「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集   作:スケィス3rd

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前回のあとがきで主人公の来歴についてはふれないといったな、アレは嘘だ

ただまぁオリ主の設定が絡む長い話になるので「ヒロインの可愛い話が見たいんだよ!!」という場合は飛ばしてください。


誓いの剣

 

 東西帝国王城、謁見の間にて。さる一団が、皇帝キルシュの前に跪き、報告をあげていた。

 

 

 邪神降臨を予期していた城の預言者たちが一斉に「危機を脱した」旨を感知した直後に発表された、ヴェリアプールのラビリントス制覇の報。関係ないと思われた二つの事象は、しかし、皇帝キルシュの発表によって一つの事柄であったことが明らかになる。即ち、邪神降臨が阻止されたのはラビリントスの制覇が原因であり、それを指揮したのは皇帝自ら任命した黒騎士を中心とするパーティであった、と。

 あまり政に関わってこなかった上に、前の王配でもあった先代黒騎士を亡くしていた(おまけにその娘が謀反を企て処刑していた事になっている)キルシュが、いつの間に新たな黒騎士を任じていたのか。貴族の間にもほとんど情報が流れていなかったこの事実を、当初は疑うものも多かった。

 しかしいざ実際にその一団による報告と、祝宴の日程が組まれると疑うものはいなくなる。むしろ、新たな黒騎士とはどんな人物なのか、見定めようと有力貴族が集まりだす始末である。実際にその一団を見る前から、貴族間では噂が飛び交うようになっていた

 

 曰く、本当の中心人物は大貴族の令嬢バルデガルド=フス=プリスティーナであり黒騎士はお飾りである。

 曰く、黒騎士は実は奴隷として女を買い漁る好色な人物であり、そこに付け入る隙がある。

 曰く、少数民族の怪しげな魔術こそこの一団の肝であり、本当の主要人物はそちらである。

 

 

 …実際の彼らを知る者たちからすれば鼻で笑うレベルの噂ばかりであるが、それでも「貴族間の」常識からすれば、それなりの信ぴょう性をもつ噂ではあるのだ。

 

 そして、いざ実際に報告の儀を終え、褒賞として一定の金額を支給する旨をキルシュより告げられると、この思い込みはより強固になる。

 

 

(地位や縁故ではなく金を望むとは…黒騎士に任じられているはいえやはりアレはお飾りか。となるとプリスティーナ嬢を…)

 

(一番即物的な金を望むとは。どうせその金で新たな女でも買いあさるのであろうよ、ああ、汚らわしい…)

 

(あの耳長の少数民族…やはり、周囲との関係を断とうとしているな?となると金銭だけで済ませようとしてるのも納得がいく…)

 

 

 

 ひそひそ、と自分たちの信じる噂に都合のいい解釈をしている周囲の貴族に対し…

 

 

(聞こえてる…聞こえてるからな貴様ら…だからこんな魑魅魍魎の巣窟に来るのは嫌だったんだよ!!!)

 

 

 キルシュの前で恭しく頭を垂れながら、心無いひそひそ話に内心で毒つく黒騎士であった。

 

 

 

 パルファドール討伐の褒賞は、キルシュと黒騎士たちとの間で、金銭として受け取る事はあらかじめ取り決めてあった。下手に地位を望んで貴族社会から妬み嫉みを受けたくないという事と、そもそも生きてる事を公にできないトルテとの生活(に加えて、色々と立場のまずいベアヒルダの事)を考えて目立ちたくないという事情から、褒賞を一度受けてそれっきりにできる金銭が一番的確である、という全員が納得した話し合いの結果である。だから「地位を望まなかった」事を見下され、ある意味安心されていることは好都合ではある。あるのだが…ここまではっきり(相手は隠してるつもりだが、冒険者の耳のよさを侮った)蔑みをぶつけられるとそれはそれで腹が立つというものである。

 

 

 報告が終わった後、邪神降臨阻止を祝う祝宴が開かれ、黒騎士のパーティも全員参加する事になった。当然、貴族連中も下目に見てるとはいえ、何かしらの利用価値はないかと彼らに接触してくる。

 一番大変なのはプリスティーナで、実家が実家故に貴族付き合いもあり、「邪神降臨阻止に貢献した」トロフィーを持つ嫁として娶りたい下心を持つ貴族連中に次々絡まれている様子。当分引退するつもりがないと伝えても「待っていますよ」等と嘯くものもいて対応に苦慮しているらしい。

 テイニィは種族が種族故に物珍しさもあって声を掛けられ、しかし彼女の性格的に対応が面倒臭かったらし、最初こそ祝宴の料理と酒に目がいっていたのに、いつの間にやら忍足で姿を消していた。猟兵としての運動能力でバルコニーから庭園に逃走。月を肴にちょろまかしたワインを楽しんでいたらしい。

 そして黒騎士は…

 

 

「そちらの女性は…噂に聞く、黒騎士殿が見出した奴隷の魔術師ですかな?それほどの術者を奴隷の中から見つけるとは、黒騎士殿は人を見る目も一流のようだ」

 

 初老の貴族の男性が、黒騎士と傍らに立っていたファノを見つけ、声をかけてきた。彼なりに褒めているらしい。ファノの身分が奴隷であった事まで知っているあたり、情報網もそれなりのようだ。

 

「恐縮です。今後も考え先日入籍し、妻という立場にしております。高貴な方々との会話には慣れておらず固くなっている点については、ご容赦下さい…」

 

 恭しくお辞儀しつつ、大切な女性…ファノを侮辱され、内心『ぶち殺すぞこの白豚め』などと考えながらも、にこやかな笑顔を崩さず対応する。一方のファノは…値踏みをするような目に完全に委縮してしまい、黒騎士の背後に隠れる形でお辞儀のみをする。

 

「成程奥方と。噂では、もう一人、猟兵の奴隷の女性も奥方として娶ったとか…しかしですな黒騎士殿。それなら一人ぐらい、由緒ある血統の女性との婚姻も考えたことはありませぬか?」

 

 貴族の言葉に黒騎士がピクリと反応する。…どうやら、トルテの事まで調査していたらしい。キルシュと奴隷屋セシリア、そして冒険者ギルドに掛け合い、今のトルテの戸籍を偽名に変更していた事は、決して無駄ではなかったようだ。

 

「お戯れを。私は所詮流れ者の冒険者にございます。ラビリントスの仕組みを解明していた陛下より、行動の利便性の為に黒騎士の称号こそ賜りましたが、高貴な方々に肩を並べるなど、とてもできるものではございません」

 

 キルシュが彼を黒騎士に任命した理由は、対外的には『先にキルシュがラビリントスと邪神の関係性を解明しており、有力な冒険者に制覇を託した』という事になっている。実際には彼らこそラビリントスとパルファドールの関係性を解明した集団なのだが…

 

「それにしては…奥方と違い随分と流暢ではないですか。何か、そういう知識に触れる機会でもあったのでしょう?ならば、『繋がり』の重要性も分かるのでは?」

 

 どうやらこの貴族は、ラビリントスを制覇した武力は相応に評価してるらしく、その上で彼が一定の知識層にアクセスできることも見抜いているらしい。末娘でも宛がって繋がりを持とうという算段であろうか。…彼がその柵を一番嫌っているとも知らずに。…ついでに無意識にファノを貶したことで余計に怒りを買ってるなど考えもせずに。

 

「お褒めにあずかり恐縮です…これは今日という日の為だけに、プリスティーナ様よりご指導を賜った結果です」

 

「成程プリスティーナ嬢から…しかし、教えを請おうと考え付く時点で、やはりもともと知識をお持ちだったのでは?」

 

 確かに、本当に粗野な冒険者ならそもそも態度を改めようという考えさえおきない。パーティにプリスがいたとはいえ「彼女に習おう」とする時点で何らかの意識をもともと持っていた、というこの貴族の推理はあながち突飛とは言えない。

 

「買い被りすぎです、プリスティーナ様が繊細な気配りをできる方だった、という事です」

 

 言ってる本人が「むしろその手の気配りの対極にいるマイペースだよなプリスは」と苦笑いする言い訳である。悪い人物ではないのだが、こう、割と馬鹿正直だし自分が武器オタクなのを隠ぺいする以外では、取り繕うという事をしないタイプだ。

 

「…田舎育ちの妻には、少々人が多すぎたようで人酔いしているようです。少し休ませたいので、失礼いたします…いくぞ、ファノ」

 

「は…い…」

 

 礼を失しない様に注意を払いながら会話を打ち切り、相手がファノを侮ったのを逆に理由にして、彼女を伴い黒騎士はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり好きになれないなこの空気…あー、嫌だ嫌だ」

 

 他に人影のないバルコニーにて。露骨に不機嫌そうな黒騎士が、腕を組み手すりに寄りかかりながら愚痴っている。

 

「ごめんなさい、貴方に対応を全部任せてしまって…」

 

 そんな彼の横で、憔悴した表情のファノが頭を下げる。

 

 神域より帰還し、もう色々と感情のタガが外れてその夜は「そういう事」に及んだりしたし、彼に抱き着いて甘えたり、キスをせがんだりするようになったファノではあるが、それはあくまで相手が彼だからだ。何よりもファノの心を大事にして尊重してくれると理解し、だからこそ彼女も愛した男性であるが故に。なので、ファノの男性に対する苦手意識が根本的に改善したわけではない。だから今でも酒場等で欲望丸出しの不躾な視線を向けられるのはとても不愉快に感じるし、「何を測っているか」の内容が違うとはいえ、貴族連中からも同種の視線を向けられるのは大変な苦痛であった。

 

「いいよ、僕だって、あんな視線にファノを晒すのは我慢できないし。…彼らにとってはあれが仕事だって分かってても、ね」

 

 手をひらひらさせつつ何も問題ない、とアピールする黒騎士。そんな彼に、思わぬ人物から声がかかる。

 

 

「やはり、普段慣れぬ『戦場』は疲れますか?黒騎士…」

 

 

 

「陛下…よろしいのですか?陛下がこの様な人気のない場所にいらして」

 

 声をかけてきたのは、皇帝キルシュ。この城、この国の主。こんなバルコニーにやってきていないで、今も他の連中の相手をしているかと思ったが…キルシュの姿を認識した黒騎士は、ぱっと佇まいを正す。

 

「それを言うと、主賓の貴方もこんなところにいてはまずいのでは?」

 

「無茶を仰る…それに、一部のモノ好きな方を除けば、大抵の方の注目はプリスティーナ様ですよ」

 

 実際貴族内の常識的に考えれば、今一番熱いのは無名の冒険者よりプリスを射止める事だ。せっかくだし、この「貴族の戦場」でもメイン盾を張ってもらおう。

 

「も、申し訳ありません陛下、このようにだらしなく休んでる姿を…」

 

「そんな、私もこっそり抜けて気を休めに来たのです。ファノさんも楽にしてください」

 

「恐縮です…」

 

 ファノも姿勢を直そうとするが、それをキルシュが制した。

 

「しかし黒騎士、今はまだ誤魔化せていますが…そのうち気が付くものは出ますよ?今名乗っている苗字は『母方のもの』であると」

 

「…え?陛下、どういうことですか?」

 

 突然の皇帝からの忠告。それに対し黒騎士は目を伏せ、ファノは何事か、と彼の顔を覗くのであった。

 

 

 

 

─────────────

 

 

 それはまだパルファドールを討つ前の話。

 保護されたキルシュが冒険者ギルドから城へ戻る直前の事。

 

 キルシュは、聖剣の担い手となった男性を一人、ギルドの奥の部屋へ呼び出していた。ファノとトルテの同席すら許さず、一対一での会話になる。

 

「トルテとオウドラゴンをここまで守ってくれたことに対し深く御礼申し上げます。…しかし、同時にもう一つ、伝えないといけないことがあります」

 

 余計なあいさつは抜きにして、即本題に入るキルシュ。帰還まで残り時間が少ない、という事もあるだろうが…

 

「率直に問います、オウドラゴンのマスター。…パルファドールを討った後、トルテはどうなるとお考えですか?」

 

「どう…とは…?」

 

 跪きながら、彼はキルシュの質問の意図を測りかねてオウム返しに聞いてしまう。

 

「そのままの意味です。トルテの処遇はどうなると思いますか?」

 

「それは…」

 

 皇帝キルシュを救助した時から、彼も頭の片隅にはあった。いざ彼女と対面し、トルテとの関係改善がなされた段階で、それは可能性から選択肢へとなった。

 それ即ち、トルテの皇籍の復帰である。全ての真相を明かしたうえで、元凶を討った功績を以て彼女をもとの世界に戻す…それはトルテと彼の別れにもつながる。とはいえ、もともと住む世界の違った2人だ。それもあるべき姿なのでは…

 

「もし邪神を討った功績を以てトルテを王女に復帰させようとしているのなら、あらかじめ言っておきます。『王女アルカディウス=レナ=トルテが処刑された』事実は覆りません」

 

 あれこれと思案していた彼に、キルシュは冷酷に告げる。トルテが元の世界に帰っていくという選択肢など、ないという事を。

 

 何故、どうして、和解した筈では、という疑問が脳裏をよぎり、やがてそれは理不尽な決定を下す皇帝への激情へと変わる…その一方で、彼の持っていた「知識」は、今の皇帝にとってそれが避けられない決断である事を示し、その激情を抑えるべきと警告を発した。結果、表に出た行動は、一瞬カッと目を見開きキルシュを睨みかけ、しかし歯を食いしばり、俯くという「何かを飲み込んだ」のが分かる仕草となった。

 

 

「成程、言いたいこともあるけど、何故私がこのような裁定を下したかも理解し言葉を飲み込んだ…そんな顔ですね」

 

「…畏れながら…」

 

 自分の様子をぴたりと言い当てたキルシュに、彼はひたすら平伏するしかない。

 

 

「この場には私と貴方しかいません。その時点で全ての発言は公式ではない。何故私がこの決定を下したと思うか、貴方の考えを教えてください」

 

 トルテへの理不尽な仕打ちに対して「怒り」を見せた時点で、彼がトルテにどういう感情を抱いているか、キルシュは理解できた。ならば残り半分、何故飲み込んだかまでを今度は問うている。

 

「…第一に、ベアヒルダに陛下が操られていた事実を公表すること自体が皇帝の権威に傷を与える可能性があること。第二に、自らが出した処刑命令を自ら反故にしていた事実も、皇帝の勅令の意味を損なう危険性がある事…その上で、実は生きてた王女殿下を復帰させるなどなれば…最悪国が割れる可能性がある…以上のように愚行いたしました」

 

 

 ベアヒルダを宮廷に招き入れた人間が処分されるのは当然として、皇帝が何者かの傀儡になっていた、などと言えばそれだけ皇帝の立場が危うくなる。傀儡の術に抵抗し最後の正気でトルテを逃がした行為も、傍から見れば「自分で出した命令を皇帝自ら損なう」裏切りのような行為。そしてあげく「今まで操られてたけど正気に戻ったので、生きていた王女を戻します」等といった日には…全ての皇帝の決定から「重み」というものが失われる。

 キルシュは積極的に内政に関わるタイプでなく、権威の象徴として実務は任せるタイプではあった。だからこそ、その権威を損なって、国を割る訳には行かないのである。

 

 

「…そのマントの留め金にあった紋章、最初は質流れ品とも思いましたが、しっかり受け継いできたものですね?苗字は…」

 

「母方のものです。…それに陛下、私はあくまで平民。知識も知恵も『時として剣以上の武器、鎧以上の防具になるから』と実利の為に教え込まれただけにすぎませぬ。本物の貴族の方のように高貴なる者の義務(ノブリス・オブリージュ)を背負う覚悟などありませぬ故」

 

 夜会、パーティ、食事、談話、ダンス…平民からすれば遊んでいるように見えるそれらも、貴族にとっては戦いと道義である。直接剣を振るわずとも、言葉一つで大きな武力を、大金を動かすことで目的を達する。例え動機としては私利私欲でも、それを満たす事がやがて平民に還元されるというシステムが、すでに構築されている。その為に必要な「情報」「つながり」を得るための、真剣勝負の場であり、マナーや知識とは言わば戦場に参加する為のドレスコード、鎧と同義ともいえる。

 

「高貴なるものの義務…あの宮廷に、どれだけそれを志しているものがいるやら…」

 

 だが、キルシュはそんな貴族たちを、鼻で笑う。

 

「トルテを全く庇う者がいなかった宮廷雀共と比べて、私財をはたいてでもあの子を救ってくれた貴方のほうが、よほど気高い精神を持っていると思いませんか?」

 

 それは、娘を想う母の率直な怒りと感謝であった。ベアヒルダは自分の術に絶対の自信を持っていて、具体的な証拠の捏造はしていなかったのだ。何か、潔白を証明できるものがあれば、あるいは…だがそんな事をする人間は現れず、結果的にトルテを助けたのは目の前の彼なのだ。

 

「お戯れを…」

 

 怒りそのものは理解できるが、流石に貴族批判にそのまま頷くわけにはいかない。返答を濁していると…キルシュは席を立ち…そして、彼の手を取ったのだった。

 

「陛下!?」

 

「試すような真似をして申し訳ありません、しかし私は、一度、トルテを託す相手の選定を『失敗』しているのです」

 

 そう、託す相手を寄りにも寄ってあの男にしたせいで、トルテは奴隷に堕ちるという憂き目にあったのだ。

 

「追い詰められた母親の、みっともない真似と笑って下さい。それでも…私には確かめる必要があったのです。トルテを託す相手が、今度こそ信頼のおける人物であると…良き心の持ち主でありながら、同時に宮廷の政治の事情も理解できる教養も持っていなければならない…」

 

 優しい心の持ち主でトルテに同情するのはよい。しかし、何もわからず決定を批判したり、無思慮にトルテの皇族復帰を主張するようではやはり安心してトルテを託すことが出来ない。故に、キルシュはあえて試すような物言いで、彼の反応を探ったのだ。

 

「改めてお願いします、オウドラゴンのマスター、どうか…どうかトルテを…この無力な母親の願いを…」

 

 一国の頂点に立つほどのものが、泣きながら頭を下げて懇願する。いざとなれば大軍を動かすほどの名目上の権力を持ちながら、娘一人守れない、そんな悲痛な叫びを無視できる程、彼は薄情ではない。

 

 

「…頭を上げてください。分かりました、『僕』の大切な仲間、トルテのお母様の『キルシュ』さんの願い、確かに受け取りました」

 

 

 一人の人間としてその願いを聞き届ける。そう、微笑みながら彼は誓った。

 

。

 

 

 

────────────

 

 

 

「その時彼を黒騎士に叙任したのですが…貴方、まだ自分の出自をファノさんに話していなかったのですか?」

 

 黒騎士の出自に気が付いた時の話をしたのちに、キルシュは彼に問う。

 

「と言っても…『なんで文字が読めるか』くらいの話にしかなりませんし…」

 

 …正直に言うと、それを明かしてしまうとファノに余計に圧力なる、と考えた事もあるのは黙っていた。

 

「もしかして、今日の為に貸してくれたマナー教本って…」

 

「そうだよ、もともと持ってたもの。本当に食い詰めたら売り払う事も考えてたけど」

 

 あっけらかんと言ってくれるが、ここにきてファノにとっては衝撃の事実である。ちなみに後日トルテに聞いたところ、留め金の紋章については全く気が付いていなかったものの小説を読む趣味があり、かつ会話の端々に垣間見える知識で『家を継げない大商家の次男坊』くらいかとは思ってたらしい。

 

「私にとっては、ファノと、『彼女』との穏やかな暮らしこそ何よりの報酬。万が一お家再興、などと持ち掛けてくる人間がいれば、その時こそ黒騎士の威光を使わせていただきます。…ほら、私にとっては古い名前なんかより、今の方がよほど大事で、価値があるのです」

 

 万が一を考えこの城の中でトルテの名前はあげられないが、黒騎士はきっぱりと宣言する。キルシュが彼を黒騎士に叙したのは邪神討伐への支援を受けやすくするための措置であったが、戦いの後になっては別の意味を持つ。つまり、彼を望まぬ貴族間の闘争に巻き込もうとする相手に『皇帝直属の黒騎士にそんな勧誘をしてただで済むと思うな』という警告を発せられるのである。

 

「それを聞いて安心しました、今度こそ私の目に狂いはなかったようですね」

 

 心の底よりの安堵を感じ、キルシュは胸をなでおろした。…もとより政略結婚などできる娘ではないと思ったが、結果だけ見れば一番安心できる相手に、当人が望む形で嫁ぐ形になったような気がする。むしろ…没落貴族の家系から救世の英雄をひっかけてきたという意味では一番効果的政略結婚ともいえなくもない。

 歴史書には、この国が続く限り…いや、もしかしたらこの国が地図から消えても、その歴史を継ぐ別の国の歴史書にさえ、不名誉な名前が残ってしまうだろう。だが、あの子がそんなことを気にすることは無いだろう。新しく作られた戸籍の人間として、自由と幸せを謳歌する人生を送ってくれることを、キルシュはただ願う。

 

 

「黒騎士、ファノさん。…どうかあの娘を…よろしくお願いします」




サブタイトル・ナイトアーティファクトクエスト3 誓いの剣
FF11のナイトは王道オブ王道のパラディンであり、アーティファクトクエストのタイトルも直球である。まぁ、内容は意外と陰謀とかそっち系なのだが。


・本当の中心人物は大貴族の令嬢バルデガルド=フス=プリスティーナ
あのパーティの中で一番社会的地位が高いの、黒騎士をのぞくとプリスなんですよね(ベアヒルダは色々厄介なので除外)なので夜会なんかに出た日に一番注目を浴びるのは彼女だろうと予測。


・黒騎士は実は奴隷として女を買い漁る好色な人物
ぶっちゃけそういう風に振る舞うプレイスタイルは存在する。筆者と、この物語の黒騎士君はしなかっただけで。


・トルテの戸籍を偽名に変更
独自設定。なんですけどこれやっとかないと割と危険だと思うんですよね。処刑された筈の王女なんて、不満を持つ奴らの旗印として最高だし。というか現にトルテの姫騎士装備回収クエストで偽物は出てた訳で。今は使う気はありませんが、シャーロットあたりの偽名とかどうでしょう。シャーロット・レナ・(苗字)  なんか水の心が似合いそうだな!!  

・『母方のもの』
イヴァリースのラムザ君が、チャプター2開始からしばらく「ラムザ・ルグリア」を名乗っていた感じ


・トルテが皇室に復帰できない理由
独自設定。メタ的には「この後結婚したトルテが一般人の嫁として幸せに暮らしました」するための措置だと思うんですが、「皇帝が操られ」「操られてる中で自分の意思を貫こうと命令と違う事をした」だけで皇帝の権威って正直ボロボロだと思うんですよね。あげくそれで「今までの命令取り消しね」と言われた日にはそりゃ他の貴族は怒るし反乱されても文句言えないと思う。それを隠し、反逆者は身内でも処断する鋼の意思の持ち主、とした方が王権の維持には良い、という政治的理由を考え付いてみました。

・ベアヒルダを宮廷に招き入れた人間
多分これも操られてたと思うんだけど別件で処断されてそう

・マントの留め金
主人公の防具、ジョブごとに数を用意できない(用意しても大半無駄になるし…)都合上か、マントがやたら多いので…


・黒騎士叙任の時のキルシュの言動について
独自設定で会話を広げています。本編中では確かにそこまで重要なファクターではないのであのくらいのあっさり感が良いのですが、こう、FFXIの世界設定スレで遊んでいたような人間なので、突き詰めるといろんな感情とか湧いてきそうだな、とつい…
ちなみに言動のモデルに関しては「ロクデナシ魔術講師~」のアリシア七世を参考にしています。あっちはギャグだと結構ぶっとぶけど。

ちなみにロクアカ、メインヒロインの一人がまっとうにヒロインするのが5巻が最初という、現代で考えるとかなりスローペースですがその分「関係性の変化」が丁寧ですよ。オススメ
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