我こそは十四番隊隊長(自称)   作:かなりゆっくりめ

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黒崎一護
中央四十六室によって処刑を命じられた死刑囚。仲間たちの決死の救出を受け、自らも逃げることを選ぶ。

戸川古男
八番隊五席。一護の完全赦免を中央四十六室との取引で勝ち取ろうとしており、強行脱獄を止めるため自ら立ちはだかる。

有沢たつき
東仙要を突破し、一護の牢を破壊した幼馴染。現在は戦闘不能状態。

藍染惣右介
砕蜂暗殺事件を追って古男とともに懺罪宮へ向かう五番隊隊長。

日番谷冬獅郎
捜査班の一員。急変する状況の中で懺罪宮へ急行する。

涅マユリ
十二番隊隊長。古男の能力が生み出す過剰な演出にも容赦なく技術的な苦情を述べる。

更木剣八
十一番隊隊長。政治交渉よりも強者との戦いに興味を持つ。



過剰なる無明演舞と三位一体の天鎖

「この霊圧の揺らぎは……!」

 

懺罪宮はすぐそこだ。藍染には、二つの卍解が続けて消えたことまで分かる。

解除したのか、倒されたのか。

どちらにしても、四十六室との取引を待ってくれる状況ではなさそうだ。

 

「狛村と東仙だな。たつきたちが深層牢へ突入したらしい」

 

「まずいぞ! 急ぐぞ、お前らッ!!」

 

「力ずくで脱獄などされては、四十六室との交渉もへちまもありはしないヨ!」

 

「俺は骨のある奴と斬り合えりゃ何だっていいがよォ!」

 

日番谷には、この中の一人を置いていきたい気持ちがある。できればどこかへ閉じ込めてから向かいたい。残念ながら、閉じ込める側にも隊長が二、三人は必要そうだ。

 

「とにかく向かおう。ここからは目と鼻の先だ!」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

「たつき。すぐ手当てを受けさせてやるからな……」

 

返事はない。

 

腕の中の身体は温かい。それだけでは安心できず、一護には何度も顔を覗き込まずにいられなかった。もう少し大きく息をしてほしい。いつものように怒鳴ってくれれば、どれほど気が楽になるだろう。

 

抱き直すたび、死覇装へ血が滲む。

 

早く織姫を見つけたい。

 

「おい、一護……」

 

京楽からは追ってくる気配がない。

 

「いやあ、狛村隊長は誇りの刀を折られて塞ぎ込んじゃうし、東仙隊長は真っ向から殴り倒されちゃうし。僕みたいな軟弱者、怖くて手なんか出せないよぉ」

 

「あんた……めちゃくちゃ話の分かる良い奴だなッ!!」

 

「ただの酷いサボり癖さ」

 

なかなか堂々とした告白である。隊長の勤務態度としてどうなのか、という疑問は残るが、岩鷲にとっては今すぐ表彰したいほどありがたい怠慢だった。

 

このまま通してもらえる。

 

そう思ったところへ、ジャァァァン、とパイプオルガンの音が響いた。

合唱までついてくる。

 

「だが……行かせるわけにはいかんな」

 

「この仰々しいBGMは……戸川先生……!」

 

石段の上に古男の姿を見つけ、一護は奥歯を噛んだ。会いたかった相手ではある。

だが、そこに立ってほしかったわけではない。

 

「今から俺が中央四十六室へ出向き、お前の完全赦免の取引をまとめる。だから牢へ戻れ、一護。有沢たちの処分も、俺が責任を持って不問にしてやる」

 

「それはできねえ相談だ」

 

たつきを背負い直しても、首へ回した腕には力がない。背中に預かる重みを、今さらなかったことにはできない。

 

「なあ、先生。アンタだって、シャオ先生がここまで命を削って助けに来てくれたら……素直に『はい、そうですか』って引き下がれんのかよ!?」

 

古男からの返事はなかった。

 

一護は目を逸らさない。取引の成否など聞いていない。アンタなら戻れるのか。それに答えてほしかった。

 

「黒崎君、待つんだ。彼は――」

 

「黙れッ!!」

 

藍染の声を遮る一喝に、一護も息を詰めた。

事情を伝える言葉は続かず、古男との間に沈黙が残る。

 

「……そうだな。お前も、一人の男だ」

 

「ああ」

 

話は終わった。

 

一護は茶渡へたつきを託した。離すのは怖い。

だが、背負ったまま相手ができるほど、自分の力を買い被ってはいなかった。

 

「チャド、頼む」

 

「任せろ」

 

右手を伸ばす。

 

「来いッ、斬月ッッ!!」

 

虚空を割って現れた柄を握ると、その重さに少しだけ気が落ち着いた。左腕には霊子の弓。頬を覆う虚の仮面も、今は恐ろしくない。

 

借りられるものは全部借りる。

 

そうしなければ、目の前の男は退いてくれない。

 

「多くは語らん。俺を力ずくで倒して逃げるか……いや、大人しく牢へ戻ってもらうぞ」

 

古男の刀が鞘を離れた。

 

「卍解」

 

オルガンの音が一段と大きくなる。

 

「『魁盤禁鞭形成謙譲湛』」

 

白い光柱が空へ伸び、雲の間に紫電が走った。正面を見るにも目が痛い。

 

「ぐっ……何という密度だ……!」

 

藍染の声にも余裕がない。

 

古男の背後には発光する古代文字。幾重もの輪となって回るその周囲を、さらに細かい文字が巡っている。何と書いてあるのか、一護にはさっぱり読めなかった。

 

読めたところで、授業の復習だったら殴りたい。

 

オルガンに管弦楽が加わり、混声合唱も盛り上がる。

演奏者の姿はどこにもないのに、全員やけに熱心であった。

 

「すげえええええッッ!! 何て迫力だァッ!!」

 

「何という無駄なエネルギー浪費だヨッッ!!」

 

「視覚と聴覚への過剰演出で、霊子をドブに捨てているのではないかネッ!!」

 

その苦情にも、古男は腕を組んだままだった。

 

文句があるなら終わるまで待て、ということらしい。

登場する本人も待っている。まだ出番ではないとは驚きだ。

 

一護に付き合う義理はない。

 

「演出が何だろうと関係ねえ! 行くぜ、先生ッ!!」

 

左腕の弓から光矢を放つ。

 

狙いは外していない。避けられてもいない。古男の胸へ届くはずの矢は、光る文字に触れた途端、横へ弾けた。

 

続く矢も同じだった。

 

文字の間を狙っても、上から射込んでも通らない。照明としか思えなかった光にまで跳ね返される。

 

「そいつら全部、盾なのかよ……!」

 

古男は動かない。

 

一護には、腕組みを崩させることすらできなかった。

 

「波濤……『荒神激』」

 

掲げた手の先から、黒い波が膨れ上がった。

 

高い。

 

そして広い。

 

逃げる先を探す間にも、波頭は広場の端へ届いていた。茶渡たちのいる場所までまとめて呑むつもりか。一護は斬月を両手で握り、正面へ構えた。

 

「くそっ、避けきれねえッ!!」

 

足を開いて踏ん張る。

 

押し潰されるなら、せめて少しでも切り裂く。背後へ通す量を減らそうと、波の腹へ刃を入れた。

 

手応えがない。

 

「ぐおおおおおおッ……あれ?」

 

視界いっぱいの黒い水の中で、一護は立ったままだった。

 

息もできる。

押されもしない。

濡れてすらいない。

 

全力で踏ん張った膝が、かえって恥ずかしい。

何が起きたのか確かめようと斬月を下げかけた時。

 

「隙だらけだ」

 

背中へ刃が入った。

 

「ぐわああああああッッ!!」

 

こちらは本物だった。

 

痛みとともに前へ倒れ、石畳へ膝を打つ。肩から腰まで熱い。

斬撃の途中で間に合った静血装が、辛うじて骨を守っている。

 

「くっ……静血装がなけりゃ、真っ二つだったぞ……!」

 

血を吐き、背後へ斬月を向ける。

 

古男はすでに間合いの外だった。斬り返す隙までは与えてはくれない。

 

「俺の卍解の光や文字には、一切の攻撃力がない」

 

「……あれだけ派手にやっといてか?」

 

「ああ」

 

一護は思わず津波の消えた広場を見た。

 

水溜まり一つない。

 

さっきまでの轟音も、足元の揺れも、押し寄せた霊圧も、すべて殴るための前振りだったというわけだ。

 

「だが、目に見え、肌で感じるあの霊圧を無視できるか? 本物の刃にのみ意識を絞れるか? しかも、演出中の俺は完全無敵だ」

 

「無敵……?」

 

「登場演出中に攻撃を受けては、格好がつかんだろう」

 

格好がつかないから無敵にする。

理屈としては小学生である。実現させる力があるせいで、誰も笑って済ませられなかった。

 

光矢を弾いた文字も、津波も、音楽も、同じ卍解の一部。

 

偽物と分かっても、次に何かが迫れば身構えてしまうだろう。その間に本物の刃が来る。見破ることと、戦えることは違うらしい。

 

一護は背中の傷を庇わず立ち上がった。

 

痛い。

 

だが、たつきはこれより深く斬られても進んだ。

ここで先生の手品に降参しては、目を覚ました時にどんな顔を向ければいい。

 

「へっ……だったら話は簡単だ」

 

「テメエのその気取ったクソ無駄な演出ごと、力ずくで丸ごとぶった斬ってやるよッッ!!!!」

 

内側へ呼びかける。

 

斬月の重さも、血管を走る霊子も、頬に張りつく仮面も、自分の力だ。一つずつ借りて済ませるつもりはなかった。

 

「おめーらッ!! 俺に力を貸せッッ!!!!」

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「やれやれ。久しぶりに呼ばれたと思えば、とんでもなく理不尽な男と戦っているな、一護」

 

斬月のオッサンの声がする。

 

分かっているのは、退くつもりがないということだ。

 

「ヒャハハハハッ!! 演出中が無敵なら、その無敵ごと噛み砕いて食い破るだけだろうがァッ!!」

 

白一護の笑い声が重なった。

 

「やってやるか、一護ォッ!!」

 

相談した結果、結論は力ずくのままである。三人寄れば文殊の知恵と言うが、この三人は全員一護なので、知恵の種類が増えなかった。

 

それでいい。

 

細工を見破り、演出の終わりを待ち、確実に刀を届かせる。そんな器用な戦い方を、今から覚えている暇はない。

 

「まとめて来い! 全部、俺によこせッ!!」

 

黒、白、青。

 

別々に溢れていた霊圧が、一護の身体へ戻っていく。

 

どの力にも遠慮はいらなかった。斬月を振るうのも、静血装で耐えるのも、虚の力で踏み込むのも、すべて一護自身である。

 

柄を握る両手に力が籠もる。

 

「卍…………解ッッ!!!!」

 

吹き上がる霊圧に、古男の合唱が掻き消された。

 

光の向こうで、巨大な斬月の輪郭が縮む。

 

「『天鎖斬月』」

 

握っているのは漆黒の小さな刀だった。

 

軽い。

 

背中の傷は消えていない。だが、先ほどまで身体を引き止めていた重さがない。踏み込めば、今なら届く。そう思えるだけの力が、手足の先まで満ちていた。

 

顔全体を覆う仮面は白黒に分かれ、左右対称の形を取っている。

 

背中には青白い霊子の翼。

 

頭上には光輪。

 

死神と虚と滅却師の力が、一つの姿に収まっていた。

 

古男の音楽も、文字も、光柱も、まだ消えてはいない。

 

その正面で、一護は天鎖斬月を構える。

 

たつきを連れて帰るために、今度はこちらから踏み込む番だ。




■ 魁盤禁鞭形成謙譲湛(かいばんきんべんけいせいけんじょうたん)

戸川古男が今回使用した卍解。

発動時には光柱、古代文字、雷光、音楽など極めて大規模な演出が展開される。

これらの多くは直接的な攻撃力を持たない一方、視覚・聴覚・霊圧感覚へ強烈な圧を与え、実際の攻撃との判別を困難にする。

■ 登場演出中の無敵

魁盤禁鞭形成謙譲湛の性質の一つ。

卍解発動に伴う演出が完了するまで、古男本人への攻撃は周囲に展開された文字や光によって遮断される。

本人曰く理由は、

「登場演出中に攻撃を受けては格好がつかないから」

■ 荒神激

古男が今回使用した技。

巨大な黒い波として知覚されるが、今回の使用では直接的な攻撃力を持たず、一護の防御行動を誘発するために利用された。

■ 一護の複合戦闘形態

死神、虚、滅却師という一護自身の異なる力を同時に引き出した状態。

斬月、静血装、虚の仮面、霊子による能力を別個の借り物として扱うのではなく、すべてを「黒崎一護自身の力」として統合している。

今後の展開について、尸魂界編のあとは

  • すぐ破面編がいい
  • バウント編とかも見たい
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