「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
ちなみにこれでもまだ某合同誌の規定数オーバーらしいよ
ファノ・フーヴェリアには秘密がある。
その正体が5000年前のヴェリアの巫女である事?否、判明して仲間たちには打ち明けてある。
立場上は奴隷たる彼女の「主人」に恋慕している事?否、その辺の事情はオープンにしている。トルテ共々相思相愛と言って過言ではないだろう。
ボディラインがスレンダーなのを気にしている事?…公言はしていないがトルテへの対応を見ればまぁ明らかだろう。
彼女の秘密、それは…
「ふふふ…今日も貴方のお父さんは格好良かったですよ」
冒険者宅、2階の彼女の個室にて。楽な格好に着替えているファノは、自分のベッドに腰掛けて、クマのぬいぐるみを抱きしめ、それに語り掛けていた。そう…彼女の秘密とは…「寝るときにぬいぐるみが手放せない」のである。
元々このクマのぬいぐるみ、何でも市場で売られていた所でファノが一目ぼれして視線がくっついてしまい、気を利かせた「主人」がその場で贈ったものだ。冒険に何の関係もない、ただ彼女の事を想って贈られた品という事も非常に大きいのだが、元々可愛いもの好きだったファノにとってはまさにドンピシャなプレゼントであり、その夜から就寝時には必ず抱きかかえて寝ているのである。そして、抱きかかえるだけでなく、こうして語り掛けてもいる。
「切り込むべき時は切り込みながら、他のメンバーへのフォローは絶対忘れない。私が隙を晒すときは絶対にガードしてくれる…」
抱きしめた熊の頭に顔をうずめながら、今日の戦いを反芻する。ギルドより受けたミノタウロスの討伐依頼であった。魔術師は足を止めて詠唱する手前、どうしても隙を晒す。そんな状態で攻撃を受ければひとたまりもないが、彼女の想い人、聖剣の担い手はファノへの攻撃を全て的確に弾き、時に己が身を盾にしてでも防いでみせた。パワー自慢で、生半可な強さの雄の魔物を木っ端みじんにしていたミノタウロス相手に、一歩も臆することなく立ち向かう様は、まさにヒーローと呼ぶにふさわしい。
「私からするとトルテさんとあの人の連携がとても羨ましくみえるんですけど、トルテさんからすれば『童話のお姫様みたく手厚いガードで羨ましい』っていうんです、貴方はどう思います?」
猟兵のトルテはある程度自分で攻撃を捌け、尚且つ避ける手段も持っている。技の動きでどうしても避けられず無防備になるタイミングのみ彼がフォローにはいるが、ファノほどかっちりしたガードではない。あれでいて意外と少女趣味のトルテからすると、隣の芝生原理で羨ましいのかもしれない。
…しかし、答えが返ってくるはずがなくとも「問う」形で語り掛けてる当たり、本当にぬいぐるみに入れ込んでいるようだ。
「…むしろ、本物のお姫様はトルテさんなのになぁ…」
ジョークの一環ではあるのだが、たまに彼が敬語を使った上で「王女殿下」とトルテを呼ぶのを見ると、ちょっとだけ羨ましく感じる事もある。最もこれも「隣の芝生は~」であり、トルテ曰く「ファノちゃんって冒険小説の運命的ヒロインみたいじゃない、いいなぁ~」だそうで…最近ヴェリアの巫女という正体も判明してからは、更に運命のヒロイン度がアップした、とはトルテの談。
「…でも、関係ないか…貴方のお父さんは、私達のどちらも、ちゃんと大切にしてくれてます」
再び、ぬいぐるみの頭に顔を埋め、ほんのり頬を赤らめる。
「…お父さん…お父さん、か…」
そして、それまでぬいぐるみに語り掛ける際に使っていた、彼への二人称について、ふと考えがいたる。「飼い主」ではないし「ご主人」でもない(後者は彼がそう呼ばれるのを嫌がる)。名前にさんづけでもよかったのだが、何となくそちらよりお父さん、のほうがしっくりきた感じで…
「…いつか、あの人に話しかける時も、お父さん、って呼ぶ日が来るのかな…そうしたら、私はお母さん?」
…ベアヒルダに封じられる前のあの日、命を捨てる事を強いられた時、自分にはありえないと思った幸せの形。呼び方が変わる、という事は、即ち「家族」の主体が変わる、という事。…つまり、「そういう風に、彼と自分を呼ぶ」存在が、出来るという事である。
「…あ、でもトルテさんもいるから、お母さんだけだと分からないかも?」
少し、気分が乗ってしまい、ぬいぐるみを抱いたまますっと立ち上がり、くるくると回り出す。
「それ以前に…もし子供を授かるとしたら…そういう事をする…ってことで…」
ちょっと想像してしまい、ぶんぶんと頭をふってフリーズを解除するファノ。…正直、出会った当初は男性恐怖症で、彼とそういう事をするなどと言われたら泣き叫んでいただろう事を考えると、恥ずかしいとはいえ肯定的になった今現在は本当に変われば変わるモノ、といえる。
「そ、そういう事はあの人にリードをお願いするとして…もし、私が子供を授かったら…、貴方は、お兄ちゃんになってくれますか?」
そして再び、ぬいぐるみに顔を埋める。あの人と結ばれ、やがて子供が生まれた時、この子を贈りたいと思う。
可愛いものが好きで、好みに合致しただけではない。あの人が「ファノの為に」贈ってくれたぬいぐるみは、その日より、夜の闇で襲ってくる不安からファノを守る役目を一身担っていた。大切な人が斃れる恐怖、今の状況そのものが、あの装置に封印された自分がみる末期の夢なのではという悪夢。同時期に贈ってもらったミントのポプリの香りとこのぬいぐるみは、それら夜闇の恐怖を祓い、心地よい眠りを守ってきたのだ。
そんな偉大な、夢の騎士ともいえるこの子には、自分より大事な命がこの世に生まれ出でた時、ぜひ其方を守ってほしいと思う。その命の、頼もしい兄として…
ぎしっ
床がきしむ音。自分ではない。はっとファノが顔を上げる。…ドアが…開いていた…?
…そしてその先に、とても気まずそうな顔をする…亜麻色の髪の女性…トルテの姿が…
「えっと…その…ドアが開いてた上に、彼も自分の部屋にいる筈なのに何か声が聞こえて…何かあったのかなぁと…」
露骨に視線を逸らしながら乾いた笑いをしつつトルテが答える。…つまり、ずっとファノの様子をみていた、訳で…
「い、一体いつから…」
「『切り込むべき時は切り込みながら~』のあたりから…かな?」
…つまるところほぼ最初から全部である。
「い…い…!」
いやあああああああああああああああああ!!!????
──────数分後──────
「ファノ!?どうしたの!?開けて!?凄い声がしたけど何があったの!?ファノ!!???トルテ、何か知ってる!?」
「チョットワカラナイワネ(言えるわけがないでしょ!?)」
「なんで片言なのトルテ!!!あとファノ!開けて、開けてってば!!!!!」
機嫌を直したファノが出てきたのは、翌日の朝だったそうな。
・サブタイトル
バストゥーククエスト「犬は忘れない」より
実は結構悲しいクエストなのだが「序盤ダンジョンの地図」入手という方がクローズアップされやすかった
・ボディラインを気にしている
「何を食べたらそんなになるんですか」とファノが問うシーンが存在する。ちなみにこの時一瞬「甘いもの」と答えた後「牛の赤身ステーキ」と白状している。(トルテの好物でもある)
・クマのぬいぐるみ
ファノ用好感度アイテムでもある。フレーバーテキストによれば「誰にも言わないが、ファノは夜寝るときにぬいぐるみを抱きしめるタイプ」とのこと。3人川の字だと絶対バレると思うのだが…(なので独自設定では逆にこのフレーバーが生きて今回のお話になる)
・ミノタウロス討伐
モン娘討伐クエストその2 ダンジョンの奥地にいるミノタウロスを討伐してこいというシンプルなもの。なお戦闘直前のイベントで、ミノタウロスを手籠めにしに来た雄の魔物が彼女に粉砕されている。
・主人と呼ばれるのを嫌う
独自設定。むしろ原作では「好感度が高まると漸くご主人と認めてくれる」位。この物語では「そもそも主人のつもりはない」という主張で、作中のセリフには反映できないが名前を呼ばせている。
・ミントのポプリ
ファノ用好感度アイテム。彼女は嗅覚が鋭いのでこの手の香りアイテムも興味を持つ様子。