我こそは十四番隊隊長(自称) 作:かなりゆっくりめ
空座第一高校一年生にして死神代行。尸魂界から無事に現世へ帰還し、新学期を迎える。
朽木ルキア
十三番隊所属の死神。一護とともに現世へ戻り、黒崎家の隣に用意された新居で生活する。
井上織姫
一護の同級生。尸魂界への救出にも参加した高い霊能力を持つ少女。
有沢たつき
一護の幼馴染。古男から暗黒魔闘術を学び、独自の戦闘技術を身につけている。
戸川古男
八番隊五席。現世では空座第一高校の英語教師を務める。一護たちからは戸川先生と呼ばれている。
狭山薫子
元一番隊四席。卍解『歪曲無限彎獄螺旋』を修得する実力者だが、極端に人付き合いが苦手。
緋山雷太
元五番隊三席。死神と虚の性質を併せ持つ特殊な存在で、薫子とは古くから親しい。
涅マユリ
十二番隊隊長兼技術開発局局長。非常に優れた研究者だが、言動には一切の遠慮がない。
足が痺れてきた。
布団を敷いてから、随分経つ。ルキアの膝が揃っているので、一護も崩すに崩せない。
二人とも、寝る前に正座などする習慣はなかったはずなのに。
「……一護」
こちらも何か言わなければ。
名前を呼ばれて名前を返すのは間抜けな気がしたが、ほかには思いつかない。
「…………ルキア………………」
肩へ手を伸ばす。
どちらの腕を上へ回すべきなのか。この期に及んで、そんなことまで分からなくなった。
「ん〜〜〜。黒崎君と朽木さんじゃ、やっぱりちょっと身長差がありすぎるよねぇ〜」
「まあアタシ達も流石に一護の身長には届かないけどよ……それにしてもアンバランスだな!」
頭の上を見上げた途端、ルキアの額とぶつかった。
天井から織姫が降りてくる。たつきに至っては、まだ片足が壁の向こうにあった。
「なッッ!? な、何してやがんだテメエらァァァッッ!!!!??」
「いや〜、隣に立派な新居ができたから、絶対に夜はこういう展開になると思ってたんだよね! 来てみて本当によかった〜♡」
「抜け駆けされて一番乗りを奪われるところだったからな!! 危機一髪だったぜ!」
痺れた足を投げ出し、玄関を指す。
「待て待て待てッ!! 鍵はどうしたんだよ鍵はッ!! ちゃんとチェーンまで二重にかけて施錠したはずだぞッッ!!??」
「大丈夫だよ〜。私たちの本物の体は、自分のお家のベッドでぐっすり寝てるから!」
「一人暮らしの織姫はともかく、アタシが夜中に家を抜け出したら親父やお袋にバレて大問題になるだろ? その点、やっぱり魂だけで単独行動できる死神のシステムは羨ましいぜ」
「戸川先生に頼み込んで、霊子変換器を携帯サイズに改造してもらえて本当に良かった〜! 一度幽体離脱してから潜入しなきゃいけないのがちょっと面倒だし、この状態だと本格的な戦闘はこなせなさそうだから……こんな夜這いの時にしか使えないんだけどね♫」
「夜這いに使うために改造させたのかよッッ!!!!」
明日の朝一番に抗議しよう。
授業中でも構わない。教卓へ神機を叩きつけ、夜中の訪問を防ぐ方法を説明させる。
生徒の質問には親切に答えるのが教師ではなかったか。できれば、これまでの改造を全部取り消してもらいたい。
袖を引こうとして、隣のルキアへ顔を戻した。
手が止まる。
「………………貴様ら。……この神聖なる閨に、わざわざ邪魔をしに来たのだな?」
「もちろん♫」
「一護に最初に抱かれる名誉ある権利は……このアタシがもぎ取るッッ!!」
三人とも、こっちを見ろ。
明日は学校なのだ。もう何時だと思っている。時計を見ようとしたところで、耳元に低い笑い声が触れた。
「ふ………ふふふふ………。実体のない幽体ゆえに、まともな戦闘ができないのだな……? ならば好都合だァッッ!!」
義骸が布団へ倒れかかってきた。
慌てて支えると、その向こうには死覇装のルキア。
さっき光四郎へ礼を言ったばかりなのだが、まさか日付が変わる前に修理を頼むことになるのだろうか。
「――今この場で貴様ら生霊どもを叩き伏せ、私が正真正銘の一番を奪い取ってくれるわッッ!!!!」
「えーーーッ!! 怖い……!! 朽木さん怖いよ黒崎君!! 狂暴な悪霊から私を守ってェェッッ!!」
背中へ両腕が回り、起き上がりかけた身体を引き戻された。
支えていた義骸を横へ寝かせる。
「上等だコラァッ!! 暗黒魔闘術なら、幽体離脱の魂魄状態だろうが関係なくブッ放せるんだよッッ!! かかってきやがれ白雪姫ェッッ!!!!」
「言ったな泥棒猫どもォォッッ!! 死して清まれェェッッ!!」
振り下ろされる腕を両手で止めた。
刀を向けるな。まず刀を。そう言おうと開いた口へ、横から踵が飛び込んできた。頭が跳ね上がり、後ろへ倒れる前に鳩尾へ拳がめり込む。
「ぐえっッッ!!?? おい待て、なんで俺を殴るんだ井上ェッッ!? たつきも蹴りを俺の顔面に当てるなァァッッ!! ぎゃあああああああああっっ!!!!」
枕を抱えて割り込んでも、その枕ごと殴られた。
壁を抜けられるのなら、拳も身体を抜けてくれればよいものを。
畳へ片手をつくと、すぐ脇を白い刃が走った。
◇◇
机へ額を預けようとして、顎が引っかかった。
コルセットのせいで首を曲げられない。椅子を後ろへ引き、腰から倒すように伏せると、今度は腹が痛んだ。
もう、この角度でよい。筆箱を枕にすれば、どうにか目を閉じられそうだった。
「いっちーーごーーーッ!! 新学期一番乗り――って、どうしたんだよその包帯グルグル巻きの怪我ァァッッ!!??」
「……お……おはよう、啓吾……」
「…………本当だ。どこの戦場帰りかと思ったよ。一体何があったの、黒崎君?」
水色まで加わった。
湿布に髪がくっついている。剥がすのは後でよい。
朝からこれ以上、痛い思いをする必要はない。
「…………………俺さ………………しばらくの間、男同士でピュアな友情だけを育みたい…………女って本当に怖い…………」
「???? え、一護……ついにそっちの道に目覚めちゃった感じ……!?」
「そういう意味じゃねえよぶん殴るぞコラァッ!!」
拳を握っただけで肩が痛んだ。
スピーカーが鳴った。
ギターとドラムが叩き込まれる。机の上で筆箱が震え、廊下からは曲に合わせるように靴音が近づいてきた。
聞き覚えがある。あまり思い出したくない。
扉が吹き飛んだ。
「カーカッカッカッカッカ!!!! 新学期だ愚民どもォォッッ!! このグレートティーチャー戸川こと『GTT』が、二学期も貴様らを闇を統べる暗黒の聖騎士へと徹底的に鍛え上げてやるぞおおおおおッッ!!!!」
「おーーーーーーッッッッ!!!!」
教室中の机が鳴った。
握り拳の上がる中、一護には耳を塞ぐくらいしかできない。
今は一分でも寝たい。教師には、出欠を取って教科書を開く程度の地味な仕事を期待している。
「……新学期早々、うるせえよ……」
◇◇
「――では、全隊長の合意に基づき、新三番隊隊長に狭山薫子、新五番隊隊長に緋山雷太を正式に任命するものとする」
「へ……へへへ……ひひ……ひひひひ……♡」
雷太の耳にも、その笑い声が届き続けた。
ここで注意すれば、山本の言葉を遮ることになる。頼むから名前を呼ばれた時くらい普通に返事をしてくれ。
「謹んで、よろしくお願いいたします」
頭を下げても、笑いは止まらなかった。
あとで何をそんなに喜んでいるのか聞いておこう。それまで何事もなければよかったのだが、マユリの舌打ちが早くも耳に入る。
「チッ……子ども同然の青二才共がまたも増えるとはネ。護廷十三隊の隊長格は、いつから託児所や保育園に成り下がったのだネ?」
隣の笑いが止まった。
前髪はピンで留めてある。髪に隠れていた紫の瞳が、今ははっきりと見えた。
「…………マッド………サイエンティスト…………えへへ……死ねばいいのに……」
マユリの襟が捩れた。
首の辺りで空間が歪む。任命書を脇へ抱え、空いた手で薫子の頭を叩いた。
「おい待て薫子、就任初日から身内を捻じ曲げようとするな。自重しろ」
「ひひ……ひひひひひッ♡」
歪みが消えた。
だが笑い声は、さっきより大きくなった。注意が通じたのか、単に気が逸れたのか。
頭に置いた手を離すべきか迷う。
「……チッ、気味の悪い女だヨ」
そういうことは、聞こえないところで言ってほしい。今度こそ注意をするため薫子へ顔を向けると、こちらばかり見ていてマユリには興味をなくしたようだった。
前髪を上げたのはよいが、視線が分かりすぎるのも困る。
「……なお、副隊長の任命権は各隊長に一任されておる。空位の補佐はどうするつもりじゃ?」
「五番隊は、雛森桃副隊長のままで問題ありません。あの馬鹿は今、志波家の修繕費で天文学的な借金を背負わされて泣いてますからね。俺が隊長として給料の上乗せと面倒を見てやりますよ」
「うむ、情に厚い判断じゃな。……狭山はどうする?」
「…………吉良…………の。まま。……陰キャ同士…………気が……合いますから……」
「よろしい。これにて新体制の護廷十三隊を出帆とする!」
■ 携帯型霊子変換器
戸川古男が現世組用に改造した霊子変換器。
従来より小型化され、現世でも肉体と魂魄を一時的に分離できる。
ただし携帯性を優先しているため、本格的な戦闘用途には向かない。
■ GTT
古男が自称する「グレートティーチャー戸川」の略称。
本人は大いに気に入っているが、生徒側から正式に認められた称号ではない。
■ 歪曲無限彎獄螺旋
狭山薫子の卍解。
薫子は長い間、卍解を修得している事実そのものを隠していた。
■ 五番隊新体制
藍染惣右介の離反によって空席となった五番隊隊長職を補うため、新たな人事が行われている。
雛森桃は引き続き副隊長として所属する。
■ 三番隊新体制
市丸ギンの離反によって空席となった三番隊隊長職についても、新たな体制へ移行。
副隊長の吉良イヅルは引き続き三番隊に所属する。