「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
ヴェリアプールの港の一角にて、満月が丁度南中している頃、釣り糸をのんびりと垂らす男性が一人。傍には黄金の剣も置いてあり冒険者である事が分かる。そんな男性に近寄る、人影が一人…
「世界を救った英雄とは思えない呑気な姿ね、釣れているの?」
「アジ3,スズキ1,あと美人の嫁さんが1」
「…貴方、結婚してからその手の台詞増えてない?」
「色々我慢してた分、多少の独占欲はでるよ」
そういいながら、彼は傍らに立つ愛しい妻…トルテの方を向く。
神域にて邪神を討滅し、帰還して数日。黒騎士として皇帝への報告(流石にトルテもベアヒルダも同席させられなかった)だのパーティ全員での祝勝会だの戦利品の整理などをしてる間に瞬く間のうちに日々は過ぎ、今日は久々に「何もない」穏やかな日であった。
「ファノは?」
「ここ数日の行ったり来たりや騒ぎで疲れたんでしょう、早めに休んでる…私はほら、お母様に報告に行った日は事実上休みだったし…」
公式記録の上ではいまだに「謀反を計画した咎により処刑」されてる筈の彼女が顔を出すわけにもいかず。ついでに言えば「皇帝に術をかけていた」上にどういう訳か若返っているベアヒルダも顔を出せず。交通そのものは皇室持ちで転移で行われたとはいえ、テイニィや彼は慣れないお貴族様相手で死にかけていたのだが、その間トルテは一足先に羽を伸ばしていた形だ。
「そんなものかな…立ってても何だし、座りなよ」
「じゃ、お邪魔するわね」
彼が自分の隣をぽんぽん、と叩いて促すのに従い、トルテも並んで腰かける。…彼、ファノ、そしてトルテの「三人きり」になることは比較的あったのだが、彼と二人きり、というのは結構久々だった気がする。
「そういえば、貴方に助けられたのも、こんな満月の日だったわね…」
「『買われた』では…?」
姦計により奴隷へと身分を墜とされたトルテを、一番穏当に救う方法。それは購入し、自分が主人となる事。そう思って、財布の中身も確認した直後にとっさに入札したわけだが…まぁ、買われる方からすればそんなのわからない訳で、しばらくは喧々諤々だったのをつい、思い出してしまう。…そう考えると、今の彼女の言い分は随分美化されてる気がするが。
「ねぇ、前から聞きたかったんだけど…貴方はどうして、私を…その、買おうと思ったの?何かこう、あの短時間でそう決意する理由とかあったりするの?」
彼に訂正されてしまったため、一瞬「助けてくれた」と言おうとしたのを「買おうと」に訂正する。…本当はそれほどに、あの出来事は今やトルテの中では大事な出来事、という事になっているようだが…
「…その話題、この前の女子会で変に話を脚色してアウラに暴露されてたやつだろ……」
「ちょ!?なんで貴方までそれを…ってアウラが貴方に告げ口したのね!!」
オウドラゴン本体が此処にある為近くにいるであろうアウラの姿を探すが、都合が悪いからか出てきていない。…そう、先日仲間内の女性陣内で「彼との出会い」について聞かれた際、「目が合った瞬間運命を感じた」「私この人に買われるのね、とときめいた」等を盛大に話を盛り、「初日の反抗っぷり」を暴露され大恥をかいたのである。…察しの通りそれをアウラが彼に告げ口し、噛みつかれっぱなしだった彼は苦笑いをするしかなかったのだが。
「そんなロマンチックに飢えてるトルテには申し訳ないけど、僕が君を買おうと思った理由もひどく地味で、少なくとも恋愛小説みたいに『一目見た君の姿に心を奪われた!』みたいなことは無いからね」
「ぐぬぬ…なによぅ、貴方まで追撃かけなくたっていいじゃない…」
「嘘言う訳にもいかないだろうに…僕が君を買おうと思ったは単純に、縁があり、知ってる女の子が困ってるのを見捨てるのは気分が悪かった、それだけだよ」
その言葉に、トルテは疑問を覚える。縁があり、知っている?自分たちはあの奴隷競売が初対面ではなかっただろうか、と。
「ちゃんと話してなかったけど、君がヴェリアプールに運ばれてくる船に、僕も乗っていた。テイニィとの初対面では見捨てられてたって話は聞いているだろう?」
船に密航したらその船が運悪く魔物に襲われて~という話をテイニィを聞いていたトルテだったが、それが自分が運ばれていた船、とまでは結びついていなかった。…というか、一歩間違うとそのまま沈没していた可能性にちょっとだけ身震いする。
「その時に、フレデリックと言い合ってる君の声を聴いていた。だから、ヴェリアプールについた時君がどうなったか気になって、奴隷競売に顔を出したんだ。そうじゃなきゃそもそもあんな所いかないよ」
確かに彼の性格を考えれば、そもそも奴隷など欲しがるはずがない。それが何であの競売にいたか…という所も疑問ではあったが、これで全ての謎が解けた。
「あの言い合いを聞いていた…ただそれだけの理由で…?」
「うん」
事も無げにいう彼。だが、それは…
「だから、君を知ってたし、見捨てたらきっと嫌な気持ちになった…それを避けたかっただけなんだ。運命の出会い風じゃなくて大変申し訳ないが」
釣り糸を垂らしながら、彼は平然と言う。きっと、彼は本当に「それだけ」で「ロマンのない話」と思っているのだ。
「…過度な謙遜や謙虚さは却ってよくない、ってこの前知ったでしょうに」
彼の肩に、そっと頭をのせる。言葉は、彼に対しての注意。でもその心は、彼の善意を嬉しく思うもの。
「見捨てれば嫌な気持ちになる。それはそうでしょう。でも、だいたいの人は『それで済むなら』それで済ませてしまう。自分の生活を守るため、正道から目を逸らせてしまう…そうしなければ、生きてゆけない事も多いから…」
「……」
「でも、貴方はそれをしなかった。自分が助けられると思ったら、自分への言い訳をせず助ける…それは、とても貴い志よ」
見捨てても、咎めるものは誰もいないだろう。それが賢い生き方だというものさえいるかもしれない。第一トルテ側はあったという認識すらなかった。縁というには、余りに薄い出会い。それでも彼は見て見ぬふりをよしとはしなかったのだ。
「…ま、ちょっとだけお財布の中身への想定は甘かったけどね?」
「それは半分君のせいじゃないか…」
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それは、彼女が買われた初日の事。
「ちょっと、一部屋しか取れないってどういう事?!」
シロウサギ亭のカウンターにて。トルテが彼に向かって怒りを露にする。「お金がないので今夜は諦めてシングルベッドの部屋に2人で泊るか、これからでもラビリントスで稼いでくるか」という、トルテからすると全くあり得ない選択肢を突きつけられたのだ。
「どうもこうもない、言った通りだよ…」
「ふざけないで、貴方と同じベッドで寝るとか冗談じゃないわ!」
そりゃそうだよなぁ、と彼の方もため息をつく。が、これに異を唱えたのがアウラである。
「…この娘は何をいっておるのやら…これもマスターが装備だの日用品だのを甘やかして買い与えるからではないか?もう一度、『分からせて』やったほうがいいのでは?」
アウラのその言葉を聞き、トルテの顔がさっと青くなる。彼と顔を合わせた直後「服を脱げ」という彼の命令に逆らえず、全裸を晒す羽目になった事を思い出す。…だが、それに異を唱えたのは、ほかでもない彼だった。
「…アウラの口車に乗せられたとはいえ、命令があそこまで強力に働くなんて僕も思ってなかった。もう二度と、あんなひどい事するもんか」
「…えぇ、なにかわらわが悪い事になっている?」
アウラが露骨に不満そうな声を上げる。確かに奴隷の扱いとしては彼の方が間違っている、と言えばそうなのだが…とはいえ、彼の態度に、トルテは少しだけ安心感を取り戻した。
「…でもお金がないのは事実なんだよなぁ…まさか、この櫛があんなに高いなんて…」
装備品に関して言えば生き死にに直結するので手は抜けないし、女性に必要な日用品、というものも彼は理解できなかったので、結局トルテの言うままに買ってしまった。…結果、結構お高い櫛を買う羽目になり「2部屋」借りる想定だったところ、それが出来なくなってしまったのだ。
「どれどれ、どんな櫛を…ってこれ、高級品じゃない?なんでまた…」
話を聞いていたシロウサギ亭のおかみが荷物を覗くと、その中に入っていたのは竜の産毛を使った、かなり上質な櫛が。
「そうなの?!その、使い心地が良いからつい…」
「…成程、ナチュラルに高級品を選んでいたんじゃなこの娘…」
「…いや、でもさぁ…確かにトルテの髪は麦の穂みたいで綺麗だし、それが痛むのは忍びないし…」
あまり値札を見ずに買ってしまってやらかした事実を悟るトルテ。そして、ストッパーになるべきだったのに甘い考えでそれにしくじった彼。こんなのでやっていけるのか、とアウラは少々不安を覚えるのであった。
「…事情は分かったわ。女性の髪を守ろうとしたその気概に応えて…今晩だけね。最も、片方は仮眠室だけど」
溜息をつきながら…シロウサギ亭のおかみは『鍵を二つ』彼らに渡した。
「…恩に着ます、このお礼は、明日以降の探索で稼いできて、必ず」
そういって彼は、仮眠室の方の鍵をとった。
「…いいの?」
彼の意図を察し、通常の部屋の方の鍵を受け取るトルテ。だが、ここまでくると流石に冷静になる。通常、こういう状況なら彼女の方が仮眠室を使うべきではないだろうか、その、立場的に。
「奴隷屋の環境にいて疲れてるでしょ。ちゃんと休んでよ。明日から探索で体力使うんだから」
…正直なところ、彼だってちゃんと船でヴェリアプールに来れたわけでなく、カッターで途中で降ろされる形だったのだ。体力消費という意味ではいい勝負である。それでも、そんな事おくびにも出さずに通常の部屋をトルテに譲った。アウラは既に諦め、何も言わない。
「…その配慮には、キチンと礼を言います…ありがとう…」
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あの時の櫛は、そのまま彼女の宝物の一つとなった。…男性冒険者なら一番気にしないであろう部分まで気を遣ってくれた、という事実を後から認識して、日用品からランクアップした形だが。自分だけではなくファノの髪をとかすのにもよく使っている。彼女の黒髪もまた、この櫛のおかげであの吸い込まれそうな色を保っている。
「翌日から大変だったわね。これは売る、これは売らない、5日分の方が割安だからまとめて払う、日払いにして兎も角宿を確保する…散々喧嘩もしたわね」
「喧嘩っていうか…君がどうにもお姫様金銭感覚が抜けてなかったから必死に説得してただけなんだけどなぁ」
高い品の方が結果的にコストパフォーマンスが高いのは事実なのだが、そこにたどり着くまでにはある程度安いもので回す必要もある…という思考回路が彼女にはなく、「最初からある」前提の彼女をどうにか説得していく羽目になったのであった。今となっては笑い話だが。トルテは目を細め、愛おしいそうにその事を思い出す。
「そんな苦労を背負ってまで、私を買って…ううん、救ってくれたのね、貴方は」
先ほどは彼に合わせて「買った」といったのを、再度訂正し、救った、と言い直す。いくら彼が謙遜しようとしても、ここのラインを譲るつもりは、トルテにはもうない。…同時に、少しだけ、あまり綺麗でない、人には言えない、それでも主張したい、相反する優越感を感じてしまう。
ファノは、言うなれば分かりやすい「助けるべき」女の子だった。遺跡の中に封じられていた、全てを失った少女。娯楽小説で言うなら「天から降ってくる」ヒロイン。彼女の手を取る為に必要な代価は無く、他の冒険者でも同じ状況になれば、きっと手を差し伸べただろう…その後の弱みに付け込んで色々する可能性はあるので、そんな行為を良しとしない彼だったのはファノの幸運ではあるが。
だが、トルテははっきり言えば「見えてる地雷」であった。競売の時は皇室関係の厄介事として『最初の値段からむしろ下がっていくほど』皆が躊躇した。そんな地獄のような様相の中で、彼が手を挙げてくれた。「船の中で見かけた」たったそれだけの縁を見捨てない為に。確かに恋愛小説のようなロマンチックさはないかもしれない。出会った場所は美しい花園ではなく、欲望渦巻く奴隷競売。初対面は頬を染めた乙女が騎士に見ほれる形ではなく、怒声と強制的な契約。それでも…彼が手を差し伸べてくれた事実そのものが、貴かった。
「自慢になっちゃうから、あの時の貴方が素敵だったこと、他のみんなには言えないわね…それだけは残念」
「…君がそう思ってくれるのなら、僕は嬉しいな」
釣り竿は左の脇に挟む形で支え、彼の右手がトルテの頭を撫でる。月夜の涼しげな空気の中、彼女からの温もりが心地よい。この暖かさだけで、今までの戦いが報われる、そう感じるほどに。
「…本当に、聖剣の担い手に相応しい騎士になって…まるで蒼銀の騎士みたい」
実は彼も一緒に読んでいた小説の、気持ちの良い英雄の名を挙げる。ラビリントスに潜った初日、戦い方がなってないと散々説教をした日からは考えられない程、彼は逞しくなった。だが今思えば、善なるものを良しとし、悪しきを糾す事を貫ける、その姿勢があったからこそオウドラゴンは彼を選んだのかもしれない。
「そこまで言われると、ちょっと恥ずかしいかな?」
「いつものお返しよ。貴方、これくらいの事スラスラいうんですもの」
プロポーズの翌日の告白、という一般から見るとちょっと意味不明の出来事を思い出すトルテ。あの時は色々あってすぐに抱き着いてしまったが…実はお風呂の中で彼の言葉を思い出し、勝手にゆでだこになっていた。なおファノは正面からアレに類する告白を受けたうえでしっかり返答できたらしい。よく耐えられたものだと感心してしまった。
「…そろそろ、戻ろうか。釣果は十分だし、これ以上は君の体が冷えるよ」
「うん…でも、もうちょっとだけ」
もうちょっとだけこのままでいさせて。そういって、彼女は彼に抱き着く。
「仰せのままに…王女殿下」
「もう…今は貴方が騎士で、私は一般人の…貴方の妻なのよ?」
「そうだった。では、可愛い奥さんのお願い通りに」
なお、数年後、子供たちに出会いを尋ねられた際、結局はトルテのヒロイン度が上がるような言葉のチョイス(巧妙に嘘はいっていない)での説明をはじめ、彼が苦笑いしたのはまた別の話。
・サブタイトル:アトルガンの秘宝、コルセアのアーティファクトクエスト3「やがて海霧の夜に飛ぶ」
コルセアのクエストは朝凪→白昼→夜と時間経過が分かるタイトルになる。
・夜釣り
実際には夜でも交換NPCがいるのでこんな自由な形での釣りはできない。自分で釣って自分で調理なんて、それこそFF11かフォレスティアくらいではないだろうか
・交通は皇室持ち
皇帝直轄の黒騎士の邪神討伐報告なのでそれくらいはしてもらえると思うが、転移用のアイテムは非常に高級である。テイニィが主人公を最初見捨てたのも「お高い上に1人用しかないから」
・女子会
実際にあるイベント。主人公との出会いについて語り合う。発生条件を忘れてしまったが、本来この状態では発生しない可能性がある…が、そこは独自設定という事でご容赦願いたい。なお一番ロマンチックなのはファノという結論になった。
・話を盛る
あたかも運命の人に買われてキャー!みたいな風に話を盛るメインヒロインがいるらしい。実際には買われた直後の好感度はー30である。
・夢見る乙女の小説
ゲーム中では「一般人と思ってたヒロインが実は貴族の令嬢だったが、幼馴染の男の子との恋を成就させる」ものらしい。が、内容が一種類だけではな「何冊も渡した」にはならないので、いろんな小説を渡してる独自設定にしました
・君の姿に心を奪われた
きっとおとめ座のロマンチスト
・フレデリック
皇帝陛下より託されたトルテを奴隷にしてオウドラゴン共々売り飛ばそうとした屑野郎。ただし結果的にコイツのおかげで2人は出会えた、ともいえる。なお白の邪神教団に入る為、テイニィのクエストで再び敵対することになる。
・ただそれだけの理由
「あの子はどうなったか」以上の理由ではなかった。そもそも冒険者である主人公は奴隷には興味がなかった。プリスからはPTお断りされているが。
・二部屋
完全に独自設定。ゲーム中では常に同室だしそれでトルテやファノが怒ることは無い。これは家を建てても同様、同室で3人サイズのベッドで寝ている。そうでないと発生が説明できないイベントもある故に。なのでこの物語で彼は探知機を使えない。
・『分からせて』
装備を外すとグラにも反映される、という事を示すチュートリアルでもあるのだが、主人公の命令で裸にひん剥かれる。当然泣かれる。すぐに服を返してあげる事はできるが。
なお、実際のゲームではファノにも結局同じことをするが、この主人公はそんなひどい事はしなかった、という事で。
・櫛
トルテの好感度用アイテム。竜の産毛を使っている一生ものの品だそうな。これでファノの髪を梳くシーンもある。
・カッターで途中で降ろされた
主人公、実は密航者なのでそのまま簀巻きにされて海に投げ込まれても文句が言えなかったが、船を救った功績でそのような処分になった。
・天から降ってきたヒロイン
ラピュタとかそういうの。なお別のゲームにて「そういうヒロインこそ最強」と自分で言い切るヒロインがいる(故人)
・見えてる地雷
記憶を見る水晶で「皇室内で陰謀があった」のは読み取れたため。今まで乗り気だった「可愛い女の子の奴隷ほしー^^」とかいってたやつが急に尻込みを始めるレベルである。値段もどんどん下がっていく。哀れメインヒロイン。
・出会った場所は美しい花園、騎士に見ほれる乙女、蒼銀の騎士
Knight of Sky Silver。筆者の最推しの剣士。というか奈須さん割と乙女ですよね?蒼銀のフラグメンツ、女性人気の方が高いし。夢見る乙女の小説の1作品としてそれに近いお話を読んでいるという事で。
・貴方が騎士で、私は一般人
僕たち(私たち)入れ替わってるー!?
黒騎士にそこまでの貴族位があるのかは不明だが、独自解釈で。
今後考えてるネタ
ベアヒルダ関連で1本、奴隷契約破棄で1本
8/18 別の言葉に係ってたとはいえ同じ表現が連続していた部分を修正。