「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集   作:スケィス3rd

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まさか3つに分割する羽目になるとは思っていなかった


呪縛解ける時(後編)

 

 

 出会った当初はたくさん喧嘩をしたと思う。というか一方的に文句を言っていた。はたから見たらどっちが奴隷か分からないレベルで。大体彼も悪いのだ。聖剣の担い手なのに、聖騎士としての能力をはく奪された自分より戦い方が洗練されておらず、自分を一括で買うなんて選択をしたせいでしばらくは宿代を出すのもギリギリになって、2人でひぃひぃ言いながら売却用の戦利品集めたり。ドロップしたポーションを売却用にするか非常用に備えるかで口論したり、ちょっと良い剣がドロップして、それを使うか売るかでもめたり…あとちょっと表情が不器用で、笑えばちゃんと可愛い顔するのに、普段は目つきが悪いように見えるし。

 時期ははっきりわからないけど、日用品を買いそろえてくれたり、仲間として助け合ったりしている内に、お互いの距離は近づいて行ったと思っている。ラビリントス内で唐突に不細工と罵倒された(今思えばあれが邪神だったのだが)時、「むしろハッとするくらいの美人なのに」と言ってくれたし、自分の容姿も彼好みらしい。

 だから、結婚しよう、と言ってくれた時は、気持ちが通じ合っていた事の一つの到達点としてとても嬉しかったし、これからの展望にも期待を膨らませた。自分が皇室に戻ることは、もう叶わない。それでも皇帝…お母様とはちゃんと誤解を解き合ったし、これからのやりたいことも応援してくれた。

 

 理屈では彼女だって分かっている。彼が罪悪感のみで動いている訳ではない、という事を。そんなものを感じていれば、きっと縮んで仲間となったベアヒルダへの対応の様に、もっとギクシャクしたものとなっている筈だ。「自由」という何にも代えがたい権利を渡そうとするのは、彼が自分を大切に思ってくれているから。自由にしてもなお、一緒についてくると信じているからだと。

 それでも…怖いものは怖い。大切な家族の心を理解できていなかった(と、思い込んでいた)時の恐怖と絶望は、彼女の心に深く疵として残ってしまった。

 

 

 

 トントン

 

 

「…!はい、今開けます!」 

 

 

 処刑宣告のようなノック音が響き、ファノがそれを迎え入れに行った。一方的に気持ちをぶつけ…彼はどれだけ傷ついただろう、失望しただろう。やはり恐ろしい。彼と想い合っていたのではなく、彼はひたすら贖罪の為に動いていたのだとしたら、自分はなんと滑稽なんだろう。贖罪を好意とはき違えていたなどと…

 

「って、何持ってるんですか!そんな…」

 

 ファノが驚きの声を上げている、彼が普段持っているとは思えないものを持っているらしい…まさか、離婚届?もしくは奴隷契約破棄の為の申請書類?昨晩の事で愛想が尽きたのだろうか?次々と悪い想像が頭を巡る。…ああ、足音が近づいてくる。ファノも止めない。ショックすぎて動けないのだろうか?

 

「ただいま…トルテ、その、ちょっと見てほしいものが…」

 

「嫌!見たくない!」

 

 彼の困ったような声がする。そりゃ、こんなお荷物抱えたくないだろう。書類にサインしてほしいという事か。

 

「うぅ、それは困るよ、僕だって一応、無い知恵絞ったのに…」

 

 無い知恵、無い知恵ってなんだ。書類取ってくるのそんなに面倒だったの?

 どんどん悪い方向に思考が引っ張られている時…ふと、甘い香りがすることに、トルテは気が付いた。

 

 

 

 

 

 ああ、伏せてないで早くそれを見て!とファノは願う。自分の口から状況を伝えるのはたやすい。

 だけど、これだけはちゃんと、トルテの目で最初に確認してほしいと思う。だって、彼が持っているのは

 

 

 

 

「この香り…え、薔薇…?」

 

 鼻腔をくすぐる甘い香りにつられて顔を上げたトルテ、その目に飛び込んできたのは、真紅の薔薇の花束を抱えた、彼の姿であった。

 

「うん、薔薇。花言葉は…野暮か。それに頼らず、ちゃんと僕の気持ちを、自分の言葉で伝えるよ。変に考えすぎて、してあげたいこと、伝えるべき事、順番があべこべになってしまったけど」

 

 いまだに半分、信じられないという表情で、目をまんまるにして彼を見つめるトルテ。彼は薔薇を机の上に置くと、片膝をつき、そしてトルテの右手をとった。

 

 

「夕日にきらめく麦の穂の様に美しい髪、太陽の様に眩しい笑顔、苦境にあっても決して気高さを失わぬ、聖剣の様に貴き心、そのどれもが、僕を魅了してやみません。本来、その笑顔はもっと多くの臣民に向けられるべき事も理解しています。それでも僕は、こう申し上げたい。貴女が好きです、トルテ。共に歩んで下さいませn…って、うあ!?」

 

 その言葉を、最後まで言い切ることは叶わなかった。トルテがガバっと彼に抱き着き、そのまま押し倒して、胸に顔をうずめる。

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!勝手に舞い上がって、ひどい事をして…!!貴方を信じ切れなくて…!!」

 

「…大丈夫、大丈夫だよ。僕こそ、不安にさせてしまって、ごめん」

 

 子供をあやすように、優しくトルテの髪を撫でる。自分がどれだけ彼女らを不安がらせてしまったか、彼女の涙で改めて自覚する。これでは皇帝や、今も神域で戦ってるヴェリア神に合わせる顔がないなぁ…と内心で自省する。ただ同時に、自分の腕の中にあるぬくもりに、安心感も覚えてしまうのであった。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 散々泣きはらした後、目が真っ赤でひどい顔になってる、という事で、トルテは一度シャワーを浴びに行った。気が付いたらファノは一杯お茶を淹れ、薔薇は花瓶に(いつ用意してたんだろう?)指してくれていた。本当に気のよく回る女性だと感心する。

 

「…まずは、お帰りなさい。無事に帰ってきてくれて、良かったです。あの花は、テイニィさん達と一緒に探したんですよね?」

 

「そりゃ無一文だったからね。明け方に街中で呆然としてた所確保されて、そのまま散々二人にひどい事をしたって怒られてたよ」

 

「あ、あははは…」

 

 テイニィとプリスの2人だと、ある意味ファノ達以上に容赦がなさそうだ。オウドラゴンは持っていたらしいので、そこにオウラも加わったとしたらさぞかし苛烈に責められたであろう。

 

「なら…私からは、お疲れさまです、とだけ。嬉しすぎて、私もトルテさんも舞い上がって、考えが足りなかったのは、貴方の言う通りですから…」

 

「それでも伝え方はあったよね…2人の優しさに甘えてたよ。トルテも戻ってきたら改めて言うけど、ごめん」

 

「はい…でも、せっかく今なら、聞きたいのはそれじゃないです」

 

 ニコニコしながら、ファノは答える。彼の方はファノの意図が読めず頭に疑問符を浮かべるが…

 

「さっき、トルテさんに伝えてた告白、私の分も考えていますよね?」

 

 そう、せっかく二人きりなのだし、頑張って覚えてきてくれたのなら、是非聞きたい、ファノはそう考えていた。

 

「あー…あれ、考えたって言うか普段からの素直な感想なだけなんだけどね」

 

 帰って来た反応に、「えっ」と思うファノ。てっきり、花を買うついでに、プリスあたりに考えてもらったフレーズを暗唱していたと思っていたのだが…あれを、普段から?あれ、実はこの人、自分が想定していた以上に自分たちの事好きなのでは?という考えがファノの脳裏をよぎる。一方で、彼は穏やかな笑顔を浮かべながら、言葉を紡ぐ。

 

「月夜の空の様に吸い込まれそうな黒髪、木春菊のように可憐な笑顔、花々を包む朝霧のように嫋やかな仕草…不安の中にあっても決して失われない、大地のような優しさ。そんな魅力を兼ね備えた貴女に、僕は魅せられています。長き時を超えたことが、貴女にとっては決して良い事ではなかったのは理解しています。それでも…今ここにいる貴女と、僕は共に歩んでいきたい。好きです、黒き女神の巫女、ファノ。手を取って、くれますか?」

 

 穏やかに微笑んだまま、彼はそういって手を差し伸べてくる。詩人の様な告白を淀みなく謳い上げるその様にあてられ、ファノは頬に手を当て真っ赤になってしまう。

 

「うぅ…いざ聞くと、それをいつもと全く変わらないペースで言えるのはずるくないですか…?」

 

「だって…本当に素直な感想だし…」

 

 …実を言えば、表現方法についてだけは、トルテやファノに渡してる恋愛小説の中身を彼も読んだ時に覚えて、その語彙をアレンジしてはいる。してはいるが、何故、どこに惹かれているかそのものは本当に素直な感想であった。だから、恥ずかしがる事など、彼にはかけらもないのだ。

 一方のファノは…感情が昂って、そのまま抱き着けたトルテは幸運だった、とちょっと恨めしく思っている。自分はこれだけの告白を受けて、正面から返さなければならないのに、ずるくないだろうか。だが、素直な気持ちを表してくれた彼には、自分も報いたい、だから、精一杯の気力を振り絞る。

 

「お受けいたします、帝国の黒騎士。…時を超え、独りぼっちになってしまった私を、ずっと守ってくれていた方。貴方がいてくれたから、私は絶望に沈まず、歩み続けられます…不束者ですが、宜しくお願い致します」

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

「っていうのが、お父さんが結婚記念日に必ず花を買ってくる理由ですよ」

 

 夕ご飯の準備をしながら、子供たち…自分の息子と、トルテの娘…に、ファノは語って聞かせた。当然、パルファドールの事やトルテが実は王女であった事実は伏せているが。いずれ伝える必要はあるだろうが、流石にまだ早い。第一知ってしまったら、年に一回遊びに来るキルシュを、気軽におばあちゃんと呼べなくなりそうだし。それはキルシュも望まない。もう少し、公私を分けられるような年齢になってからだ。

 

「隙あらば父さんへの惚気を吐く母さんとは思えない話…」

 

 娘から母トルテへの容赦のないツッコミが入る。トルテによく似て遠慮のない物言いをするし、とても気が強い。「きっと王宮には馴染めないから、この生活の方があの子には向いてたわね」とトルテは笑っていた。

 

「花言葉を僕と一緒に図鑑で調べていたのはそういう理由だったんだね。今年は選んでないけど、忍冬の花言葉なんか気に入ってたよ」

 

 一方この子も、母親…ファノによく似て、どちらかというと大人しい、魔術師向きの性格をしている。聖剣の黒騎士の息子だから、彼は剣士向きの性格であってほしかったのでは…?と思ったこともあったが、彼曰く「二人とも、素晴らしい母親の気質を継いでくれてうれしい」そうで…

 

「何?どんな花言葉なの、それ」

 

「『愛の絆』だって」

 

「…それ知ったら、また父さんに助け出された日の事くねくねしながら語りだすわよ…」

 

 奴隷云々も伏せて、ファノもトルテも「悪い魔女につかまっていた所を彼に助けられた」としているのだが、どうにもトルテは話を盛る。「魔女(ベアヒルダ)の策略で乱暴な人たち(オークション会場の客)に囲まれていたところを、お父さんが颯爽と現れ助けて(購入して)くれた」などと、御伽噺の英雄のように盛られた話を聞くたびに、彼は苦笑いしているのだが。なまじ嘘と言い切れない所がたちが悪い。そして、実際に悪い魔女(ベアヒルダ)に捕まって(装置に封じられて)いたところを助けられた身としては、自分だって童話みたいな扱いが良かったと主張するトルテに反論しにくい。あれで、同じ恋愛小説の話で盛り上がった程度にはトルテも乙女趣味なのであった。

 

 

 

 神域より帰還し、やがて子供たちが産まれてから…トルテとファノは、交代で彼と一緒にラビリントスに潜るようになった。パルファドールの力が失われやがて機能停止するとはいえ、それは神の時間スケールでの話。浅い層でのアイテムの出は多少悪くなった感があるものの、彼女らのパーティが挑んだような深層では、未だに貴重な品が多く見つかる。「どれだけのペースで魔力が失われているか」を観測することも、また仕事の一つではあるのだ。一人が家で子供たちを見ながら、もう一人は彼と共にラビリントスへ。ファノの元々の感覚からすると、少し特殊な家族の形ではある。だが、かつてファノが諦めた筈の幸せは、確かにそこにあった。

 

 机の上に飾ってある、彼が今年贈ってくれた花を見る。花言葉は確か…「永遠の恋」「色褪せぬ恋」…大概、彼もロマンチストだと思う。もう少し言動がシニカルなら「気障」と言えるのだが、他の言動がとても素直なのでストレートなロマンチストとしか言いようがない。

 

 

「ただいまー!はぁ、お腹すいた!今日はファノのごはんだから、味は保証付きね!」

 

「僕は君の手料理も好きだけどなぁ。ファノの料理がおいしいのは同意するけど」

 

「ほっとする味付けは絶対ファノの方が上手ですもの。私はこう…ガツンと行きたい時のほうが!」

 

「それは…違いないね」

 

 今日ラビリントスに潜っていた2人が帰ってきた。子供たちが産まれて以来、流石に「ファノちゃん」呼びはやめてもらっているが、実のところファノの敬語と「さん」付けは抜けていない。

 

「二人とも、おかえりなさい。もうすぐできるので、先に手を洗ってきてください」

 

「ただいま、ファノ。二人とも、いい子にしてた?」

 

「うん、今母さんから結婚記念日の花の話を聞いて、ついでに忍冬の話もしてたんだ」

 

「その花言葉、絶対母さんに教えちゃだめよ、また惚気だすから!」

 

「え、何々?何の話?」

 

 洗面所に向かいながらにぎやかに会話する4人を見送りつつ、お皿の準備などを始める。…穏やかで、満ち足りた生活。あの女神が、自分に望んだ最後の願いは、こうして果たされている。

 

「ヴェリア様…見てくださっていますか…?」

 

 

 

 

 

「見ているよ、ファノ。ああ、本当に、君たちを好きで、良かった」

 

 

 

 その声は、彼女の願望が生んだ幻か、それとも本当に、あの女神が見守っているのか。…きっと後者だ。いつも見守っていてくれてるのなら、自分たちは、彼女の願いをかなえ続けよう。

 

 

 




・宿屋の料金がままならない
実は数日分まとめ払いの方が1日あたりはお安く済むのだが、当然最初にどかっとお支払いになるので厳しいといえば厳しい。

・一括で買って金欠
実はゲーム内では「借金」という手段があるが、返済に日数制限が付き、超えるとゲームオーバーになる。
なお、トルテを買わないと「次の階層に進めない」為、無視することは不可能。金策が上手く思いつかないなら、地道に貯めよう。

・皇室には戻れない
シナリオ中では言及されないが、人物紹介を見ると「トルテの名前は逆族として処刑されたと記録されているが、本人はどこ吹く風」と、公式の記録は訂正されなかったことが分かる。最も、彼女は新たな戸籍で楽しくやっている、とも。

・木春菊
マーガレット。つまりはファノの好感度上昇アイテムである。(アイテム表記は花だが、解説を読むとこの大陸にはないマーガレットという事が分かる)

・恋愛小説
ゲーム中の表記は「夢見る乙女の小説」。このゲームでは羞恥心が「下がれば下がるほど」露出度の高い装備を付けられるようになるが、このアイテムはマナー教本と同じく「羞恥心を上げる」アイテムである。なので定期的に渡してる=作中の2人は羞恥心100。恥ずかしい装備は一切つけてくれない。

・遊びにくるキルシュ
実は1回、お忍びで自宅に遊びに来るイベントがある。

・忍冬の花言葉
会いたいよ、志乃…

・「永遠の恋」「色褪せぬ恋」
千日紅の花言葉。

・子供たち
完全に捏造です。
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