三月十三日。
いつも通りの日常をこなす中で、唐突に、僕の左手に違和感が走った。
焼きごてを押し付けられたかのような痛みと共に、赤い紋様が浮かび上がる。
成程、これが、ライネスさんの言っていた令呪か。
空閑にも迅さんにも、発現したのを確認した。
僕たち三人の手に同時に浮かび上がったものだから、小南先輩に見つかったときは大変だった。
「大変よボス!迅に良からぬことを教え込まれた遊真と修がタトゥーなんか入れちゃったの!
どうしよう⁉︎香澄さんに何て説明すれば‼︎」
「違いますよ小南先輩。
三人の手に浮かび上がったのは、魔神との契約の紋章なんです」
「魔神⁉︎ジーニーとかその辺りのやつ⁉︎」
烏丸先輩のいつもの嘘。相変わらず小南先輩は騙されているんだけど、今回に関しては、嘘なんだけど嘘じゃないのが、ちょっとめんどくさいんだよなぁ。
「落ち着け小南。迅は未成年にそんなことをやらせるような奴じゃない。タトゥーというよりボディペイントの類じゃないか?」
「そうそう。ほら、最近唐沢さんの伝手で来たライネスさんいるでしょ?あの人にオススメされたんだよね。今海外で話題沸騰中!最新のイケてるボディペイントってね!」
「そうなんです。それで、僕と空閑と迅さんと、後は、木虎と風間さんと三輪先輩もペイントしてもらったんです」
「ふぅん。木虎ちゃんは兎も角、風間さんと三輪がそんなのやるなんて、珍しいわね」
(本当は、嘘なんだけど)
多分僕はいつも通りの冷や汗をかいている自信がある。
「へぇー結構オシャレじゃない」
小南先輩は空閑の左手に浮かんだ赤い紋様を、興味深げに覗いていた。
「イメージ的には兎ですかね」
烏丸先輩は、空閑の令呪の形をそう分析する。大きめの楕円が下の方に一つ。それから生えるように、先端の丸まった刃のようなものが二つ。
確かに、ぱっと見のシルエットは兎なんだろう。
「修くんのは、眼鏡みたいだね」
「ボディペイントにまでメガネが反映されるのか。徹底しているな」
千佳とヒュースの言ったように、僕の令呪は、同じくらいの大きさの円が二つ。それを繋ぐように、橋をかけるように、赤い線が一つ。
「迅の奴は、風と雷ってところだな」
「凄くかっこいい感じだね!」
宇佐美先輩とレイジさんの言うように、迅さんの令呪は稲妻のようなギザギザが一つと、それを囲うように、風のような模様が二つだ。
「あっ、そうそう。ライネスさんの知り合いの人が三人ぐらい、明日から玉狛支部で世話になるんだって」
実にサラッと、空閑は僕たちが呼ぶサーヴァントをライネスさんの客人だと偽った。
「急な話だな」
「そもそもそのライネスとは何者だ?
(うっ、相変わらずヒュースは鋭い)
「迅。またあんたなんか暗躍してるわけ?」
「ひっどいな小南。俺がいつも暗躍してるように見えるか?」
「じゃあ何でアンタ、最近風刃持ち歩いてるわけ?風刃の常時携帯を許可されるような任務が、本部から下ってるってことじゃないの?」
「うわぁ、細かいところ見てるね小南。けど悪い。これ、極秘事項なんだ」
うん。今回の任務、各マスターと上層部以外は知らないんだ。
神秘の秘匿の関係らしい。
専門的なことは、ライネスさんにお任せで。
その日の深夜。
つまり、三月十四日。
僕と空閑と迅さんは、こっそり本部に向かって行った。
最近免許をとった迅さんの運転だ。未来視持ちが運転者だと、心なしか、安心感がすごい気がする。
本部で、僕たちは風間さんたちと合流した。
「あなたたちにも問題なく令呪が発現したようね」
「キトラもか?」
無言で手袋に隠していた左手を曝け出した。
弾丸のような丸みを帯びた紋様と、そこから生えた、二つの刃のような紋様。木虎の
「風間さんは?」
迅さんに促されて、風間さんも令呪を見せた。
三つの刃が三角形を形成しているような令呪。風間隊を彷彿とさせる。
「ミワ先輩はどんな感じなわけ?」
少しだけ気まずそうに空閑から目を逸らしながらも、手袋を外して左手を見せてきた。
縦に三つ並んだ線の令呪。真ん中が丸みを帯びていて弾丸みたいだ。両端の二本は先端が緩く曲がっていて、牙を思わせる。
「諸君。無事全員に令呪が発現したようで何よりだ」
「ライネスさんのはどんな感じの令呪なわけ?」
「良いだろう。特別に見せてやる」
全体的に左右対称だ。
中央に船のようなもの。それに分たれた波のようなものがある。
と、そこで忍田本部長が顔を出した。
「揃ったようだな。よし、各々触媒を持ってこちらに来てくれ」
僕たちは、地下
何でも、英霊の維持には本部地下にある
英霊の全開戦闘の為にはこれぐらい必要なんだとか。
エレベーターに乗りながら降下していると、木虎が話しかけてきた。
「三雲くん。自分が呼び出すサーヴァントについて、どれだけ調べたのかしら」
「うん。三門市に伝わる神様を調べて、多分この神様かな?ってのは見つかったんだけど、正直、逸話らしい逸話は殆どなくて」
二日間の猶予で図書館に通い詰めた甲斐が会った。
空閑も僕と一緒に、ギリシャ神話について細かく調べていた。
「なのに、日本神話でも最強クラスとか呼ばれているの?」
「まぁ、戦っていた神様が神様だからね」
僕もそれを知った時には驚いた。その神様の知名度こそ、かの三貴神の一角には劣るだろうが、強さという側面では見劣りしない神様なのだから。
「ふぅん。その戦っていた神様には勝ったの?負けたの?」
「負けたとされる逸話もあれば、勝った、というか、その神様じゃあ倒しきれなかったとされる逸話もある。
どちらにせよ、かなり強い部類の神様だとは思う」
司る物が既にかなり強い。
かの堕天使の王とも同一視される事もあるのだとか。
「成程。私の方でも、自分の英霊は調べておいたの。弦に関連した古代ギリシャの悲劇の英雄なんて、余りにもわかりやすいけど」
「何というか、今地下に降りているのが、彼の逸話の再現みたいなところもあるかもな」
冥界がどんなものなのかは知らないけど、地下に降るという意味では、かなり似ていると言って良いだろう。
空閑は積極的に三輪先輩に話しかけていた。
この二年で多少は穏やかになったにせよ、相変わらずハラハラする。
「先輩はどこまで調べたんだ?自分の呼ぶ英霊について」
「………まぁ、俺が呼ぶだろう英霊は、魔術世界的には反英霊と呼ばれる類のものらしい」
「反英霊………、要は悪役ってことか?」
「大まかにはそんな認識であっているだろうな。まぁ、満月の夜、でさえあれば、十分な戦力になるだろうが」
知名度という意味では、まず間違いなく、こちら側最強の反英霊。
「ふぅん。おれの方は、正直気が重い。ここまで悲劇的な人を、戦場に駆り出して良いのか〜って思ったりもしたけど」
「だが、お前のサイドエフェクトを考えれば、相性的には最高クラスだろう?」
珍しく三輪は空閑を気遣った。
呼び出そうとしている英雄が英雄だ。未来視の重要性を良く知っているこちらとしては、それをもう一枚増やせるだけでも最高に有難いが、真っ当に接するのは難しい筈だ。
あれほどの悲劇に遭って、正常でいられるとは思えない。
「う〜ん。でも、神様の呪いにまで通じるのかは分からないよ?」
「そこに関しては大丈夫でしょ。神秘で上書きされるなら、おれのサイドエフェクトで、相性を見れるはずがない」
「それもそっか」
サイドエフェクトは神秘とは別のものに属する。故に、神の呪いであろうと無効化できる。
「迅。お前は、かの暗殺教団についてどこまで調べた?」
暗殺者の語源となったかの暗殺教団。
その頭目の一人というからには、必ず相当に優れた暗殺者ではあるのだろう。
「ある程度は調べたけど、ライネスさんがいうには、それを調べるよりも、実際の亜種聖杯戦争で起きた事例を教えるから、そこから調べておけってさ」
「あぁ。第五次聖杯戦争の終焉と共に、大聖杯は一度破壊され、流失した技術をもとに擬似聖杯が作られ、亜種聖杯戦争が幾度も勃発した。
これにより、歴代山の翁はその全てが明らかになっている」
まぁ、つまり、当たりとハズレがはっきりしている訳だが。
ハズレが来ないことを祈ろう。
「成程」
「風間さんは?円卓の騎士について、どれだけ調べたの?」
「基本的なことは一通り、な」
「ほう。カザマくんとしては、どの円卓の騎士がお望みだ?」
「第一希望としてはパーシヴァルですね。
ランスロットも悪くないですが、いざという時に個人の情を優先してしまう騎士は、出来る限り遠慮したいです。
ガウェインは、日中こそが本領なので、聖杯大戦と相性が悪いですからね」
「ふふふふ。ランスロットかガウェインが来ることを願っているよ」
性格悪いなこの人。
多分、僕たち全員の内心が揃った瞬間だった。
「それで、ライネスさん的には、ご自身が呼ぶ英霊には、どんな印象が?」
少しだけ考え込んで、迅さんの方に振り向いた。
少女のような顔で、とても楽しそうに笑う。
「───実に楽しみだ。と言っておこう」
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテにとって、この英雄は、嘗て義兄が呼び出したあの征服王を彷彿とさせる英雄だ。
いつかの義兄の追体験、といったところか?
兎にも角にも、楽しみだ。
やがて、エレベーターは地下に到着した。
僕たちの目の前に、神秘的な光を放つ物体がある。
四角いのか丸いのか三角なのかも分からないけど、とにかく光っていて神秘的な物体だ。
これが。
「………アリステラの
嘗て失われた
その遺産。
「ようこそおいでくださいました。お久しぶりです。迅。オサム。ユーマ」
「瑠可さん。お久しぶりです」
「瑠可ちゃん久しぶりー」
「久しぶり」
忍田瑠可さん。
名目上は、忍田本部長の姪で。
実際は、嘗てのアリステラの王女。
「忍田から話は聞いております。この
右手につけたブレスレットを翳すと、トリオンが流れ込んでいるのか、薄らと光が灯った。
ライネスさんも着けているらしい。
「まぁ、義兄上が言うには、『使えるものは猫でも使え』、だとさ。猫よりも便利なものがあるんだ。積極的に使っていくとしよう」
そして、ライネスさんは僕らにチョークを渡してきた。何でも宝石入りの奴らしい。
魔法陣の書き方は、もう何度か習ったことがある。
えっと確か、消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲む。そして、陣の中央には水晶玉。
触媒は、祭壇において。
「さて諸君。自分が手向ける色を間違えるなよ。ボーダー本部に因んで青色だぞ?
あぁ、そうそうそれから。
─────英霊召喚は、肉体に相当な負荷がかかる。
トリオンを魔力に変換してはいるが、それでも、肉体にかかる負荷といった点では大差ない。溢れ出る魔力に肉体は蹂躙され陵辱される訳だが。
─────覚悟は、良いか?」
そんなもの、ずっと前に出来ている。
この場の全員、そうだった。
「当たり前でしょ」
少年じみた容姿で、何を今さらと呆れるように。
「覚悟の上だ」
いつものように、冷たい顔で、いつものように、冷静な声で。
「だからなんだ」
復讐の色を僅かに込めながら、薄く笑い飛ばして。
「実力派エリート、舐めんなよ?」
いつものように、飄々とした笑みを浮かべながら。
「僕は、そうすべきことからは、逃げません」
強い意志を感じさせる瞳を、真っ直ぐにぶつけながら。
「とっとと始めましょうライネスさん。こんな確認、時間の無駄よ」
そして、都市を守るエリートの覚悟を宿して、一人の少女は、ライネスを睨みつけた。
「────実に素晴らしい」
やはり素晴らしきその精神力。
ライネスは素直に、心から称賛した。時間も勿体無い。この心の赴くままに。
始めよう。
『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。手向ける色は青。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。』
魔法陣が光り輝く。同時に、トリオンが魔力に変換され、それぞれの身体を蝕み始める。
しかし誰一人として、それに恐れることもなく。それに慄くこともない。
覚悟は既に決まっている。ならば後は、突き進むだけだ。
『
躊躇いはない。後悔もない。苦痛など、感じたところで足踏みにもならない。
『───告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』
詠唱が、トリオンが変換された魔力が、『座』に存在する英霊を招き寄せる。至高と伝説と神話の、遥か彼方の頂に存在する
『───誓いを
三輪以外の全員が、一時詠唱を止める。
三輪はすぐさま次の句を詠唱する。
「───されど汝はその眼に混沌を曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
そして、全員が、同時に。
最後の詠唱を口にする。
『───汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』
僕は、奇跡を見た。
僕の目の前にいるのは、どこまでも、どこまでも純白の衣装にその身を包んだ、儚くも美しく神々しい存在。
神話の上では男ではあったのだけど、実際には、美しい女神だった。
彼女がその瞼を開く。その瞳は、黒の中に、数多の光が飛び散っていて。
まさしく、満天の星だった。
「問いましょう。貴殿が、
七騎の英霊が、その地下に現れる。
先も述べたように、美しき純白と、星の瞳を持つ女神のセイバー。
純銀の鎧に身を包む、清く正しく美しく、されどどこか親しみやすい騎士のランサー。
舞台演者のように、戦場には相応しくない衣装に身を包み、ハープを常に抱える演奏者のアーチャー。
豪快な顎鬚を生やした、赤い帽子に、黒いコートの船長のライダー。
簡素な黒い胸当てと、最低限の腰巻のみを身につけた、褐色の肌の影のように薄い気配と、研ぎ澄まされた刃のように静かな、達人のアサシン。
神すらも見惚れるだろう、と、そう思うほどの美貌と、どこか柔らかい微笑みを浮かべる、王女らしい王女のキャスター。
ホームレスか何かと見間違える程にみずぼらしい服に身を包んだ、どこか怯えた様子の二面性のバーサーカー。
彼らは一様に声を揃えた。
『召喚の招きに従い参上した。我ら青のサーヴァント。
我らの運命は
この、三門の地において。
聖杯大戦が開幕した瞬間である。
最初に動き出したのは青のキャスターだった。
眩い金色の長髪と、美しい太陽のような赤色の瞳。
その微笑みは、皆を照らす陽だまりのよう。
「貴方がわたしのマスターですね!私は青のキャスター!真名を『カッサンドラ』!これからもよろしくお願いします!」
トロイア戦争の悲劇の王女、カッサンドラ。
太陽神アポロンの加護と呪いを受け、予言の力と決して誰もそれを信じない呪いを授かり、トロイアの破滅を防げず、陵辱され、最後には復讐に巻き込まれて死んだ、戦争が生んだ悲劇の少女。
悲劇の少女とは思えないほど明るくて、周りのマスターとサーヴァントは騙されそうになって。
しかし、嘘を見ぬく空閑遊真だけは違った。
「空閑遊真 ───
だから、大丈夫だ」
それにピキリと、一瞬仮面がひび割れかけて、されどすぐにキャスターは仮面を被り直した。
「ふふふふふふふ。だとすれば、わたしと貴方が出会えたのは、
誰にも信じられなかった王女と、嘘を見抜く少年。
確かに、運命的な出会いである。
次に動いたのは青のランサーだった。
明るい銀色の短髪の大男である。
その顔は精悍で、勇ましい。
「一応聞いとくぜ。アンタが、俺のマスターで合ってるんだよな?」
「そうだ。俺は風間蒼也。貴殿の真名をお聞かせ願いたい」
騎士のように、いや、この国に合わせて武士のように礼儀正しいマスターの様子に、ランサーは一瞬固まり、やがて大笑いした。
「ははははははははは!こんなガキに呼び出されたかと思えば、その実は洗練された一流の兵士と来た!これは良い!中々に幸運な巡り合わせだ!」
些か、騎士の王道とは外れているような気もする。
親しみやすく、されど、穢れはない。
「────俺の名は『ボールス』!聖杯探求を成し遂げた騎士であり、ランスロットの友でもある!
これからよろしくな、蒼也!」
それは『ギャラハッド』、『パーシヴァル』に並んで聖杯探索に向かった騎士であり、唯一帰還した騎士。
そして、『アーサー王』を殺し掛けた騎士でもある。
パーシヴァルでこそないが、十分以上に当たりの騎士だ。
風間蒼也は、穏やかにその手を握り締めた。
青のアーチャーは穏やかに、マスターの少女に声を掛けた。
優男と言う表現が、これ以上なく似合うだろう、女性のように美しい、中性的な容姿の美青年。
「君が、ボクのマスターかい?」
「そうね。私は木虎藍。貴方の真名は?」
ポロロン、とハープを美しく奏でて、そのアーチャーは、優しく、語り掛けるように名乗った。
「美しき少女よ。どうか我が名を聞き届けてくれ。
ボクは青のアーチャー『オルフェウス』。短い間だが、よろしく頼むよ」
オルフェウス。冥界に下り、番犬を眠らせ、王妃の情けを勝ち取り、あと一歩のところまで妻を連れ帰る寸前まで行った英雄である。
再びのポロロン。
木虎は思った。
このアーチャー、なんか変。
青のライダーは見定めるように、その女性を見ていた。
その瞳はどこまでも力強く、かつて失敗した英雄とは思えない。
「一つ問おう。何故貴様は私を呼んだ」
「世界の海を征服する寸前まで行った貴方と、話してみたいと思ったからさ」
かの義兄は、聖杯戦争でイスカンダルに出会い、かの王の臣下となった。
かつての義兄ほど若くはないが、それでも、この船長と話してみたかったのだ。
「───それもまた一興。我が名は『マゼラン』。『フィルディナンド・マゼラン』。此度の現界でこそ、世界一周を成し遂げるものである」
豊かな顎鬚と黒いコートに身を包んだ、赤い帽子のライダーは、かつて失敗したことを、敢えて堂々と宣言した。
青のバーサーカーは、怯えるように三輪を見る。
彼は本当に、自分を呼んだのだろうか。
少し面倒くさそうにしながらも、三輪はその真名を尋ねた。
「キサマの真名は?」
申し訳なさそうに、そのバーサーカーは答えた。
「わ、私に真名はない……。私は、世界中の『人狼伝説』の集合体。敢えて言うなれば『ウェアウルフ』と………」
満月の夜に狼へと変貌し、人を喰い殺す悪魔のような存在。人狼。
その伝説の集合体であり、己の獣性に怯えるもの。
「……………他に名は無いのか」
「し、強いて言うなら、『リーマス』と呼んでくれ」
その名は某世界的児童文学に出てくる人狼教師の名だろう。
三輪秀次は、心から呆れた。
青のアサシンは、静かに膝を着き、自身の主人に首を垂れていた。
迅悠一は、少しだけ困ったように頰を掻いていた。
「んっと、君の真名を聞かせてくれない?」
百に増える百貌では無く。
毒の肢体の静謐でも無く。
輝ける星のように瞬足の耀星でも無く。
死の影そのものとなった幽弋でも無く。
無論、その他のハサンでも無く。
全ての絶技を収めた名も亡き少女でも無い。
やがて、そのアサシンは、常に被っている仮面を外す。
そこにあるのは、刃のように冷たく、美しい顔。
「───我が真名は『影刃のハサン』。貴方の影として、貴方の剣として、我が絶技を振るいましょう」
迅悠一は、当たりを超えた大当たりであることを悟った。
例外中の例外である初代『山の翁』を除き、強力でこそあるが一人しか殺せない『幽弋のハサン』を抑えて、聖杯戦争で召喚できる『山の翁』の最強格。
亜種聖杯戦争において、このハサンを召喚して敗北したものは未だ嘗て一人も存在しない。
───初代の次、二代目にして最強格。
それが、『影刃のハサン』である。
青のセイバーは、問うた。
「─── 問いましょう。貴殿が、
三雲修は、狼狽えつつも、正直に答えた。
「は、はい。僕が、あなたのマスターです」
女神の美貌に呑まれそうになる。
母のような、圧のある美では無く。
夜空に輝く星のように、目を惹きつけられる美。
美しい輪郭を描く目鼻立ち。
新雪のように眩く純粋な白く長い髪。
そして何よりも、吸い込まれそうな黒と、散りばめられた宝石のやうに美しい、瞳の奥にある光。
満天の星を収めた、その瞳。
彼女の、真名は。
「
そう。
「あなたたちの言う
この
青のセイバー 天津甕星
青のランサー ボールス
青のアーチャー オルフェウス
青のライダー フェルディナンド・マゼラン
青のキャスター カッサンドラ
青のアサシン 影刃のハサン
青のバーサーカー ウェアウルフ