「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
「トルテさん…そろそろあの人を探しに行かないと…」
「嫌!行きたくない!」
崖の上の一軒家。大樹を抱くように建設されたそれは、冒険者3人が住んでいる家だ。普段ならトルテが鼻歌を歌いながら掃除したり、ファノが機嫌よさそうに、この家の主が釣ってきたさかなを捌いたりしているのだが、今日は重苦しい雰囲気に包まれていた。そんな中でファノは、こうなった原因を思い出していた。
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「ね、ねぇファノちゃん、この下着、派手過ぎない?あと香水の匂いもきつ過ぎないかな…」
「大丈夫です、柔らかくて落ち着く香りですし…その、トルテさんはスタイルがいいから何を付けても似合いますし…」
丘の上の一軒家の一室にて、ファノとトルテは、夜の「決戦」に向けて準備を整えていた。
この家の家主でもあり、トルテ達の「主人」でもあり…そして、最愛の男性でもある人物からの、プロポーズ。神々の世界、神域への突入も、あとはベアヒルダの研究を待つだけという状況にて。
「神域突入前に、僕たちの関係を、はっきりさせよう」
そういって彼は、トルテとファノに指輪を手渡し、そのまま戸籍担当官に結婚の報告までしていったのだ。
正直「いつかそうなればいいな」とは2人とも思っていた。奴隷と主人といっても、彼は2人を決して立場が下の者と扱わず、対等な仲間として(トルテは本来身分が上だが)扱い続けた。最初は「女の子の奴隷を買う人間にロクなのはいない」と思って不信感丸出しだったトルテも、そもそも男性恐怖症で怯えていたファノも、ひたすら距離感を気にし、適切に関係を修復していった彼をやがて憎からず…最終的には、男性として慕うようになった。途中加入のテイニィ達は、2人が奴隷なことに最初は気づかなかったほどだ。
だから、彼がとうとう決断をしてくれたことは本当に幸せであり…新婚初夜のイベントに対して、こう、気合を入れてるわけであるが…
少しでもかわいく見られたいと先ほどから落ち着かないトルテだが、彼女の様子をファノは、ちょっと贅沢ではないかと思いながら見つめる。女性であるファノから見ても整って人を惹きつける容姿、更には…下手すると「控え目」と言われかねない自分と比べて、とても豊かな胸部…正直、これをみて満足しない男なんていない、とファノは思っている。
「うぅ~…でもなんか悔しい…私たちはこうそわそわしてるのに、なんでアイツは平常心キープしてたのかしら…」
先ほどの夕飯時も、これからの用意の手順で思考がぐるぐるになっていたトルテとファノに対し、何故か彼だけはいたって普段通りの素振りを見せていた。こんな美女2人に今夜迫られるというのに、全く意に介さないかのように…
そんな風に2人で悶々としている時に…なぜか、玄関の方で物音が鳴った。これではまるで彼が出掛けるような?
不信に思った2人が、軽く上にナイトローブをひっかけ見に行ってみると…そこには、呑気に夜釣りにでも出かけようかとしている、彼の姿があった。
「え、えぇ!?ちょっと、貴方これからどこに行く気なの!?」
「どこって…明日の朝飯確保も兼ねてちょっと港に釣りでも行こうかなぁと…」
非難の調子をこめていうトルテに対し、さも当たり前のように彼は答える。
「釣りって…あの、今夜って、その…分かってますよね?」
あんまりな反応に、ファノも若干苛立った声で彼に問うが、帰ってきた答えは彼女らの神経を更に逆撫でするものであった。
「…そういう事は、出来ない。万が一子供が出来て、それが神域突入と重なったらどうする気なんだ?」
「うぐっ…でも!じゃあなんで、このタイミングで結婚しようなんて言ったのよ、貴方は!」
「何故って…二人の人生の選択肢の為、必要なことだからだよ。権利を得て、自由を得れば、これからの生活についてちゃんと2人の意思で決められる」
ない。いくら何でも、今その言い方はない。確かにそれは…自由は本来、愛する人への最大の贈り物だ。だが、言い方、言うタイミングというものがある。温厚なファノがそう思って、怒りを露にしようとした瞬間
ファノの隣にいたトルテの全力右ストレートがさく裂し、出かけようとしいた彼はそのまま外に吹っ飛ばされた。
「馬鹿!!!!!!出ていって!!!!!!!」
乱暴にドアを閉め、鍵をかけると、トルテはそのままリビングの方に走り去ってしまった。
人間の感情とは不思議なもので自分と同じ方向の、より強い感情を見ると冷静になってしまうものである。激発したトルテの有様を見て、ファノはすっと怒りを抑える事に成功した。のぞき穴から外を伺うと、彼が呆然とこちらを見ていた…が、やがて諦めたのか、街の方に歩いて行った。…今中に入れるとトルテが二次噴火しかねないので、申し訳ないが夜~明け方の散歩をしてきてもらうしかない。
そんな事があって、やらかしてしまったトルテはずっと食卓に突っ伏したままだ。
正直、ファノとしても「2人を自由にするために」という彼の言い方はかなりカチンと来たし、乙女の覚悟を台無しにされた点についても不満がある。その一方で彼の言い分が3人の本来の目的、邪神討伐をしっかり見据えたものである事も理解しているし、愛しているからこそ自由になってほしいと考えていることも分かっている。自分たちが何について怒ったか、でも自分たちもまた舞い上がってしまっていた、とちゃんと話し合いをしたい
街中には宿住のテイニィやプリスがいるから、財布なしに追い出されたとしても二人に助けを求めればひもじい思いをすることは無いだろうが…そろそろ昼前になりそうだというのに、全く帰ってこないのは少し心配だ。正直、探しに行きたい。…のだが…肝心要のトルテが全く動こうとしないのだ。
「話せば分かってくれますよ、私たちがどうして怒ったのか。気持ちを伝えれば、理解してくれない人じゃないのはトルテさんも知ってるでしょう?」
「分かってる!彼は凄く優しい…!きっとすぐに、困った顔しながら全部理解して、ごめんねって言うわよ!大体、私達だって舞い上がりすぎてた!」
「そこまで分かってるなら、どうして…」
どうやらトルテが彼に会う事を拒否しているのは、和解が成立しない可能性とか気が収まらないから、ではないらしい。
「もしも、もしもよ…?彼が本当は…私達に『申し訳なく思って』いたから結婚してくれたのだとしたら…お互い、愛しあってるというのが私の思い込みだったら…私、今度こそ耐えられない…!」
「トルテさん…」
そこか、とファノは理解した。
先日、皇帝キルシュをラビリントスから救助した際、娘であるトルテは当初、キルシュに顔を合わせる事を渋ったのである。
原因は、恐怖心だった。仲の良い親子、と思っていた相手から突き付けられた突然の処刑宣告。一切の会話が通じない恐怖。そして『親しい』と思っていた相手の心を理解していなかったという絶望感…実際にはベアヒルダに操られてただけであり、むしろキルシュは最後の理性をもって処刑されそうになったトルテを逃がし、やがて彼と出会う道筋につなげたのだが、その時の絶望感はトラウマとして深く彼女に刻み込まれた。結果、『洗脳からは解放された』筈のキルシュにさえ、「もし本当に嫌われていたら」という恐怖感を感じてしまったのだ。
そして、そんな傷がいえていない状況での今回の事である。愛し、愛されているからの結婚と思っていた所に突き付けられた、初夜の拒否と「自由な選択肢の為の結婚」とも取れてしまう言葉。キルシュの時と同じく「理屈では理解していても、心が恐れている」のだ。本当は相思相愛ではなく一方的にトルテが舞い上がっていただけで、彼は最初からずっと罪悪感に苛まれていた故に優しかったのでは?と。
(本当に、私達の人生は、パルファドールのせいで傷つけられて…)
トルテが負った心の傷が事態を複雑にしていることを理解し、その傷の原因になった邪神について改めて怒りを覚えるファノ。トルテを癒せるのは、結局のところ彼だけなのだ。早く帰ってきてほしい…と思うのだが…
(あの人はあの人で、ショックを受けている筈だし…どうしよう…)
今のトルテを一人にするのも心配なので迎えにも行けず、ファノも悶々とするしかない。
実を言ってしまうと、ファノは彼からの愛情を一切疑っていない。
自分ではなく、ファノの心を最優先にした距離感の取り方、及び交流。罪悪感や贖罪ではどこかにある影を、彼の言動からは(初期に本当に申し訳なく思ってる時を除いて)感じない。お互いが笑顔でいられることが嬉しい、そういってくれた時の表情は、とても朗らかだった。それに…
ベアヒルダとの決戦の際。自分は彼に抱かれたのに、未だにキスくらいしかしていないトルテとファノに対して、ベアヒルダは嘲るように言った。「巫女としての格も、女としての魅力も自分の方が上だ」と。それに対し彼は、普段の優し目な口調からは想像できない罵倒を返した。
「口を慎め、魅了が無ければ抱く気も起きない阿婆擦れめ。トルテもファノも貴く、美しい、大切な人なんだ。邪神にホイホイ靡いてる売女風情が、つけあがるな!」
…ここまで強い言葉を使ってしまったせいで、縮んで仲間になったベアヒルダに懐かれても、距離感に悩んでいるようなのは閑話休題。
2人への罵倒に対して、自分の事以上に怒ってくれる(ちょっと怒りすぎなのは後日注意した)のは、心から想ってくれている証でもある。…だが、今のトルテに「杞憂だから探しに行こう」と言っても、感情が納得してくれないだろう。
トントン
そんな時、家のドアをノックする音が聞こえた。今この家に尋ねてくる人物など、一人しかいないだろう。
「…!はい、今開けます!」
待ちかねていた人の帰還と直感し、ファノはすぐに玄関に飛んでいった。
・控え目
主人公的には単純に触れたかっただけなのに、控えめなのを指摘して辱めたいんだ!と泣かれてしまうシーンが存在する程度には本人も気にしている。
・キルシュとの面会を拒むトルテ
ゲーム中に実際にあるイベント。シナリオ中では「最初は顔を合わすのを避けようとする」位だったが、セリフ的には結構傷ついていたことが分かる。
そのイベントから着想を得たのが今回のお話なのだが、そのせいでトルテが一種の舞台装置になってしまっているので、次に書くなら彼女メインだろうか
・同じ感情の寄り激しいのを見ると冷静になる
怖がりの人でもより怖がりで騒ぎまくるホラゲー実況って見やすいらしいですよ
・主人公の暴言について
意図的にきつい言葉を使っている。ここでR-15と言われても仕方ない。
なおプレイ時のイメージ通りにしゃべらせると以下のようなセリフ
「お前の提案そのものは拒否したはずだがね?あれはお前を気遣ったのではなく、単純に魅力がなかっただけだ」
どう見ても弓兵です本当に(ry