我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
一護救出を目指し、織姫・石田とともに懺罪宮の警備状況を確認中。
井上織姫
一護への信頼は絶大。その解釈が作戦判断へ影響することもある。
石田雨竜
遠距離からの霊子感知を担当。理屈を重んじる人物だが、一護に関する評価では意外と現世組寄り。
緋山雷太
地下水道へ逃れた旅禍を追跡中。目的達成のためなら交渉手段を選ばない。
雛森桃
五番隊副隊長。鬼道の技量を見込まれ、地下水道の捜索へ巻き込まれる。
緋山染華
十一番隊十席。追跡に必要な能力は持っているが、追跡成功そのものを望んでいない。
白鷹光四郎
雷太たちと同行中。地下水道での旅禍捜索に加わる。
懺罪宮の白い塔が、格子戸の向こうにそびえている。
屋根裏へ身を潜めているのは、ルキア、石田、織姫の三人。
朽木家別邸にある監視高楼なら、巡回中の死神も勝手には踏み込めない。
入り方も結界の抜け方も、養女として暮らしたルキアの記憶に残っている。
朽木家の教育は無駄になっていない。活用する方向は当主の想定と正反対であるが。
「……どうだ、石田? 懺罪宮の警備の状況は見通せるか?」
霊子を集めた視界が、数百間先の塔へ届く。
石段を上った先には複数の人影。背中の文字まで読めても、顔を確かめれるほどはない。
「………だめだね。牢の正面入り口に、白い羽織を着ている奴らが数人陣取っている……。霊圧を抑えているようだが、漏れ出る密度だけでも尋常じゃないプレッシャーだ。えーと……背中の文字は『九』と……『七』……。それともう一人、羽織の上からド派手な花柄の羽織を羽織っている奴がいる。背番号は見えないな」
「背中に九は東仙隊長、七は狛村隊長……そして花柄の羽織は、八番隊の京楽隊長だろうな。……いくら侵入したとはいえ、たった一人の死刑囚を隊長三人がかりで見張るなど……あまりにも異常すぎる布陣だ」
東仙の感知を抜け、狛村の巨体をかわし、京楽まで振り切らなければ鉄格子へ届かない。織姫の盾によって傷は消えているが、薫子との相討ちを忘れてはいない。
卍解を使えるようになったことと、隊長三人をまとめて倒せることは同じではない。
救出側も三人、警備側も三人。名簿の上では互角である。
だが、戦力を頭数で数えてはいけない。
小学生三人と横綱三人も、書類の上では三対三になるのだから。
あと数百間。しかし、その数百間に隊長が三人いる。
一行で書けば短い距離も、突破するには命が三つあっても足りない。
格子戸をつかむ指へ力がこもる。今は飛び出すより、全員で一護の元へ着く道を探すしかない。
「うーん……でもそれって、きっと黒崎くんが『強すぎる』からじゃないかな?」
「……む? 一護が強すぎる、とは?」
「だってほら! 黒崎くんって本気を出すとすっごく大暴れしちゃうでしょ? だから隊長さんが三人くらいで力を合わせないと、手加減できなくて黒崎くんをうっかり殺しちゃうから、三人で抑えてるんだよ! きっとそうだよ!」
警備が厚いから危険なのではない。一護が強いから警備を厚くせざるを得ない。
問題を裏返せば、そのまま恋人自慢へ変わる仕組みである。
「…………なるほど…………! 言われてみれば確かに筋が通るな。あやつの途方もない力を、護廷十三隊の上層部もすでに察知して恐れているということか……」
「確かに……黒崎を『殺さずに捕縛し続ける』という条件下であれば、隊長格三人がかりになるのも合点が行くか…………。流石の洞察力だね、井上さん」
訂正する者はいない。
許嫁は納得し、正妻を狙う少女は自信を深め、滅却師まで理屈を補強していた。
これは作戦会議ではない。
黒崎一護を褒める方向へ結論が決まっている座談会である。司会も反対派も存在しない。
もし茶渡がいれば無言で頷き、たつきがいれば『まあ一護ならな』と受け入れるだろう。現世組には最初から、珍推理を止める人材が足りていないのだ。
◇◇
地下水道には、乾いた血の跡が残っている。石畳を伝う赤黒い筋は、ある地点で不自然に綺麗に消えていた。
「……ここでルキアの野郎を治療したのは間違いねえな。血の跡はここまでで途切れてる。一滴も外へ漏れちゃいねえ」
「傷口を塞いで霊力を循環させる高度な治癒術者が仲間にいるのは、どうやら確実なようねぇ」
負傷者にとっては理想的だが、追跡する側には迷惑極まりない。
優秀な治療役は、優秀な証拠隠滅役でもある。
血が消えた先には水路が何本も分かれ、流れる水が足跡を洗っている。
右へ行くか、左へ行くか。間違えても看板はない。
まあ地下水道に観光案内所を求める方が悪い。
「……で、なんで関係ない私がこんなジメジメした地下水道まで連れてこられてるのよ!?」
不満の主は雛森である。
藍染から下された命令は、『雛森を一人でうろつかせるな』
その結果、危険から遠ざけるのではなく、地下水道の捜索へ同行させることになった。
一人にしていない以上、文面には従っている。命令を出した藍染も、ここまで字面どおりに運用されるとは思わなかっただろう。
志願者は雷太と光四郎。残る二名は、襟首を掴まれて連れてこられた染華と、護衛命令に巻き込まれた雛森である。
四人中二人が帰りたがる集団を捜索隊と呼んでよいのかは怪しい。
呼ばなければ話が進まないので、ここでは捜索隊として扱う。
目的も権限も参加意思も揃っていない。全員へ等しく共有されているのは、地下水道の湿気だけである。
「ここでこそ出番だからですよ、雛森副隊長!!」
「え?? 私の出番??」
光四郎の声は爽やかである。出番を告げられた本人には、仕事内容も出演料も知らされていない。
「ここら一帯に残されたルキアと滅却師の霊圧の名残を解析して、縛道で居場所を探知するんだよ。見ての通り、俺も光四郎も『縛道』の細かい術式はからっきしなんだ。……あ、待てよ? 母さん、あんたこれ使えたよな?」
「嫌ぁぁぁっ!! 絶対に嫌!! 居場所を見つけたら痛い目に遭う場所に突撃するんでしょ!? そんな危険なところへ行く手助けなんて、私は金輪際いたしません!!」
染華の両腕が胸元で大きなバツを作る。探知術を使える者はいる。しかし、成功すると敵へ近づいてしまうため使いたくない。
本人にとっては、何も見つからない捜査こそ満点である。捜査隊と評価基準を共有する気はない。
「――というわけだ。頼むよ、雛森」
「断ります! いくら雷太くんの頼みでも、藍染隊長の正式な許可もないのに勝手な単独捜査なんて手伝えません!」
副隊長として正しい返答が出る。許可のない捜査へ加わらず、上官の命令を守る。
反論の余地はない。
反論の代わりに、声量が落ちる。
雛森一人へ囁く内容は、五番隊全員へ聞かせる予定になっている。
「――ほぉ……断るのか? いいぜ。もし今ここで捜査を拒否するなら……昨夜ベッドで抱きしめた『お前の全裸の抱き心地と胸の感触』について、朝礼で全隊士の前に立ち、情感たっぷりに高らかに街頭演説してやるからな」
「……ッッ!!!!????」
雛森の脳内で、翌朝の五番隊が整列する。
最初の報告は本日の配置。次に物資の搬入予定。そして三番目に、副隊長の裸の抱き心地である。
朝礼へ混ぜてよい項目ではない。隊規に禁止条文が見当たらないのは、許されているからではなく、実行する馬鹿を想定していないからだ。
演台へ立つ雷太の声は、こういう時に限ってよく通る。胸の感触から抱き心地まで語られれば、五番隊士の出席率は一〇〇パーセントを記録するだろう。
副隊長一人の尊厳と引き換えに達成してよい数字ではない。
笑う部下。困った顔で眼鏡を直す藍染。翌日から目を合わせなくなる同僚たち。
想像の中では、すでに社会的な葬儀まで終わっている。
「やりますッッ!! やらせてくださいッッ!! 今すぐ探知いたしますッッ!!!!」
「物分かりが良くて助かるぜ」
交渉開始から承諾まで十秒にも満たない。話し合いが順調だったのではない。
乙女の尊厳を人質に取っただけである。諸君、これを説得と呼んではならない。
なお、雷太本人は本気で朝礼を開くつもりでいる。脅しに必要なのは演技力ではなく、実行しかねないという信頼である。
石畳を前に、雛森の両手が開く。怒りで指先は震えているが、組み上がる術式に乱れはない。
副隊長へ任じられた鬼道の腕は本物である。今回ばかりは、本人も後世へ残したくない動機で発揮されている。
「――『南の心臓 北の瞳 西の指先 東の踵』」
四方へ散った霊子が水路の壁へ張りつき、青い線を引く。薄く残る二種類の波長が集まり、霊子が通った道を拾い上げていく。
光は分岐へ届くたびに枝を増やす。痕跡のない道では消え、残り香を拾った道では濃くなる。入り組んだ水路の形が、必要な部分から青く浮かび上がっていく。地図を持たない一行にも、進む先は明白になる。
「――『風持ちて集い 雨払いて散れ』ッッ!!縛道の五十八・掴趾追雀(かくしついじゃく)!!!」
青い探知陣が足元から広がり、枝分かれした通路の一つへ光を伸ばす。血も足跡も残っていない闇の中へ、追跡の道が通る。
なお、五番隊の朝礼は守られている。現時点では、であるが。
■ 朽木家監視高楼
朽木家の管轄地に設けられた監視用の高楼。
結界によって守られており、一般隊士が警報下でも無断で踏み込むことは難しい。
ルキアは朽木家で暮らした経験から、内部構造や結界の抜け方を把握している。
■ 雛森桃の鬼道技量
雛森は真央霊術院時代から鬼道に優れ、五番隊副隊長となった現在も高い術式構築能力を持つ。
今回は攻撃用ではなく、残留霊圧を拾って経路を絞る探知術として応用している。
■ 縛道の五十八・掴趾追雀(かくしついじゃく)
霊体が移動した場所には、極めて薄い霊圧の痕跡が残る場合がある。
水や時間経過によって弱まるものの、波長を知っている相手であれば、鬼道によって残留霊子を選別し、進行方向を絞り込むことが可能。
今回のような地下水道では、血痕や足跡が消えていても完全な追跡不能とは限らない。
■ 五番隊の朝礼
通常は隊務・配置・連絡事項などを共有するためのもの。
副隊長の裸体に関する感想を発表する場ではない。
禁止規定がないのは、前例が存在しないためである。