我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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有沢たつき
一護救出のため尸魂界へ乗り込んだ現世組の一人。古男から教わった独自の武術を使う。

茶渡泰虎
たつきと行動中。一護救出について、慎重さより実行を優先する点ではたつきとよく噛み合っている。

志波海燕
一護の親族であり十三番隊の中心人物。一護救出には賛成だが、現世組の行動力には若干ついていけていない。

浮竹十四郎
十三番隊隊長。現世組を助けたい側だが、そのためにも彼らをまず生存させなければならない。

藍染惣右介
砕蜂殺害事件の真相を追うため、独自の捜査を始める。

日番谷冬獅郎
捜査班の中では比較的常識的な立場にいる。

涅マユリ
十二番隊隊長。科学的分析能力については非常に頼りになる。

更木剣八
十一番隊隊長。犯人そのものへの関心から捜査へ加わった。


暗黒魔闘術の正体と現場検証の崩壊

海燕の大声に襖が震える。閉めた意味は特にない。

顔は一護によく似ているが、声量まで似せる必要はないのだと諸君は同意してくれるだろう。

 

「おお! お前たちが一護の現世のダチか!!」

 

「うわ……確かに一護にそっくり……生き別れの兄貴か何か?」

 

「ああ、よく似ている。……で、一護は大丈夫なのか?」

 

「おう、生きてはいるさ! 浮竹隊長や俺たち十三番隊総出で、処刑の撤回を求めて上層部に働きかけて動いてるところだ」

 

「そんな悠長なこと言ってられるか! 今のアタシたちの力なら、このまま懺罪宮へ殴り込んで一護を助け出し、現世へ脱出できる!」

 

「うむ。行こう」

 

茶はまだ湯気を立てている。茶渡もたつきも襖へ向かって一直線、青春である。

話し合いは三言で終わった。いや、話し合う土俵にすら立っていない。

返事から全面戦争の決定まで、要した時間はわずか一分未満。

カップラーメンなら固すぎるレベルだ。

 

「おいおいおい……! それはちょっと待ってくれないかい!? 今そんな力技の強行突破をやれば、先生はもちろん、他の好戦的な隊長たちが躍起になって全力で迎撃に来る! 殺されかねないよ!」

 

浮竹は危険を説明した。ところが、たつきの耳へ届く頃には『隊長たちとの連戦予告』に変わっている。

 

言葉は通じている。意味が通じていないだけだ。

 

「大丈夫だって! 誰が来たって、アタシには戸川先生直伝の『暗黒魔闘術』があるんだから!!」

 

「………あんこく……まとう……じゅつ……?」

 

「そう! 戸川先生が『尸魂界に古より伝わる最強無敵の暗黒武術だ』って教えてくれたんだ。……あら? 知らないの?」

 

「海燕……君、そんな武術を知っているかい?」

 

「いえ………俺も名門貴族の端くれですが、そんな中二病みたいな名前の技、生まれてこの方一度も聞いたことねえっす」

 

古男を信じれば信じるほど、『暗黒魔闘術』という名称は胡散臭くなる。

師弟愛とは、実に不思議な現象である。

 

「まあ………あの戸川先生だからな……。適当にネーミングセンスがおかしいだけかもしれねえ。ほら!! こういう技だよ!!」

 

腰を落とした途端、褐色の霊圧が四肢へ沈む。

外へ逃げるはずの力まで皮膚の下へ押し込まれ、畳の縁が裂けた。

右袖の内側には早くも血が滲んでいる。

 

浮竹の記憶に、同じ軋みとともに砕けた腕が蘇る。暗黒だろうが何だろうが、まず止めるしかない。次に裂けるものは袖では済まないのだ。

 

「……ッッ!? 君、一体何をやってるんだい!! すぐにその霊圧を霧散させなさいッッ!!」

 

「え……? ……あ、はい?」

 

霊圧が解け、たつきの両腕も残る。本日の朗報は以上である。

 

「それは暗黒魔闘術なんて変な名前じゃない……! かつて千年前、初代護廷十三隊の隊長の一人――四楓院千日殿だけが唯一使いこなせたと言われる、白打の究極亜種『神雷』の術式そのものだ!!」

 

「しょ、初代四楓院当主の……幻の秘技……!?」

 

「込める霊力の圧縮比率をわずかでも誤れば、相手を殴る前に自分の肉体そのものが内側から爆砕する危険極まりない代物なんだ! 本来は接触したコンマ数秒の一瞬だけ霊圧を炸裂させる高等技術だと、昔先生から厳しく教わった……!」

 

「あー、そうか……! だから現世での訓練の時、何度も腕が吹き飛んだり上半身がミンチになって爆発したのか〜〜!!」

 

「な…………なにィィッッ!!??」

 

「織姫が隣でずっと『双天帰盾』を展開しながら、爆発する端から治してくれてたから全然気づかなかったよ! あっはっはっは!!」

 

「何度だい!? 腕が吹き飛んだのは何度なんだい!?」

 

「途中から数えてねえな。チャド、覚えてるか?」

 

「右腕が二十七回。左腕が十九回。上半身は九回だ」

 

「両腕が同時に飛んだ回は、一回で数えている」

 

「お前、数えてたのかよ」

 

「井上が再生を終えるまで暇だった」

 

浮竹の指が宙で数を足していく。左右の腕と上半身を同じ勘定へ入れてよいのか迷った末、合計五十五回という数字が残る。

 

諸君、人間は五十五回も爆発してよい生き物ではない。

これは鍛錬記録ではなく、爆発事故の統計である。

双天帰盾が全件を無事故扱いにしているだけであって。

 

「そこまで失敗したなら、途中でやめようとは思わなかったのかい?」

 

「一護を助けるのに必要だったからな」

 

「後半は成功率も上がった。問題ない」

 

「何をもって成功としたんだい?」

 

「上半身が残った」

 

「それは成功じゃない! 損壊箇所が減っただけだよ!!」

 

浮竹の知る神雷は、一度失敗すれば再起不能になる秘技である。

 

現世組の神雷は、隣に織姫を置けば何度でも練習できる秘技らしい。

修行法として正しいかは不明だが、倫理は確実に間違っている。

 

海燕の笑いは消える。茶渡の靴紐は固く結ばれる。常識を取り戻した者と、出発準備を終えた者の差である。

 

「よし……そろそろ行くか」

 

「おう、突撃だな!」

 

「茶渡君、せめて作戦を決めてからにしよう! 君たちは瀞霊廷の道も知らないだろう!?」

 

「作戦はある。懺罪宮まで最短で進む」

 

「それは目的地だ!!」

 

襟首へ海燕がしがみつき、肩には浮竹の手も加わる。体は止まらず、四本の足袋が畳を滑っていく。

 

救出に行く二人を救出のために止める綱引きである。何を言っているのか分からなくても安心してほしい。現場の四人も分かっていない。

 

「だから待てって言ってんだろォォッッ!! 話を聞けェェッッ!!」

 

「処刑期日まであと二週間はあるから!! まだ平和的に解決する時間はあるからァァッッ!!」

 

「だったら二週間早く助ければいいだろ!!」

 

「そういう引き算の話じゃないんだよォォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

砕蜂を縫い止めていた壁には、刀の穴と乾いた血が残っている。

 

集まったのは藍染、日番谷、マユリ、ネム、剣八。

頭脳と戦力だけを合計すれば、犯人に同情したくなる顔ぶれである。

協調性まで計算へ入れるなら、日番谷に同情してほしい。

 

霊子採取用の容器や測定器は、ネムの両腕から溢れそうなほど揃っている。

すべて同行を渋るマユリが選んだ品だ。対する剣八の持参品は斬魄刀一本。

まだ誰も参加理由を語っていないのに、荷物の時点で自白が終わっている。

荷物は持ち主より正直である。

 

「やあ……まさか君たちが、砕蜂隊長の事件の捜査に協力してくれるとは思わなかったよ」

 

「フンッ!! 勘違いしないでくれ給えヨ!! 私がこんな下らん犯人捜しに付き合うのは、戸川がいつまでもしょげて引き籠もっていると、我が十二番隊の士気に関わるからだ!! 連中ときたら、奴にすっかり美味い菓子で餌付けされおって……!!」

 

誰も理由を聞いていない。しかも証人まで自分で連れてきている。

弁明は早すぎ、証人の配置も悪い。

 

「……マユリ様。今週末に予定されていた、戸川五席による『古代結界技術の特別講義』が中止になるのを、一番楽しみにしていたのはマユリ様では……」

 

「うるさいヨッッ!! 余計な口を挟むんじゃないネッッ!!」

 

乾いた音を頭に受けても、ネムの表情は変わらない。

 

「へッ、俺はあの隠密のチビを一撃で貫たっていう、手練れが気になるだけだ。……一角をやった旅禍の女も見つからねえしな。せいぜい退屈しのぎの暇つぶしさ」

 

「………………藍染。俺たちのメンツ……不安要素しかないと思うのは、気のせいか……?」

 

「そう卑屈になるものじゃないさ、日番谷隊長。涅隊長の類稀なる頭脳と分析力は疑うべくもないし、更木隊長の圧倒的な戦闘力と野性の第六感も、捜査において決して馬鹿にしたものじゃない」

 

「ううむ…………」

 

不安要素は『頭脳』『戦力』『野性の第六感』へ名称変更された。

言い換えとは便利なものである。協調性は最初から審査項目に入っていない。

 

「ええい、さっさと解決して研究室に戻るヨ!!」

 

「真正面から刺し貫いた野郎か……会うのが楽しみだぜ!!」

 

目的は揃わないまま、意欲だけは高い。諸君、これが合同捜査である。

日番谷は納得してくれないだろうが、藍染だけは爽やかだ。

 

「――うむ。では、捜査の基本は『現場百回』という。まずは現場検証から始めようか!」

 

血痕へ採取管が届くより早く、剣八の指が刀穴へ入る。

壁の内側から石の割れる音が鳴り、現場検証は開始三秒で二つの意味に分裂する。

 

「壁ごと剥がすな、更木ッッ!!」

 

「証拠へ粉塵を混ぜるんじゃないヨッッ!!」

 

「刃の深さを見てんだよ。騒ぐんじゃねえ」

 

「深さなら測定器で出せるヨ! 原始人は指を抜きたまえ!」

 

「機械より手で触った方が早えだろ」

 

「その手で証拠を潰していると言っているんだヨッッ!!」

 

周囲へ亀裂が走る。ネムの持つ測定器は霊子を拾うたびに数値を変え、ついには警告音を鳴らし始めた。犯人の残留霊圧より、現在進行形で流れ込む剣八の霊圧の方が濃い。

 

「マユリ様。採取地点から更木隊長の霊圧を検出しました」

 

「見れば分かるヨ!!」

 

「おい涅。この穴から、刺した奴の背丈は分からねえのか?」

 

「角度と高さから推定はできる。君が穴を広げる前ならネ」

 

「なら誰か壁に立て。間合いを見てやる」

 

穴から抜けた指先が、そのまま日番谷へ向く。

 

「お前が立て。隠密のチビと背丈が近え」

 

「近くねえ!! つうか誰が死体役をやるかッッ!!」

 

「測定上、身長差は七寸です。刺突位置の比較には使用できます」

 

「お前まで人を標本に数えるなよ!」

 

「標本ではありません。刺突位置の基準です」

 

「言い換えても壁には立たねえぞ!!」

 

「壁に立つだけだ。刺す真似で止めてやる」

 

「その刀を抜いて言う台詞じゃねえだろうが!!」

 

再現検証を始めたい剣八と、斬り合いを避けたい日番谷。

目的だけを聞けば前者が捜査熱心に思えるのだから、世の中は難しい。

話は余計に悪化する。

 

「日番谷隊長、彼を止めてくれないかい?」

 

「人選したお前が止めろッッ!!」

 

藍染の掲げた『現場百回』に、現場も捜査班も一回目から耐えられそうにない。

百回までは遠い。




■ 神雷(しんらい)

初代護廷十三隊時代、四楓院千日が使用していた白打系統の高等技術。

霊力を体外へ放出するのではなく、肉体内部へ極端な密度で圧縮し、打撃が接触する短時間だけ爆発的に解放する。

成功すれば身体能力と打撃力を大幅に引き上げられる一方、圧縮や解放の制御を誤ると術者自身の肉体が内側から破壊される。

■ たつきの「暗黒魔闘術」

古男がたつきへ神雷を教える際につけた名称。

技術体系そのものは実在するが、「暗黒魔闘術」という呼称については古男独自のもの。

少なくとも浮竹・海燕が知る正式な尸魂界武術史には、その名称は存在しない。

■ 現場百回

犯罪捜査において、現場を繰り返し確認することの重要性を示す考え方。

同じ現場でも、時間を置いて再確認することで最初には見落とした情報へ気づくことがある。

当然ながら、百回訪れる前に現場そのものを破壊してよいという意味ではない。

■ 残留霊圧の採取

戦闘や斬魄刀の使用後には、現場へ微量の霊圧・霊子反応が残る場合がある。

十二番隊の測定機器を使えば、それらを採取・比較することで犯人特定の材料にできる可能性がある。

ただし、現場へ別の強大な霊圧を大量に流し込まれると分析精度は著しく低下する。
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