我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
仲間とはぐれ、瀞霊廷を単独行動中の滅却師。戦闘能力と方向感覚は別物である。
有沢たつき
暗黒魔闘術を操る現世組の武闘派。今回、力の使い方に新しい発見がある。
茶渡泰虎
たつきとともに瀞霊廷を移動中。寡黙だが、時折かなり重要な一言を出す。
志波空鶴
志波家の一員にして十三番隊三席。豪快な気質の隻腕の女性。
志波都
十三番隊三席。志波海燕の妻であり、一護にとっては親族にあたる。
志波岩鷲
空鶴の弟。十三番隊六席。本人によれば十三番隊最強。
浮竹十四郎
十三番隊隊長。一護救出に協力する側だが、現世組との意思疎通には若干苦戦している。
路地で、大男が石田の前に立っていた。
石田は相手の出方を待っていたが、大男は攻撃せず、胸を張って名乗り始めた。
「ふふ………私の名は一貫坂じ――ぐえっっ!!」
名前を言い終える前に、霊子の矢が大男を弾き飛ばした。背中から石畳へ落ちた身体は二度跳ね、白目を剥いたまま動かなくなる。
石田は光の弓を下ろし、眼鏡を直した。
「ん? すまないね……あまりにも隙だらけだったもので、つい反射的に撃ち抜いてしまったよ」
大男から返事はない。名乗りを中断されたことへの抗議もなく、口から泡を吹いている。石田は謝罪の相手が聞いていないと分かり、改めて周囲を見た。
「………………。聞こえていないか。……それにしても、あの乱戦で完全に皆とはぐれてしまったな。瀞霊廷の構造も分からないし、合流もままならない……」
石田は仲間の霊圧を探ったが、警報を受けて動く死神の反応が周囲に重なり、方向を絞れなかった。
光の矢を空へ放てば自分の位置は伝えられるものの、仲間より先に警備隊が集まる。
壁の間には同じ幅の道が続き、角を曲がっても隊舎と官舎の区別がつかない。
案内できるルキアも、状況を知る夜一も近くにはいなかった。
大男が起きれば、所属や持ち場から現在地を聞き出せる。しかし目を覚ますまで待つのも手間だった。相手の名乗りを聞いていれば質問できたかもしれないが、それでは反射的に撃ち抜いたという説明と矛盾する。
地図も集合場所もなく、通った道を記録する余裕もなかった。弓の技量では、現在地も仲間の居場所も分からない。
戦闘には勝ったが、道には負けていた。
◇◇
その頃、東側の大通りを、たつきと茶渡が走っていた。後ろには数十人の死神が続き、曲がり角を越えるたびに人数が増えている。
二人は個々の死神より速かったが、大通りの先からも別の警備隊が出てくる。
後ろの一人を引き離しても、横道から二人が加わるため、追手の列は長くなるばかりだった。
死覇装を着た大柄な茶渡と、全力で走るたつきは、警報中の通りでは見失いようがない。
茶渡なら壁を壊して別の道へ出られるが、目的地の方角が分からないまま建物を壊しても迷う場所が変わるだけである。二人は道なりに走り、追手を振り切る機会を探していた。
「うおおおおおおおっっ!!!!」
茶渡は隣を走りながら右腕を構え、追手が距離を詰めてこないか見ていた。
「待てーーーーーッッ!! 逃がすか旅禍ァァッッ!!!!」
捕らえる側は人数を増やし、逃げる側は二人のままである。たつきは後ろを確かめ、前へ向き直った。
「くそっ、数が多すぎるぜ!! 追っかけてきても無駄だってのに、いい加減に諦めろよ!!」
「……あちらも職務だ。流石に諦めてはくれないだろうな……」
茶渡の言うとおりだった。警報下で旅禍を見逃せば、追手の死神たちは任務放棄になる。たつきの都合で職務を投げ出してくれる者はいない。
「チッ……! ここで私の『暗黒魔闘術』を全力でぶっ放せば一掃できるんだが……それやると霊圧の反動で死覇装が破けて素っ裸になっちまうんだよ!! 替えの着替えを持ってねえんだよアタシは!!」
全身へ魔闘気を通せば、奪った死覇装が耐えられない。
戦闘に勝って全裸になるか、服を守って追われ続けるか。たつきが悩んでいるのは敵の強さではなく、着替えの不足だった。
茶渡は走る速度を落とさず、たつきの腕を見た。
「…………腕だけ……とかはできないのか?」
その提案で、全身へ回していた霊力の行き先が決まった。
「それだ!! ナイスアイデアだチャド!!」
暗黒魔闘術を全身で使わなければならない決まりはない。たつきが修行で、毎回全力を出すことしか考えていなかっただけである。
たつきは足を止め、追手へ向き直った。右腕だけに漆黒の魔闘気を集めると、肩から拳まで黒い霊力が走り、袖が内側から膨らんだ。
「――暗黒魔闘術・魔弾雷光閃ッッ!!」
右拳から放たれた魔闘気が大通りを走り、前列の死神を後続ごと押し流した。追手は白壁や屋根を越えて飛ばされ、通りに立っている者はいなくなる。破壊されたのは路面と壁の一部、そしてたつきの右袖だけだった。
追手は屋根や庭へ落ち、起き上がった者もすぐには走れない。人数で埋めていた大通りから人影が消え、次の警備隊が来るまでの時間ができた。全身へ放つ時より範囲は狭いが、追跡を止めるには足りている。
肩から先を覆っていた布は残っていない。たつきは右腕を確かめ、追手が戻ってこないことも確認した。
「……ふぅ。やっぱ右腕の袖だけ丸出しになっちまったな……。まあ全裸よりはマシか」
「おい! お前ら! こっちだ!! 早く入れ!!」
声は通りに面した屋敷の門から聞こえた。陰に立つ女が二人へ手招きしている。
たつきと茶渡は足を止めた。都合よく現れた案内人を、そのまま信用するわけにはいかない。
「一護の仲間だろ!? 追手がまた来る前にこっちに来い!!」
遠くから新しい足音が集まり始めていた。
「……どうする、チャド? 罠かもしれないが……」
「……敵の殺気は感じない。とにかく行ってみよう」
二人は門をくぐった。罠なら中で戦えばよく、通りに残れば次の追手と戦うだけである。どちらを選んでも戦闘の可能性はあったが、屋敷には壁と屋根があり、人目から隠せた。
二人が入ると門が閉まり、案内した女は裏手へ回った。追手の声は門前を通り過ぎ、屋敷へ踏み込んではこない。
◇◇
二人が通された座敷には、隻腕の女が煙管を手に座っていた。
「よく来たな! 俺は志波空鶴(しば くうかく)だ! これでも十三番隊で『三席』を務めてる! 俺たちは一護の味方だ、安心してくれ」
空鶴の隣には、茶を用意した女がいた。追われてきた二人へ湯呑みを差し出し、空鶴に続いて名乗った。
「初めまして。志波都(しば みやこ)です。同じく十三番隊の三席で……志波海燕の妻でもあります」
たつきは湯呑みを受け取ったものの、出てきた名前に覚えがなかった。
「海燕……?? 誰だそれ?」
「一護の従兄弟(いとこ)だよ。まあ、親戚の兄貴分ってやつさ」
一護の従兄、従兄の妻、その妹が同じ番隊で席官を務めている。
たつきたちは敵地で、一護の親族が集まる屋敷へ入っていた。
空鶴と都が三席なら、十三番隊の隊舎、警備、連絡経路について知っている。
旅禍として追われる二人には、食事や休息よりも必要な情報だった。
「一護の親戚………。確かに………目元や気の強そうなところが、一護に似ているな……」
障子が開き、大柄な男が座敷へ入ってきた。
「おうおうおう!! てめえら、わざわざ現世から一護の野郎を助けに来やがったのか!! なかなか見上げた根性の持ち主たちじゃねえか!!」
たつきは男を知らない。男の方は自己紹介を待たれていると理解し、さらに胸を張った。
「………お前は誰だ?」
「フハハハハ!! 聞いて驚け!! 俺は十三番隊の自称最強の男!! 志波岩鷲(しば がんじゅ)さまだあァァッ!! 俺のことよ!!」
自称なので、役職との矛盾は問題にならない。
岩鷲の名乗りが終わると、空鶴の煙管が後頭部へ落ちた。
石田に撃たれた大男と違い、こちらは最後まで名乗れたので、姉も待ってくれたらしい。
「やかましいわバカ弟。……こいつはこないだようやく『六席』に滑り込んだばかりのペーペーでな。まあ、よろしく頼むわ」
「いってぇぇぇっ……! 姉貴、客の前で殴るなよ……!」
奥の襖が開き、浮竹十四郎が姿を見せた。先ほど織姫の四天抗盾を受けて飛ばされたが、衣服の埃を払う程度で済んでいる。
「ふう……………これで、私たちが敵ではないと分かってくれたかな? もういきなり逃げないでくれると、私も非常に嬉しいのだが……」
「あ……さっき織姫が吹っ飛ばした病弱そうな隊長のおじさん……!?」
浮竹は返事をするまで間を置いた。隊長であることより、病弱そうなおじさんという認識の方が先に定着している。
「び、病弱そうなおじさん……。まあ、間違ってはいないがね……」
たつきと茶渡は、追手から身を隠す場所だけでなく、一護の親族と十三番隊の協力を得た。
右袖を失った代わりとしては、充分すぎる成果だ。
■ 暗黒魔闘術の部分運用
暗黒魔闘術は必ずしも全身へ魔闘気を巡らせる必要はなく、腕や脚など任意の部位へ集中させることも可能。
全身使用より出力と効果範囲は落ちるものの、霊力消費や周囲への被害を抑えられ、衣服への負荷も限定できる。
たつき自身がこれまで「使うなら全力」としか考えていなかったため、今回まで試していなかっただけである。
■ 十三番隊の同席次
護廷十三隊では、必ずしも一つの席次につき一人だけとは限らない。
そのため、
志波空鶴:三席
志波都:三席
のように、同じ隊の中へ複数の同席官が存在することもある。
■ 志波家と十三番隊
この物語では志波家と十三番隊の結びつきが非常に強く、
志波海燕
志波空鶴
志波都
志波岩鷲
が同じ十三番隊に所属している。
一護にとっては尸魂界内部に存在する、数少ない「最初から身内として頼れる勢力」の一つ。
■ 志波岩鷲の「自称最強」
あくまで自称。
六席であることとの整合性について本人は特に気にしていない。
「十三番隊で最も強い」と「十三番隊六席」は、岩鷲の中では問題なく両立しているらしい。