我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
一護救出のため尸魂界へ侵入した現世組の一人。古男直伝の暗黒魔闘術を携え、東仙要へ挑む。
東仙要
護廷十三隊九番隊隊長。古男によって視力を取り戻し、今回が新たな視界を得てから初めての本格戦闘となる。
黒崎一護
懺罪宮に囚われている死刑囚。牢の内側から、幼馴染の戦いを見守る。
「アタシたちも再開だァッッ!! 行くぞ、隊長さんよォォッ!!!!」
石畳を蹴った。間合いが消える。狙うのは東仙の首だ。
右脚を横薙ぎに振り抜くと、羽織が目の前から沈んだ。
蹴り足は黒髪の先を掠め、続けて返した踵も清虫の鞘に受け流される。
目が見えるようになってから最初の実戦だと、さっき自分で言っていた。その割にはよく避ける。
いや、少し違う。
速さには対応できているが、顔面へ拳を向けるたび、頭ごと大きく逃がしていた。
なら、そこを狙う。
「暗黒魔闘術奥義――『地獄破斬撃』ッッ!!!!」
腰を落とし、左右の拳を連続で叩き込む。拳を引く前に反対側を突き出し、胴、胸、顎、喉へ打点を散らす。東仙の刀が閃き、拳の軌道を次々と外へ弾いた。
一発目を左へ。
二発目を右へ。
三発目には半歩下がり、四発目では上体まで反らす。
やはり避け方が大きい。
「そこだァッッ!!」
大きく右へ逃げた胴へ、気功闘衣の裾を巻きつけた。黒い布は腰を二重に回り、右腕ごと締め上げる。
「こいつは服じゃねえぞ!! アタシの気でできた、もう一本の手足だッッ!!」
裾を引き、正面へ引き戻す。胸元が空いた。右掌へ神雷を集め、心臓の上へ突き出す。
「鳴け――『清虫』」
耳の奥で、細い音が弾けた。
次の瞬間、頭蓋骨の内側へ鉄杭を打ち込まれた。
「――かはッッ!?」
視界が白く潰れ、拳から力が抜けた。
霊圧を帯びた振動が耳の奥へ潜り込み、脳まで直接揺らしている。歯が勝手に噛み合い、両膝も折れかけた。
このまま意識を手放せば終わる。
左拳で自分の頬を殴った。
頬骨に重い衝撃が走る。口の中が切れ、血の味が広がった。痛みで白くなった頭へ、無理やり意識を引き戻す。
「寝て……たまるかよォォッッ!!」
裾の拘束を解くと同時に踏み込み、右の掌底を東仙の胸へ叩き込んだ。
羽織が大きくへこみ、東仙の足が石畳を滑る。
五歩ほど離れたところで清虫が下がった。
「驚いたな。あの距離で清虫の音を受け、なお反撃するか」
「へっ……。この程度でアタシが気絶するかよ……」
言い返した途端、広場が傾いた。
足元から石畳が逃げていく。左へ踏ん張ったはずなのに、身体は右へ倒れた。
東仙の姿が二つに割れ、円を描いて視界の中を回り始める。
「なんだ、これ……。地面が……回ってやがる……」
「清虫の音は意識を奪うだけではない。貴様の三半規管は、すでに正常な働きを失っている。上下も前後も判別できまい」
片膝をつく。立ち上がろうとするたび、頭の中だけが別の方向へ落下していく。
精神集中まで乱れ、気功闘衣の胸元に亀裂が入った。
まずい。
肩を覆っていた黒い霊気が剥がれ、鎖骨から胸へ裂け目が走る。
右の乳房が半ば露わになり、乳首の寸前で細い霊気が辛うじて残った。脇腹も崩れ、腰から太腿まで生身の肌が覗いている。
気功闘衣の下には何も着ていない。余計な布がない方が動きやすいからだ。
幼馴染の牢の前で解除されなければ、という条件を今初めて思いついた。
「た、たつきッッ!! お前、その闘衣の下……まさか何も着てねえのかッッ!?」
牢から一護の声が飛んでくる。
「そうだよ……。何だ、一護。アタシの裸がそんなに見たいのかよ……?」
「アホかァァッッ!! こんな場所で裸になるなって言ってんだよ!!」
「そんな大声で言ったら、余計に全員が見るだろうが……スケベ」
「誰の心配してると思ってやがるッッ!!」
くだらない言い合いなのに、口元が緩んだ。
頬を両手で叩く。右へ左へ転がり続ける景色を睨み、気功闘衣へ霊圧を流し直した。
剥がれていた布が胸と腰を包み、肌を隠していく。
一護は目の前にいる。
この程度の眩暈で止まっていられるか。
問題は耳の奥から送られ続ける狂った情報だ。頭だけが落下していると訴えてくる。
なら、その情報を止めればいい。
両手の人差し指を耳穴へ当てた。
東仙の顔から余裕が消える。
「貴様……何をするつもりだ」
「決まってんだろ。壊れて使えねえなら――外す」
指を一気に押し込んだ。
爪が耳道の皮膚を裂く。指先へ温かい血がまとわりつき、耳の中を塞いだ。さらに押し込むと、鼓膜へ触れる。
一瞬だけ迷った。
痛いだろうな。
まあ、痛いに決まっている。
右耳の奥で鼓膜が破裂した。鋭い痛みがこめかみを貫き、視界が白く染まる。細い骨を砕きながら指を進め、狂った信号を吐き続ける内耳へ神雷を叩き込んだ。
硬い感触の奥で、何かが潰れる。
音が右側から消えた。
指を引き抜く。血に混じって、砕けた骨と薄桃色の肉片が爪へ絡みついていた。足元へ振り落とすと、湿った塊が石畳に貼りつく。
左も同じだ。
耳穴へ指をねじ込み、鼓膜を突き破る。骨を守りごと砕き、内側にある器官を指先で押し潰す。脳へ突き抜けそうな痛みに歯を食いしばり、潰れた組織を掻き出した。
指が抜けると、左耳からも血が噴き出した。
赤い筋が両耳から顎を伝い、首筋へ流れていく。
音は完全に消えた。
東仙の声も、一護の叫びも、自分の呼吸さえ聞こえない。
代わりに眩暈が弱まった。目の前はまだ揺れているが、頭を引きずり回していた偽の回転は止まっている。
壊れた部品を取り外せば誤作動もしないという、戸川先生なら満点をくれそうな解決法だ。
気功闘衣の裾を四本に分け、石畳へ突き立てた。布を伝って返る衝撃を脚へ合わせる。平衡感覚がなくても、四本の支えが身体の傾きを教えてくれる。
腰を上げる。膝を伸ばす。立てる。
「耳の一つや二つ、聞こえなくなったところで知ったことかよ」
自分の声は聞こえない。喉と胸へ伝わる振動が、きちんと声を出せていると教えてくれる。
「アタシは命ごと持ってきたんだ。一護を助けるためになァッッ!!」
岩鷲が尻餅をつき、口を大きく開けていた。たぶん化け物だの人間じゃないだのと叫んでいる。聞こえなくても分かる。顔に全部書いてある。
失礼な奴だ。
耳の奥を自分で潰した程度で、人を化け物扱いするものではない。
織姫なら一瞬で治してくれる。つまり怪我としては実質無料である。後払いの痛みが少々重いだけだ。
「おい、隊長さん。続きやろうぜ」
「そこまでして闇を求めるか。ならば、真の『無明』がもたらす孤独を、その身で味わうがいい」
声は一音も届かない。けれど、こちらへ向けた目と唇の動きで言葉は読めた。
清虫の切っ先が天を向く。
「卍解――『清虫終式・閻魔蟋蟀』」
卍解。
その二文字は、耳などなくても分かる。
刀の鍔から黒い輪が飛び出した。一つ、二つ、三つと頭上へ重なり、急速に広がっていく。輪の間を黒い幕が埋め、場を丸ごと覆った。
空が消えた。
東仙の姿も、一護の牢も、足元の石畳も見えなくなる。
聞こえないのは自分で耳を壊したせいだ。
先ほどまで背中へ感じていた一護の気配も、目の前にあった東仙の霊圧も掴めない。
目と耳と霊圧知覚を奪う卍解か。
だが、足の裏には石畳がある。裾の先からも地面の硬さが伝わってきた。握った拳の感触も残っている。
完全に何もないわけではない。
右肩へ冷たいものが触れた。
直後、肉が裂けた。
「ぐっ……!」
痛みが暗闇の中へ浮かぶ。肩から胸へ抜け、気功闘衣ごと皮膚を切り開いた。熱い血が腹へ流れ落ちる。
反撃しようと腕を振った時には、もう何もいなかった。
東仙を探しても意味がない。
目標は、あいつじゃない。
闇に閉じ込められる直前、一護の牢は正面にあった。距離は四十歩もない。東仙を倒せなくても、牢まで辿り着けばアタシの勝ちだ。
裾の二本を前へ伸ばし、石畳を探る。残る二本は左右へ広げ、壁や障害物へ触れるために使う。
一歩。
二歩。
三歩。
方向は合っている。
背中を斬られた。肩甲骨の下から腰まで刃が走り、血が噴き出す。
足は止めない。
六歩。
七歩。
今度は左の太腿を抉られた。膝が沈む前に、裾を石畳へ突き刺して身体を支える。
立て。
進め。
一護は正面だ。
胸の闘衣がまた崩れ始めた。裂かれた箇所から霊圧が漏れ、左の乳房が露わになる。腹を覆う布も剥がれ、腰骨から太腿の付け根まで冷たい空気に晒された。
見えている者など東仙くらいだ。
あとで殴れば済む。
十二歩目で脇腹を斬られた。
十五歩目には右のふくらはぎ。
十九歩目で背中を深く抉られ、口から血が溢れた。
痛みが増えるたび、進む方向が正しいと分かる。東仙は牢へ近づかせまいとして斬っている。見当違いの場所へ走っているなら、これほど必死に止める必要はない。
実に親切な道案内だ。
「一護の場所は……この身体が覚えてるんだよッッ!!」
聞こえない声で叫び、石畳を蹴る。
何度斬られても前へ出た。肩から血が飛び、背中の傷が開く。太腿へ力を入れるたび、切断寸前の筋肉が軋んだ。
気功闘衣の裾を脚へ巻きつけ、筋肉の代わりに締め上げる。
二十七歩。
三十一歩。
牢までもう少しだ。
正面へ伸ばした裾が何かに触れた。鉄格子ではない。柔らかい布だ。
東仙が先回りしている。
頭上から刃が迫る気配は分からない。代わりに、頬へ触れたわずかな空気の流れを感じた。
左腕を上げる。
掌へ袖が当たった。
そのまま手首まで滑らせ、刀を握る腕を掴んだ。もう片方の裾も清虫の柄へ巻きつく。
触れた瞬間、闇が裂けた。
石畳が見える。
東仙の顔が見える。
背後には牢がある。
霊圧も一斉に戻ってきた。音だけは戻らない。自分で耳の奥を砕いたのだから当然だ。
「見えたな、隊長さん」
東仙の目が揺れた。手首を引こうとしているが、裾と左手で押さえ込んでいる。逃がすものか。
右拳へ残った霊圧を集めた。
「一護は……そこにいるんだな」
清虫を握る腕を引き寄せ、東仙の顔面へ拳を叩き込む。
「消え失せろォォッッ!!!!」
鼻骨と頬骨の砕ける感触が拳へ返る。東仙の身体は地面と平行に吹き飛び、牢の脇にある壁を突き破った。
視界が再び闇へ沈みかけた。
構うものか。
「一護……少し離れてろ」
返事は聞こえない。だが、格子の向こうにあった霊圧が後ろへ下がった。
両掌から気を流し込む。周囲を覆う封印の結界まで、一つの塊として捉えた。
「暗黒魔闘術奥義・魔人――『烈光殺』ッッ!!!!」
掌の間から極太の霊光が噴き出した。
鉄格子が中央から千切れ、封印の術式ごと牢の奥へ吹き飛ぶ。砕けた石と鉄片が舞い、開いた穴から風が押し返してきた。
あと一歩。
闇へ手を伸ばす。
指先に顔が触れた。頬をなぞり、髪へ触れる。肩へ腕を回せば、昔から知っている身体がこちらを支えてくれた。
間違えるはずがない。
「一護……」
返事は聞こえない。
顔を胸へ押しつけると、激しく動く心臓の音が骨を通して伝わってきた。
生きている。
ここにいる。
「目が見えなくても……耳がなくても、触れば分かるよ……。これは、アタシの大好きな一護だ」
腕に力を込めたかったが、もう指一本動かせなかった。
「へへっ……。アタシの……完全勝利だろ……?」
「ああ。お前の大勝利だ、たつき」
最後まで声は聞こえなかった。
けれど、何と言ったのかは分かった。
そこで意識が途切れた。
◇◇
「おい、たつき……! 聞こえねえのか!? 目を開けろ!!」
返事はなかった。
限界を迎えた気功闘衣が、足先から黒い光へ変わり始める。
霊子の布は脛から太腿へ昇り、腰を覆っていた部分も消えた。裂傷に覆われた脚と臀部が露わになり、続いて下腹部と陰部まで隠すものがなくなる。
胸元も崩れた。
黒い霊気が乳房から剥がれ、血に濡れた裸身が朝の光へ晒される。左の乳房には東仙の刃が掠めた傷が走り、胸の谷間を伝った血が腹へ流れていた。
一護は自分の服を脱ぎ、たつきの身体へ巻きつけた。胸から下半身まで包み、外れないよう帯を結ぶ。
「バカ野郎……。こんなになるまで戦いやがって……」
背中へ担ぐと、力の抜けた腕が一護の肩から垂れた。耳から流れる血が首筋へ落ちてくる。
自分一人で終わると思っていた。現実は違う。
ルキアも、織姫も、石田も、チャドも、たつきも、ここまで来た。
自分のために血を流し、身体を壊し、命まで投げ出している。
彼らを置いて処刑台へ向かう方が、よほど身勝手だ。
「流石に、ここまで命を賭けてやられちまったらよォ……」
牢の外へ一歩踏み出す。
「俺は……逃げさせてもらうぜ」
■ 清虫終式・閻魔蟋蟀
東仙要の卍解。
展開された領域内部では、視覚・聴覚・嗅覚・霊圧知覚など、多くの感覚が遮断される。
ただし、清虫そのものへ触れている者には効果が及ばない。
■ 気功闘衣
たつきが使用する暗黒魔闘術の高位形態。
高密度の気を全身へ纏わせることで、攻撃・防御・身体補助を同時に行う。
実体の衣服ではなく霊力によって維持されているため、術者の集中や霊力が大きく乱れると形状を維持できなくなる。
■ 地獄破斬撃
暗黒魔闘術による高速連撃。
単純な連打ではなく、相手の防御・回避方向を限定しながら次の打点へ繋ぐ近接戦闘技。
■ 魔人烈光殺
たつきが放つ高出力の気功攻撃。
今回は鉄格子だけでなく、その周囲に施された封印術式ごと破砕するために使用している。
今後の展開について、尸魂界編のあとは
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すぐ破面編がいい
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バウント編とかも見たい