我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
八番隊五席。砕蜂の夫。藍染反逆後も相変わらず五席のまま。
砕蜂
二番隊隊長兼隠密機動総司令官。戸川古男の妻。しばらく表舞台から姿を消していた。
卯ノ花烈
四番隊隊長。古男とは護廷十三隊創設以前からの古い付き合いを持つ。
雛森桃
五番隊副隊長。藍染の離反と日番谷の重傷を受け、精神的にも大きな打撃を受けている。
緋山雷太
五番隊三席。破面ガルムルド・ジュードスタインでもある死神と虚の完全な混成体。
狭山薫子
一番隊四席。高い実力を持ちながら、人前に立つことを何より苦手とする重度の人見知り。
黒崎一護
現世の死神代行。処刑命令は撤回され、現在は志波家の別邸に滞在中。
朽木ルキア
十三番隊所属。一護とともに現世へ帰ることを望んでいる。
白鷹光四郎
六番隊四席。卍解を修得しているが、その実力を長年隠している。
藍染惣右介が虚圏へ逃亡してから、一週間が過ぎた。
四十六室は全滅。市丸、藍染、東仙は離反し、日番谷も昏睡から戻らない。欠けた隊長の職務を副隊長たちが引き受け、瀞霊廷はようやく日常を取り戻し始めていた。
戸川邸の襖が閉じる。
人目がなくなるのを待っていた古男は、大仰に両腕を広げた。
「クックック……! よくぞ大役を果たしたな、我が愛しの蜂の子よ!! さあ、遠慮はいらん、この俺の腕の中へ飛び込んでくるのだ!!」
砕蜂の足は、畳の縁で止まった。
「…………はい! 私……貴方の筋書き通り、上手くできただろうか……?」
「ふむ…………。寸分の違いもない。よくやったな」
頭へ置かれた手に、張り詰めていた肩から力が抜ける。
「ああ……ああ!! 古男!!! ありがとう……貴方にそう言ってもらえるだけで甲斐があった……!!」
古男の胸へ飛び込み、背中へ腕を回す。
しばらく誰も口を開かなかった。砕蜂の指が、そこにいることを確かめるように背中の布を掴んでいる。
「……………もし」
すぐ後ろから声が届いた。
砕蜂の肩が跳ねる。いつの間にか襖が開き、卯ノ花が座敷へ入っていた。
「ん?? 卯ノ花か。何の用だ」
「少し、こちらへいらしてください……」
柔らかな手招きに、砕蜂は眉を寄せた。それでも古男から腕を解き、示された場所へ寄る。
「む? こうか?」
「はい。……」
擦れ違った卯ノ花が、空いた場所へ収まった。
古男の胸へ身を寄せ、その首へ腕を回す。あまりにも自然な動きで、砕蜂の反応が一拍遅れた。
「…………」
「な………ッ!! 貴様、騙したなッッ!!」
「男の独占は、健康上も組織上もよろしくありませんよ、砕蜂隊長」
「この泥棒猫が……!! おい古男!! なぜその女を力づくで振り払わないのだッ!!」
古男は答えず、目玉ばかりを左右へ動かしていた。額には汗が浮かび、広げていた両腕も不自然な位置で止まっている。
「い、いや…………首から下の……手足が…………まったく動かなくてだな…………」
卯ノ花の袖から小瓶が現れた。まだわずかに残る液体を、目の高さでゆっくり揺らす。
「ええ。先ほどお茶に、涅隊長から特別に分けていただいた『疋殺地蔵の四肢麻痺毒』をほんの少し混ぜておきましたので。……それより、砕蜂隊長。私たちは等しく古男さんを共有する『共犯者』なのです。立場は完全に平等。――ならば……次に何をすべきか、聡明な貴女なら分かりますね……?」
砕蜂の目が見開かれた。
小瓶、飲みかけの湯呑み、動けない古男。三つを順に確かめ、卯ノ花へ顔を戻す。
「………………なるほどな」
怒りで寄っていた眉が開き、帯へ指がかかる。
「ク、クックック…………! ならば二人まとめてかかってくるが良い……。今夜はこの俺が、手足を使わずとも二人を存分に可愛がって…………む、むむ……?」
左右から帯の解ける音が重なった。
「手足が動かぬ貴様に何ができる。仕方あるまい……今夜は二人掛かりで、貴様を完全に腰砕けにしてやろう」
「身動きの取れぬ間に……骨の髄まで搾り取る……ということです」
「…………………………」
古男の笑い声は、そこで途絶えた。
◇◇
病室では、日番谷が眠り続けていた。
包帯に覆われた胸が、かすかに上下している。
雛森はベッドの脇に座り、動かない手を両手で握っていた。
「…………シロちゃん…………早く目を覚ましてよ、シロちゃん……」
返事はない。
扉の前に雷太の影が落ちた。
「…………」
雛森は顔を上げなかった。握った指先へ額が触れそうなほど俯いている。
足音を抑えて近づき、震える肩へ腕を回す。
「雛森…………」
涙に濡れた顔が、ゆっくり上がった。
「…………私、雷太くんが普段揉んでる女の人たちみたいに……胸、大きくないよ?」
「誰がこんな状況で胸目当てで触るかよ、そういうつもりでやったんじゃねえよ……!」
思わず上がった声に、雷太自身が日番谷へ顔を向ける。
瞼は動いていない。雛森の肩から腕を外す理由もなかった。
藍染サマよォ……。あんたは俺に『好きにしろ』と選択肢を投げたが……どう転んでも、俺は他人の女を横から奪うような趣味なんざ持ち合わせてねえんだよ……。
おい冬獅郎、テメエの幼馴染が泣いてんだぞ。さっさと起きやがれ、この馬鹿野郎が。
最後に浮かんだ物騒な単語だけが、唇から漏れた。
「……ねえ、雷太くん? さっき小声で『寝取り』って言わなかった……?」
「お前は一生知らなくていい単語だ」
頭へ手を置き、軽く叩く。
空いた椅子を引き寄せ、雛森の隣へ腰を下ろした。二人分の視線を受けても、日番谷は眠ったままだ。
◇◇
一番隊で薫子を待っていたのは、三番隊隊長への辞令だ。
差し出された書状へ両手を伸ばす。受け取る前から指先が震え、紙の端が細かく鳴った。
「え……………た…………隊…………長に……ですか……!?」
「そうじゃ。市丸、藍染、東仙の反逆、さらに日番谷隊長の戦線離脱……三番、五番、九番、十番の四つの隊長座が一度に空位となるなど、護廷創設以来の非常事態。よって、実力者たるそちに、市丸の後任として三番隊隊長を任せたい」
書状の向こうに、大勢の隊士が並ぶ光景が浮かぶ。
全員の前に立って就任の挨拶をし、毎朝指示を出し、報告を受け、相談されれば即座に答える。薫子の顔から血の気が引いていった。
「い…………いや………無理で………す……! プレッシャーで……溶け………ます…………! 吉良……吉良副隊長で良いじゃ……ないですか……???」
「儂に卍解を隠し、平然と擬態しておった不届きへの『罰』じゃ」
逃げ道を塞がれ、書状を持つ手がさらに震える。
「…………そんなぁ……………………。わ……た…………し、重度の……『陰キャ』……です…………部下に威厳をもって……命令とか………絶対にできません……!」
「安心せい。そちが吉良とは割と普通に業務連絡を話せることが、調査で判明しておる。陰キャ同士、気の合う副隊長と仲良く支え合って頑張るんじゃ」
否定する言葉が見つからなかった。
吉良とは話せる。余計な雑談を挟まず、必要な報告だけで会話が終わる。薫子にとっては非常に付き合いやすい相手だった。
山本の指が髭を撫でる。
「……なお、五番隊隊長の後任には、朽木隊長や狛村隊長からの強い推薦もあり、緋山雷太を内定しておってな。隊長同士ともなれば……定例の隊長会議や合同任務などで、顔を合わせる機会も劇的に増えるじゃろうなあ……」
書状の震えが止まった。
背筋が一息に伸びる。床ばかり見ていた目には、先ほどまでなかった光が宿っていた。
説得には数分を要したが雷太の名は一秒で効いた。
片膝をつき、拳を胸元へ当てる。顔を上げた時には、部下の百人や二百人を率いられそうな姿勢が完成していた。
「――謹んでお引き受けいたしますッッ!! 狭山薫子、護廷の意思を篤く胸に刻み、三番隊隊長のご指名、身に余る光栄としてありがたく拝命いたしますッッ!!!!」
「実によい返事じゃ」
返事だけなら、三番隊舎まで届いたかもしれない。
◇◇
志波家では、一護が縁側から落ちかけていた。
「はあぁぁッッ!? 俺に『十番隊隊長』になれだあッッ!??」
柱を掴み、どうにか踏みとどまる。
「そうだ! 私は東仙隊長の抜けた『九番隊』の隊長職を打診されたのだ! 一護も十番隊の隊長を引き受ければ……その……薫子ではないが、堂々と夫婦同格として瀞霊廷に……その……」
語尾が小さくなり、ルキアの指が落ち着かなく死覇装の袖を弄る。
「いやいやいや!! 冗談じゃねえ!! だったら元々そこの席に座ってた親父に頼めよ!! 親父は元十番隊隊長(志波一心)なんだろ!? 乱菊さんだって、昔の馴染みの上司が戻ってきた方が絶対やりやすいはずだ!!」
一斉に視線を向けられ、一心の眉が上がった。
松本も顎へ指を当て、かつての上司を眺める。
「ん〜……まあ、志波隊長が復帰してくれるなら、書類仕事全部押し付けられるし、一番自然で楽かも〜?」
「おいおいおい!! 中間管理職を押し付けるんじゃねえよ!! 俺がこっちに戻ったら、現世の『黒崎医院』の患者さんたちはどうなるんだよ!!」
「俺だって男子高校生だって言ってるだろォがッ!!!」
親子の指が同時に相手へ向く。
「……そうか。一護が引き受けぬのなら、私も隊長職は辞退しよう。……私も、一護と一緒に現世へ帰りたいしな……」
「お………おう」
一護の勢いが止まった。
頬を掻きながら顔を逸らす。赤くなった耳は、隠しようがない。
「えーーーッ!! もったいないよ朽木さん、せっかくの出世なんだから隊長になりなよー!!」
「ぬ……? 貴様、私を尸魂界に残して、現世で一護を独り占めしようという魂胆だな!?」
「嫌だな〜、そんなことないよ! 黒崎君が生きてる間は私が現世で『正妻』! で、黒崎君が寿命で死んだら、尸魂界で朽木さんが『正妻』になれば万事解決じゃないー!!」
「あと何十年待たせる気だ貴様はァァッッ!!!」
ルキアが立ち上がり、織姫へ詰め寄る。
織姫は悪びれず、指を折って一護の推定寿命を数え始めた。
本人はまだ生きている。しばらくは死ぬ予定もない。
たつきは縁側へ寝転がったまま、湯呑みを傾けた。
「アタシは……まあ、正妻争いとか面倒だから『側室』でもいいや。その代わり、夜の相手も飯の味も、アタシのことを一番に可愛がってくれるなら文句ねえよ」
「……名よりも実を取るか……。流石だな、有沢」
◇◇
現世組の帰還準備を終えた光四郎は、白哉のもとを訪れた。
障子の前で膝をつき、室内へ声をかける。
「白哉様……現世組の帰還準備が滞りなく整いましたので、出発のご挨拶にと参上いたしました」
「……光四郎。今は二人きりだ。その堅苦しい呼び方はよせ」
障子を開け、白哉の隣へ腰を下ろす。
「……では。――白哉、今回の事件……水面下で一体何が起きている? あの『崩玉』とやらは、一体どこから湧き出てきたのだ?」
「…………わからん。だが、藍染の言葉がどうしても気に掛かる。――『黒崎一護こそが全ての鍵だ』とな」
「鍵、か……」
短い沈黙が落ちた。
四十六室の全滅も、砕蜂を巡る騒動も、藍染の逃亡によって終わったわけではない。
肝心の狙いは何一つ明らかになっていなかった。
「光四郎。……お前が己の『卍解』を隠し、六番隊の四席という日陰の地位に甘んじている理由も、全てはこのためであろう。――頼む、光四郎。現世へ戻り、ルキアと一護殿の傍にいてやってくれ」
命令ではなく、頼みだ。
光四郎の拳が、隣の肩へ軽く触れる。
「ふふ……。お前が素直に人に頼み事をするなど、珍しいこともあるものだ。言われずとも分かっているさ。……ルキアは、亡き緋真によく似ているからな。お前も……いや、野暮な追及はやめておこう。引き受けた」
「……ああ。恩に着る」
出発の挨拶は済んだ。あとは、それぞれの場所で次の動きに備えるのみだ。
■ 砕蜂の偽装死
砕蜂の死が偽装されたものであり、古男、砕蜂、卯ノ花が事前に計画へ関与していたことが明らかとなった。
ただし、偽装を行った目的や作戦の全容については、現時点では明らかになっていない。
■ 疋殺地蔵の四肢麻痺毒
涅マユリの斬魄刀『疋殺地蔵』が用いる毒。
対象の四肢を麻痺させ、意識を保った状態のまま身体の自由を奪う。
今回は卯ノ花が涅から入手したものを使用している。
■ 隊長職の欠員
藍染惣右介、市丸ギン、東仙要の離反によって、五番隊・三番隊・九番隊の隊長職が空位となっている。
また、十番隊の日番谷冬獅郎も重傷によって職務を行えない状態にあり、護廷十三隊は大規模な人事再編を迫られている。
■ 狭山薫子
一番隊四席。
卍解『歪曲無限彎獄螺旋』を習得していることを長期間秘匿していたが、その実力を買われ、市丸ギンの後任として三番隊隊長への就任を打診された。
■ 白鷹光四郎
六番隊四席。
表向きの席次とは不釣り合いなほどの実力を持ち、卍解『光翼天回蝋(こうよくてんかいろう)』も修得済み。
卍解を隠し続けている理由については、まだ全てが明らかになっていない。
■ 「黒崎一護こそが全ての鍵」
虚圏へ離脱する直前、藍染惣右介が一護本人へ残した言葉。
何の「鍵」であるのか、崩玉や一連の事件とどのような関係を持つのかについては、現時点では不明。
今後の展開について、尸魂界編のあとは
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すぐ破面編がいい
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バウント編とかも見たい