「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
夜とは言ったが日付変更線丁度とは言っていない(震え声
「これから彼にも話すにあたって、ファノちゃんには打ち明けておきたいんだけど…」
会談からの帰り道。冒険者ギルド近くの道。買い込んだ食糧なども抱えつつ歩くファノに、トルテがやや遠慮気味に切り出す。
「…時々、ではあるんだけどね?彼、私がベアヒルダにやられた時の事、悪夢としてみるらしくて…魘される事があるみたいなの…」
トルテ曰く、絶叫しながら夜中に目覚め、驚いて起きたトルテが何があったのか、と尋ねたところ、ひたすら「ごめん…」と言いながら抱きしめられたのだとか。その瞬間の記憶があいまいなトルテではあるものの、どういう経緯でそうなったかについてはヴェリアや仲間たちからは聞かされていたため、彼がそこまで取り乱すのも理解していた。
「昨晩だけじゃ、なかったんですね…実は昨日も…」
「…やっぱりその後抱き枕にされてたり?」
「あの顔を見たら振りほどけませんよ…」
話をすり合わせる限り、そう毎晩という訳でもなく、本当に「偶に」の様ではあるが…やはり心の澱として残留しており、ベアヒルダへの対応に悪影響を及ぼしているのは確実だった。
「全く、殺された本人…っていうのもおかしいけど、それが許してるのに、アイツも頑固よねぇ…」
「それだけ深く…私たちの事を想ってくれてるからですよ。だから私達だって、あの人の事を好きになった訳ですし…」
「それはまぁ…そうなんだけど…」
彼からの愛情を再確認する反面、トルテ側からは彼への説得の材料がなくなってしまう。トルテが許している、許していないは既に関係ない以上、別の切り口を探さねばならない。が、二人で少しアイデアは出しつつも、結局上手く説得できる材料が見えない。そのまま、結局自宅前まで来てしまった。
「ど、どうしよう…全く説得できるビジョンが見えない…」
暗澹たる表情のトルテに対し、ファノは…最後に一つだけ、思いつく。彼の心に訴えかける方法を。
「…多分、これを言ったら『ずるいよ』って言われると思うんですけど…」
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「話す必要はないと思うけど?悪い対応はしてないって本人も言っているんだろう?」
食後、トルテとファノから、一応遠慮がちに話を切り出してみたが、案の定バッサリであった。話したくない、関わりたくないが前面に出てしまっている。
「確かに不利益ではない、とは言ってるけど、実際壁を感じている訳で…」
「壁作ってるもん」
完全に拗ねている口調である。
「そうはっきり開き直らないでよ…」
「大体、ベアヒルダの戸籍関係で各所に根回ししたり、冒険者登録手伝ったり、無一文だったアイツの当座の宿代負担したの僕だよ?むしろ親切って言ってもいい位じゃないか」
「いや、だからそういう面では確かにそうなんだけど…」
トルテがなんとか議論を進めようとするが、普段の彼からは考えられないほど頑な…というかもはや駄々をこねる子供レベルで話に応じてくれない。
「…間の悪い出会い方ってあるだろう。僕らだって、普通の冒険者と王女として出会ったら決して話なんかできなかったし、時を超えなかったらそもそも出会わなかった、とかがありえたんだ。仲良くなれない出会い方だってあるさ」
確かに自分たちが彼と出会ったのがそもそも奇跡みたいなものなので、そういう風に持ってこられると納得してしまいかける。だが、主題はそこではない。
「私もトルテさんも、無理にベアヒルダさんを好きになってほしい、と言ってるわけじゃないんです…というか、私も流石にこれ以上奥さんを増やして欲しいわけではないですし…」
ファノとトルテがお互いを大切に思ってるというバランスだからこそ、彼に対し嫁二人という生活が成り立ってるだけであり、これ以上のハーレム展開はトルテもファノも別に望んでいない。ベアヒルダを家族に迎えよう、と言っている訳ではないのだ。
「何故ベアヒルダさんを頑なに避けようとしたか、それを教えてあげるだけでいいんです。上手いごめんなさいの仕方は…一緒に考えましょう?」
「…僕だって分かっている…分かってるよ…でも……」
あの顔で、あの声で、無邪気に話しかけてくるベアヒルダ。理性では理解している。彼女には今は何の罪もなく、純粋に慕ってくれているだけという事。
それでも、ふとした時に重なるのである。あの女の、最愛の女性を嘲弄する哄笑。
そして、わが身の弱さを射抜く愉悦に満ちた視線。
どこまでも惨めな話である。聖剣の担い手として、パーティの守護役としてありながら、敵にいいように操られた挙句…愛した女を盾にして逃げかえるような真似をした。
トルテの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。二度と見たくないほど美しいあの笑顔。
「愛しているわ」
満面の笑顔で、自分の名を呼んで、トルテは敵に単身挑み自分たちを逃がした。魔力のつながりが断たれた、絶望的な感覚。その後怒りに任せて再度挑みかかり、危うくファノまで殺されかけ、ヴェリアに切り札を切らせ、ベアヒルダにそれを見切られる失策まで犯した。正直何よりもまずあの時の自分を斬り捨ててやりたい。
全てを万全に整えたうえでの再戦では、あのどこまでも人を見下した淫売の首を刎ねた。反則に近い形ではあるがトルテもファノも、生きて隣を歩んでくれている。全ての元凶である邪神だって討取った。手を貸してくれた女神ヴェリアにも十分報いる事は出来ている筈だ。
「…それでも怖いんだ…そうだ、認める。あの子が嫌いなんじゃない…あの子を通して見せつけられる、弱くて誰も守れなかった自分が憎い…そんな事実から逃れるために、一人の女の子を傷つけてるって認める事が…たまらなく…情けない…」
そういって、彼はがっくりと項垂れる。それでも、ファノはまだ説得を諦めない。
「…ごめんなさい、私は今から、すごくずるい手段であなたを説得します」
ファノは一度深呼吸し、ゆっくりと語り始める。
「もし、ベアヒルダさんと私の魔力量が逆だったら…きっと、私が尖兵として操られ、あの装置の中に封じられていたのは、銀の髪を持った女の子になっていました」
それは、ありえたかもしれない光景。大人になった自分が邪悪な笑みを浮かべながら彼ら…聖剣の担い手と、トルテ、不安そうに身を寄せる銀髪の少女と対峙する。彼女らを守るように立ちはだかった彼が、正しき怒りの眼差しを向けながらこちらに切りかかってきて…自分の首を、黄金の剣の一閃で刎ねる。
そして次に目覚めた時、何もわからない自分を迎えてくれる3人、しかし、リーダー格の男性は、何も理由を語らないままファノと絶対距離を詰めようとしない。どんなにアプローチしても、それをすること自体に嫌悪感を持たれるように…想像しただけで、涙が出そうになるほど、それは悲しく辛い。
「そして私は、きっとトルテさんをその手にかけて、貴方に怨まれ、合流した後も壁を作られるのだと思います」
「…そんなもしもの話、意味はないよ、今ここにいるのはファノであってベアヒルダじゃないんだ」
「無意味なんかじゃありません。ベアヒルダさんは…もう一人の私なんです。同じ、パルファドールに目を付けられたヴェリア様の巫女の、表と裏…だから、分かるんです…知らない世界で、自分を助けてくれて、素敵だなって思った人に、理由も分からないまま拒絶されることの悲しさが…お願い、勇気をもって、貴方の弱さと対峙して…!!」
言いながら、彼の手を握るファノ。それはもはや、説得というより懇願だった。
「…だめよ、ファノちゃん、それだけじゃ足りない」
ふと、そこまでファノに任せてたトルテが、柔らかく微笑みながら立ち上がる。そしてゆっくりと彼に近づき、そのまま、すっと彼の頭を抱きしめる。
「物理的に守ることは、もう、貴方の方がずっと上手い…だからね、今度は、貴方の心を、私が守るわ…」
「守るって……僕は…」
「いきなり全部解決する必要なんてない。今は弱くたっていい。一人で立ち向かう必要もない…でも、乗り越える事が、あの悪夢を克服することにもつながる、でしょ?」
優しく、あやす様に頭を撫でながら、トルテが語り掛ける。
そう、彼は怖がっているのだから、頼むだけでは足りない。支えてあげなければ、動けないのだ。
やがて、彼はふぅ、と大きく息を吐く。
「ずるいよ、二人とも…その言い方をされたら、いよいよもって逃げられないじゃないか…」
本当に困って、かつ悔しさをにじませる声で、彼が言う。だが、そこに頑なさは、もうなかった。
「…ありがとう、ございます…」
涙をにじませるファノ。
「その代わり、フォローは二人とも頼むよ?多分途中で熱くなるだろうし…」
「そこは任せて。貴方に無理を言う手前、私達だって手を尽くすわよ」
後日、話し合いの場が設けられ、トルテを殺してしまった事実を突きつけられその時点でベアヒルダが動揺してしまったり、「つまりそれだけ心証が悪い状態からでも誘惑出来る位魅力的な女になればいいんですのね!」と斜め上の方向に復活して全員が脱力したりするのは、別のお話。
・今更ながらの各メンバーのジョブ
主人公:戦士(聖剣の担い手)
トルテ:猟兵
ファノ:魔術師
効率的にゲームを進めるなら、実は主人公が猟兵でトルテ戦士の方が良かったりする。
なお自分のプレイにおいてはトルテ魔術師のファノ猟兵であった。エル白とタル狩のPTか…
・これ以上増やして欲しくない
ゲームでは特に制限はない。納める税金は増えるがトルテ・ファノ・テイニィ・プリス・リーゼ・ベアヒルダの6重婚まで行ける。
・「愛してるわ、ご主人様」
好感度が高いと本当に言われる。正直心に来る。
・脳裏に焼き付いて離れない。二度と見たくないほど美しいあの笑顔。
色彩 〜雪花の盾〜
トルテを失った後の主人公の挙動に関しては、FGO主人公を大いに参考にしている。
まず、第一部最終版でマシュが彼/彼女を守る為敵の宝具の直撃を受け消滅したシーン。この時主人公は、第二部まで含めても非常に稀な「激昂し、無意味な突撃をする」という行動をとろうとした。結果的に「事態を解決できる助っ人」に制止を受けたので未遂ではあったが、それだけ前後見境なくなるほど取り乱した。(結果的にマシュは蘇生し生還したところまで一緒)
次に、不可逆廃棄孔イドにて。厳密には本人ではないものの、マシュと同じほぼパーソナリティを持つ「幼馴染」真白キリエを殺害された結果、危うく復讐鬼に堕ちかけるほど精神の均衡を欠き、以後の章でも「普段小悪魔を気取っているキャラが真顔でメンタルヘルスケアを考え出す」「マシュが攫われただけで動悸を起こし、意識を失いかける」など、深く心に傷を負ったことが分かる。(しかも結局2部終章終了時点でもこの件は回復していない)
FGO主人公にとっての「マシュを失う」という恐怖が、このお話の主人公にとっては「ベアヒルダの声と顔」で想起されてしまう状態にあったという事。
・「あなたを守ってあげる」
トルテとのとあるシーンの台詞。彼女が聖騎士であったことを思い出すフレーズ。