我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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朽木ルキア
一護の待つ懺罪宮を目前に、薫子との戦いを続ける。満身創痍でも退く気はない。

狭山薫子
ルキアとは真央霊術院以来の腐れ縁。昔から気に入らない相手だからこそ、その変化にも誰より敏感。

阿散井恋次
この場にはいないものの、薫子にとってはルキアとの長い関係を語るうえで無視できない同期。

石田雨竜
コンと合流し、懺罪宮へ向かっている最中。

コン
一護から送り出された案内役。石田とともにルキアの後を追う。


勝ったのは私だ

――そんな女だから、今も気に入らない。

 

彎曲丸は右胸を貫いている。それでもルキアは折れた袖白雪を離さず、こちらを睨んでいる。

学生時代から負けず嫌いではあったが、ここまで往生際の悪い女ではなかったはずだ。

 

全部、あの男のためか。

 

それにしても、阿散井はどうしたんだよ!!

 

霊術院にいた頃から、あいつのベタ惚れは見ている方が恥ずかしくなるほど分かりやすかった。

ルキアが笑えば自分まで笑い、他の男と話せば露骨に不機嫌になり、朽木家へ入った後は追いつくために六番隊の副隊長まで上り詰めた。

それほど命がけで惚れておきながら、肝心な一言を未だに伝えていない。

 

当のルキアも、散々鈍感な真似をして全部無視した挙げ句、今度は現世から来た男へ恋する乙女の顔を向けている。

 

実に気に入らない。私には何の関係もないのに、腹が立って仕方ない。

 

ここで私がルキアを殺したら、恋次は何十年も引きずるのだろう。

周囲には大切な同期を失ったとしか言えず、最後まで惚れていたとは認めないに違いない。

 

そんな姿を想像すると、生きているうちに言えと怒鳴りたくなる。なぜ私が、敵の恋路にまで苛立たなければならないんだ。

 

彎曲丸の柄を握ったまま、その苛立ちを傷口へ押し込む。

 

「……阿散井副隊長も可哀想だねぇ。命がけで惚れた女が、別の男に抱かれそうになってる上に……そのせいでこんな場所で死ぬなんてね」

 

「随分と………饒舌ではないか、狭山四席。……羨ましいのか? 一護は……本当に真っ直ぐで、いい男だからな」

 

羨ましいわけがない。

 

その男なら、懺罪宮へ運び込まれた日に遠くから見た。

性格が陽キャかどうかを確かめる前に、橙色のツンツン頭が視界へ突き刺さった。

髪の毛そのものが発光しているようで、見ていると精神が溶けそうになったため、すぐに引き返した。

 

あんな視覚的陽キャを毎日眺めて暮らすなど、私には無理だ。ルキアの夫としては似合っている。夫婦揃って眩しく光り、私の視界へ入らない場所で暮らしてほしい。

 

だが、その願いを叶えるために道を譲るつもりはない。

 

「…………ひひ。どこが……羨ましいの。あんな…………頭の先まで、光属性の男」

 

胸に刃を刺されたまま、袖白雪を引き寄せている。周囲の温度が下がり、彎曲丸へ付いた血まで凍り始めた。

 

「……仕方あるまい。……ここで死んでも…………私を恨むなよ」

 

昔は私に一度も勝てなかった女が、よくもそこまで言えたものだ。

 

「あ?………………この期に及んで……私を…………殺………す気……?」

 

袖白雪を持つ右手へ霊圧が集まる。始解とは比べものにならない密度に気づいた時には、こちらの刃まで霜で固められている。

 

「――卍解、『白霞罰(はっかのとがめ)』ッッッ!!!!」

 

色が消えた。

 

石段も壁も空気も白銀へ染まり、肺へ入るはずの息まで凍りつく。痛みを感じるより早く皮膚が硬くなり、指が曲がらなくなった。

 

吹雪ではなく、風もないのに身体から熱を奪われていく。

瞬きをすれば瞼が貼りつき、奥歯を噛めばそのまま割れそうだった。彎曲丸の柄を握る感覚も消え、指が残っているのかさえ確かめられない。

 

卍解を習得しているなど、情報網に入っていない。

現世へ行っている間に何があった。このクソ女、いつまで私の知らないところで勝手に成長する気だ。

 

流れ出す冷気は、私を凍らせても止まらない。このままでは全身が固まり、そのまま砕かれる。

 

前髪にも霜が張り、肝心の視界を塞ぎ始めた。両手で左右へ掻き上げ、普段は隠している目と額を晒す。

 

「し……か………た………ない……よね……。――見えなければ、殺せないんだから」

 

勘違いしてもらっては困るが、私の卍解は何もしなくても空間を曲げてくれる便利な力ではない。

まず私が見て、視線の先へ生来の小さな歪みを与え、彎曲丸で螺旋へ変える。

 

私自身が作った捻れを極限まで増幅するのだ。だから見えなければ何も始まらない。

凍りつきかけた目を無理やり開き、押し寄せる冷気を捉えた。

 

「――卍解、『歪曲無限彎獄螺旋(わいきょくむげんわんごくらせん)』ッッッ!!!!」

 

彎曲丸の螺旋が際限なく連なり、ルキアから真っ直ぐ広がる冷気を横へ捻じ曲げる。

細かな渦へ巻き込んで私の身体から外してしまえば、冷気も勝手に通り過ぎていく。

 

もちろん、卍解を解放する前に凍った分までは元に戻らない。

皮膚へ自分の霊圧と破道の熱を流し込み、内側から焼いて溶かす。

肉の焦げる臭いには慣れていないが、凍って砕けるよりはましである。

 

「ひひ……どうしたの!? 私は霊圧を放出して、凍る端から溶かしちゃうよ!!」

 

「くっ…………おのれ……何という捻れの力だ……!」

 

耐え続けているうちに、ルキアの身体にも異変が見え始める。

頬から首へ細い亀裂が走り、負傷した左肩では凍った皮膚が剥がれている。

 

よく見れば、周囲より先に使い手の身体を凍らせている。

敵を絶対零度へ引きずり込むため、自分まで同じ場所へ降りる大馬鹿の卍解だ。

万全でも危ういのに、あれほど傷を負った肉体で長く保つはずがない。

 

「ひひひ…………見えた!! アンタのその卍解、身体に細かなヒビが入ってる!! 随分と繊細で危うい卍解なんだねえ!!!! ――捻れろォォッッ!!!!」

 

亀裂の入った左腕へ焦点を合わせる。生来の捻れへ歪曲無限彎獄螺旋の力を重ねると、肩から指先までが螺旋に巻かれる。

 

骨が折れ、関節が外れても捻れは止まらず、白霞罰の冷気まで傷口から体内へ押し返す。

 

「ぐううううううううっッッ!!!!」

 

左腕はもう使えず、肋骨の内側でも凍った肉が砕ける音が続いている。

 

「でも………これで終わりではないッッ!!!!」

 

左腕を捻り潰すことへ夢中になり、周囲を守る螺旋まで薄くなっていたか。

気づいた時には、逸らし損ねた冷気が顔へ入ってくる。

 

前髪は凍ったまま砕け、右腕も骨まで固まる。

 

「うにゃああああああっっ!! 痛い!! 痛い痛い痛い!! ゆるさ……………な…………い………ッッ!!」

 

右腕は動かず、全身の皮膚も凍結と火傷を繰り返して、どこが痛むのか分からなくなっている。それでも目の前の女が倒れない以上、こちらから倒れるわけにはいかない。

 

何より許せないのは、前髪を砕かれたことだ。

素顔を隠す壁を失い、目も額も剥き出しになっている。

誰も見ていないとしても、陰キャにとっては全裸で立たされるのと大差ない。

左腕を捻った程度で釣り合う被害ではなかった。

 

彎曲丸を動く左手へ持ち替える。赤火砲で焼いた腕から血が噴き出したが、まだ柄は握れる。

 

向こうも片腕で袖白雪を構え、壊れかけた足で踏み込んでくる。

互いに守る力など残っていないのなら、先に倒せば私の勝ちだ。

 

「ぐおおおおおおおおっっッッ!!!!」

 

袖白雪が腹へ入り、彎曲丸も胸を抉る。凍気を体内へ叩き込まれるのと同時に、残った霊圧を螺旋へ変えて返す。

 

耳から音が消える。

 

倒れた私の前には、四肢の関節を捻られ、口から血を流すルキアがいる。

こちらも全身の血管が裂け、噴き出した血は肌を伝う前に凍っている。

咲いたそばから固まる血の花が、石段へ増えていく。

 

お互いに卍解も解けている。もう指一本動かせない。それでも、あの女より先に負けたとは認められない。

 

「わた…し……の………勝ちだ…………」

 

向こうも同じことを考えているらしい。

血に濡れた口を動かし、聞き捨てならない戯言を吐く。

 

「わた…し…が………勝ったんだよ…………バカ……」

 

訂正させる力は残っていない。

少なくとも、私の意識が消える方が後であれば、それで勝ちということにしよう。

 

そこまで考えたところで、どちらが先だったか確かめる前に何も見えなくなった。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

石田は、上からぶつかってきた二つの霊圧に足を止める。

片方には覚えがあり、直後に衝突も霊圧も途切れたことが嫌な予感を強めていた。

 

「………今の霊圧は……!!」

 

肩に乗っていたコンも耳を立て、階段の上へ身を乗り出す。

 

「姐さんの霊圧だ!!! 間違いねえ、上で何かヤベエことが起きてる!! 行くぜ石田ァッ!!」

 

返事をする間にも駆け出す。上るにつれて石段へ残る霜が厚くなり、途中から血まで混じり始める。

 

「ああ!!」

 

辿り着いた先で、二人が倒れている。

どちらも小柄で、周囲の石畳は砕け、血と霜に覆われている。

 

手前にいたルキアへ駆け寄り、名前を呼びながら肩へ触れる。

 

「これは…………朽木さん……ッッ!!?」

 

身体を起こそうとした途端、口から血が溢れる。石田はすぐに手を止める。

四肢の関節は不自然な方向へ曲がり、胸にも深い傷がある。

下手に動かせば、辛うじて続いている呼吸まで止まりかねない。

 

隣の子も無傷ではなく、凍った右腕は砕け、皮膚の各所から噴いた血が赤黒い氷になって張りついている。それでも胸は微かに動いている。

 

「な、なんだよこれ……一体何が起きたらこんなことになるんだよォォッッ!!??」

 

「コン、朽木さんのそばにいて呼吸を見てくれ! 僕はもう一人の出血を止める。敵かどうかは、二人とも生き延びてから聞けばいい!!」




■ 白霞罰(はっかのとがめ)

朽木ルキアの卍解。

自身を極低温状態へ置き、その冷気を周囲へ拡大する。

極めて高い制圧力を持つ反面、使用者自身の肉体も凍結状態へ入るため、負傷時や長時間の維持には大きな危険を伴う。

■ 歪曲無限彎獄螺旋

読み:わいきょくむげんわんごくらせん

狭山薫子の卍解。

薫子が視認した対象へ生じさせる小さな「歪み」を、彎曲丸の螺旋によって際限なく増幅する。

空間そのものが自動的に歪む能力ではなく、

薫子が見る

歪みを与える

卍解で増幅する

という手順を必要とする。

そのため、普段は前髪で目を隠している薫子にとって、卍解の本格使用は素顔を晒すこととほぼ同義。

■ 薫子の「歪み」

薫子が元来持つ霊力特性。

対象へ直接大規模な変形を起こすほどではない、ごく小さな偏りや捻れを生じさせるもの。

始解「彎曲丸」では螺旋状に巻き取る力として扱い、卍解ではその歪み自体を極端に増幅する。

■ 白霞罰と歪曲無限彎獄螺旋の相性

白霞罰は広範囲へ冷気を拡散するため、通常なら回避だけで凌ぐことが難しい。

一方、薫子の卍解は冷気そのものへ歪みを与え、流れる方向を逸らすことが可能。

完全な無効化ではないため、解放前に受けた凍結や、処理しきれなかった冷気までは防げない。

両者とも強大でありながら、使用者自身にも大きな負担を要求する卍解となっている。
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