「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集   作:スケィス3rd

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…1話で済む予定だったんだけどなぁ、ベアヒルダの説明をするとどうしても


何ゆえその子は(前編)

 その夜、ファノはうめき声で目が覚めた。一瞬、自分が何か変な声を出したのかな?とも思ったが、違う。

 

「ぐぅ…や…め…」

 

「…!?貴方、しっかりしてください…!」

 

 声の主は、自分の隣で眠っていた彼女の夫。顔をゆがめ、何かを拒絶するようなうめき声をあげている。まさか、どこか具合が悪くなったのか?とファノが心配をしていると

 

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

 

 絶叫をあげならガバっと目覚める。その後、肩でぜぇぜぇと息をしながら、周囲をきょろきょろと見回す。

 

「ああ…良かった、目が覚めたんですね…とても魘されていて…」

 

 そんな彼の目に入ってきたのは、自分を心配そうに見つめる愛しき妻。只ならぬ事態と思ってベッド脇のランプをともして様子を確認してくれていたらしい。彼女の姿を認識することで、ようやく自分が悪夢に魘されていただけ、と認識する。

 

 

「…ごめん、まさか悪い夢で君の事起こしちゃうなんて…」

 

「大丈夫ですよ…その、貴方があそこまで魘されるなんて…」

 

 全身汗だくになるほどの魘され方は、尋常ではなかった。

 

「……」

 

 何に魘されていたかを話さない、それだけでファノはある程度事情を察する。「あの光景か」と。

 

「あの…私、お水持ってきますね」

 

 ともあれ、これだけ汗をかいたなら喉も乾いてるだろう、と落ち着くのにも良い水を持ってこようと、ファノはベッドから立ち上がろうとする…が、そんな彼女を彼が後ろから抱き留める。

 

「待って…ごめん…」

 

 そんなものより、今はただ、そこに彼女がいる、という確証が欲しかった。

 

「…大丈夫です、私はここにいますよ」

 

 向き直り、彼の頭を撫でるファノ。

 邪神にすら臆せず挑み、盾として全ての攻撃を捌きながら、聖剣の一閃を過たずその核に叩き込んだ担い手。そんな人物が弱みを見せられる数少ない人物が、自分ともう一人、トルテだけな事を、ファノは理解している。世界を救った英雄が決して外には見せない姿を見せる、その信頼に応える。

 

 …真正面から応えてしまったため、結局ほぼ抱き枕のように抱き着かれたまま彼は寝入ってしまい、ちょっと寝苦しかったのは内緒である。

 

 

 

 

 なんて事のあった翌日

 

 

 

 

「単調直入に伺いますけど、なんで私ってお兄ちゃんに一線引かれているのでしょう?」

 

 まさにその夢の原因に関わる少女に、大真面目に質問を受ける羽目になるとは、ファノもトルテも思っていなかった。

 

 

────────

 

 

 話を朝までさかのぼる。テイニィと共にレッテルフェイスの所に顔を出しに行く、と彼は珍しくトルテとファノと別行動をとっていた。これはこれで2人で買い出しの機会なので、そろってなんでも市場に繰り出していた所…共にパーティを組むこともある少女、ベアヒルダ・フレズヴェルグに声をかけられた。そして、2人だけなら丁度聞きたいことがある、とシロウサギ亭の2階でお茶を飲みながら始めた会話の第一声が先ほどのあれである。

 

 ベアヒルダの立ち位置は複雑だ。もともとはファノと同じ黒き女神ヴェリアの巫女でありながら、邪神パルファドールに魅入られ洗脳を受け、パルファドールがこの世界に降臨する為の尖兵としてずっと活動してきた。その過程でファノを装置に封じたり、皇帝キルシュを操ってオウドラゴンの本来の担い手たるトルテを無実の罪で処刑しようとするなど、このパーティメンバーの人生に少なくない疵を与えている。

 しかし、「洗脳を受け」といった通り彼女もまた被害者であり、パルファドールは最終的に彼女を生贄に選んで降臨する、という手段を取ろうとした。召喚装置からひっこぬくという強引な作戦で救助されたベアヒルダは、魔力と記憶の大部分を装置に吸われてしまったものの、天才魔術師にしてヴェリアの巫女だった頃の少女として復活。神域でパルファドールを抑えるヴェリアを助けるため、ラビリントスから神域への道筋を解明すべくパーティの協力者となったのだった。

 記憶も吸われてしまってる為、今の彼女にファノやトルテを害した時の記憶は一切ない。それどころか聖剣の担い手を「ヴェリアを救う為の切り札」と認識し非常に懐き、「お兄ちゃん」と呼び慕って彼を非常に混乱させている。

 

 トルテもファノも、ベアヒルダの件に関しては割り切れてしまっている。トルテは彼女のせいで奴隷身分に落とされたものの、元々皇帝キルシュに我儘をいって前線で姫騎士なんてやっていた気性の持ち主である。キルシュが「この子に政略結婚とかどう考えても無理でしょう」と諦めてた時点で色々察せられるものがある。奴隷に転落し、彼に購入された直後こそ荒れたものの、結果的に「人を助ける」仕事たる冒険者はトルテの気質に非常にマッチしている。キルシュとも和解ができて、何より最愛の男性と出会えた現在の生活に一切不満がない。

 ファノはというと、当時のベアヒルダが民間人を人質に取る形で生贄になる事を迫ってきて、命を諦めるように追い込まれた。その後の色々あって記憶をなくした後、知人が誰もいない世界に一人放り出された挙句奴隷にされるという憂き目にあったわけだが…ベアヒルダの正体が『当時のヴェリアの巫女』であり、何かのかけ違いがあれば自分があの立場にいて他人を害していた可能性を、ファノは理解してしまっていた。生まれの順によっては「逆だったかもしれない」がありえたのである。そうなると途端にベアヒルダが「もう一人の私」と見えてしまい、自分が結果的にこの世界で幸せを見つけたように、彼女にも穏やかに暮らしてほしい…と願ってしまうのだ。

 

 …なお、先ほど言葉、言ってしまえば「2人の旦那に粉かける気なんだけど脈が無いのは何故なんでしょう?」になるのでそういう意味ではいい根性してるな、とは思うが…一応合法なので…

 

 

 が、2人のように割り切れていないのが聖剣の担い手である。

 

 体を張った魅了をかけられ、2人の前で恥をかかされた…のはまぁ、本人も自分の心に隙があったのは認めてるので、2ストライク位だが。ベアヒルダが散々トルテとファノを嘲弄する言葉を発した結果、彼から2人に告白した時の詩人のような語彙とは180度逆の…「売女」「阿婆擦れ」「年増」「薄汚くて魅了が無ければ抱く気も起きない」といった耳をふさぎたくなる罵倒をするレベルまで激怒。更に…

 

 ベアヒルダは、一度トルテを殺害している。

 

 正確に言うと、パーティを離脱させるためトルテとオウラが殿を務め、離脱後奴隷契約の失効が通知されたのである。その現場こそ見ていないが間違いなく殺害されている。冷静さを欠いた彼は結局無策にもう一度突撃し…ヴェリアの介入を招き、おかげで何とかトルテを蘇生(正しくは逆行)させる事には成功したが…先ほどの罵倒も、2人を侮辱したことに加え、トルテを害した相手に一切の容赦は必要ないという意識から出たものだろう。

 そんな、彼からすれば「八つ裂きにして狗の餌にしてもまだ怒りが収まらぬ」程憎い相手と、同じ顔、同じ声の少女が「お兄ちゃん」と呼び慕ってくることに、彼の頭は完全に混乱した。ヴェリアを助けるためには彼女の助力が必要という事情、及び優れた魔術師のパーティメンバーとして守る必要がある事は理解するが、脳裏にはあの時の怒りが未だにフラッシュバックするらしい…というか、したからこそ昨晩悪夢に魘されていたわけで…

 

 尚、殺された張本人は「貴女も被害者だったのね、一緒に戦いましょう!」と簡単に受け入れている(そもそもベアヒルダの救助という作戦を考え付いたのはトルテ)。時間逆行による蘇生の為、実は殺された時の記憶がなかったことになっているので「なんか実は大変なことになってた?!」位の認識の上で、いざという時は弱き物の盾となる覚悟ができているのも一因か。トルテも、自分が原因で彼がベアヒルダへの対応に色々苦慮しているのは理解しているが。

 

 

 

「あ、もちろん、パーティの動きとしてお兄ちゃんに不満を持ったことは一度もありませんわ。そこは勘違いしないでください」

 

 

 どう答えたものか悩んでる2人に対し、ベアヒルダは言葉を続ける。確かに、パーティの守護役として彼がベアヒルダへの感情を理由にミスをしたことは、2人が覚えてる範囲ではない。ファノ以上の術者であり、パルファドールが傀儡とするほどであった存在。いくら退行して能力が下がったとはいえ一度は目を付けた相手、決戦の最中は何度も狙われ、彼はそのたびに的確に攻撃を防いでいた。ほかにも、神域での行軍や戦利品の分配など、彼女に不利になるようなことは決してしていない。

 

「ですが、こう…なんというか、お兄ちゃんの私への反応って『決まり切った』動き過ぎません?」

 

 …例えばテイニィ相手の場合。お互いに「見捨てた」「ご奉仕させた」とさし合うネタがある為、ある意味とても気安い関係になっている。こういうとテイニィは怒るが、年頃の男子同士のやり取りに近い。プリスは聖剣使いの先輩と魔剣収集癖のある後輩、で同じ剣士でもある為、現代世界で言うなら体育会系に近い関係(つまり時々無茶ぶりとかもする)。リーゼは…ちょっと特殊な上に最近マスター権はベアヒルダに返したので語る必要はないだろう。

 それに対しベアヒルダに対しては「問題なく公平」「事務的に問題の無い返事」に終始し「お兄ちゃん呼び、という唯一無二の属性に全く反応しない」と、そつないことが却って塩なのが分かる対応しかしてないのである。

 

「その…私だって、パルファドールに操られて皆さんと敵対していた事は知ってますけど…お二人は私に優しくしてくれますのに、なんでお兄ちゃんだけ…というのが不思議で…」

 

 目の前の相手を一度殺してヴェリアに尻ぬぐいさせた等とはショックの大きい話であるので「敵対してて何回か戦った」までしか伝えていない事、その上でファノは一種のシンパシーで、トルテは持ち前の明るさで迎え入れてることが、彼の反応を余計際立たせてしまっているらしい。

 

「心当たりはあるんだけど…本人のいない所で勝手に言うのは憚られるわね…」

 

 漸くトルテが口を開く。そして、少なくとも間違っていない回答である。彼がベアヒルダにどういう感情を抱いているか、代弁するわけにはいかないだろう。しかも好き嫌いという一番センシティブな部分で。

 

「むう…やっぱりこの場では教えていただけませんのね」

 

「流石にねぇ…」

 

 困った表情をして、トルテが脇に座るファノを見る。

 

「…今日はこのまま解散して、ちゃんとあの人と話す機会を作る、ではだめでしょうか?」

 

 意を決して、ファノが切り出す。それはつまり、彼にベアヒルダと向き合うよう促す、という事。そしてその為に…魘された時に話さなかった悪夢について、突き付ける、という事。一瞬ぎょっとするトルテではあったが…

 

「そうね…あの人もいい加減、ちゃんと向き合った方がいいし」

 

「まぁ、二人とも事態解決に協力してくださるのね!」

 

 事態解決…になるのだろうか。多分、彼女に辛い事実を突きつける結果になる気もする。…ただそれでも、「意味も分からず嫌われる」よりは…

 

 結局その後は他の雑談をした後、解散となった。彼を含めた話し合いの日にちが決まったら、伝えに行く、という約束をして。

 

 




・サブタイトル
プロマシアミッション「なにゆえにその子は」
お話の内容的には「なにゆえその子『に』」な感じですが。

・なんで2人で同じ部屋で寝てるの?別の部屋じゃないの?
やる事やる時(下品)はそりゃ同じ部屋です。訪ねる方式で。彼の部屋は別にあります。なお一番狭い模様。何度目かの話になりますが原作ゲームでは3人川の字で寝てます。

・レッテルフェイス
ヴェリアプールの裏社会を牛耳っている人外。実はOPの船の持ち主でもあり、テイニィのクエスト関連では何回か会う事になる。白の邪神教団とも敵対している。

・ベアヒルダを生贄にして降臨
実は最初から彼女を殺す気だったという結構回りくどい戦略をとるパルファドール。洗脳でも自殺まではさせられないので、という事らしい。

・少女として復活
敵対時のベアヒルダは妖艶な女性だが、味方バージョンはロリである。なので正確に言うと声色は結構違う。ちなみに、実はベアヒルダのcv担当は前作ではヒロインのミルカ担当だったとか。

・「お兄ちゃん」
メインヒロイン二人が「ご主人様」 テイニィが「相棒」 プリスが「先輩」 リーゼは「マスター」。ボイス付で相手を呼ぶときの二人称って色々あるよね。筆者もマスターで指揮官なのでよくわかる。

・「政略結婚とか無理」
実際、諦めていたらしい。お労しや皇帝陛下。

・トルテ死亡シーン
実は結構呆然となってそのシーンを迎えた思い出。メタ的に言うと「トルテと二人旅」のシーンはあっても、ファノと二人旅のシーンがないゆえのバランスだとは思われるが…イベントシーンが大半なので戦力的に厳しいシーンは少ない。ちなみに筆者がプレイした当時、丁度「不可逆廃棄孔イド」をやって「メインヒロインと同じ顔の少女が死ぬ」シーンで衝撃受けてたんですけどね…

・時間遡行
ヴェリアの切り札。ただし、目の前でやってしまっためベアヒルダに解析されてしまい、以後のループは封じられてしまった。

・ベアヒルダ救出はトルテの案
殺された本人が一番最初に救出を提案するという冷静に考えるとなかなかシュールな構図

・「敵対したことは知ってる」
実は本編中、洗脳中の彼女の所業について細かく伝えるシーンはない。まぁ実際、少女状態の彼女にはちょっと重い話だが…本人の意思じゃないし…


・ベアヒルダについて補足
実は唯一の「絶対加入する4人目のキャラ」であり、他のキャラと同じように専用クエストが2つあり、その過程で普通に「魔力供給」とかをできてしまう。そして普通に指輪も受け取ってもらえるし同居もできる。
繰り返すが彼女もまた被害者であり、そんな彼女に優しくしたい、というプレイスタイルは決して間違っていない、貴いものである。ただこのお話の主人公はトルテとファノが好きすぎてそれができないというだけの話。聖剣の担い手だけどちょっと復讐者気質があるので。


後編は夜に。
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