「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
「た、ただいまー…」
ヴェリアプールの丘の上の冒険者宅。珍しく家主の男一人を指名されたクエストだった為、女性陣2名は家で思い思いにくつろいでいたある日。クエストを終えて彼が帰ってきた訳だが…妙に態度がおどおどしている。
「おかえりなさい…何かあったの?もしかしてクエスト失敗とか?」
出迎えたトルテが不審に思って尋ねるが…
「い、いや、依頼は無事達成したし、そのおかげでちょっとしたコネもできたんだけど…」
「…?それなら、大成功で喜んで帰ってきてもいいのでは?」
奥からファノも出てきて訝しがる。そんなところに、主とは完全に反対のノリのオウラが現れた。
「そうじゃな!わらわからすれば依頼達成もコネクションも些細な事じゃが、とても重要な事がある!」
「あ、こら、オウラ!」
マスターたる聖剣の担い手が止めようとするが…
「何せ、漸くマスターが依頼主の女とエロい事をしてオウドラゴンの能力が解放されたんじゃからな!!!」
「アウラ!言い方!言い方ってものがあるだろ!!!」
慌てた彼がアウラをいさめるが、瞬間感じた射抜くような視線を感じ、そちらに振り向くと…
「正座」
「はい」
数秒後、そこには怒りの形相で仁王立ちするトルテと絶望的な表情のファノの前に正座させられる家主の姿があった。
「で、依頼主の女性にそういう事をしたと、とうとうやらかしたと?」
「えっと…はい…やらかしたのは事実です…」
こういう時には言い訳をしない。素直に事実を認める。トルテの眉の傾きが更に険しくなる一方で、ファノの表情はどんどん底冷えし、いよいよもって絶対零度に達するのでは、という状況になっている。
「…貴方はそういう事しない人だと信じていたのに…」
一抹の寂しさが混じるが、心底失望したというファノの冷たい言葉。とはいえ、やってしまったことは事実なので彼は弁明もできない。
「…というか、それギルドで処罰されなかったわけ?依頼者に手を出すなんて報告されるでしょ」
「そ、その辺は合意の上と言いますか…」
「……合意してしてくれるほど親しい女性が他所にいた訳…?」
どうやら無理やり襲ったと勘違いされていたようで、その誤解だけは解けたもののなんか別方面で地雷だったようで、トルテの表情は相変わらず厳しい。
「…知り合いではあったんだよテイニィ…ここに来る船で一緒になったというか…その船が魔物に襲われた時僕を見捨ててトンズラしたやつというか…」
なにやら一抹の恨み節が覗く言葉に、トルテは若干の疑問を覚える…一方で、ファノの表情がとうとう能面のようになってきた
「つまりあなたはそういう意地悪をしてくる人と、そういう行為をしたい変態ということですか?」
「それは断じて違う!そこは流石に異議を唱えたい!」
最初は成り行きを見守っていたアウラであったが、流石にここまで弁明に手間取るとは思っていなかったのだろう。やれやれ、とため息を吐きながら、助け舟を出すことにした。
「のうマスターよ。いい加減、なんでそういう事をテイニィに頼んだか説明してもいいのではないか?」
「…僕からだと、どういってもいい訳っぽくなるからなぁ…」
どういう形であれそういう行為を頼んだ負い目はあるのか、詳細を話そうとしない。そんな彼に代わり、とうとうアウラが説明を始めた。
…依頼の為に忍び込んだ幽霊屋敷で、悪質メンヘラストーカー女の幽霊に晩酌に付き合わされた挙句、その酒が「ストーカー対象を手籠めにするために用意した媚薬入りワイン」であり、動けなくなってしまったこと。一回はその状態の彼を見捨ててまたしてもトンズラしようとしたテイニィだったが、今回は「雇った冒険者」を見捨てたことになるので流石に外聞が悪いと考え戻ってきたこと。しかし、媚薬が聞いてる最中に「女性」と行動を共にすることになり、「本番」にはならない範囲で介抱してもらねば動けなかった事…
「と、言う訳で、前回の船、そして今回も未遂に終わったとはいえ、2度も見捨てて逃げようとした件を『介抱』でチャラにするという約束だったわけじゃ。こういう機会でもないと、マスターが女性にそういう事を頼むなんてありえんからのう」
アウラがしみじみという。妙に潔癖症で女性とのそういう接触を避ける彼女の主に、内心やきもきしてるところもあったのだろう。奴隷であるはずのトルテとファノにそういう行為を要求するどころか、先ほどのように尻に敷かれてるし。そういう欲求が無いわけではないのだろうが、酒場で他のパーティの女をひっかける事もしなければ、娼館に行って発散することもない。曰く、病気をもらってきたら怖いそうである。どこの生真面目だとアウラは突っ込んだ。
さて、トルテ達は…アウラの語る真相を聞いてるうちに、みるみる顔が青ざめていった。彼の落ち度と言えば「怪しい依頼に乗った」くらいで、残りは完全に不可抗力であるし、最悪変な幽霊屋敷に一人放置もありえたわけで…あわわと焦るトルテに対し、ファノの方は「そんな…」と首を横に振るばかりであり…そして
「ごめんなさーい!!!!!!」
トルテの綺麗な90度お辞儀がさく裂するのであった。
「あ…ハハハハ…その、やっちゃったのは事実なので…経緯で納得してもらえたのなら…よかった…」
一方ファノの方は顔を青くしたままがたがたと震えていた。一方的な言いがかりで冷たい事を言い、失望したなどと強い事を言ってしまって…なんて早まったことをしたのだろう、と己の愚かさを後悔している。みかねて、彼が声をかける。
「変なこだわりを持って、最初にちゃんと説明しなかった僕が悪いんだ、ファノ。その、もし、申し訳なく思っているのなら…普通に仲直りしてくれると有難い『いや、それはもったいないじゃろう』…アウラ???」
彼の言葉をさえぎって、アウラがファノとトルテに対し、ニヤリと笑った。
「一方的な勘違いであそこまで酷い事を言うなんてのぉ…これは『詫び』一つでもしたほうがいいんじゃないかのぉ??」
「いや僕そんなもん求めてないよ!?」
実際彼は仲直りできればそれでいいのだが…それはそれとして、彼女らの内心としては逆に何かお詫びをしたほうが楽になる、という側面も、有るにはある。
「そう…お詫びにマスターと粘膜的接触『聖剣って粗大ゴミでいいんだっけ』マスター!?」
「ダメよ…一応、邪神への切り札なんだから…なんでそんな強化方法なのかは本当に頭が痛いけど…」
ここぞとばかりに性的な要求をしろ、と唆すアウラに対し、反目になりながら脅しをかける彼と、何でこうなったのかと、頭を抱えるトルテ。同時に、もし自分が担い手になって場合同じことを要求されていたのか、と少し身震いするのであった。
「…いや待て、粘膜の接触っていうなら…例えば僕が2人の手の甲にキスをするとか…?」
「アホか!粘膜『同士』でなければ意味がないわ!口でぶちゅーっとに決まっておるじゃろ!」
2人に対して逃げ道を用意しようとするが、それもアウラに潰されてしまった。アウラはふぅ、とため息を吐くと、トルテの耳元に飛び移り、こっそり耳打ちをする。
(それに、良い機会ではないか。お主とてマスターの事をは実際憎からず思っているのであろう?だからあそこまで怒ったのではないか?)
(ぐっ…)
…実際、彼は「奴隷として自分を買った男」という点を除けば驚くほどよい奴である。土地が転がり込んだという幸運はあったにせよ、自分の貯金からマイホームを建てる程度には計画性、将来を意識した行動の出来る人物であり、粗野な冒険者にありがちな「飲む、打つ、買う」で金がたまらない心配はない。それどころかファノやトルテにちゃんと分け前を払ってる位である。顔立ちは…最初は1人旅をしていたからか表情が少し不器用だったが、よく見ると可愛い顔立ちをしていると思う。あと、文字も読めるからか意外と博識で、会話をしていて楽しい、と思う事もある。
そして何より…姫騎士時代と違って、自分を「皇帝の七光り」「女の癖に」と侮る事をせず、仲間の一人として対等に扱ってくれる。正直に言えば、買われてぎくしゃくしてた初期を除けば、姫騎士時代より今の方がのびのびしている言っても過言ではない。…だからこそ、自分たちにはそんな素振りを魅せない癖に外に女がいた、と思った時は寂しくなってしまい思わず過激な行動もとってしまった。
ぐぬぬ、と悩むトルテを見て満足したアウラは、今度はファノの方に飛び乗る、
(ファノも、内心マスターに何かお礼をしたい、という気持ちはあるのじゃろう?本能的にはまだ過激なことはできなくとも、理性ではマスターに惹かれてる部分がある…違うか?)
(う…うぅ…)
ファノは奴隷という立場ではある。そして、精神のかなり深い部分で男性に対する不信感も持っている。…他方、現在のファノの「実際の」状況は、かなり恵まれている、という事も自覚し、理解している。遺跡の中で倒れていた謎の少女というとミステリアスに聞こえるが、法的見ると「身元不明の不審者」でしかなく、そんなファノの身元を引き受け、衣食を稼ぐための「冒険者の仕事」を共にこなす形で確保してくれ、その上で最後の住まで提供しているという。それでいて彼からファノには「冒険者として一緒に頑張る」以上の事は全く要求してきていない。なんとか、感謝の気持ちを伝えたい、と思ったことはあるのだが、記憶のない自分では彼が何を喜ぶかのリサーチも難しい事に、内心もやもやしていたのは事実である。
そして、男性を怖がる自分を慮って、性的な話題を意図的に避けてくれた優しさも理解している。それが破られた、と思い心底絶望したわけだが、勘違いと理解した今は本当に申し訳なく思うし、やはり彼が配慮を失ってたわけではない、と安心もした。
「あのなぁ…そういう弱みに付け込むのって良くないぞ?」
「マスターがそういう風に推しが弱いからわらわが苦労してるんじゃが?」
真顔で抗議する己の主に、アウラがジト目を向ける。一方、なにか耳打ちされたらしきトルテとファノは、頬を赤らめつつもじもじしながら彼の方を見つめていた。
「…2人ももうちょっと冷静になってくれ。トルテ、君は王女なんだから、どこの馬の骨ともわからない男にそういう事しちゃいけない。それにファノも、怖い思いを我慢する必要はないんだよ?」
そんな2人に対して、真顔でこう宣うのは、本当にまじめなのかそれともただ鈍感なのやら…
「ええい、うるさい!ちょっとだまってなさい!」
トルテは両手で彼の頬をがしっとホールドすると、勢いよく、そのまま、口づけをするのであった。
「…オウドラゴンの強化っていう事もあるけど…これくらいしたい、って思う程度には、感謝はしてるのよ、私は…」
数秒の口づけの後、離れてから…勢い任せでいろいろやってしまい、恥ずかしくて目を逸らすトルテ。一方彼の方も、少し呆けながら、指で自分の唇をなぞっている。そんな彼の目の前に、今度はファノが現れる。
「…本当のことを言えば、全く怖くない、と言えば嘘になります。それでも、私を大切にしてくれている貴方に私の感謝を伝えたい、というのも本当なんです、だから…」
気持ちというのは不思議なもので…性的な話題を振ってこない彼だからこそ、こういう行為ができる、とファノは感じる。彼とでは身長に結構差がある為、ファノが背伸びする形での、啄むようなバードキス。すぐに唇を離すと、恥ずかしいのか彼女はそのまま後ろを向いてしまった。
またしてもの不意打ちを受けた彼であったが、今度は呆けずに…右手を腕に当て、かみしめるように、言葉を発する。
「二人の気持ち…確かに受け取った…強くなったオウドラゴンと共に、その気持ちに恥じぬ働きをすると誓うよ」
「…なーんか想像してたより数倍純情というか健全に終わったの…ま、オウドラゴンの力の解放はされたし、良しとしよう」
「お前は後でお説教だ」
「不条理!!」
────数年後────
「……ん……ありがとうございます、気を付けていってきてくださいね」
今日のラビリントス探索に向かう夫を、子供たちと一緒に見送るファノ。出かける前のいってらっしゃいのキスが、何やら普段よりずいぶんと長かった。
「珍しいわね。ファノって、もうちょっとこう、ツンて感じで短いのに」
猟兵スタイルに身を包んだトルテが珍しそうに声をかけてくる。ちなみに彼女が見送りの時は結構長い。長女には「見てるこっちが恥ずかしい」と突っ込まれている。
「ええ、今朝はちょっと、昔の夢をみていて、甘えたくなりまして」
「昔の夢?」
オウム返しに聞く夫に、ファノはちょっと悪戯っぽく答える。
「ええ、私が、初めてあなたに『大切にしてくれてありがとう』と伝えた日ですよ」
「…ああ、あの日…」
該当の事件を思い出し、黒騎士は苦笑する。なんか綺麗な言い方をしてるが出だしは結構散々だったような気がするし、そういうものの言い方をするのが、割とこう、トルテに似てきたような…が、ウインクをして微笑むファノを見ると、許せてしまうのは惚れた弱みかもしれない。
「マスターもつくづく、嫁には甘いの」
そんな様子を、アウラはやれやれ、と見守るのであった。
・サブタイトル「投げ込んだのはあなたじゃないですか」
からくり士アーティファクトその2より。その1が「キモいから名前で呼ぶな」であり、実装時にネタと疑われたある意味伝説のクエスト。
勘違いと説明不足でかなりばかばかしい結果に終わる喧嘩だったので、コメディっぽいタイトルが欲しくて拝借。火種を投げ込んだのはアウラじゃないですか。
そういえばアウラの出番久々だな…
・コネクションもできた
依頼そのものは冒険者ギルドからの依頼(テイニィからのヘルプ要請)だが、テイニィがワインを探していたのはレッテルフェイスからの依頼。よって、このクエストをクリアするとレッテルフェイスと知己になり、彼から邪神教団対策を求められるようになる。
・オウドラゴン能力解法
ここまでこの主人公はヒロインズにそういう要求を一切していないので、ここでようやく能力解法となる。
なお、他のヒロインに関しては
プリス→最終決戦直前に事情を話してキスだけしてもらう
リーゼ→加入自体がそっち系イベント
ベアヒルダ→事情を話さなくてもノリノリでキスすると思われる、むしろ主人公の心の平穏の方が問題。
という想定。
・またもトンズタしようとしたテイニィ
実はこのクエストでも容赦なく主人公を見捨てて脱出しようとする。流石に寝覚めが悪いので戻ってくるが。
・悪質メンヘラストーカー女の幽霊
そうとしか表現しようがないのですが。相思相愛で一線を超える為ではなく一方的に感情を向けてるだけの相手に媚薬飲ませる気だったので…
・なんでそんな強化方法
オウドラゴン、もともとは「欲望の魔剣」であったものを改造した聖剣らしい。魔剣関連の話は、前作の「Gate of Windnest」でも触れられている。今度スマホプレイ版もでるらしいので、みんな、やろう(ダイマ)
・姫騎士時代のトルテの扱い
独自設定。皇帝の娘が騎士として働いてたら相応にやっかまれるだろうなぁ、という想像から。彼女、ちゃんと強いんですけどね。