「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集   作:スケィス3rd

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時系列は最終ダンジョン突入直前。神域に続く道をベアヒルダに探してもらってるタイミング、という設定。

つまりネタバレオンパレード


呪縛解ける時(前編)

 ヴェリアプールの町、シロウサギ亭にて。朝食の時間帯に、パーティらしき男女3人組が席についていた。

 女性達の名前はテイニィ、及びプリスティナ。対面に座っている男性と一緒にラビリントスに潜り、その秘密の最奥に一番近づいてる一団である。

 そしてテーブル対面に座ってるこの男性こそそのパーティのリーダーであるわけなのだが…朝っぱらから机に突っ伏して意気消沈している。

 

「で、いい加減、なんで朝っぱらから財布も持たず街中で呆然としてたか教えてくれないか?」

 

 テイニィとプリスは宿屋住みであるが、朝の散歩にと近くを歩いていたところ…ラビリントスのある地区の丘の上の一軒家に住んでいる筈の、この男が呆然とした表情で立っているのを発見したのだった。すわ一大事かと近寄っても別に外傷もなく…こうしてとりあえずシロウサギ亭で茶を飲みながらの事情聴取と相成っている。

 

「…出された…」

 

「え、なんですか?聞こえないです」

 

 彼がようやく絞り出すような声で答えたが、プリスはききそびれてしまう。男性は顔を上げると、絶望的な表情で、もう一度告げた。

 

 

「トルテとファノに家を追い出された…」

 

 

「はぁっ?!」

「えぇ…」

 

 

 アルカディウス・レナ・トルテ、及びファノ・フーヴェリア。テイニィ達と同じくラビリントスの秘密に最も近づいてるパーティの初期メンバーであり、彼を『家から追い出す』事が最もあり得ない2人の名前である。何故なら…

 

「いや待てよ相棒!お前ら『昨日入籍してきた』ばっかじゃないか!?」

 

 そう、立場上は奴隷でもあった2人に、この男が指輪を買ってプロポーズし、役所に婚姻届けを出してきたのはまさに昨日の事だった。(なので正確には2人とも苗字が変わっている)

 

 

 

 

 ラビリントスとは、邪神パルファドールが自らの顕現の為に仕掛けたトラップのようなダンジョンである。ヴェリア神がなんとか神の世界でパルファドールの顕現を抑えている状況で、元パルファドールの傀儡であり、現在はパーティに加わったベアヒルダの協力の下、神の世界、神域への突入手段を模索しているのが現状。そんな段階で、彼はトルテとファノの2人に結婚を申し込んだのだった。

 トルテ達の関係性は少々複雑だ。当時絶賛傀儡中であったベアヒルダの姦計で、王女の身から奴隷に転落したトルテを彼が「購入」。その後ラビリントスの探索中に発見され、記憶や素性を示すものを一切失い無戸籍のファノを権利的に保護する為、これまた彼の奴隷とした。つまりご主人に対し奴隷2人という、字面で見るとかなり怪しい関係である。

 だが、彼はトルテとファノに対し、嫌がることを一切強制せず、ただ共に旅する仲間として扱った。最初の頃は不信感丸出し、及び男性恐怖症による拒絶を前面に出していたトルテとファノも、次第に彼の誠実さを認め、気がつけば「奴隷と主人」ではなく「仲の良い3人組」としか見えないパーティになっていた。テイニィもプリスも、2人がある程度彼に慣れてからパーティに合流したため、その身分が実は奴隷であると知った時は驚いたものだ。どちらかというとトルテの方が多少我儘をいって彼がそれに対応している為、トルテの方が主人のがまだしっくりくる、といったレベルである。

 そんな彼が、2人に結婚を申し込んだ。この国では経済的に問題ないなら複数人妻帯することは合法であるし、何より今の彼は皇帝直属、帝国の黒騎士である。後ろ指をさされることのない立場、かつ仲の良い3人の門出を、昨日祝福したばかりだったのだが…?

 

「一体何をやらかせば新婚初日に追い出されるんですか先輩…」

 

「…だって、2人がその…下着で、初夜だからってそういう事に誘ってきたから…下手したら神域に身重の体で行く事になるのに、そんな事できないって…」

 

 

「それは相棒が悪い」

「それは先輩が悪いです」

 

 

 何だこの男。プリスとテイニィの声がハモり、表情もジト目で揃う。つまるところ、なんと彼の方が新婚初夜の事情を拒否したため、乙女の覚悟を踏みにじられた2人が怒って追い出したらしい。

 

「で、でも!僕には身重の嫁を邪神との決戦に連れて行くなんてできない!…って説明したんだけど…」

 

「いやまぁ、言っていることは間違ってないんだけどよ…」

 

 ベアヒルダの研究は一応「めどが付いていて近いうちに行ける」とは言っているものの、いつ完了するか確定していない以上、下手に子供を身ごもってしまうと、邪神への道が開けた段階で身重で戦えない、なんて事態が発生しかねない。どこかの異世界なら妊婦が強くなるなんてトンチキなダンジョンも有るかもしれないが、少なくともこの世界においてそんなことはあり得ない。純粋な戦線離脱だ。

 

「そしたら、『じゃあなんで結婚したの』ってトルテが怒るから…『2人が自由を得て、未来を選択する為必要なことだから』って答えたら、問答無用で…」

 

「それは完全に相棒が悪い」

「それは完璧に先輩が悪いです」

 

 

ハモり、2回目。そして今回は弁明のしようもなく彼が悪い、で意見が一致する2人であった。

 

 

 奴隷に堕ちた人間をそこから救うにはいくつか手法があるが、その一つに結婚がある。正確に言えば奴隷術式そのものは失効していないものの、戸籍上は夫婦として同等の権利が付与され、そこから通常の市民戸籍への復帰、及び奴隷契約の解除が現実的なものになる。それ自体は、奴隷に貶められた2人を現実的な手段で救いたい、という善意の表れではあるのだが…

 

「…相棒、それ本当に言ったのか?」

 

「言った瞬間グーパンが飛んできて、仰け反って家の外に出たらそのままカギ閉められた…」

 

 つまり、受け取り方によっては愛情をもって結婚したのではなく、奴隷扱いしてしまった贖罪とか、そこから解放するという義務感とかそっちで結婚をした、と取られてもしょうがない事をいったのである、この男は。論理的には彼の方が正しい初夜云々が可愛く見えるレベルの大失言に、頭を抱えるプリスとテイニィ。

 

「私てっきり、いい加減後ろ指をさされず健全にそういう事したいから結婚に踏み切ったのかと…」

 

 それはそれでどうかと思う発言をするプリスだが、そんな彼女に反論したのは彼の肩の上にいた剣霊のアウラ。素養のない人間には見えない妖精のような存在である。一応、追い出される際もオウドラゴンだけは持っていたらしい

 

「うちのマスターがそんな事考え付くなら、わらわは苦労しとらんよ。あの2人とキスをする時だって散々謝り倒していたのだぞ?」

 

 

 彼の使う聖剣オウドラゴンは、女性との接触によって能力が解放される、という、一般的世の男性からするとそれを口実に関係を持てる夢のような…しかし、彼にとっては厄介な機能が備わっていた。「接触」というのが粘膜の接触であるなら種類は問わない、と知り、最初は「手の甲にキスで済ませられないか?」と真顔で提案したほどである。

 

「たわけ!粘膜『同士』でなければ意味がないわ!」

 

 困り果てる彼をアウラが叱り飛ばす。その段階で大分彼に慣れていた2人が「なら、一瞬だけ唇同士のキスをすればいい」と逆に提案してきたレベルで、彼は渋った。提案を受けた後も…

 

「ファノ、男が…僕が怖いのは分かってる、無理をする必要ないんだ」

「トルテ、どこの馬の骨ともわからない男となんて無理、と思うならちゃんと言って欲しい」

 

 等と真顔で宣い、焦れたトルテに逆に唇を奪われる結果になる有様…(その後ファノは頬を染めながらバードキス)

 

 

 

 

 

「改めて聞くと、相棒本当にあの2人の事大事にしてるよな…あたしにはあんなことさせた癖に」

 

「だってテイニィ、僕の事一回見捨てたじゃん、チャラだよそんなの」

 

「うぐっ…」

 

 テイニィは一回、彼の方が媚薬入りワインを飲まされ行動不能に陥った時に「介抱して」助けたことがある…あるのだが、その前に船で一緒になった時は、魔物の大群から逃げる為さっさと彼を見捨てて転移した前科もある。それ一回でチャラにする程度には気にしてない、という意味でもあるのだが…

 テイニィとプリスは知らないが、ファノとトルテが性的なトラブルに巻き込まれるたびに、彼はすぐフォローしたり、性的な攻撃、嫌がらせをやってきた相手には殺意全開で挑んだりしている。二人を襲おうとしたダークユニコーンなど、そのまま馬刺しにされるのではというレベルでボコボコにされている。蝶よ花よとはいかないまでも、冒険者の女性に対しては破格の丁寧さと言えた。

 

 

「あの2人だって馬鹿じゃないし、大事にされてること自体は認識してるだろうになぁ…」

 

「そうじゃな。2人で話してる時に『自分たちを見つけたのが彼でよかった』なんて笑顔で話す程度に、真っ当に慕っておった」

 

「…あの、ちょっと気になったんですけど…」

 

 アウラとテイニィがしみじみしてる横で、申し訳なさそうに挙手するプリス。

 

「もしかしてなんですが…先輩って、先輩自身がお二人を愛してるって言葉でちゃんと伝えたことあるんですか?」

 

「…ない…」

 

 

『はっ?????????』

 

 

 今度は三重奏である。

 

「…いや、確かにわらわもかなり一緒におるが、マスターが好きだ、愛してるの類の言葉を言ったのを聞いたことがない…??褒めてる言葉はいくつも聞いても…確かに一言も言っておらんぞこの男!?」

 

「うっそだろおい!?あれだけ宝石みたく大事にしてて、好きだの一言もなし!?」

 

「それで『選択肢の為』って…トルテさんとファノさん可哀想…」

 

 

 もはや彼を見る目が罪人に向けるそれになってる3人だが、そこは彼も意見があるのか、涙目になりながら反論を始めた。

 

 

「だって、卑怯だよ…僕の立場からそれを言ったら、あの2人に断るという選択肢はないんだよ?」

 

「…えぇ…いや、一般的には…そう、か?」

 

 確かに、奴隷の持ち主から奴隷へ好意を示せば、奴隷側に拒否の自由はない。それが、「如何わしい」目的の奴隷で「具合が良い」という意味でも、労働用奴隷で「役に立つ」という意味でも…良い、と言われた事を拒む権利はない。冒険中における判断なんか含めて、トルテは大分対抗意見をいったり場合によっては彼の行動を拒否したりしてたが…ないったらないのである。

 

「でも、結婚して一度僕と同じ権利が付与されれば…そこから奴隷契約の解除につなげれば、彼女らの意思を尊重できるようになる」

 

「理屈は正しいんですけどそんなもんの為に結婚したって言われたら怒りますよやっぱり」

 

「自分も2人に好かれている、という事実を考えてから言葉を選ぶべきだったな、マスター。過度な謙遜は時に人を傷つけるという事じゃ」

 

 これがまだ、そこまで心を開いていない状態でなら「優しいご主人でよかった」位になるのだろうが、今の二人は結婚の意味をそちらではなく、心が通じ合った結果と認識している筈。プリスはファノと一緒に買い物をしたことがあるが、『あの人に可愛く見てもらえるでしょうか?』と照れながらもリボンを選んでいた姿を知っている。…ので、眼前の唐変木に対し怒りがこみあげてくる。

 

「トルテですら相棒にアピールしようと料理覚えてたってのに…」

 

 テイニィもまたトルテと雑談の中で、お姫様育ちの為に苦手だった料理の腕を上げようとしてる話を聞いていたため、目の前の朴念仁に対し怒りを募らせていた。

 

「確認しますけど…先輩はお二人の事、ちゃんと好きなんですよね?」

 

「好きでもなかったらここまで二人の権利なんか考えるもんか!!むしろ僕にはもったいない位素晴らしい女性なんだぞ!」

 

「その素晴らしい女性への扱いが信じられない位おかしいのでこうやってお話してるんですが?」

 

「ハイ」

 

 逆切れしかけた彼をひきつった笑顔で黙らせるプリス。

 

「そういえば確かに、昨日指輪を渡すときも『関係をはっきりさせたいんだ』としか言っていませんでしたね…あの時気が付くべきだった…」

 

「いや分かる訳ねぇんだわ」

 

「それ自体は『奴隷と主人』ではなく『家族』になりたい、という意味じゃからな…普通既に好意を伝えてると思うわ…」

 

 容疑者が縮こまる中、陪審員からはプロポーズにすらダメ出しが飛ぶ。

 

「…アタシも確認するが、相棒は2人のどんなところが好きなんだ?伝えるからにはその点もちゃんと言わないと説得力ないぜ?」

 

「ああ、それは…」

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「そんな言葉を真顔でスラスラいえるのに一言も伝えてなかったのか!?マジで!?相棒は正真正銘の馬鹿なのか!?」

 

 テイニィに問われ、彼が語った2人を好ましく思う点、その内容は、テイニィとプリスではとてもじゃないが真顔では言えない程甘ったるく、詩人か何かに文章を作らせたのではと疑うような惚気であった。

 

「…ちょっと、これはコーヒーでも飲まないとやってられませんよ…」

 

 あてられたプリスもぱたぱたと手で顔を仰ぐ。テイニィより幾分そういう表現には耐性がある(これでも彼女は貴族だ)筈だが、耐えられなかったらしい。

 

「マスター…お主、そこまであの2人の事を好いておったのにずっと据え膳お預けしとったのか…」

 

 アウラに至っては呆れるのを通り越してとうとう感心すらし始めた。

 

「その気持ちをちゃんと伝えるためにも、まずは家に入れてもらうためにお詫びする方法考えましょうか…」

 

 

 

 




1個目の話にしていきなり元奴隷の嫁から家を追い出された主人公がいるらしい

結婚と戸籍と奴隷契約云々は独自解釈です。


各仲間の状況設定

共通:全員、主人公の家には招かずシロウサギ亭暮らし

プリスティナ→武器オタクなのを黙っている為PT加入の状態でイベントストップ
テイニィ→お酒回収クエストで「介抱」してもらった段階
リーゼ→彼女の場合は救助が必要なのでイベントをこなさないといけない。当然トルテとファノには冷たい目で見られた
ベアヒルダ→個別のイベントはこなさず協力してもらってる


実プレイではサブヒロインのイベントをすべてこなした上でメイン2人のみ指輪まで渡したのに清いお付き合いのまま、というプレイスタイルだったのですが、結果的に「大切なものには手を出さない癖にそれ以外だと気軽に」というアレなスタイルになってしまったので、お話の中では上記のような制限になります。

独自設定である以上、その手のイベントを回避して邪神教団アジトを壊滅させたり、ベアヒルダとクエストに行ってもいいんですけどね。むしろそういうお話を書くのもありか。



以下、小ネタや出展解説

・サブタイトルについて
「プロマシアの呪縛」の節タイトルより。筆者の「冒険者」としての源流。
本当はギャグなので「投げ込んだのは貴方じゃないですか」「キモいから名前で呼ぶな」あたりのクエストをもじってつけようとも思ったのだが、後編との兼ね合いが上手くいかず断念。


・主人公の口調について
デフォルトの初期アイコンが少年ぽいので、意図的に少し幼く感じるような、優し目の口調。プレイ中の想定の口調そのままで書こうとすると、「短剣二刀流を好み、紅い外套を身に着けた弓兵」のような気障なものになってしまうので…何度も矯正しています。

・ベアヒルダの研究完了タイミング
結局数日後だった。一刻も早くヴェリアを助けに行きたいトルテとファノとベアヒルダと、それでも最悪を想定した主人公の意識の差もすれ違いの要因のひとつ。
なお最終的な目標達成もそこから数日中だった為、彼の心配は完全に杞憂だった。というかヴェリアが割と早くダウンしてしまうので、「そんなになるまで」待っていられない方が正しい


・子供が出来たら戦えない~
実はトルテがイベントシーンで言及している(戦えなくなるけど、子供は欲しいと思う?という形)ゲーム中ではシステム的にその可能性はないのだが、では可能性がある作中世界ではどういう判断になる?と考えた結果、こういう形になった。

・妊婦の方が強いトンチキダンジョン
本当にそういうゲームが実際に存在する。


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