我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生にして死神代行。処刑騒動を終え、ようやく現世へ帰還することになった。
戸川古男
八番隊五席。現世では空座第一高校の英語教師。独自教材『暗黒英語』をこよなく愛する。
砕蜂/戸川梢綾
二番隊隊長兼隠密機動総司令官。現世では戸川梢綾を名乗り、空座第一高校の体育教師を務める。
朽木ルキア
十三番隊所属。一護たちとともに現世で生活していた死神。朽木白哉の妹。
白鷹光四郎
六番隊四席。朽木家とは古くから深い関係を持ち、現世組の生活環境についても何かと世話を焼いている。
黒崎一心/志波一心
一護の父。現世では黒崎医院を営む医師。その正体は、かつて十番隊隊長を務めた死神。
志波海燕
十三番隊副隊長にして志波家当主。一護とは血縁関係にあたる。
更木剣八
十一番隊隊長。強敵と戦うことを何より好み、一護を気に入っている。
「…………なんであんたら二人が、当たり前みたいに荷物まとめて一緒に並んでんだよ? 戸川先生……それにシャオ先生」
「カーカッカッカッカ!! 愚問だな一護ッ!! 高校の正規教員が学校へ戻るのに、一体何の不都合があるというのだ!!」
「うむ。夏休みが明けて新学期に遅刻しては、教員として示しがつかんからな。二学期の体育の授業カリキュラムにも、色々と入念な準備がいるのだ」
穿界門を前に、夏休みの宿題を思い出した。
処刑中止の布告書を持参すれば、提出も免除してもらえないだろうか。事情を知らない教師への説明は、この二人に任せよう。
ついでに、担任から散々斬られた件についても、保護者面談で取り上げてもらいたい。
「そうだよね!! 戸川先生とシャオ先生が抜けちゃったら、空座高校のみんなの成績が下がっちゃうもんねーっ!!」
「うむ! 現世で我が至高の『暗黒英語』の開講を待ち侘びる、哀れな子羊(生徒)たちのために戻るのだ!!」
「……古男………今日も最高にかっこいい……!!!」
何度聞いても、あの笑い声のどこに惚れる要素があるのか分からない。
本人に聞けば体育の授業に響きそうなので、黙って荷物を持ち直す。
梢綾のすぐ後ろには卯ノ花までいる。
「さあ、私も参りましょうか」
「――お主はだめじゃ」
杖が横から差し込まれ、道を塞いだ。
「………は?」
「考えずとも分かろうが。救護の最高責任者たる四番隊隊長が、この混乱期に瀞霊廷を抜け出すわけにはいかんじゃろうが」
「……それを仰るなら、隠密機動総司令たる二番隊隊長だって……同じことではありませんか?」
「――今、目を逸らしましたね、総隊長殿?」
「ゴホンッッ!!」
まずい。こっちへ振られたら答えようがない。
誰とも視線を合わせないよう、足元へ目を落とす。
荷物の紐など直す必要もなかったが、こういう時には何かしている方がよい。
二度ほど結び直しているうちに、頭の上から古男の声が降ってきた。
「井上、茶渡、石田。お前たちには霊子変換器をあらかじめ装着させておいた。これで肉体負荷は皆無だ。それと……今後の緊急連絡用に、新型の伝令神機を全員分渡しておく。一護、お前の死神代行証にも専用の暗号通信機能を拡張しておいたぞ」
「お……おう。至れり尽くせりだな、先生」
こんな小さなもので連絡が取れるなら、迷った時にも随分助かる。次に来る機会があれば、最初から持っておきたい。
ポケットへ入れると、すぐに振動が伝わってきた。顔を上げた先で、織姫の手から同じ神機が振られている。試しに鳴らしたらしい。目の前にいるのだから手を振るだけで十分なのだが、嬉しそうなので一護も軽く振り返した。
「若旦那様、そして若奥様。お二人の愛の巣となる新居のお部屋も、滞りなく完璧に用意してございます」
「おお! ついに完成したか、光四郎!」
「げっ……!! てめえら、本当に隣の家を丸ごと改修してやがったのか……!!??」
ルキアの掌へ鍵が載せられ、こちらには合鍵が差し出された。
受け取らずに親父を探す。少し離れたところで、海燕と何やら楽しそうに話していた。
こっちを見ろ。息子の転居について、確認したいことが山ほどある。
そもそも、遊子と夏梨には何と説明する気なのか。窓から呼べば聞こえる距離へ引っ越して、食事時だけ帰ったら、それは別居に数えてよいのだろうか。
「で、これもだ。持っていけ」
視界を白い布が塞いだ。落とさないよう抱え、襟元を持って広げる。
「ん? なんだこの白い布……十番隊の『十』の文字……って、おい隊長羽織じゃねえか!! 俺は断ったよな!!??」
「クックック………心配するな。平時における隊長の任務など、大半は机の上の書類決済と事務仕事くらいだ。高校生をやりながらでも十分にこなせる」
「こなせるかァッ!! こちとら毎日尸魂界へ出勤する暇なんてねえ!!」
返そうと差し出しても受け取ってもらえない。床へ置くのも気が引けて、伸ばした腕が宙に浮いたままになる。
「ご安心を、若旦那様。新居の書斎に、尸魂界と直接交信およびデータ共有のできる最新型パソコンと直通電話を完備してございます」
「な……は………? テレワーク……? 隊長業務をリモートで在宅勤務しろってか……?」
故障していてくれないだろうか。
だが光四郎のことなので、動作確認まで済ませてあるに違いない。
帰宅早々、椅子へ座らされて操作方法を教えられる光景まで浮かんだ。
「そういうことじゃ。黒崎一護を、護廷十三隊『十番隊隊長代行』に正式に任命する。……重体の日番谷隊長が復帰するまでの、時限的な特例措置じゃ」
突き返しかけていた羽織を、手元へ戻す。
冬獅郎には、まだ帰るとも伝えられていない。目を覚ましたら文句を言われるかもしれないが、何もせずに帰るよりはましか。
「そうか………冬獅郎が復帰するまでの間だけなら……まあ、あいつへの義理もあるしな……」
「安心してくれ、一護。無給でこき使ったりはせんよ。ちゃんと十三隊の規定通りの正規の給与が支払われる。高校生のアルバイトよりは、遥かによく稼げるはずだ」
引き受ける前に言ってほしかった。
間違えて英語の答案を十番隊へ送ったりしないだろうか。
「…………ちなみに、いくら出るんだよ……?」
「そうだな……。現世の通貨に換算すると、基本の時給がだいたい四万円で……あとは出来高制だな。通常の虚を一体討伐するごとに約三十万円。さらにメノスや危険な特殊個体の討伐には高額な危険手当が加算される。……まあ、真面目に務めれば月給四百万円くらいにはなるんじゃないかな?」
「おおお………ずいぶんな低賃金で我が息子をこき使ってくれるじゃねえか、おい」
「待て待て待てェッッ!!?? 隊長ってそんなに金持ちなのかよッッ!! 月四百万が低賃金ってどういう感覚してやがるんだ親父ィッッ!!!!」
「そりゃあお前、あちこちの隊長屋敷を見ただろ? 瀞霊廷の最高幹部だぞ、金が唸るほどあって当然だろうが」
遊子はいつも、特売のチラシと睨めっこしている。
いや、今はその話を追及するのをやめておこう。働いて給料が入れば、欲しがっていた調理道具くらい買ってやれる。夏梨にも何か……と考えたところで、別の問題に気がついた。
「……………くそっ、これじゃ高校生なのに親父の扶養控除から余裕で外れちまうじゃねえか……確定申告どうすんだよ……」
税務署の窓口で職業を聞かれたら、何と答えればよいのか。
死神です。役所で言うには、あまりにも勇気のいる自己紹介だ。
職場の電話番号を渡して、裏を取ってもらうことはできるのだろうか。
松本に対応を任せるところまで想像して、少し不安になった。
「はっは! まあ隊長職を外部発注せにゃならんくらい、今の十三隊は人手不足で厳しいのよ! 身内のよしみで勘弁してくれや、一護!」
「だったらお前が十番隊の隊長をやれよ海燕ッ!! 聞いたぞ、お前本当はとっくに卍解できるらしいじゃねえかッッ!!」
「残念ながら、うちの十三番隊は浮竹隊長が年中病弱で休みがちでな! 実質的に俺が隊長業務を全部回してるようなもんなんだよ! これ以上掛け持ちできるかっての!」
「面目ない……」
浮竹の咳が続き、口まで出かかった反論を呑み込む。
ここで粘っても、看病を手伝う仕事が増えそうだ。
海燕には後で書類の処理を教えてもらうことにしよう。今から約束を取りつければ逃げられそうなので、最初の一枚が届いてから電話するつもりでいた。
荷物を開けて羽織を畳むと、頭のすぐ上で鈴が鳴った。
顔を上げたくない。もう誰なのか分かる。
「おい一護ォォッッ!! おめえ現世へ帰っても、休みの日は必ずこっちへ遊びに来いよ!! また先週みてえに朝までトコトンやり合おうぜェッッ!!!!」
「嫌に決まってんだろバーカッッ!! 昨日の手合わせだって俺が一本取って勝ち逃げしたんだから、もう二度と御免だっつーのッッ!!!!」
笑い声が返ってきた。
断り方を間違えたかもしれない。勝ち逃げなどと口にしたせいで、剣八の目はますます楽しそうだった。肩を掴まれる前に荷物を抱え、仲間の方へ寄っておく。
穿界門が開いた。
ルキアに袖を引かれるまま、一歩踏み出す。横から伸びてきた織姫の手には合鍵があった。受け取り損ねていた分を預かってくれたらしい。
礼の代わりに頷いてポケットへ入れると、すぐ後ろからたつきの肘で背中を小突かれた。
急かすな。帰る。ちゃんと帰るから。
見送りの声に片手を上げ、門を抜けた。
◇◇
頬に風が当たった。
下を走る車の列を目で追い、道を二本数える。あの角を曲がれば医院まですぐ。
商店街の信号待ちに、自転車が並んでいた。青へ変わっても先頭が動かず、後ろからベルを鳴らされている。
ああ、いつもの町だった。あの自転車に乗って、何を買って帰るか考えているくらいがちょうどいい。
腹が鳴る。夕飯を思い浮かべた途端これだった。
隣からも似た音が聞こえたが、振り向かずにおく。
たつきに睨まれるか、飯を作れと催促されるか、どちらにしても早く帰った方がよい。
前を行く古男へ追いついたところで、刀の柄が目に入った。
「ん?? そういえば戸川先生、斬魄刀の柄についてたあの怪しげな玉……どうしたんだ? どこにも見当たらねえけど」
「ん? クックック……友人にくれてやったのだよ。あの、暗黒のスーパーボールをな」
「……スーパーボールってなんだよ。相変わらずわけの分かんねえことばっかり言ってやがる……」
それ以上は聞かなかった。
黒崎医院の看板が見えた。今度こそ荷物を下ろせると、そちらへ足を向ける。
まずは、ただいまと言わなければ。
【尸魂界篇・完】
■ 霊子変換器
現世の人間が尸魂界との往来を行う際に用いられる補助装置。
今回使用されたものは古男たちが調整した新型で、現世組の肉体・魂魄双方への負担を抑えている。
■ 新型伝令神機
尸魂界で用いられる携帯通信端末の改良型。
現世と尸魂界を跨いだ連絡にも対応し、今回から一護たち現世組にも正式に配備された。
■ 死神代行証
黒崎一護が所有する死神代行の証明書。
本作では認証機能だけではなく、古男による改造で尸魂界との暗号通信機能も追加されている。
■ 十番隊隊長代行
日番谷冬獅郎が職務へ復帰するまでの臨時措置。
正式な十番隊隊長はあくまで日番谷であり、一護の任命はその席を一時的に預かるものとなる。
■ 志波一心
黒崎一心が尸魂界で使用していた名。
元十番隊隊長であり、松本乱菊にとってはかつての直属の上司にあたる。
■ 魁湛
戸川古男の斬魄刀。
以前は柄に球状の物体が取り付けられていたが、現在その姿は見当たらない。
古男本人はそれについて「暗黒のスーパーボール」と呼んでいる。
今後の展開について、尸魂界編のあとは
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すぐ破面編がいい
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バウント編とかも見たい