我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
一護を救うため瀞霊廷へ侵入した旅禍。盾舜六花の扱いは、戸川古男との修行を経て大きく変化している。
斑目一角
十一番隊第三席。強者との真っ向勝負を好み、織姫の前へ立ちはだかる。
綾瀬川弓親
十一番隊第五席。一角とは長い付き合いを持つ相棒。
剣術だけなら、勝負はすでについている。
織姫が握っているのは、名も知らない死神から奪った浅打である。
構えにも足運びにも習った型はなく、振れば一角に軌道を読まれ、受ければ鬼灯丸に弾かれる。本人も刀で勝てるとは思っていない。
それでも一角は攻め切れずにいる。穂先が織姫へ届くたび、三体の六花が黄金の盾を作り、鬼灯丸を正面から押し返す。
槍の速さも間合いも関係なく、攻撃そのものを拒絶する壁を破らなければ、剣術の差を織姫の身体へ届かせられない。
「チッ……! 相変わらずクソ硬え盾だぜ!!」
鬼灯丸は長槍である。正面の盾へ何度も突き続ける必要はなく、横へ回り込めば穂先は織姫へ届く。
一角は三天結盾の外側へ踏み込むが、織姫が見ているのは鬼灯丸ではなく、その足である。
「――えいっ! 後ろからも結盾!!」
残る三体の六花が一角の背後に第二の盾を作り、退路を塞ぐ。
三天結盾は攻撃を防ぐ技だが、相手の後ろへ置いてはいけないという決まりはない。
防御技を挟み撃ちに使う発想まで、技名から読み取れという方が無理である。
一角に残された逃げ道は左右だけになり、どちらへ動いても織姫へ脇を見せる。そこへ浅打が真っ直ぐ伸びてくる。素人の太刀筋は読みやすくても、挟まれた状態では避け方を選べない。
一角は身体を捻って急所を外すが、刃は脇腹を裂き、死覇装を血で濡らす。
「このヤロウ……!! 今度はこっちの番だァッ!! 避けられるかァッ!!」
傷を負っても、一角の槍術は鈍らない。織姫が浅打を引き戻すより早く、鬼灯丸が左胸を貫き、穂先を背中まで通す。守りに使える六花は二枚の盾へ回っており、今度は間に合わない。
肺の近くを抉られ、血が柄を伝う。致命傷を取った手応えに、一角は勝利を確信する。
「……もらったぜ!」
織姫の顔に苦痛は出ない。致命傷を告げた一角へ、血のついた唇を向ける。
「…………えへっ」
織姫は鬼灯丸から逃れようとしない。柄を掴み、自分の胸へさらに押し込む方向へ踏み込んでくる。傷口は深くなるが、槍の間合いは消え、一角の肩が浅打の届く位置へ入る。
「ぐううううっ!!? て、てめえ……!! 狂ってやがる!! 痛くねえのか!!?」
痛くないはずがない。
だが織姫は、自分で消せる傷を退く理由に数えていない。
一角が槍を引き抜く前に浅打を振り下ろし、肩口から鎖骨の下まで斬り込む。
「あとで元に戻せるから、全く問題ないよぉ! ――えいっ!!」
一角は鬼灯丸を引き抜いて距離を取り、肩から流れる血を押さえる。織姫の胸にも穴が残っているが、刀を持つ腕は下がらない。
「お前……一体何なんだ!! 何でそんな捨て身の、イカれた戦い方ができる!!?」
織姫は胸の傷へ触れ、指についた血を確かめる。自分が何をしているのか分からないわけではない。そのうえで、必要だから選んでいる。
「えーとね。戸川先生が教えてくれたの。私のこの盾舜六花(しゅんしゅんりっか)の力は、最初からもう完全に『完成』しているから、これ以上は成長しないんだって。だから、新しい妖精が増えたり、新しい技が急に湧いてくるんじゃなくて……最初から全部持っていたの。あとは、使い方の工夫と『事象を拒絶する方向』をどう思考するかだけ」
戸川が課したのは、身体が壊れるところまで戦い、双天帰盾で戻してから、また戦う。
完成している力を扱う織姫自身を、傷を受けても止まらないところまで鍛えてきた。
「――でもね。私自身の心と体が弱かったら、結局は誰も守れないって気づいたのよ。だから、教えて? 私の大切な人が捕まっている『懺罪宮』までの道を」
一角が答えるより先に、屋根から弓親が降りてくる。織姫の胸と一角の肩を見れば、加勢が必要な状況にしか見えない。
「一角!! 加勢するよ!!」
「弓親!! 手を出すんじゃねえ!! コイツは俺の獲物だ!! ……チッ、ただの小娘だと思って舐めてたわ。おい、お前………名は?」
一角が求めたのは、死を恐れず踏み込んできた相手の名である。
しかし織姫が受け取ったのは、知らない男から個人情報を要求されたという事実だけである。
「え〜? 知らないおじさんに、不用意に名前を教えちゃいけないんだよ??」
一角の作法は、現世の防犯教育に敗北する。
「ここは武士の情けで堂々と名乗る流れだろうがァァッ!! お互いの覚悟と誇りを語り合ってここまでやってきて、それはねえだろうがッッ!! 十一番隊三席・斑目一角様だッッ!!!」
これで自分は知らない男ではない。一角の中では、名を聞く条件が整っている。
「…………やっぱり知らない人だあ。けど、十一番隊ってことは、更木剣八さんが隊長なんだね!! 私たち、その人をサシで倒すために、毎日バラバラになりながら修行をしてきたの! だから、ここでどいてくれるとすごく嬉しいな!」
名乗りを無駄にされたうえ、敬愛する隊長まで目標に入っている。
一角には、ここで退く理由が一つも残らない。
「……更木隊長を倒すだと……? ナメやがって……!! ――裂けろ、『鬼灯丸』ッッ!!!!」
長槍の節が分かれ、三本の棍を鎖で繋ぐ。
三節棍なら左右から盾の縁を越えられる。
一角が形を変えた理由は、二枚の盾を正面から破るためではない。
左右から同時に攻める準備は整う。ところが織姫は三天結盾を作り直さず、浅打まで下ろしてしまう。一角が攻略しようとした戦い方を、織姫の方が先に捨てたのである。五体の六花は盾ではなく、織姫自身の前へ集まる。
――私、黒崎君が好き。
不器用で優しくて、意地っ張りなのに、結局最後は絶対に助けてくれるあの人が好き。
他の人には甘えられないくせに、自分には頼ってほしいという顔をする、あの人が好き。
一護は強い。敵が誰であろうと前へ出て、自分が傷つくことを後回しにする。
その背中に守られ続けるだけなら、助け出したあとも何も変わらない。
――黒崎君は強い。誰よりも強いからこそ、もう一人で戦わせたくない。
今度は私が彼の代わりに戦い、彼が進む道を開きたい。
「彼が進む道の前にある障害は、すべて私が取り払う。――彼が最終的に選ぶ運命の人が『私』でなかったとしても、私が彼を守らない理由には、絶対にならないッッ!!!」
五体の六花を結ぶ赤い光が、星形の領域を作る。
それは通過した力を変えるための門である。
織姫は自分で作った深紅の領域を通り、その向こう側へ出る。
「――『五天拡盾(ごてんかくしゅん)』」
五天拡盾が拒絶するのは、領域を通る霊圧に働く抑制である。身体や技が崩れない範囲へ出力を収める制限を拒み、内側にある力を限界より先まで拡大する。
外から力を与える技ではなく、持ち主が抑えているものを止められなくする技である。
黄金の霊圧が織姫から広がり、白壁と石畳を揺らす。十一番隊の隊舎だけでは収まらず、瀞霊廷を走り、流魂街を越え、現世と虚圏にまで届く。
三界を震わせている力の持ち主は、胸に穴を開けたまま笑っていた女である。
一角は三節棍を地面へ突き立て、押し寄せる霊圧に耐える。
隊長格という尺度では足りず、更木剣八を倒すために修行したという話も、もはや大言とは切り捨てられない。
「………………ぐおっ………!! なんだこの霊圧は……!? 隊長格……いや、それ以上の力が膨張してやがる……!!」
「――だから。私は絶対に克つ!!」
孤天斬盾が対象を切り分ける技であることは、一角もこれまでの攻防で察している。同じ威力なら、三節棍で正面から受けて軌道を逸らせる。椿鬼を迎え撃つ一角の判断は、五天拡盾がなければ正しい。
「――『孤天斬盾』……………一つ星ッッ!!」
五天拡盾を通った椿鬼には、出力を抑える働きが残っていない。
同じ形をしていても、一角が迎え撃つ力とは釣り合わない。
鬼灯丸も一角の身体も、拡大された光刃を逸らせない。三本の棍と鎖が砕け、一角の胸から脇腹まで斜めに傷が走る。それでも一角は、膝が落ちて意識を失うまで織姫から目を離さない。
「…………強え……な……」
倒した相手をそのままにして先へ進むこともできるが、彼女が六花を戦うためだけに使うはずがない。
「――『双天帰盾』」
黄金の結界が一角を包み、斬り裂かれた身体を戦う前の状態へ戻す。
肩口と脇腹の傷が消え、失った血も帰っていく。
同じ拒絶が織姫の胸にも働き、貫かれた肺と骨、背中まで抜けた穴を元へ戻す。
死覇装に残る血は、二人が殺し合っていた証拠として消えない。
それ以上に理解できないのは、自分を倒した相手がそこまで治してくれたことである。
「てめえ…………敵を治すのか……?」
織姫にとって、敵を倒すことと、倒した敵を傷つけたままにすることは別である。
道を塞ぐなら戦うが、道が開いたあとまで苦しませる理由はない。
捨て身の戦い方と敵への治療は、どちらも同じ力への信頼から出ている。
「井上織姫です。では、先を急ぎますので……」
戦いが終わってから、ようやく名前だけは教えてもらえた。
一角には、もう一つ確かめなければならないことがある。
「……待て。……お前ら、現世から来た連中の中で……一番強いのは、誰だ?」
質問の意味を考えるまでもなく、織姫の答えは決まっている。
「……………黒崎君だよ」
救出される側を警戒しろと言われても、瀞霊廷の防衛には役立たない。
一角が知りたいのは、すでに内部へ入っている残りの旅禍である。
「アホか!! その黒崎は捕まってるだろうが!! 他だ!! 誰に一番警戒すればいい!?」
織姫は戦闘の種類ごとに仲間の強さを分ける。
全員が生き延びた以上、誰か一人だけを選ぶ方が難しい。
「うーん……じゃあ、遠距離戦なら石田君。近接格闘ならたつきちゃん。防御力と一撃の重さなら茶渡君だし…………」
一角が求めているのは部門別の評価ではない。
「そうじゃなくて……!! 純粋な『殺し合い』をした場合、誰が一番ヤベエんだよ!!?」
条件が殺し合いなら、織姫の答えは一人に絞れる。
「あ、それなら私だね! ――だって私、頭さえ完全に潰されなかったら、何度でも再生できるから♪」
自慢でも脅しでもなく、織姫は質問へ正確に答えている。
一角は折れた鬼灯丸を拾い、懺罪宮の方角を示す。ここで織姫を追えば、更木剣八が喜ぶ獲物を自分の手で遠ざけることにもなるが、それを口にする気はない。
「いや、まあ……気をつけて行けや」
一角なりの通行許可を受け、織姫は笑顔で礼を返す。
「うん! ありがとう、斑目のおじさん!」
礼そのものは届いても、呼び方には訂正が入る。
「おじさんじゃねえ!!」
慈愛は敵の傷を拒絶し、覚悟は自分の痛みを退け、五天拡盾はその力を三界へ広げる。
狂気のヒーラー・井上織姫は、一護のいる懺罪宮へ歩みを進めるのだ。
■ 五天拡盾(ごてんかくしゅん)
五体の六花によって領域を形成し、その内部を通過する霊圧へ働く「抑制」を拒絶する技。
能力そのものを新しく生み出したり、外部から霊力を与える術ではない。
対象が本来持っている霊力・身体能力・技の出力を、通常なら自壊を防ぐために働く制御より先まで拡大させる。
そのため、自己強化だけでなく、鬼道や孤天斬盾など別の術を通過させて強化することもできる。
■ 盾舜六花の「完成」
戸川古男による織姫の能力評価。
盾舜六花そのものは、後から能力が追加されて成長するタイプではなく、最初から必要な原理をすべて備えた完成済みの能力とされる。
織姫に必要なのは新しい力を獲得することではなく、
何を拒絶できるのか
どの方向から事象を捉えるのか
六花をどう組み合わせるのか
を理解し、運用方法を増やすこと。
したがって新技も「新しい能力の獲得」ではなく、既存能力の新しい解釈に近い。
■ 五天拡盾と孤天斬盾
孤天斬盾は元々、攻撃対象の事象を拒絶して切り分ける技。
五天拡盾を通過させた場合、孤天斬盾そのものの原理は変化しない。
変わるのは、術へ流れ込む霊力に対する出力制限。
そのため外見上は同じ孤天斬盾でも、通常時とは比較にならない規模の拒絶力を持つ。
■ 織姫の再生限界
現在の織姫は、自身の損傷について極めて高い再生能力を持つ。
ただし完全な無敵ではなく、本人の認識・意思・六花を使用できる状態が必要となる。
そのため織姫自身は、
「頭部まで完全に破壊され、能力を発動する主体そのものが失われること」
を自分が最も危険な状態として認識している。
■ 三界へ届く霊圧
五天拡盾によって抑制を外した織姫の霊圧は、尸魂界だけに留まらず、現世・虚圏へまで波及する。
これは攻撃範囲が三界に及ぶという意味ではなく、解放された霊圧そのものが三界規模で感知可能な出力へ達したということ。