しそうなおじさん。

 

彼女の認識はそれだけだったが、ルキアの心臓は胸の内側から肋骨を叩いた。

 

浮竹十四郎。

 

十三番隊隊長にして、ルキアの直属の上官である。二十席就任の報告はもちろん、見慣れない同期を四人も従えて歩く理由も、現世駐在中の本人が瀞霊廷にいる理由も、浮竹には通用しない。

 

「朽木……朽木じゃないか! お前は現世へ駐在しているはずだろう。なぜ、ここにいるんだ?」

 

「う、浮竹……隊長……!」

 

ルキアは直立不動になり、額から流れた汗が頬を伝った。相原は上官が来たことで姿勢を正したが、浮竹の注意はルキアと見知らぬ四人へ向けられている。

 

石田が唇をほとんど動かさず、懐の黒猫へ尋ねた。

 

「タマ、この人は?」

 

「浮竹十四郎、十三番隊の隊長じゃ。温厚な男じゃが、本気を出した時の強さは計り知れぬ。ここで戦う相手ではないぞ」

 

夜一が耳を伏せて答えると、茶渡の拳に力が入った。

しかし浮竹は刀へ手を伸ばさず、一同を順番に見渡した。

 

現世から戻ったルキア。十三番隊を名乗る見知らぬ若者たち。懐に隠れている黒猫。

 

「もしかして、君たちが連れている仲間は――」

 

黒崎一護を助けに来た者たちなのか。そう確認したうえで、自分も協力すると告げるつもりだった。

 

ルキアは目を閉じた。終わった。

直属の隊長へ発見され、旅禍全員の正体まで見抜かれた。

彼女の態度を見た織姫の頭から、相手が優しそうなおじさんだったという最初の印象が吹き飛んだ。

 

隊長が何かを言い終えれば、きっと恐ろしい攻撃が来る。

 

「えと……えと……えと……えーい! 四天抗盾ッ!」

 

呼びかけに応じた四体の六花が、浮竹を正面に捉えて黄金の盾を組んだ。

結界が、織姫の膨大な霊力を受けて強引に炸裂する。

黄金の衝撃が路地を駆け抜け、石畳を剥がし、瓦を巻き上げ、完全に無警戒だった浮竹を隊長羽織ごと吹き飛ばした。

 

「のわあああっ!?」

 

十三番隊隊長は二軒先の塀を突き破り、瓦礫の中へ消えた。

 

「逃げろーーーーーーーっ!」

 

織姫はたつきとルキアの腕を掴み、石田と茶渡も駆け出した。

相原はその場で硬直している。

 

崩れた塀の中から浮竹が起き上がった。髪と羽織を土埃まみれにし、何度も咳き込みながら逃げる一行へ手を伸ばす。

 

「待ちたまえ! 私は敵ではない! 黒崎一護を助けに来たのなら、協力しようと――」

 

声が届いた頃には、五人の背中は大通りの果てへ消えていた。

山本元柳斎と戦って勝つことを最低目標に鍛えた者たちである。

逃走へ目的が統一された時、救出作戦が始まって以来最高の連携を発揮した。

 

浮竹は差し出した手を下ろし、砕けた塀と誰もいない道を見比べた。

 

「なんという速さだ……。私の話を一文字も聞いてくれなかったな……」

 

相原は隊長へ駆け寄ろうとして、路地に落ちていた金色の光へ目を奪われた。

四体の六花は織姫を追って飛び去り、そこには何も残っていない。

 

七番隊十一席は、この日を境に十三番隊二十席の井上織姫を探し続けることになる。

そんな席官は最初から存在しないため、彼の恋が成就する可能性は光四郎より低かった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

浮竹から逃げた一行は、十一番隊の管轄区域まで駆け込んだ。

 

建物の陰へ身を滑り込ませた織姫は、膝へ手を置いて息を整えた。後ろを振り返っても、白い隊長羽織は追ってこない。

 

「ふう……なんとか、逃げられたね!」

 

「――へへっ、そうかな?」

 

 別の男の声が頭上から落ちてきた。

 

瓦礫の塀の上で、禿頭の死神が長い三節棍を肩へ担いでいる。剥き出しの頭が陽光を反射し、口元には戦いを待ち望んでいた者の凶悪な笑みが浮かんでいた。

 

「俺の縄張りへノコノコ迷い込んでくるとは、とことん運のない奴め! 覚悟しやがれ、旅禍ァッ!」

 

男は斑目一角。十一番隊第三席にして、強者との戦いを何より好む生粋の戦闘狂である。浮竹を吹き飛ばした霊圧を感じ取り、獲物を横取りされる前に先回りしていた。

 

織姫は頭上を見上げ、首を傾けた。

 

「えっと……どちらサマですか?」

 

一角の額に青筋が浮いた。自分が名乗っていない以上、知らないのは当然である。

それでも十一番隊の男にとって、格好よく登場した自分を知らないことは重罪だった。

 

「十一番隊第三席、斑――」

 

「えい!」

 

織姫は腰から奪った斬魄刀を抜き、一角の胴へ振り下ろした。

踏み込みも握りも素人そのものであり、刃筋さえ定まっていない。一角は上体を反らして刃を避け、塀から路地へ降り立った。

 

「おおっと! 借り物の斬魄刀で斬りかかってくるとは、いい度胸じゃねえか! だが俺は――」

 

次の斬撃が肩へ迫り、一角は弾いた。織姫は無表情のまま足を踏み替え、右から左、左から右、頭上から正面へと刀を振り続ける。

 

「えい! えい! えい! えい!」

 

「おい、待て! せめて俺の格好いい決め台詞を聞け! 人が名乗っている途中に斬りかかる奴があるか!」

 

抗議している間にも刃は止まらない。織姫の太刀筋には技術も殺気もなかったが、本人の身体能力と霊力が高すぎるため、一振りごとに風が唸り、石畳へ深い傷が刻まれた。

 

一角が受ければ腕まで痺れる。剣術を知らない者ほど次に何をするか読めないという、熟練者にとって非常に腹立たしい攻撃だった。

 

「えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい!」

 

「のわあああ、鬱陶しいわァァッ!」

 

 一角は後方へ跳び、彼は解号を叩きつける。

 

「伸びろ、鬼灯丸ッ!」

 

長槍へ姿を変えた。一角が手首を返すと、長い穂先が唸りを上げて宙を薙ぐ。

先ほどまで織姫が振り回していた名もなき刀とは、見た目からして格が違った。

 

織姫は攻撃をやめ、目を丸くした。両手を合わせ、子供が手品を見せてもらったように拍手する。

 

「わああっ! 刀が長い槍になった! すごーい! 格好いい!」

 

「お? お前、なかなか見る目があるじゃねえか。そうだろう、この変幻自在の鬼灯丸は――」

 

褒められた一角の鼻が高くなった。数呼吸前まで殺し合いをしていたことなど忘れ、得意げに愛刀を掲げる。

 

織姫も目を輝かせ、手にした刀を両手で構えた。

 

「私もそれ、やりたいな。――伸びろ! 蓮華丸ッ!」

 

路地に静寂が降りた。

 

織姫が奪ったのは、名も知らない平隊士の斬魄刀である。蓮華丸という名は、響きが可愛いという理由で今つけた。

 

当然、伸びない。

 

刀身は光らず、柄も長くならず、三つに分かれる気配もなかった。

持ち主から奪われ、知らない女に勝手な名前を与えられた浅打は、ただの刀として沈黙を守っている。

 

織姫は刀を上下に振り、柄尻を覗き込み、最後には軽く叩いた。

 

「あれ? 伸びないなあ。故障かな?」

 

一角は長槍を構えた姿勢のまま固まっていた。額に汗が流れ、顔から殺気が抜け落ちていく。

 

「てめえは一体、さっきから何をやっとるんだ?」

 

旅禍を前に戦意より困惑を覚えた最初の瞬間であった。




■ 二十席

護廷十三隊における席官の末席。

他隊の下位席官まで全員の顔を把握している死神は少ないため、偽名を使って潜入する際には意外と都合のよい地位でもある。

■ 四天抗盾(してんこうしゅん)

盾舜六花の四体を使用する技。

単なる防壁ではなく、加えられた力へ「抗する」性質を持つ。織姫自身の霊力を強く流し込むことで、反発力を攻撃的に利用することも可能。

■ 斬魄刀の「名」

斬魄刀の名は持ち主が自由につける名称ではなく、斬魄刀自身が持つもの。

死神は内なる斬魄刀との対話を経てその名を知り、名を呼ぶことで始解へ至る。

したがって、他人の刀へその場の思いつきで名前をつけても何も起こらない。
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