我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
十一番隊十席。剣八の道案内を終えたものの、一番隊舎から帰れず待機中。
緋山雷太
五番隊三席。染華の息子。母親の長すぎる縁談には、かなり思うところがある。
白鷹光四郎
染華へ百五十年想いを寄せ続ける席官。まだ諦めてはいない。
狭山薫子
雷太と幼い頃から親しい女性死神。本人の中では将来設計がかなり具体的。
山本元柳斎重國旅禍侵入を受け、隊首会を招集した総隊長。
涅マユリ
十二番隊隊長。未知の能力を持つ旅禍へ、戦闘とは少々異なる興味を抱いている。
戸川古男
八番隊五席。現世から侵入した旅禍たちの教師でもある。
剣八を会議場まで届けた染華は、席官用の控え所で膝を抱えている。
案内役の仕事は終わっても、隊首会が終わるまで待機するよう命じられたため、十一番隊の布団へは戻れない。
「なんで私がこんな物騒な場所に……シクシク…………」
隊長たちが壁一枚隔てた場所に集まっている以上、染華にとっては旅禍の侵入区域より危険である。
そこへ仕事で来ていた雷太が立ち止まり、廊下の隅で丸くなる母親を見下ろす。
「泣くなよ母さん。みっともねえ」
聞き慣れた声に、染華はようやく顔を上げる。
「えっ!? なんであんたがここにいるのよー!?」
息子まで隊首会に呼ばれたのかと疑う染華へ、雷太は五番隊から渡された書類の束を見せる。
「藍染隊長の付き添いと、雛森副隊長の事務手伝い。……まあ、そんなとこだ」
雷太は席官として来ているため、少なくとも染華よりは待機する理由がある。
その二人を見つけて廊下へ駆け込んでくる光四郎にも、六番隊側の事情がある。
「せ…………染華さん!! さっきぶりですね……!!」
先ほど甘味処で求婚に失敗したばかりなのに、光四郎の態度は百一回目へ向かう男のものだ。染華は再会を喜んでいるが、求婚されたことは依然として冗談に分類している。
「光四郎か。お前も呼び出し食らったのか?」
雷太が尋ねると、光四郎は染華へ向けていた姿勢を正し、席官として事情を説明する。
「雷太か、久しいな。ああ……阿散井副隊長がさっきから挙動不審で使い物にならんのでな。俺が補佐として同行してきたんだ」
隊長たちが会議をしている間、控え所にいる三人には当面の仕事がない。
雷太はこの時間を、百五十年も進まない母親の縁談へ使うことにした。
「……おい光四郎。いい加減に母さんを落とせよ。いつまでもヘタレてないで、ヤキモキする実の息子の気持ちにもなれってんだ。あんな天然、力づくで押し倒して既成事実の行為に及ぶくらい強引にいかねえと、一生気づかねえぞ」
助言としては、息子の口から出してよい範囲を越えている。だが雷太にとっては、何度求婚されても流す染華の鈍感さの方が深刻である。
「しかしだな……染華さんには言葉の告白が一切通用せん。それは俺も百五十年かけて理解した。だが、もし本当に結婚できたら……お前が俺の『息子』になるんだよな……?」
光四郎の懸念は求婚の方法ではなく、成功したあとの家族関係へ移っている。
雷太は自分が父親と呼ぶ場面については考えていなかった。
――確かに……急にコイツに父親面されるのはクソ腹立つな……。
母親の再婚を百五十年待ち続けた息子は、継父候補が決まった途端に反対派へ回りかける。縁談が進まない原因は染華だけではなくなった。
「………ら………ら………雷太くん……」
背後から名前を呼ばれた雷太は腰の刀へ手をかけ、声の主から距離を取る。
すると前髪で両目を隠した女が立っており、照明の暗い控え所では死神よりも死神らしく見える。
「うおっっ!? 急に背後から話しかけんな!! 本物の死神が出たかと思っただろ!!」
ここは死神の本拠地なので、本物が出ること自体は何もおかしくない。
彼女の名は狭山薫子。肩を揺らし、雷太の勘違いだけを訂正する。
「え……へへ………へへへへへへ……………死神だよ」
訂正する必要のない事実を返され、雷太の声量だけが増す。
「知ってるわ!!」
雷太の返答を受けても、薫子は近づくのを諦めない。両手で持ってきた盆には湯呑みが載っており、声をかけた目的は奇襲ではなく茶の配布である。
「あの……………お…………お……………お茶……茶々…………どうぞ……」
「あ! 薫子ちゃんやっほー!」
薫子は染華の前まで進み、盆の上で最も上等な湯呑みを差し出す。
雷太の分より格上なのは、嫁入り前から家族内の序列を理解しているためである。
「お…………お義母さん……………こち………ら………は、極上の……玉露です……」
まだ婚約も成立していない段階で義母と呼ぶことに、薫子は何の迷いもない。
染華も訂正するどころか、渡された湯呑みを受け取って縁談を確定事項として扱う。
「ありがとーー! ふふふ、やっぱり将来のウチのお嫁さんは気が利くわねえ〜」
嫁入り先の母親から許可が出る。雷太本人の承諾は、婚姻手続きから省かれている。
「ひ……ひひ……ひひひひひひひひひッッ!!!」
喜び方だけを聞けば、嫁入りより呪いの儀式が始まったと考える方が自然である。
雷太は薫子の好意ではなく、その表現方法に改善を求める。
「おい薫子。普段からそういうホラー映画みたいな笑い方してると、マジで一生嫁の貰い手がねーぞ?」
その忠告は、雷太以外へ嫁ぐことを想定していない薫子には効果がない。
むしろ、貰い手を一人へ限定する理由を伝える機会になっている。
「ひひ………ひ………い………いい…………の。…………雷太くん………が………ひひひ…………貰って…………くれ………れば……。えへ……へへへ……」
求婚として必要な内容は揃っている、だが声だけで怪談へ変わっている。
雷太は何度も伝えている好みを繰り返し、薫子の長い前髪を片手で持ち上げる。
「全く………俺は何度も言ってるだろ! 『年上の豊満な巨乳美女』が好きなんだっての! お前もほら!」
隠れていた顔へ廊下の光が当たり、薫子は両手で顔を覆う。
前髪を上げられたことより、雷太が自分の顔を正面から見ている事実に耐えられない。
「ひっ!! 眩しい!! 光属性のイケメンオーラで溶けるぅぅぅッ!!」
薫子が顔を隠す理由にも、自分が光属性に分類された経緯にも関心がない。
「前髪上げて顔を出せば普通に可愛いんだから、普段からそうしてろよ。俺と本気で結婚したいなら、そういう女としての努力が必要だぞ?」
拒絶で終わらず、容姿を褒めたうえで結婚へ向けた努力まで求めている。
結局のところ薫子が平静に受け止められる量を越えている。
「ベタ!!! 少女漫画の王道ベタ展開!!! ………でも死ぬほど好きィィィッッ!!!!」
薫子は床へ倒れて満足している。雷太は告白を断ったつもりでいるが、薫子が受け取ったのは結婚するための具体的な課題である。
拒絶と婚約指導では意味が違うものの、説明した本人は気づいていない。
縁談が二つ並んだところで、雷太は控え所に集められた顔ぶれを確かめる。
染華、光四郎、そして薫子まで、いずれも自分と関わりの深い席官である。
一方、各隊の副隊長は別室へ集められており、この部屋割りが偶然とは思えない。
――俺や母さん、光四郎に薫子……何の意図だ?
「光四郎、今回の死神代行の件、お前はどう思う? 六番隊の案件だろう?」
朽木家に仕える者として、一護とルキアの扱いを他人事にはできない。
「若旦那様のことか……。正直、俺のような一席官が口を挟むことではないとは思うが、あまりに不自然だとは思っているさ。若奥様の沈痛な顔は、見ていられなかったしな」
若奥様が誰を指すかは明白だが、染華には光四郎の中でどこまで婚姻手続きが進んでいるのか分からない。
「それって、朽木家の養女のルキアちゃんのこと?」
染華に確認されただけで、光四郎の返事が裏返る。
百五十年求婚している相手から話しかけられるたび、通常の会話にも準備が必要であるらしい。
「は………はひッ……! ……ええ。それに、先ほど侵入した旅禍たちの霊圧にも覚えがあります。おそらく、若旦那様の『側室』と『家臣』たちですね」
一護本人が聞けば全力で否定する分類だが、朽木家側ではすでに若旦那、若奥様、側室、家臣まで配役が終わっている。
法的な問題に敏感な薫子は、現世の婚姻制度へ話を移す。
「へ…へへ………現世の人間なのに、………側室がいるの?? ………それって……犯罪……? 重婚罪……? 許せない……」
薫子が問題視しているのは処刑ではなく重婚である。
罪状が事実なら、一護は尸魂界で処刑される前に現世で説明を求められることになる。
「でも現実的に考えて、隊長たちのほとんど全員が今回の処刑には反対なんだろう?」
態度を明らかにしていない者まで含めても、処刑へ積極的に賛成する隊長はほとんど残っていない。
「そうだな。隊首会で明確に反対を表明していないのは、市丸隊長、更木隊長、涅隊長くらいのものだ」
反対派が多数なら処刑は止まりそうなものだが、隊長たちに判決を覆す権限はない。
控え所に集められた席官たちも、会議場の結論を待つしかないのだ。
◇◇
伝令の死神が駆け込み、十一番隊から届いた報告を読み上げる。
「報告ッッ!! 十一番隊三席・斑目一角様、旅禍の少女により撃破されましたッッ!!!!」
旅禍が隊士を倒したという報告なら、すでに何件も届いている。
しかし一角は十一番隊三席であり、その一角を正面から破ったとなれば、剣八にとって話は別である。
「何だとォォッッ!!!!」
会議の内容より優先すべき相手を見つけた剣八は、そのまま障子を蹴破って外へ出る。
より強い敵がいる場所への出撃であるため、本人に許可を求める発想はない。
「待て剣八!! 勝手な単独行動は――!!」
藍染の制止は、障子の外まで届かない。もともと方向音痴の剣八が一角のいる場所へ到着できるかという問題もあるが、染華は控え所にいるため、今度は案内役もいない。
山本は剣八だけを追い戻すより、旅禍への対応を全隊へ命じる。
侵入者の目的が一護の奪還なら、懺罪宮へ近づく前に捕らえなければならない。
「……旅禍の目的は、罪人・黒崎一護の奪還である可能性が極めて高い。各隊、直ちに急行し旅禍を捕縛せよ!」
「捕縛……ねえ。総隊長、もしも相手に激しく抵抗された場合は……どう処置しても構いませんかネ?」
マユリが何を期待しているのか、山本にも分かっている。それでも戦闘の規模も敵の能力も不明である以上、現場の隊長から判断を奪うわけにはいかない。
「……その場合は、現場の判断に任せる」
許可されたのは抵抗への対処であり、人体実験ではない。マユリは両者の境界を自分に都合よく解釈し、研究室へ持ち帰る実験体の選定を始める。
「くくく……現場の判断、素晴らしい響きだネ。ふむ……では、極上の実験体を採取しに行こうかネ」
会議を笑いで壊していた古男から、その調子が消える。
「――涅。戦うのは構わん。だが……我が教え子たちに、余計な解剖や実験を施すことだけは絶対に許さんぞ」
マユリは足を止める。古男の警告を冗談として流せないことは、その声を聞けば分かる。普段の言動が意味不明である分、まともな警告を発した時の方が不気味である。
「………………フン。普段は電波を垂れ流しているくせに、そういう時だけ妙にまともな釘を刺す貴様は、心底気味が悪いヨ」
■ 席官控え所
隊首会へ随行した副隊長以下の隊士などが待機するための場所。
隊首会そのものへの出席資格とは別で、隊長の補佐や伝令などの事情によって一番隊舎へ同行した席官が待機することがある。
■ 光四郎と雷太
光四郎が染華と結婚した場合、雷太にとって光四郎は継父となる。
両者はすでに長い付き合いがあるため、単純に「父と息子」という関係へ移行できるかは別問題。
染華本人より先に、周囲が再婚後の人間関係を考え始めている。
■ 狭山薫子
雷太とは幼少期から縁の深い女性死神。
染華からも非常に気に入られており、本人同士の婚約より先に、染華の中では「将来の嫁」として扱われている。
■ 旅禍への「現場判断」
山本が認めたのは、抵抗する旅禍を制圧する際の戦闘上の裁量。
捕縛後の研究・人体実験まで十二番隊へ一任したわけではない。
涅マユリと古男では、この言葉から想定する範囲が大きく異なる。