「フォーリン・ラビリンス」二次創作幕間短編集 作:スケィス3rd
神域突入直後のお話。直前の話で「トルテに夜ぬいぐるみを抱いて寝ているのをバレた」流れです。
神域、その隅っこの洞窟にて。
パルファドールを討つべくヴェリアプールより転移してきたパーティが、洞窟内で野営をしていた。入口の部分で見張りが焚火をしながら周囲を警戒、洞窟の中で残りのメンバーが休む形だ。今は、リーダーにして聖剣の担い手の男性が見張りをしているところだった。
「…見張りの交代…じゃないな…眠れない?」
洞窟の中からの気配に気が付き声をかける男。見張りの交代は猟兵にしてエルフのテイニィだった筈だが、そこに立っていたのは、つい先日入籍したばかりの彼の妻の一人、ファノであった。
「…はい、やっぱり、緊張してしまって…」
「例え寝付けなくても、目を瞑って横になっているだけでも違うよ?」
冒険者として、時にあまり環境の良くない場所でも無理にでも休んでいた経験のある彼に対し、ファノは実質的に初めての野宿となる。…ベアヒルダも同様のはずなのだが、こちらは騒ぎ疲れてさっさと寝てしまったようだ。なかなか図太い。
「それは…そうですけど…」
やや不満げな声で答えるファノ。そのまま歩み寄ると、彼の隣に腰掛ける。
「新妻が不安を訴えているんですから、優しく声をかけるとかするのが旦那様の務めじゃないですか?」
そしてそのまま、彼に寄りかかり、その肩に頭を預ける。
「…割とこういう時押し強いよね…」
基本的に清楚で大人しく、自己主張が控えめなのがファノという少女である。彼とトルテとファノ、の3人だと、少し遠慮がちなところはある。…が、これが彼との間柄の話になると、意外なほどに独占欲を見せたり、自分の意思を示したりする。
「…丁度リラックス用に、カモミールティーを淹れようとしてたんだ。一緒にどう?蜂蜜も一応持ってる」
「あ、いいですね。是非頂きます」
焚火で沸かした湯で、慣れた手つきで用意をする。自宅だとこの手の作業が一番うまいのはファノなのだが、こういった場所でやはり彼に一日の長があるようだ。
「結構熱いから気を付けてね」
「はい…ああ、いい香り」
鎮静効果のある甘い匂いが、ファノの鼻腔をくすぐる。元々嗅覚が敏感な彼女にとって、香りで気分を和らげるハーブティは効果てきめんだったようだ。
「でも、よく用意してましたね?」
神域に突入するにあたり装備はかなり見直したし、消耗品、最低限の行軍用の食料は確かに用意したが、この手の嗜好品まではファノは気が回らなかった。
「冒険者が人類未踏の地に足を踏み入れるんだよ?興奮で眠れない可能性くらい考えるさ」
「…ふ~ん?興奮で…?」
わざと大げさに言う彼に対し、ファノはジト目を向ける。こういう時の彼の行動は、分かりやすい。
「…すいません嘘です戦いが不安で眠れない可能性です」
ファノの追及に観念し早口気味だが真相を語る。やはり彼としても、一度は撤退に追い込まれた邪神相手に再び立ち向かう事に不安がないわけではないのだ。その様子をみて、ファノは微笑みながら、彼の手を取る。
「宥めてもらいにきた私が行くのもおかしいですけど…私やトルテさんの前では、たまには格好つけずに素直になっていいんですよ?」
この旦那様はどうにも、 自分たちの前で格好をつける癖があるのに、トルテもファノも気が付いている。根が善良なのはファノにも好ましいが、それ以外の部分ではもう少し肩の力を抜いたり、自分たちに弱みを見せてほしい、と思ってしまう。
「気持ちは嬉しいんだけど、ほら、男ってバカだから、好きな女性の前だとどうしてもね」
「…そのストレートさもちょっとどうにかした方がいいのでは…?」
想定外の返しにちょっと不満げな声をあげるファノ。本当にこの人は、自分の好意を伝える、という事には一切の躊躇が無いのである。
「こればかりは性分かな。うん。…やっぱり、あのクマがないと寝にくい?」
そして、さも当然のように質問してくる。
「はい…やっぱり毎晩抱きしめてるあの子が…ない…と…?」
あまりに自然に聞かれた為そのまま返事をしてしまったファノであるが、答えている内に、それがおかしい事に気が付き、そして…
「いいいい一体いつから知ってたんですか!?」
絶対に知られていないと思っていな秘密を知られていた事実を認識、激しく動揺するのであった。
「え?いや、だって、ファノの部屋で話をする時とかに見かけたら、随分丁寧にケアしてるなーって思ってたし…」
夜に2人での戦術連携や他プライベートな会話をする時は、彼の部屋ではなくファノの部屋(トルテとの場合はトルテの部屋)というのがお決まりになっていた。その時ぬいぐるみが飾られているばかりではなく、使用してる形跡がある上で手入れもされているのに気が付き「寝るときに抱っこしてる」と推測してたらしい。何でそんな観察眼があるのかと思うが、そういえばこの人はリボンや髪形を変えるとすぐ気がつくタイプだったことをファノは思い出す。
結局、先日夜中に絶叫したのもクマのぬいぐるみを抱きかかえていたのをトルテに見られたから、というところまで白状する羽目になり、不安から一転今度は羞恥で真っ赤になる羽目になったファノであった。
「うぅぅぅ…もうばれてるトルテさんは兎も角、他の人には秘密にしてくださいね?」
しおしおに凹みながらファノが念を押す。よりにもよって、彼に知られていたというのが一番の泣き所なのだが、二次被害は避けたい。
「それはいいけど…そんなに凹むことかなぁ?僕は可愛いと思うよ?」
「その可愛い、女性としてではなくて子供っぽいの意味ですよね?」
さも当然のように言う彼に抗議する為拗ねた口調でファノが返す。…実のところを言うと、体形がスレンダー故に幼く見られるのもまたファノにとってはコンプレックスであり、ぬいぐるみの件を知られるのそれを助長しかねないのである。
「いや?優しい女性だなぁって思うだけだよ?…少なくとも『何食べたい?』って聞いて真っ先に『肉!!!』って答えるより可愛げがあると思うけど」
アハハハ、と笑いながら、彼のもう一人の妻たるトルテの癖を話題に上げる。一応、甘いものも好きではあるのだが「猟兵」という運動量の多い職業故か何はなくともスタミナのつく料理を欲する傾向が強い。…よく食べよく動くのでとても健康的であり、それがプロポーションに繋がってるのはおそらく事実では、ある。
「それ…トルテさん本人も気にしてるんですからあまり言わない方が…」
以前、ファノが「何を食べたらトルテさんのような綺麗なボディラインになりますか!」と聞いた際、最初は取り繕うと「ラズベリーのパイとか好きよ」などと視線を逸らしながら答えつつ、結局本音で「お肉大好きです…」と認めたことがあった。その際アウラには「なぜそこで見栄を張るのじゃ」と突っ込まれている。
「いやぁ、でもあれこれ悩むとかなく勢いよく『ステーキ!』だよ?あの勢いはもはや獅子だよ獅子」
「だぁぁぁれが雌ライオンですってぇ?」
ゲラゲラ笑う彼の後ろに、ゆらりと立つ影。ぐぎぎぎぎ、という擬音がしそうな勢いで彼が振り返ると、笑顔で青筋を浮かべる、いつの間にか立っていたトルテの姿が…
「さっきから!黙って!聞いてれば!寝てると思って!新妻の事を!猛獣扱いするのは!この口かしら!!!」
「ひひゃい!まひへひひゃい!!(痛い!マジで痛い!)」
ぎゅーっと彼の頬を引っ張るトルテ。どうやら彼女も寝付けず出てきたところで、先ほどを会話を聞いてしまったらしい。結構勢いよく頬をひっぱられて、半ば本気で涙目になる。漸く解放されたころには、頬が(圧力で)赤くなっていた。
「いっつー…その握力もステーキの賜物なのでは?」
「ねじり足りなかったかしら??????」
やられた仕返しにしれっと一言返す彼と、更に追撃をかけようか、と威嚇するトルテ。その様子を見て、ファノはくすっと笑うのであった。ああ、いつもの調子だ、と。
「…あ、よかった、笑ったわね、ファノちゃん」
「ん…痛い思いをした甲斐はあったかな?」
と、それまでキャイキャイ言い合ってたトルテと彼が、途端に穏やかに微笑む。…半分は本気のやりとりではあったが、もう半分は「あえていつもの言い合い」をして、ファノをリラックスさせたかったらしい。
もう、ずるいなぁ…
ファノの記憶が戻り、正体が判明したこと。それは決して、彼女が本来のコミュニティに戻れることを意味しなかった。彼女の正体は5000年前のヴェリアの巫女。彼女が本来親しかった人々は、既にこの世にはいないのだ。そして、唯一の育ての親(に近しい)、ヴェリアも、今はこの神域のどこかでパルファドールと戦っている。記憶が戻っても、彼女が独りであるであることは、何も変わらなかった。むしろ、希望が無くなっただけ悪化したとさえいえるかもしれない。…それでも…
それでも、記憶を失った初期と比べて、今のファノにはちゃんと迎えてくれる人がいる。自分も大変な状況にあったのに、常にファノを気にかけ今みたいに励ましてくれるトルテ。そして…全ての恐ろしいものから彼女を守る、聖剣の担い手、ファノの愛おしき旦那様。何もかも失ったと思った彼女にも、帰るべき場所が、今は確かに存在するのだ。
ファノがクマのぬいぐるみを抱いて寝るのは、それが無いと、不安や悪夢に押しつぶれそうになるからだ。この戦いで、もし今の「家族」の誰かが欠けてしまったら…そもそも、こんな幸せは、あの装置に封じられた自分が見ている末期の夢、幻なのではないかという、言いようのない不安。
だが、こうして2人に囲まれて話してると、別の気持ちが沸く。自分を大切にしてくれる人たちは確かに存在し、そして「欠けてしまったら…」ではない、自分もまた、大事な家族を守るのだ、と…
「お二人とも…ありがとうございます」
「どういたしまして。まぁ、お仕置きに関しては本気だしね。…あ、そうだ、良いこと考えた!」
ファノの礼に返答したトルテが、ぽんと手を叩いた。
「貴方もテイニィが来たら見張り交代なんでしょう?そしたら、ファノちゃんを真ん中にして3人で並んで休まない?…あと、出来れば私も抱き枕が欲しいから、ファノちゃんにお願いできるといいかなぁ、なんて…」
人を抱き枕扱いとは本来ならなかなか良い度胸の発言ではあるが、この時ばかりはファノにとっても渡りに船の提案であった。安心できるトルテの体温を感じられる。更にその上で、背中に彼の事も感じられる。…冷静に考えると、彼とトルテが夫婦で、ファノは娘枠なような扱いではあるが…今は、2人と並べる事が嬉しい。
「ファノが嫌じゃなければ、僕は歓迎するよ。…もうちょいかかるから2人は先に戻ってて?」
彼も笑顔で了承してくれた。こうなれば、もう、ファノにとっては安眠は約束されたようなものだ。
「何から何まで…本当にありがとうございます。あと、カモミールティーも美味しかったです。ごちそうさまでした」
「今度、私にも作ってよね。じゃ、戻りましょ、ファノちゃん」
そう言い残して2人は洞窟内に戻っていった。
それを見送り、聖剣の担い手は一人、焚火に向かって呟く。
「…後は僕がドキドキするのをどうやって凌ぐか、だなぁ…カモミールティー追加しとくか」
彼だって健康な男性で、ついでに言えば神域突入前はやせ我慢しただけなのだ。
翌朝、何故か早く目覚めたベアヒルダが「ずるいずるい!私だってお兄ちゃんと並んで眠りたかったのに!!」と騒いだのは別の話。
サブタイトル・モンクアーティファクトクエストその3
ただし、このお話での意味は「ファノの帰る場所」の意味で使ってるが、該当クエストでは復讐の虚しさとそこから再起するヒロインのお話とか。筆者はモンクは触れてないんですけどね。
・神域の洞窟の野宿
実際には直前で雨に降られてヒロイン全員服を乾かすために素っ裸という状況なんですがそんな描写したらR-15じゃすまなくなるのでただの野宿になりました。(服乾いてからは普通の野宿描写もある)
・カモミールティー
FF11における食料品アイテムより持ってきた。リラックスしてよく眠れるのでスリプルにかかりやすくなる
「カモミールと蜂蜜を入れたハーブティー。 MP+8 VIT-2 CHR+2 レジストスリープ-30 ヒーリングMP+1 」
本当、FF11は冒険者の食料関係で小物が欲しい時に便利すぎる…スシもある…
・夜の2人での会話
発想自体はどっちかというと「アルトネリコ」のトークマターのイメージである。あれも夜にヒロインを訪ねて会話する形式だった。
・体形がスレンダー故に幼く
実は「まだ成長する筈!」と信じているファノだが、アウラ曰く「残念じゃが見た目より年上だし成長期は…」(それはそれで…
・「肉!」
実際の所、トルテの好感度アイテムで一番安いのが肉、その上が果物のパイ、香水、櫛と続く(つまり櫛は本当に高級品)なので、システム的な好感度でいえば 甘味>肉 のはずなのだが。
水没した塔に香辛料を取りに行くクエストクリア後の夜(作中でボディライン云々の会話してると言ってるところ)会話でもやたら肉好きを推されているので、筆者も積極的にいじっていこうと思う。
・3人並んで川の字
システム的には本来の寝方はこっちなんですけどね。あと恐らく主人公が真ん中…?
・やせ我慢してただけ
当然である。主人公なんだからやせ我慢くらい貫き通そうな。