「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集   作:スケィス3rd

10 / 10
今回は本編終了後より数年後設定。とあるイベントの再来の再設定、みたいな


幸せのさじ加減

 ヴェリアプールの高台にある冒険者の邸宅、その入り口にて。

 一組の男女が玄関口に立って、客人を待っていた。一人は家主の男、聖剣の担い手。もう一人はその妻、トルテ。トルテの方はリラックスしてニコニコしている一方で、彼の方は若干緊張の面持ちである。

 

「別に、緊張することないでしょ?お母様が此処に来るのも初めてじゃないんだし、お忍びなんだから立場も気にしなくていいのに」

 

 そう、本日は客人として、この国の皇帝にしてトルテの母、キルシュがお忍びで遊びに来ることになっている。転移を使用したうえで裏道を使い、かつ護衛としてプリスティナが付き添ってくる手はずになっているのだが。

 

「トルテはそうでもやっぱ僕には緊張するなは無理難題なんだけどなぁ!?いくらお忍びでも皇帝陛下なんだよ?」

 

「そういう貴方は黒騎士にして邪神討伐の英雄じゃないの」

 

「それでも僕はあくまで『平民』だって。黒騎士の称号もあくまで動きやすいように賜っただけだよ」

 

 彼は、望めば宮廷でかなりの地位を獲得できるだけの功績は上げている。というか本来は救世の英雄なのでそれにとどまらない。御伽噺の中であればお姫様と結婚してゆくゆくは王族に、レベルの話だ。ただ、彼が「宮廷のごたごた」をとても嫌ったのと、宮廷に戻るわけにはいかないトルテとの平穏な生活こそ一番の報酬と主張したため、対外的には「ラビリントスを制覇し邪神の降臨を『阻止した』褒賞」として一定の金額を受け取っただけにとどめている。

 加えてキルシュにとっては最愛の娘を邪神の姦計から保護してくれた恩人でもある。トルテの感覚的にはむしろキルシュの方が彼に頭が上がらないでもおかしくない…のだが、その辺はやはりお姫様感覚というか、皇帝が皇帝である時点で雲の上の人であるという認識が薄いのである。あと、皇帝を抜きにしてもやんごとなきお育ちの義母というのはやはり迎えるのは緊張するだろう。

 

「全く…あのことも伝えなきゃいけないんだし、その時そんなよそよそしい態度とったら本当にお母様が寂しがるんだから、そこは飲み込んで頂戴ね?」

 

「善処しますよっと…いらしたな」

 

 前方からプリスとキルシュが歩いてくるのを確認し、彼はすぐさま跪いて頭を垂れる。

 

 

「遠路はるばるお越しいただき、恐縮の極みにございます、皇帝陛下」

 

「頭を上げてください、黒騎士。今日の私は『一般人の愛娘』の顔を見に来た、貴方の義母のキルシュにすぎません」

 

「はっ…失礼いたします」

 

 キルシュの許可を取り、立ち上がる。キルシュが来るたびに繰り返される一種の『お約束』のやり取りである。

 

「毎回思うんだけど、このやり取り、いる?」

 

「必要だよ、少なくとも現状は。形から入る儀礼というのもある」

 

「貴女ももう少し彼を見習ってもいいのですよ?」

 

「ぐぬぬ…お母様まで…」

 

 この旦那、母からの覚えがとても目出度い。政略結婚そのものは諦めていたとはいえ将来をどうしたものかと思ってた娘を、最善の形で娶ったからだろうか。

 

「と、ともかく、プリスもありがとう。中に入りましょ、ファノも待ってるわ」

 

 後方で苦笑いしてるプリス含めて、中に入ることを促してその場をごまかすトルテであった。

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

「ご無沙汰しております、皇帝陛下。この様な格好で陛下をお迎えする御無礼、平にご容赦を」

 

 リビングでキルシュを迎えたファノは、動きやすいゆったりとした服装をしたうえで、髪をルーズサイドテールで束ねたファノであった。そしてその腕には…彼女の一人息子が抱きかかえられていた。

 

「お久しぶりです、ファノさんも、今日の私はお忍びですので名前で呼んでください。もう体調はよろしいのかしら?その子の事もありますから、こちらには気を遣わずとも大丈夫ですよ。何かあればトルテにやらせればいいのです」

 

「全く間違ってないんだけど何か私の扱い雑じゃない!?」

 

 

 2人のうち、先に子供を授かったのはファノであった。彼とトルテは話し合いで、子供が生まれたらしばらくはトルテも家事や育児のヘルプに入る事、場合によってはプリスやテイニィあたりにも手を借りる事を決めた。おかげで、ファノもそこまで体調やメンタルを崩すことなく今に至る。…夜中にたたき起こされることが前線ではそれなりにあったトルテが、深夜の夜泣きに対応してくれたのは本当に大きかった、と後にファノは語る。

 それでも昨年はファノの体力と負担を考慮して、冒険者ギルドの一室を借りて、黒騎士とトルテ、キルシュ3人の食事会のみにとどめていた。なので、キルシュがこの家を訪れるのは…プリスの弟ゲオルグがキルシュに堂々と求婚した事件のあった時以来、2年ぶりになる。

 

「王配殿下は…お忙しいのですね。せっかくプリスさんもいらっしゃるのだし、お会いできれば、と思っていたのですが…」

 

「なんだよねー。ゲオ君、なんかバリバリ仕事してて事前に今日は来られないって手紙貰ってたんだけどさ~」

 

 2年前のようにゲオルグも顔を出すか、と思っていたのだが、キルシュをお忍びでフリーにしている分の仕事を抱え込んでいるらしい。…いくら弟とはいえ、王配として立場的には上になった相手をゲオ君呼ばわりするあたりプリスもあまり貴族社会に向いてる性格ではない。

 

「ゲオルグには本当に助けられていますよ。元々…私はあまり政治向きの人間ではなかったので権威の象徴としての向きが強かったのですが、彼は平時にこそできる改革を、といくつも政策を立案してくれています」

 

 本人が言う通り、キルシュはあまり政治に関わってこなかった。そこに、対外的には取り入ったように見えるゲオルグが様々な改革を立案することは、宮廷内でそこそこやっかみを受けているらしい。…というか、そういう改革をしたいからこそ立場を欲した、と周囲は思っている。

 

「陛下、立ち話も何ですから、どうぞおかけください。宮廷の煌びやかな料理と比べると質素ではございますが、食事も用意しておりますので…」

 

 彼が着席をキルシュに勧める、が。

 

「もう、陛下、ではなく、キルシュさん、ですよ?」

 

「…おかけ下さい、キルシュさん」

 

「はい」

 

 彼の言い直した言葉を聞き、にこやかに笑いながらキルシュが腰かける。黒騎士としてはどうしても心休まらないやりとりではあるのだが、キルシュとしてはむしろ認識が休暇、責務からの解放に近いのかもしれない。こうして素で話すと、彼女がトルテの母であり、本来は割とお茶目な性格をしてるのが理解できるのであった。トルテがのびのび育つのも納得である。

 

 

 

 

────────────

 

 

 万が一が有ってはいけないので生魚はだせないが、黒騎士本人が釣ってきた魚を使ったシチューにリゾット、オムレツとサラダ、ラムのローストと、一般的な冒険者から考えるとかなり豪勢な食卓に舌つづみを打ちながら、和やかな会話が続く。お互いの近況報告、ファノと黒騎士の息子の成長具合について、ラビリントスのアイテム産出量の変化について、プリスが新しい魔剣のダンジョンを発見したので今度探索に付き合ってほしいという話、最近の冒険者ギルドにおける以来の傾向について…実務的な話から雑談まで、話のネタは尽きない。

 

 そして、一通りの食事も終え、食後のお茶、という段階になったところで…

 

 

「…さて、実は本日、みなさんに一つお知らせがあります。この事はまだごく一部しか知らないのですが…トルテも落ち着いて聞きなさい」

 

 真剣な表情をして、キルシュが切り出した。国の中でもまだ広まっていないということは、預言者連中が何らかの新たな危機を察知したという事だろうか?

 

 

 

 

「実はですね……トルテ、貴女に歳の離れた弟か妹が出来ました」

 

 

「ぶはぁぁぁぁ!!!!?????」

 

 

 

 

「トルテ…ひどい…」

 

「ごめんなさい!?」

 

 余りのショックに思わずお茶を噴出したトルテだったが、丁度その先に黒騎士がいた為顔面から被ってしまったらしい。とはいえ、彼も驚く気持ちは理解できる。

 

「で、でもお母様、その、弟か妹って事は、その…そういう事ですよね!?」

 

「ゲオ君そっちでも頑張って…」

 

 その言い方はあんまりではあるがそういう事である。「自分の政策の後ろ盾の為に王配の地位を欲した」とみなされやすいゲオルグ。確かにそれも事実ではあるのだが、一方で彼は「包容力、母性のある年上の女性」が好みであり、そういう点でもキルシュは求婚しない理由がない相手だった。トルテの表向きの処刑によりパワーバランスが変化した隙を見逃さず、実権掌握と恋慕を同時に結実させた手腕は、黒騎士をして「恐ろしいレベルの判断力」と言われたとかなんとか。

 …つまるところ、今回ゲオルグが欠席したのは「将来産まれてくる子供の為に、更に地位を盤石にしておくべく色々画策してる」故に仕事が更にたまった結果なのであった。

 

「その…彼は本当に私を大切にしてくれる…情熱的な人でもありまして…」

 

 ぽっと頬を染めるキルシュ。若くしてトルテを産んでいたというのもあるのだが今現在でも妙に色っぽい…

 

「こ…この年になって母親の女性としての顔を見るなんて…!!!」

 

 一方トルテは一応言葉を選んでいるが、内心としては「見たくなかった」の方が正しいだろう。先代の黒騎士でもあった父を亡くして以後、見る事のないと思っていた母親の女性としての側面に戸惑いを隠せないらしい。…そもそも年下の義父という時点でなかなか複雑な所ではあったのだが…

 

「吃驚はしたんですが…ある意味会話の流れはよいともいえませんか、これ」

 

 一同が混乱しているなか、口を開いたのはファノであった。膝の上の我が子をあやしながら、黒騎士と、そしてトルテにも目配せをする。

 

「それもそう…なのか?」

 

「確かに話題的には持っていきやすいのかしらこれ…」

 

 夫婦そろってまだ若干混乱しているようだが、やがてトルテも意を決して、口を開いた。

 

 

「お母様…その、驚かずに聞いてね?…私も、授かったみたいで…」

 

 

「え…えぇ!?おめでとう、トルテ!なら、私は来年来る時にはおばあちゃんという事ですね!?」

 

 

 変な流れだったために最初は目を逸らしながら告白したトルテであったが、大きく目を見開き、トルテの手を取って喜びを伝えるキルシュ相手に、そのままうんうん、とうなずき続ける。

 

「あ、でも…おばあちゃんなのに母親でもあって…私はどういう立場になればよいのでしょう?」

 

「それ私達に聞かないで!?…まぁ、その、こっちにお母様の子供を連れてくるのは難しいだろうし…ここに来るなら『おばあちゃん』だけになると思うの…」

 

「それで、しばらくの間は私たちの子供には、パルファドールの件やトルテの来歴、及びへい…キルシュさんの正体については伏せよう、と話をしておりまして…」

 

「是非そうしてください!せっかく一般人として育ってる可愛い孫から、陛下なんて他人行儀に呼ばれてしまったら、私は泣いてしまいます」

 

 儀礼と立場を気にする黒騎士としては結構大胆かつギリギリの提案だったのだが、キルシュは当然のようにこれを承諾、むしろ違えたら怒るとさえ言ってきた。…なんというか、トルテの皇籍復帰は無し、と決断した時は随分苦しんだように見えたし(実際ある程度苦渋の決断ではある)愛娘が平民として暮らしていくことは本来不安も多いはずなのだが…完全に「平民である事のメリット」を全力で享受しようとしている。

 

「では、私の子供の服を用意する過程で、あなたたち夫妻の子供服も見繕う事にしましょう。俄然、楽しくなってきました」

 

「あの、へい…キルシュさん…まかり間違っても国庫から出したりしないでください?流石に恐れ多くなってしまうので…」

 

 喜んでもらえるとは思っていたが別件の告白も重なったせいで想像以上にテンションをあげているキルシュに、もはや冷や汗を流しながら突っ込むしかできない黒騎士であった。

 

 

 

 

──────数年後──────

 

 

 

 

「いらっしゃいおばあちゃん、久しぶり!」

 

「久しぶり、元気にしていましたか?また背が伸びましたね?」

 

 訪ねてきたキルシュの膝に、トルテの娘が抱き着く。1年の間にすっかり大きくなった孫の頭を撫でながら、奥でこちらを見てる男の子にも声をかける。

 

「あなたも、抱き着いてくれてもいいのですよ?」

 

「えっと…僕はトルテ母さんの息子ではないですし…」

 

「そんな寂しい事を言わないでください。貴方たち家族は、私にとってもみな大切な家族なのですよ?」

 

 ファノの息子は歳のわりに落ち着いてる為、少し遠慮もあったようだが、最終的には促されて妹とは反対の膝に抱き着いていった。

 黒騎士とファノ、共に既に両親がいなかった為、2人の息子に祖父母はいない。ファノの育ての親であったヴェリア神も、もはや気軽に現世に干渉してくることは無い(実はアンクレットからこっそりみてはいるが)故に、キルシュは唯一の「祖母」としてこの家族の子供たちを可愛がっていた。

 

 謀反を起こすという「失敗」であったトルテの次、という事とまじめなゲオルグもいるという事より、プライベートな時は兎も角公的にはそれなりに厳しく子供に接しなければならないキルシュにとって、2人の孫は「無条件に甘やかして猫かわいがりしてもいい」対象であり、細かい血のつながりなどほぼ気にしていないのである。

 

「私ね、父さんと母さんに剣を習い始めたの!今度みて!」

 

「僕は母さんから魔術の基礎を習ってるんです。僕も…出来れば見てほしいな…」

 

「素晴らしいですね!皆優秀な冒険者ですし、二人も将来有望ですね!」

 

 きゃいきゃいと騒いでる子供たちとそのおばあちゃん、の様子を、黒騎士は遠巻きに眺める。気を抜くとつい陛下と言いそうになる(普通逆じゃない?とはトルテ談)ので、こういう時は子供たちと遊んでもらうのが一番「やりやすい」

 

「まったく、私の時だってあそこまで甘やかさなかったわよ、お母様」

 

「血のつながってないあの子まで良くしてもらって…若干申し訳ない気もするんですが、こう、あのお顔を見ると止められませんね」

 

 ファノが苦笑する。それだけ今のキルシュの表情は、本当に穏やかで幸せそうであった。

 

 

 

 いずれ、この子たちにも真実を話すときは来る。それでも…家族として話せる機会をなくさないで欲しい、とはキルシュの方から申し出があった。彼女とて、一度家族を…トルテを亡くした、と思った傷は負っているのだ。断ることは、誰にもできなかった。邪神によって断たれかけた絆は、しかして人の手によって、時代へと受け継がれていく。そう、あの黒き女神が、願ったように。

 




サブタイトル:幸せのさじ加減
バストゥーククエスト「幸せのさじ加減」より。なんやかんや本編終ってキルシュも幸せそうなので。


ゲオルグ:プリスティナの弟。彼女のイベントにおいて「冒険者を続ける」という我儘を貫けるかどうか試練を課してくるNPCなのだが、クリア後にキルシュが訪ねてくるイベントにおいてはなんとキルシュに求婚。そのまま成功してしまい、トルテには「年下の義父」ができるのであった。本人も「包容力のある大人の女性が好み」といってるので、政略結婚であること自体は嘘ではないが単純にキルシュにほれ込んでいるらしい。なので多分そういう生活も励むだろうし、という点から今回のお話を考えた。


ファノの髪型:所謂「死にそうな母親がする髪型」らしいのだが、頭皮を引っ張ったりしない分これは本当に「楽」で、家事をするのにも便利らしい。ゲーム中には存在しない。どうにも幼く見えるファノにお母さん感を付加する為思いついたと言っておく。


準備した料理:全てFF11の料理カテゴリに存在する。白身坂のシチュー・ブリームのリゾット・王国風オムレツ・ルルーミュサラダ・マトンのローストなど

主人公の口調と貴族の儀礼について:
実のところ、これはゲーム本編とはかなり描写が異なる。というのもゲーム中でキルシュを招くイベントでは、ファノが丁寧なあいさつをしたうえで、なんと主人公はキルシュに向かってため口を聞いてる。自分がそういう主人公を描くのが得意でなかったので、この物語では「貴族マナーを気にする」主人公として扱う事にした。

最近、精霊幻想記を読んでいたのだが、やはり平民ではその手のマナーには疎いのが当然という扱いらしく、トルテに聞いたにしても「マナーが必要と思考する」程度にはもともと意識があった、という設定にしなければならない事に気が付く。小説を読む趣味があるという設定を付加したことも考えて「文字を読み、マナーも気にするくらいの環境」があった主人公という事で。実際ゲーム中では彼に関するバックグラウンドは一切描写が無いのでこの辺は自由でいい、と判断した。…没落貴族あたりがいいんだろうか?本文中で触れる気はないが。


追記 なんで投稿5分で誤字を見つけるのか
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。