我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
仲間とはぐれて瀞霊廷を迷走中。そこへ、一護から意外な案内役が送り込まれる。
コン
現在は白哉製のウサギ人形に入っている改造魂魄。一護の依頼を受け、現世組との合流を目指す。
緋山染華
十一番隊十席。旅禍騒ぎにも可能な限り関わりたくないが、所属する隊が十一番隊なので逃げ切れるとは限らない。
更木剣八
十一番隊隊長。戦闘では頼れるが、目的地へ無事に到着する能力については別の問題がある。
山本元柳斎重國
護廷十三隊総隊長。旅禍侵入と一護処刑を巡る混乱を収めるため、隊首会を招集する。
戸川古男
八番隊五席。本人の認識では、護廷十三隊には十三隊しかないという常識の方に問題があるらしい。
仲間とはぐれた石田に、ようやく案内役が現れる。
屋根から降ってくるウサギのぬいぐるみである。
「やっとめっけたぜ!! 石田!! こっちだこっち!!」
短い手足で着地に失敗したウサギを、石田は片耳でつまみ上げる。
尸魂界でぬいぐるみが喋ることより、耳の長さが揃っておらず、縫い目まで曲がっていることの方が気になる。
「……うさぎのぬいぐるみ……? 尸魂界では今、こんな奇妙なぬいぐるみが流行しているのかい……? しかも……縫製が雑で、美的センスのかけらもないな……」
最初に縫製を批判されるとは、コンも想定していない。
もっとも、この器を作った者への評価としては、全面的に間違っているとも言い切れない。
「うるせぇ!! この器は白哉のヤローがお手製で作ったらしいから、文句はアイツに言え!! とにかく一護に頼まれてよ、お前を懺罪宮へ案内してやるからついて来い!!」
そこで石田は、目の前のぬいぐるみが黒崎家にいた改造魂魄だと理解する。
一護からの使者なら、迷っている自分にとって願ってもない案内役である。
ただし、願ってもない案内役と、直さずにはいられない粗悪な縫製は両立する。
「なんだ……誰かと思ったら黒崎のところにいた改造魂魄か。案内は頼むよ」
コンが得意になって先頭へ立とうとした時、石田の懐から出てきたのは霊子の弓ではない。
針、糸、糸切り鋏を収めた裁縫道具であり、敵地へ入る際にも手芸部員の備えだけは欠かしていなかった。
「僕は滅却師である以前に手芸部員だ!! こういう作りの甘い不細工なぬいぐるみを見ると、どうしても直さずにはいられないんだ!! 走りながらリメイクしてあげるから、君は案内するんだ!!」
その場で縫製改良作業との同時進行に変更される。
石田はコンを抱えたまま走り出し、左右で長さの違う耳を揃え、歪んだ顔面へ容赦なく針を通していく。
「いででででででッッ!! 痛えよバカタレェェッッ!! 縫い直されながら道案内なんてできるかアホォォォッッ!!!!」
道を知っているコンだが、どの道を通るか決めているのは石田である。
ウサギの絶叫が曲がり角を一つ越えるたび、瀞霊廷の警備隊には二人分の現在地が正確に伝わっていくのであった。
◇◇
旅禍の侵入警報が続く中、染華は十一番隊の縁側で煎餅をかじっている。
外へ出れば戦闘に巻き込まれるが、布団のそばにいれば、負傷しても横になるまでの距離が短い。本人はこれを安全対策と考えている。
「ふう〜〜〜……やっぱり物騒な外に出ないで、隊舎の布団のそばにいれば安全安全〜♪」
その安全対策には、隊長が背後から来る場合への備えがない。
剣八に名を呼ばれた染華は、煎餅を喉へ詰まらせかけながら振り向く。
「げっ……! た、隊長…………。どうしたんです…………か?」
剣八は煎餅にも布団にも関心を示さず、ここへ来た用件だけを伝える。
「隊首会だ。旅禍どもが瀞霊廷に入り込んできやがったからな」
隊首会へ出席するのは隊長であり、十席の染華には関係がない。
「それはそれは……大事ですねぇ。早く行かないと総隊長に怒られちゃいますよ〜。いってらっしゃいませ〜」
そのまま剣八に襟首を掴まれる。
染華の身体は縁側から持ち上がり、本人の意思と無関係に隊首会への参加準備が整う。
「お前も来い」
「ええっ!? 何でですかァァッ!? 私ただの十席ですよ!! 隊首会なんて出られるほど偉くなーい!!」
その主張は正しいが、剣八が必要としているのは代理出席者ではない。
副隊長のやちるが見当たらず、剣八一人では一番隊へ到着できないという、席次とは無関係の問題が発生している。
「やちるの奴がどっか行っていねえんだよ。お前が一番隊舎まで案内しろ」
十席の職務に隊長の道案内は含まれていないが、襟首を掴まれた状態では辞令の内容を争えない。遺憾ながら。
「えーーーっ!!! 隊長の方向音痴の道案内の生贄なんて嫌ーーーー!!! 離してーーーッッ!!!!」
抗議は認められず、染華は剣八を一番隊まで運ぶための案内標識として連行される。
剣八が染華を運び、染華が剣八を導くため、役割だけを見れば相互扶助になる…はずだ。
◇◇
染華の犠牲によって剣八は開会に間に合い、用済みになった十席は会議場の外へ逃げていく。隊首会は隊長のみが出席する場であるため、本来なら席官が中へ入る余地はない。
ところが、会議場の扉が閉じる直前になっても、十三人の列には三つの空きが残っている。
山本元柳斎重國が杖を床へ打ちつける前に扉が開き、白哉、東仙、藍染が揃って入ってくる。
「遅いぞ朽木隊長! 東仙隊長!! 藍染隊長まで!!! 隊首会に遅刻するなど何事かッッ!!」
三人が並んで遅刻しても、理由には何の共通点もない。白哉は顔色を失い、壁と床の区別を確かめながら、二日酔いを敵の能力として報告する。
「申し訳…………ございません……。空間が……未だに反転しておりまして……」
懺罪宮で海燕と飲み潰れた事実は、空間系の攻撃を受けたことにはならない。
山本も事情を察しているが、ここで酒量の聴取を始めれば会議がさらに遅れる。
東仙は白哉とは別の意味で、真っ直ぐ立つだけでも苦労している。死覇装から水を滴らせ、頭には用水路で拾った藻まで載せている。
「面目ございません……。目が見えるようになったことで距離感の勝手が狂い、瞬歩の目測を誤って瀞霊廷の用水路へ落下し、危うく遭難しかけておりました……」
視力を取り戻した結果、用水路で遭難する隊長が生まれるとは、治療した古男も予測していない。
東仙が以前より強くなったのかについては、少なくとも通勤能力だけを見れば疑問が残る。
最後の藍染には、体調不良も事故もない。
「……戸川五席からいただいた極秘暗号の解読があまりに楽しく、気がついたら……この時間になっていました」
嘘を疑うべき場面だが、暗号に関しては本当に楽しかったため、藍染の言葉に偽りはない。
「………いくらなんでも、たるみすぎなんじゃないか?」
遅刻した三人はいずれも規律を説く側の役職なので、日番谷の指摘へ反論できる者はいない。
狛村が気にかけるのは、親友である東仙の状態である。
用水路へ落ちる理屈も、全身ずぶ濡れのまま会議へ来る理由も理解できない。
「東仙………なぜそこまで全身ずぶ濡れなのだ……?」
東仙は落下事故を失敗ではなく、視力を得た者に課された試練として考え始めている。
「狛村……世界にはまだ見ぬ景色がありすぎる……。視力を取り戻したことで、私はかえって弱くなったのかもしれん……」
東仙が見た新しい景色の第一候補は、深いドブ川の底である。
そこへマユリが近づくと、友情による心配とは違う方向から、回復した両目へ関心を示す。
「ふむ……それよりも君のその両目が見えるようになった医学的原因をぜひ解明したいネ。今すぐ私の研究室で生きたまま解剖させてくれたまえ」
東仙は返事をしない。正義を重んじる彼にも、生きたまま解剖される義務までは存在しない。
今度は砕蜂が、東仙の治療そのものではなく、治療した人物への敬意を確認する。
古男の話題となれば、隊首会でも妻としての立場を主張せずにはいられない。
「東仙隊長、貴様も我が夫の偉大なる信奉者になったのだな?」
東仙は信奉者という呼び方を訂正しない。
視力と新しい正義を授けた相手への敬意は、すでに先生という呼び名に表れている。
「うむ。戸川先生の授けてくださった教えは実に素晴らしい」
東仙が認めたことで、砕蜂の中では信奉者名簿への登録まで完了する。
本人へ確認することなく、特典として古男の署名もつける気でいる。
「そうか!! 良い心がけだ! 見どころがあるぞ。今度、夫の直筆サインをやろう!」
藍染は三人の会話に加わらない。自分が長年かけて作った東仙の忠誠より、古男が視力を治して与えた教えの方が上へ置かれている現状について、隊首会で議論するつもりはないからだ。
「隊首会って……こんなギャグみたいな場所やったっけ〜?」
市丸の疑問はもっともだが、誰も答えられない。
隊首会をここまで変えた原因が一人ではなく、議題を始める前から複数の方向へ増えているからである。
卯ノ花は混乱を収める代わりに、古男を巡る新しい問題を砕蜂へ持ち込む。内容は治療でも隊務でもなく、最近滞っている指圧の予約である。
「砕蜂隊長。古男さんの『マッサージ』、最近私への施術が滞りがちですよ。今夜、隊舎へ来るように言っておいてくださいね」
古男の施術予定を決める権限が妻にあるのかは不明だが、砕蜂に他隊の女からの予約を受けつける意思はない。
「誰が好んで、我が愛する夫を他の女の体に触らせに行かせるものか……!」
妻としては当然の拒否であっても、相手が卯ノ花なら安全な回答とは限らない。
卯ノ花は声量を変えず、砕蜂の寿命について忠告する。
「……『独占欲』が強すぎる女は、長生きできませんよ?」
春水は笠の位置を直し、会議の中心にいない古男が話題の中心だけは占拠している状況を楽しんでいる。
「やれやれ、戸川先輩は隊首会でもモテモテだねえ」
浮竹も止める側には回らない。羨ましいという一点だけで、春水の感想に賛成する。
「そうだな……本当に羨ましい限りだ……」
「ええいッッ!! 静まれィィィッッ!!!!」
怒声が会議場を揺らした時、山本の背後には古男が立っている。隊首会へ入る権限を問われるより先に、古男は総隊長の健康を気遣う。
「――クックック………。そう怒るな、元柳斎。あまり血圧を上げると、死期を早めるぞ」
背後を取られたことより、会議場へ当然の顔で入っていることの方が問題である。
「半分はお主の話題のようじゃがのう……!? ここは各隊の隊長のみが集う『隊首会』じゃぞ? 五席のお主は下がっておれ!」
古男は退室せず、山本の禿頭を一定の間隔で叩きながら肩を組む。
総隊長の頭部を打楽器として扱えるという権限は、護廷十三隊の席次表には記載されていない。
「まあまあ、俺たちの仲じゃないか。それに俺は、この瀞霊廷における『十四番隊隊長』だ。ここに同席する権利は当然あると思うが?」
古男の主張を認めれば、出席者は十四人になり、護廷十三隊という組織名から修正が必要になる。山本には確認するまでもない。
「そのような隊は存在せんわッッ!!」
十四番隊長を名乗る以上、隊舎、隊員、職務のどれか一つくらいは必要である。
古男が持っているのは自称とマントだけである。
「クックック……表向きの歴史では、そう言うしかあるまいな」
山本は護廷十三隊の表向きの歴史も、古男と共有する裏側の歴史も知っている。そのどちらにも十四番隊は存在しない。
「裏でも表でも、どこでも言うわ!! たわけ者がッッ!!」
「クックック……照れるな」
隊長たちが抱く疑問は同じである。
なぜ中央にいる不審者が総隊長の頭を叩き、止めないのか。
答えは単純で、止める役目を負う総隊長自身が止められていないからである。
山本は古男の腕を振り払い、強引に本題へ戻る。これ以上脱線すれば、旅禍への対応を話し合う前に日が暮れる。
「……本題じゃ。中央四十六室より下された『黒崎一護の処刑』に関する、お主たちの不穏な行動について説明してもらおう」
最初に進み出るのは白哉である。足元は二日酔いで定まらなくても、朽木家当主としての言葉は揺らがない。
「黒崎一護は、我が朽木家の義弟となる男。我が誇りと護廷十三隊の規則、どちらが重いかという話です。貴族の掟とは我が誇りそのもの。――血族を守るのは、当主たる私の義務であります」
護廷十三隊の規則に対し、朽木家当主としての掟を持ち出している。
山本が次の者へ視線を移すと、東仙も迷わず処刑への反対を表明する。
「同じく。理不尽な死刑を看過することはできん。正義は貫かれなければならない」
東仙の正義が藍染ではなく古男の教えへ寄っていることに、藍染は気づいている。
今は黙って聞くしかない。
「そもそも中央四十六室の様子が明らかにおかしいではないか。奴らはもう一週間以上、誰一人として禁足区域の地下から出てこんのだぞ! それに……一護は現世における私の可愛い生徒でもある。不当に殺されるなど絶対に納得がいかん」
砕蜂は処刑の是非より先に、命令を出した側の異常を指摘する。
「古男さんは、この事態をいかがお考えですか?」
古男が正式な出席者として扱われたため、マユリが黙っていられなくなる。五席の意見を求める前に、十三人の隊長へ発言機会を与えるべきである。
「卯ノ花隊長!! ここにいるはずのない部外者に、当然のように話題を振らんでもらえるかね!?」
抗議された古男は、自分が部外者かどうかを検討しない。
十四番隊長を自称した以上、本人の中ではすでに隊首会の一員である。
「そうさな。俺の考えとしては……護廷十三隊の全隊長が結束し、中央四十六室へ武力行使を辞さない構えで処刑の不当性を叩きつけるべきだと思うが?」
事態の解決は早いかもしれないが、それを護廷十三隊の総意にすれば、組織全体が反乱軍になる。
「やめんか大馬鹿者ッッ!! 我らは四十六室の法を執行する実動部隊であって、司法の決定を覆す権限など一切ないのだぞッッ!!!!」
■ 隊首会
護廷十三隊の全隊長が召集される最高位の会議。
原則として出席者は総隊長を含む十三名の隊長であり、副隊長以下の席官が正式な構成員として参加するものではない。
したがって、五席が勝手に自分を十四番隊隊長と定義して席を増やすことはできない。
■ 十四番隊
戸川古男が自称している所属・役職。
護廷十三隊の正式な編制にも、過去の編制にも存在しない。
古男は長い尸魂界の歴史そのものを知る人物なので、「失われた古い隊を知っている」という意味でもなく、本当に本人が勝手に言っているだけである。
■ 東仙の視覚と歩法
長期間、視覚を用いずに戦闘・瞬歩を行ってきた東仙は、空間把握を霊圧感知や聴覚などへ大きく依存している。
視力そのものが回復しても、それまで構築してきた身体感覚へ視覚情報が突然加わるため、一時的に距離感や速度感覚へズレが生じることがある。
戦闘能力が失われたわけではなく、現在は新しい感覚へ身体を適応させている段階。
■ 中央四十六室の禁足区域
中央四十六室が審議を行う地下施設は、通常から一般隊士が自由に立ち入れる場所ではない。
ただし、長期間にわたり構成員が誰一人として外へ姿を見せず、命令だけが一方的に発せられ続ける状態は明らかに異常。
砕蜂と隠密機動が現在調査を進めている重要事項の一つ。
■ 護廷十三隊と中央四十六室
護廷十三隊は尸魂界の軍事・治安維持を担う実働組織であり、中央四十六室の司法判断を独自判断で覆す権限は持たない。
そのため、仮に隊長全員が判決を不当と考えていても、
「護廷十三隊の武力で中央四十六室へ判決撤回を要求する」
となれば、制度上は単なる抗議ではなく軍事的反乱に近い行為となる。
一護救出派が抱えている最大の問題は、この点にある。