我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
一護を救うため、単独で懺罪宮を目指す。卍解習得の修行を終え、以前とは比べものにならない力を身につけている。
狭山薫子
一番隊の四席。雷太とは幼少期から縁が深く、ルキアとは真央霊術院時代から何度も刀を交えてきた間柄。
緋山染華
十一番隊十席。戦時特例の帯刀命令を受けても、斬魄刀「血狼」を持ち歩くこと自体に強い抵抗がある。
白鷹光四郎
染華と同じく、自身を傷つける性質を持つ斬魄刀の使い手。
緋山雷太
五番隊三席。隊首会の裏で動き始めた各隊の情勢を見ながら、雛森のもとへ向かう。
乱戦で仲間と夜一を見失ったルキアは、懺罪宮へ続く大階段を一人で駆け上がる。
「全く………皆はぐれてしまって……! 瀞霊廷の構造や懺罪宮の場所が正確に分かるのは、私だけなのだぞ………!」
走るうち、出発前に織姫から持ち出された正妻と側室の勝負まで、頼んでもいないのに頭へ戻ってくる。
――ここで私が一護を最初に助け出せば、名実ともに……。
頭を振っても、駆け上がる速度はさらに増す。
――いや、待て! 私は何を張り合っておるのだ!? もともと私が正妻なのだから、勝負そのものが成立しておらぬ! 今は一護の救出を考えろ!!
一護の救出を考えようとするたび、正妻の主張が増えていく。
踊り場の手前で速度を落とす。手すりには、長い前髪で両目を隠した小柄な死神が腰を下ろしている。待ち伏せより呪いの準備に見える。
「ひ……ひひひ……。朽木………ルキア……」
腰の柄へ手を置き、石段を隔てた相手の名を返す。
「狭山四席…………!」
相手は、霊術院にいた頃から何度も刀を合わせ、そのすべてで敗れている狭山薫子である。
◇◇
一番隊の席官控え所では、旅禍捕縛命令と同時に、戦時特例による全隊帯刀命令も届いている。雷太は腰に差した漂泊の柄を指で弾き、命令書を読み終えたところで母親を見る。
血狼を受け取るなり、染華は両腕で抱え込んで首を振る。
「やだやだやだーーッ!! 私は絶対に嫌よ!! 斬魄刀を持ち運ぶなんて……! この子は常に血に飢えているのよ!? 抜いたら私の血を吸って暴れるの!!」
血狼は解放すれば持ち主の身体を刃で刻み、その血を使って戦う。命令は帯刀であって解放ではないが、本人は鞘ごと拒んでいる。
「染華さん………実は私の斬魄刀も………己の血肉を削る自傷型なので………お揃い……ですね」
百五十年かけても好意へ気づいてもらえない光四郎は、自傷型の斬魄刀まで縁談の共通点に使う。
「ねえ光四郎さん……。炎で全身を焼かれるのと、刃で手足を切り刻まれるの、どっちが痛いと思う??」
染華の興味は共通点ではなく、どちらの自傷が痛いかへ移る。光四郎の見つけた縁談の糸口は、もう傷口の話になっている。
「え………? いや、その……どちらも避けられるなら、避けるべきではないかと……」
二人の比較に付き合わず、雷太は雛森のいる五番隊へ向かうために命令書を畳む。
「とにかく俺は、雛森副隊長のところへ行く。藍染隊長直々の命令なんでね。ここにいる奴らは全員上位席官だ。……まあ、お袋は十席だけどな。何が起きるか分からねえから、気をつけろよ」
席次の低さまで付け足され、染華は頬を膨らませるが、帯刀命令へ従うとは答えない。
控え所の隅から雷太へ注がれる視線は、長い前髪で隠しても粘ついている。膝を抱えた口から、誰にも求められていない自身の攻略条件が漏れる。
「えへ……私に………か……て……勝てるのは…………眩しい陽キャだけ……ケケケケケ……」
対戦相手の社交性まで勝敗条件へ加える四席は、攻略法まで本人申告なので信用できない。
◇◇
懺罪宮へ続く階段で、二人は向かい合う。
「そこを通してはくれぬか、狭山四席。私は……囚われている私の『夫』を助けに来たのだ」
織姫へ対抗する必要はないと言い聞かせたはずが、一護は許嫁から夫へ格上げされている。
「まだ…………結婚して………ない…………よね?」
夫と言い切った直後なので反論が詰まり、柄を握る手に力が入る。
「むう…………! と、とにかく許嫁ではある! 貴様に関係のない話だ!」
手すりを降り、石段二段分まで近づいてくる。柄にかけた指を隠そうともしない。抜けと挑発されているのが分かる。
「刀…………抜くつもり…………? ルキア……アンタ……昔から、私………に……かっ……た……こと…………な……い……よね?」
「霊術院時代の話だ……!! 今の私なら勝てる!! 貴様が私を阻む正当な理由などないはずだ!! そこを退けッッ!!」
「…………………熱血主人公キャラ? キモい」
石段二段分の間合いをひと息に潰され、刀を正面から受ける。腕へ返る重さは、霊術院で敗れ続けた頃と変わらない。それでも、その記憶に従って退く気はない。
「このおおおおッッ!!」
押し込んだ刃から手応えが消え、身体が前へ流れる。空いた脇へ切っ先を入れられながら、皮膚へ触れる直前で止められた。斬らなかった余裕を見せつけられ、痛みもないのに腹が立つ。
横薙ぎに返しても、身を沈められて頭上へ通る。足首を払う鞘は石段を蹴ってかわし、着地と同時に斬り下ろすが、また刀の外へ流される。
「ひひひひひひひひひ!!! 愛の試練かな? かな? かな? かな? かな? ひひひひひひ!!! 私を倒して、その先にいる副隊長も、各隊の隊長たちも、全部一人で倒す気なの???」
笑い声に紛れて、刃が首、手首、腿へ続けて走る。攻め返したくても、受けと回避で手が塞がる。二段下へ追い落とされ、袖まで裂かれても、刀は下ろさない。
「ふざけおって……!! ああ!! 必要なら護廷十三隊の全員を薙ぎ倒してでも、一護を救い出してみせるわッッ!!!!」
言葉に追いつくため、足へ霊力を集めて間合いを潰す。手すりへ逃げた姿を支柱を蹴って追い、横薙ぎの刃で死覇装の裾を裂いた。しかし手応えは布一枚分しかなく、頭上を越えた気配が背後へ落ちる。
「キャハハハ!!! 妄想!! 妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想妄想ッッ!!!! だってアンタ……昔から私より弱いもの……!!」
「――『破道の五十八・闐嵐(てんらん)』ッッ!!」
振り返るより早く、掌の先へ風が集まる。詠唱を捨てた闐嵐なら円閘扇で受けられると読み、両手を重ねた。
予想した術でも、威力までは読み切れていない。巻き上がった石段の破片が黄金の盾へ打ちつけられ、風圧が両腕を痺れさせる。
「くうっ!! ――『縛道の三十九・円閘扇(えんこうせん)』ッ!!」
亀裂が中心まで走り、円閘扇が砕ける。風に押されて懺罪宮から遠ざかることが、傷を負うよりも腹立たしい。刀を石段へ突き立てて後退を止め、風が頭上へ抜けると同時に階段を駆け上がる。
下から振り上げた刃は、手すりの上を跳ぶ影へ届かない。追いついたはずなのに、また上から見下ろされる。
「そんな低位の縛道で!! 私の術式を止められるわけないでしょォォッ!!」
追撃の両手がこちらを捉える。無詠唱だった闐嵐と違い、今度は言葉が途切れない。
「――『血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ。蒼火の壁に双蓮を刻む。大火の淵を遠天にて待つ』」
「しまっ……高位破道の完全詠唱……!?」
完全詠唱の双蓮蒼火墜を円閘扇で止めるのは無理なら、身につけた力を正面からぶつけるしかない。
「――『破道の七十三・双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』ッッッ!!!!」
階段を埋める蒼炎へ刀を水平に構え、柄から刀身へ霊圧を通す。修行の成果を試す相手が、同じ死神の完全詠唱になるとは考えていなかった。
「くっ………!!! ――舞え、『袖白雪(そでのしらゆき)』ッッ!!」
冷気が石段を白く染め、蒼炎との間へ氷壁を築く。押される壁へ霊圧を注ぎ、溶ける端から凍らせると、炎と氷の境目が白煙に覆われていく。
七十三番の破道を止められると確かめた直後、刀を打ちつけられた衝撃が手首まで響く。
気配を捉えた時には、すでに白煙の内側まで踏み込まれている。
「よくできました……! でも、本番はここからだよ」
「――螺子を巻け、螺子を巻け――『彎曲丸(わんきょくまる)』ッッ!!」
離れた時には、向けられた刀が螺旋の溝を持つ凶器へ変わっている。
刺突を氷壁で受けたはずが、手応えがない。切っ先の触れた箇所から氷が螺旋状に巻き取られ、中心へ穴が穿たれていく。残った氷まで亀裂に沿って崩れ、目の前から守りが消えた。
穴を通ってきた彎曲丸の切っ先が左肩へ迫る。首を狙われていると判断して逸らした動きを、最初から読まれていた。
「――まずは、左肩ッッ!!!!」
切っ先が肩へ入り、肉と霊子を螺旋の溝へ巻き込む。刀を引かれると同時に肩を抉られ、身体まで回転へ引かれた。天地の向きも分からないまま石段へ叩きつけられ、階段の下へ転がっていく。
「ぐああああああっっ!!??」
刃が抜けても、肩の内側を捩じられる痛みが残る。左腕の感覚はなく、袖白雪を握る指にも力が入らない。
途切れかける意識へ、石段を下りてくる足音と笑い声が届く。
「ひひ……ひひひひ………ひひ! ……死んだ……?? 呆気ないねぇ……」
霊術院時代なら、ここで勝負は終わっている。
だが、敗北よりも、一護のもとへ着けないことの方が耐えられなかった。ここで倒れるために仲間と尸魂界へ来たのではない。
それでも、右手を石段につき、片膝を立てる。痛みに震える指で袖白雪を握り直すと、薫子へ切っ先を向けた。
「………………今の攻撃が………貴様の本気か?」
階段を下りる足音が途絶える。前髪の奥から向けられる気配に、先ほどまでの嘲りはない。
左肩と引き換えに、彎曲丸が氷を巻き取る範囲と、刺突へ入る間合いは分かった。白霞罰を得る前とは違い、返す手もある。
「……今なら、貴様に勝てそうだ。……生まれて初めてな」
彎曲丸の螺旋へ、抉り取った血が筋を引く。
「……………………殺す」
向けられた彎曲丸へ袖白雪を返し、再び石段を蹴る。
■ 彎曲丸(わんきょくまる)
狭山薫子の斬魄刀。
解号は、
「螺子を巻け、螺子を巻け」
始解後は刀身へ螺旋状の溝が生じ、接触した対象を単純に刺し貫くのではなく、周囲の物質や霊子を巻き込みながら抉り取る。
硬い防壁に対しても一点から巻き取って穿孔できるため、面で受け止める防御とは相性が良い。
■ 薫子の鬼道
薫子は斬術だけでなく鬼道にも高い技量を持つ。
低位術を無詠唱で即応的に使いながら、高位術では完全詠唱によって威力を引き上げるため、
斬術
鬼道
始解
を切り替えながら相手の防御手段を削っていく戦い方を得意としている。
■ ルキアと薫子
二人は真央霊術院時代から何度も模擬戦を行っている。
当時の勝敗は薫子側へ大きく偏っており、ルキアにとって薫子は「昔から知っている相手」であると同時に、明確な敗北経験を刻まれた相手でもある。
今回の戦いは、現在のルキアが過去の自分をどれだけ越えたかを測る戦いでもある。
■ 血狼と天蝋
血狼と天蝋はいずれも、使用者自身へ負荷を要求する性質を持つ斬魄刀。
ただし負傷の方式も、そこから得られる能力もまったく異なる。
染華と光四郎が「お揃い」と言えるのは自傷性という大分類だけであり、実際の運用思想は別物。