我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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藍染惣右介
砕蜂暗殺事件の合同捜査を主導する五番隊隊長。

日番谷冬獅郎
捜査班の中では比較的常識的な立場。現場の不自然さを一つずつ拾っていく。

涅マユリ
十二番隊隊長。物証と検死結果を重視する科学者。

更木剣八
十一番隊隊長。現場保存には向かないが、戦闘経験から来る直感は侮れない。

緋山雷太
五番隊三席。薫子から得た情報をもとに、旅禍側の潜伏先を探り始める。

緋山染華
十一番隊十席。今回も可能な限り戦闘から遠ざかりたい。

白鷹光四郎
六番隊四席。砕蜂暗殺後の瀞霊廷内部事情を把握し、雷太たちへ共有する。


二つの凶器と地下水道への追跡

砕蜂の血痕は、壁から三間ほど手前で始まる。

合同捜査班の視線が、ようやく地面まで下りてきたわけである。

捜査が一歩進んだのだと温かく見守ってほしい。

なお、剣八の指で広げられた穴は元に戻らない。

 

「彼女はこの壁に長刀で磔にされていたわけだが……地面に残る霊子の飛沫を調べたところ、最初に血痕が生じたのは、そこではなく、壁から三間ほど手前のこの位置だ」

 

血は細道の中央から壁へ続き、最後に大きな染みを作って途絶えている。

 

「ふむ……。つまり通路で心臓を貫いて絶命させ、その後にわざわざ遺体をここまで運び、壁に磔にしたと? くくく……随分と歪んだ自己顕示欲の強い奴のようだネ」

 

「……マユリ様みたいですね」

 

「……ネム」

 

「なんでもございません」

 

ネムの一言は、長刀より短く、狙いだけは正確である。

謝罪まで済んだので、この件は解決した。マユリの中で解決しているかは知らない。

 

「しかしよォ、ここは狭すぎるぞ。俺も現場を見たが、あいつに突き刺さっていたのは相当な長刀だ。こんな細い道で正面から突きをやろうとすりゃあ……ほら見ろ、こうして壁に切っ先が突っかかる。――おい日番谷、てめえならやれるか?」

 

「俺がチビだから取り回しが利くだろうって馬鹿にしてんだろ……。無理だな。長刀の突きを繰り出すなら、最初から抜き身の切っ先を前に向けたまま全力疾走してこなきゃならねえ。そんな間抜けな接近に、あの砕蜂が気づかねえはずがねえだろ」

 

剣八の実演によって壁の傷は増えたが、疑問そのものは正しい。

抜き身の長刀を前へ向けて走る暗殺者など、旗を忘れた騎馬突撃である。

 

「うむ。となると、壁に刺さっていた刀と、実際に彼女の胸を貫いた凶器が『別のものであった』という偽装工作の可能性も十分に考えられるね」

 

「くだらん推測を重ねる前に、遺体の実体データはどうなっているのかネ?」

 

「卯ノ花隊長が四番隊で検死を行っているはずだ。後で行ってみよう」

 

凶器が二本なら候補も増える。手掛かりが増えるほど犯人へ近づく。

 

「リーチの長い得物で突きをかますってだけなら、市丸の神鎗が一番手っ取り早そうだがな」

 

「市丸には動機も接点もねえよ。普段から二番隊と仲が悪いわけでもねえ。……むしろ貴族に近いやつの方が怪しいだろ。砕蜂が四十六室の地下を探っていたのは、昨日の隊首会でも本人が口にしていたからな」

 

「貴族に近い者、かね? ならば筆頭は京楽か浮竹、あるいは朽木白哉あたりかネ」

 

「ハッ、朽木はねえだろ。あいつは黒崎一護の擁護派の筆頭だぞ。同じ志波の派閥同士で仲間割れして隊長を殺すか? 万が一関与がバレたら、それこそ黒崎の処刑が確定しちまうじゃねえか」

 

ここまで最も筋の通った推理をしているのは剣八である。

日番谷には受け入れ難い現実だろうが、諸君には受け入れていただきたい。

 

現場の壁を壊した男と、現場の論理を守る男は同一人物である。

 

「四十六室が頑なに扉を閉ざし、引き籠もっている現状では断定はできないが……もし検死でも有力な手掛かりが得られなければ、我々の手で四十六室の中へ直接踏み込むことも……やむなし、かな」

 

「おい藍染……正気か!? 四十六室への無断立ち入りは重罪だぞ!」

 

「もちろん、最後の手段さ。……まずは卯ノ花隊長の検死結果を確認しに行こう」

 

日番谷は納得していないが、剣八はもう歩き始め、マユリは検死結果を催促している。

合同捜査班は四番隊へ向かう。合意形成に成功した者はいない。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

引き戸より先に、染華の笑い声が飛び込んでくる。病室へ見舞いに来たとは思えない景気のよさである。

 

「いやーーーっ!! お母さん腰抜かすほどびっくりしたわよ!! 薫子ちゃんだけじゃなくって、桃ちゃんまで一晩で手籠めにしちゃうなんて!!」

 

「雛森も薫子と同じでペッタンコだからな……。揉み応えが全くなくて、やれやれだぜ」

 

「ちぇ……つまんないの。少しは動揺しなさいよ」

 

「俺が女にモテるのは当然だろうが。護廷十三隊が始まって以来の超絶天才美少年! それがこの緋山雷太さまだ!!」

 

全身を包帯で巻かれた薫子から、力のないピースサインが上がる。

昨夜まで凍死寸前だったとは思えない参加意欲である。雛森の方は笑っていない。

 

「いえ…………ーーーい……」

 

「………………揉まれたの!? 私、寝てる間に揉まれちゃったのォォッ!? 藍染隊長ぉぉーーーッ!! 私は……私は汚されてしまったのでしょうかァァッッ!!??」

 

貞操の相談先として藍染惣右介ほど不適切な上司も珍しいが、雛森はまだその事実を知らない。

 

「好きなだけ喚いてろ。少なくとも、抱き心地は最悪だったぜ」

 

「いやーーーーーーッッ!!!!」

 

枕が雷太の顔を通過し、壁へ落ちる。命中しなかったのか、避ける価値すらないと判断されたのかは不明である。

 

ただし、昨夜の添い寝には雷太なりの目的がある。眠った雛森へ『ペスキス』を巡らせ、霊体の隅々まで走査を終えている。

 

体内に不審な術式も霊子の細工も見つからない。『鏡花水月』が現在使われているかまでは判別不能。だが昨夜隣で裸になっていた相手が本物の雛森桃であることは確かだろう。

 

つまり、美少女だと思って抱いていた相手が、藍染の幻覚で無関係な中年男性に差し替えられていた可能性は消えた。

 

普通なら最初から検討しない可能性だが、相手が鏡花水月なので仕方がない。残るのは、藍染が雛森から離れるなと命じた理由である。

 

「…………ともかくだ。薫子、教えろ。お前をここまでズタボロにしたのは誰だ? お前ほどの腕前をここまでする氷雪系の使い手……一体何者だ?」

 

「……朽木ルキア。あいつ、いつの間にか『卍解』を習得してた……。相討ちで倒れた後、仲間の奴らがルキアを回収していったのを見たけど、どの方角へ消えたかまでは分からない……。でも、担ぎながら『すぐに治す』って言ってたから、あいつらの中に何らかの強力な治癒能力者がいる」

 

報告が始まれば、途切れがちな声にも精度が戻る。

染華が戦いたくなくなる材料は、順調に揃っていく。

 

「へえ〜〜、あのルキアちゃんが卍解ねえ……」

 

「姿を晦ませるとすれば、考えられる逃走経路はいくつかあるな。地下水道に潜伏しているか、あるいは十三番隊に集まっている志波家の連中が匿っているかだ」

 

「…………………そ………れ………は………ない………か……な? ルキアをたすけ………に………きた………の……『滅却師(クインシー)』……、だっ………た…………」

 

「く、滅却師……ッ!?」

 

「…………決まりだな。行ってみるか……地下水道へ」

 

滅却師が志波家を頼る可能性は低い。候補は地下水道へ絞られる。

 

なお、地下水道には日光も布団も団子もない。染華が好むものを三つ挙げたところ、見事に全滅である。

ここまで本人へ向かない行き先を選べるのも、一種の才能かもしれない。

 

「ええーーーっ!? 嫌よ嫌よ!! 絶対に嫌ーーーッ!! 薫子ちゃんをコテンパンに叩きのめしたってことは、そのルキアちゃんは今の私より確実に強いじゃない!! 斬られるのも痛いのも絶対に嫌ぁぁぁっ!!」

 

拒否は明快で、理屈も通っている。だが残念ながら採用されない。

襟首を掴まれ、十一番隊十席は荷物へ昇格する。本人の希望とは反対方向への昇格である。

 

「いやーーーーーーッッ!! 私たち下っ端が行くことないじゃない!! 隊長たちに全部任せましょうよォォッ!!」

 

「――………そうも言っていられなくなったぞ、染華さん」

 

「え……光四郎君??」

 

「光四郎、どういうことだ?」

 

戸口から届く声に、染華の悲鳴が止まる。

 

「……これは、絶対に他言無用の内密事項だ。――今朝、二番隊隊長・砕蜂様が何者かによって暗殺された」

 

「現場検証と下手人の捜査には、藍染隊長、更木隊長、日番谷隊長、そして涅隊長が駆り出されている。他の隊長たちの中に、旅禍の迎撃へ積極的に動こうとしている者は一人もいない。……つまり、そういうことだ」

 

「……山本総隊長は一番隊舎に攻め込んで来れば容赦なく迎撃するだろうが、それじゃあ瀞霊廷が火の海になる。……やはり、血の気の多い隊長連中が動く前に、俺たちが先回りして旅禍を見つけ出すのが一番被害が少なくて済むな」

 

「ああ。俺も同行しよう。若奥様たちであれば、筋道を立てて話せば必ず分かってくださるはずだ」

 

「助かる。行くぞ!」

 

比較対象が剣八とマユリなので、雷太たちは穏健な交渉部隊である。

一般的な尺度を持ち込んではならない。

自傷型の斬魄刀を持つ二人と、破面と完全融合した雷太が、卍解を習得したルキアたちを追う編成である。

 

話し合いへ必要なのは誠意であって、斬魄刀の性質ではない。その原則が地下でも通用することを祈ろう。何しろ一行の中で最も争いを嫌っている者は、荷物として運ばれているのだから。




■ 間

尸魂界で用いられる距離表現。

一間はおよそ六尺前後を基準とするため、三間なら十数尺程度の距離となる。

今回の現場では、砕蜂の出血開始地点と磔にされた壁との間に明確な距離が存在している。

■ 血痕飛沫の位置

霊体の血液や霊子残留も、現世の血痕分析に近い形で位置関係を調べることができる。

最初の出血地点と遺体発見地点が一致しない場合、

負傷後に自力で移動した
第三者に運ばれた
現場そのものが偽装された

など、複数の可能性を検討する必要がある。

■ ペスキス

破面が周囲の霊圧を探知するために用いる感知能力。

雷太は虚としての性質も完全に保持しているため、死神としての霊圧感知とは別系統で使用できる。

ただし、鏡花水月の完全催眠そのものを看破する能力ではない。

■ 地下水道

瀞霊廷内部を通る地下経路。

地上の巡回や監視から外れやすく、旅禍側が一時的に身を隠す場所としては都合がよい。

一方で経路を知らなければ迷いやすく、地上へ出る場所も限られる。
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