ボーダー本部内の訓練室で、迅悠一は、自身のサーヴァントと向かい合っていた。
青のアサシン。彼女はライネスが太鼓判を押した、青のセイバーに次ぐ、ボーダー陣営の最大戦力である。
観客席の風間蒼也は、傍にいる自身のサーヴァント、青のランサーに声を掛けた。
拗ねたような顔で、寝そべりながら、足を椅子に乗せている。
全身で不服ですと表明していた。
お前本当に騎士か?
「不服か、ランサー」
「不服ですぅ。そりゃあ青のセイバーには勝てない言われても納得するしか無いけどさー。
言うてただの暗殺者だろー?
それに勝てない言われてもねー?納得とかできるかー!」
こいつホントに円卓の騎士か?
「だからこそ、今ここで、自身の力を証明するのだろう」
「言うて、ただの現代人だろー?そりゃトリガーとかいうのは悪く無い技術だし、未来視ちゅーのも便利な力だが、英霊と現代人じゃあ天と地の差があんぞ?」
そう。ボーダーは英霊を知らない。
常識はずれを知らない。
だが同時に。
「───あまり迅を舐めるなよ。ランサー」
ランサーは、マスターの顔を、楽しそうに眺めていた。
冷たい仕事人だとばかり思っていたが、思ったより、熱いやつじゃねぇーの。
「───風間さん」
「三輪か」
少し遅れて、三輪秀次と青のバーサーカーも観客席にやってきた。
「もう始まりましたか」
「いや」
迅悠一は、ゆっくりと、『
「今から、始まるところだ」
青のアサシンは、興味深そうに、部屋中を見ていた。
トリオンで再現された、何の変哲もない住宅街だが。
「どうした?部屋が気になるのか、アサシン」
「あぁ。殺しても死なない。傷を負ってもすぐに治る。実に便利な部屋だな」
トリオンを魔力に変換できるなら、逆もまた然り。
この部屋では、アサシンの攻撃、被弾、ありとあらゆる全てがトリオンに変換されるがゆえに。
「────マスターを殺す気でいっても、何の問題もないとはな。
マスター、『宝具』使用の許可を」
『宝具』とは、英霊の魂。
俗な言い方をすれば、必殺技である。
「存分に使いなよ」
「─────了承した。
余分は不要。形を成せ」
彼女は、『影刃のハサン』は。
「『宝具』解放───『
彼女の『宝具』、『
『山の翁』を襲名したものが持つ、十八の御業の一つ。
彼女の、それは。
自身の影を実体化させ、重さの殆どない、鎧すら貫通し切断するほどに鋭く、反対側の景色が見えるほど薄く、少しでも力の掛け方を間違えれば砕けるほど脆い、
「なんっだそれ!武器作るだけかよ!ぜんっぜん大したことねーな!」
ランサーが叫ぶように、ただそれだけの『宝具』だ。ランクはD-。とてもではないが、最強格の『山の翁』の『宝具』とは思えない。にも関わらず。
何故だか、風間も、三輪も、バーサーカーも、
薄寒い恐怖を、感じていた。
カウントが進み、模擬戦が開始すると同時に。
目を見開いた
いつの間にか、刃を振り切ったアサシンが、迅の背後にいる。
風間も、三輪も、バーサーカーも、
何故なら、確かに躱した筈なのに。
重力に任せて、迅の身体は倒れ伏したから。
「───今のを反応するとはな。
部屋の機能が作動して、迅のトリオン体の首が繋がる。
迅は引き攣った顔で背後のアサシンを見る。
青のアサシンは、本気で褒めた。
仮面に隠れたその顔は、確かに笑っていた。
「───あなたを見誤っていたようだ。マスター。もう一段階、上げていくぞ」
「勘弁してよ、もう」
瞬時に床に走らせた『風刃』の斬撃が、アサシンに届くよりも速く。
いつの間にか懐に飛び込んでいたアサシンは、迅の心臓を貫いていた。
「───彼女は何をしている?何が起きているんだい?」
バーサーカーの疑問は最もだ。
今もなお、どれだけ迅が斬撃を仕込んでも、どれだけ躱そうとしても、いつのまにか心臓を貫かれ、首を落とされている。
手品か何かをしているのでは、と多くの人は思うだろうが。
だが結論は、至ってシンプル。
ランサーと風間と三輪は、同じ結論に至っていた。
「──特別なことは、何もしていない」
「風間さんの言う通りでしょう。
「そのただ速くっつーのが、
ぶっちゃけ最初の一撃、俺でも反応できるか怪しいぜ」
未来視があるとは言え、咄嗟にあれに反応して、回避行動を取れただけでも相当だ。
何せ、『影刃のハサン』の敏捷ステータスは、『
理論上、彼女の暗殺に反応できる存在は、皆無だ。
嘗て遠征部隊を蹴散らした『風刃』と迅悠一のコンビが、殆ど何も出来ずに、一方的に屠られていく。
そう、
「さっきの言葉は撤回するぜ。マスター。ボーダーっつうのも相当だわ」
未来視で見た自分が殺される未来から、ここを通る筈という予測を立てて、風刃の斬撃を予め仕込んでいる。
惜しむらくは、斬撃が発生する頃には、既にその場にアサシンがいないことぐらいだろう。
───もし、アサシンが最初の一撃と同じ速度であったなら。
少なくとも一発は、間違いなく直撃していた筈だ。
その一発で体勢を崩した隙に、一気に決められるだろう。
「───強力な武器だな。あの『風刃』。
ま、使い手との相乗効果もあるが」
本質的には、剣の形をした狙撃銃なのだろう。
弾丸の代わりに斬撃を飛ばす狙撃銃。
未来視を持つ迅悠一が使うことで、罠であり盾であり狙撃銃であり近接武器になっている。
本来であれば、そう本来であれば。
「あいつとあの武器のコンビなら、並の英霊なら勝負にはなったろうなぁ」
未来視で見た隙に、予め斬撃を仕込んでおくことで、常に先手を取り続けられる。
それが『風刃』と迅悠一の強みであり、並の英霊ならば、互角の勝負にはなっていた。
自身と勝負したとしても、防戦ならば成立するだろう。
だが、『影刃のハサン』に、先手を取るなど無意味だ。
「先手の後から先手を打ってくる。余りにも理不尽だぜ」
速すぎるが余り、先手後手の概念が崩壊する。
それが『影刃のハサン』である。
だが。
「迅がやられっぱなしで終わる筈が無い」
「同感だ」
三輪の言葉に、風間は同意した。
ランサーは、その二人を見て口笛を吹いた。
いいねぇ。実に良い。こういうのは大好きなんだぜ、俺は。
(うーん。これ多分無理だな。どれだけ未来見てもどうしようもない)
未来を見て先手をとっても、未来を見て回避行動を取っても、それが意味をなさないぐらいには、青のアサシンが速すぎる。
なら。
(翼があるわけじゃない。『グラスホッパー』を持ってるわけでもない。なら───)
アサシンの視界を塞ぐように斬撃を発生。
その隙に民家に突入しながら、的確に斬撃を壁に走らせる。
二階に上がった迅は、隅の部屋に入り、部屋中に斬撃を仕込んで待ち構えていた。
一本道の閉所なら、読み切れる筈だと思ったのだろう。
薄暗い部屋の中で、静かに、扉を見据える。
『風刃』の帯をリロードしながら。
だが。
いつの間にか迅の背後にいたアサシンは、声を掛けた。
音はしなかった。
扉は開かなかった。
窓も割れていない。
空気が揺れたことも感じられなかった。
いつの間にか、部屋にいた。
「───悪く無い判断だ、マスター。
だが、私は暗殺者だ。気配を消して忍び込むなど───」
「
一階の壁に仕込んだ斬撃と、部屋中に仕込んだ斬撃が、瞬く間に家を解体する。
二階も完全に崩壊して、アサシンと迅は同時に空中に放り出された。
しかし、空中を飛び散る瓦礫など、アサシンにとっては平坦な道同然。
咄嗟に、斬撃が伸び切るより速く飛び上がって躱したが、それにより、身動きの取れない空中で、不安定な姿勢になってしまった。
「
アサシンを囲むように宙に浮かぶ瓦礫たちから、一斉に斬撃が発生する。
身動きの取れない空中での、全方位斬撃。
これは取った、と、三輪も風間もバーサーカーも確信して。
アサシンは身体を捻り、一つの斬撃に、柔らかく添わせる様に影の刃を当てて、その僅かな反動で身体を浮かせ、全ての斬撃を躱し切った。
アサシンの恐ろしさ、それは、ほんの僅かでも力の掛け方を間違えれば、容易く砕け散るだろう、『
振るうだけでも精一杯の筈なのに、あろうことかその刃で、相手の攻撃すら受け流す、人智を超越した剣技と、僅かに浮かせるだけで全ての斬撃を躱し切る体術。
それが、『影刃のハサン』。
彼女が最強格のハサンたる理由。
それは、至極単純。
速くて上手いからである。
迅とアサシンは、ほとんど同時に着地して。
アサシンは、着地と同時に懐に飛び込もうとして。
「────だから言ったじゃん。
「────⁉︎」
青のアサシンは驚愕した。
観客席の風間、三輪、ランサー、バーサーカーも驚愕した。
さっきまで部屋の中だった筈。外に斬撃を仕込むことなど。
(────そう、か。
最初の斬撃、
アサシンはすぐさま記憶を辿り思い出す。
自身が心臓を貫く寸前に床に走らせた斬撃は、発生はしていないことに。
最初からずっと、この瞬間の為に。
片足を切断されれば、当然、速さは半減以下。
即ち。
「───三十八回殺されたんだ。一回ぐらい許してくれ」
迅の反撃の全方位斬撃を受けて、青のアサシン、初敗北である。
青のランサーは、盛大に拍手した。
「───見事な
その言葉は、つまり。
青のランサーは、青のアサシンを認めたということだ。
「───一つ聞くがランサー、お前はあのアサシンに勝てるか?」
マスターである風間は、ランサーにそう問いかけた。
「ん〜〜〜。十回中三、四回は勝てるだろうな。
どんだけ上手くてどんだけ速くても、どうしても軽いし力も弱い。正面戦闘でも普通に強い部類だけどな。
ま、でも、アサシンが俺より上ってのには納得だ。暗殺者だからと侮りすぎていたな。反省だ」
青の陣営の強さ的には、上からセイバー、アサシン、自分、ライダー、アーチャー、バーサーカー、キャスターといった具合だろう。
キャスターは強さ以上にその未来視で。
バーサーカーもまた、満月の夜でさえあれば、三騎士にすら匹敵、或いは凌駕するステータスを持つ。
アーチャーもまた、単体であれば聖杯戦争ではハズレの方の英霊だが、宝具の有用性は確かだ。
ライダーはシンプルに強い。
自分もステータスと技量と宝具のバランスが良く強い。
アサシンは、これまたシンプルに、神域の技量に未来視すら意味をなさない速さを持つからこそ。
セイバーは、高いステータスに、反則級の宝具に、かの日本最強の武神すらも勝てなかった神域の技量を併せ持つ。
「アサシンが最強格の『山の翁』たる所以は、その対策の難しさにもあるのでしょうか?」
「恐らくはそうだろう。
暗殺者としても超一流であり、同時にあの速さとあの技量、宝具もまたシンプルであるが故に隙もなく、
アサシンの気配遮断は『
暗殺者としても超一流である。
「ま、超一流の暗殺者が
毒だったり分身だったりなら、解毒とか範囲攻撃とかで対処できるんだがな」
相手にあのアサシンがいるならば、マスターは戦争が終わるまで常に工房に籠るべきだ。
どれだけ傍にサーヴァントを控えさせていたとしても、サーヴァントの護衛が間に合うことは基本的に無い。
「仲間で良かったよ。本当に」
壊れた家を踏み越えて、迅は、自身のサーヴァント、頼りになる相棒に手を差し出した。
「ま、お前を一回殺すのに、三十八回殺されるようなマスターだが、よろしく頼むな。アサシン」
アサシンは仮面を外し、その刃のように冷たく美しい顔を晒す。
「───私を一度殺した。
それだけで、あなたを信じるに値する。
こちらこそよろしく。マスター」
アサシンは迅の手を取り、とても楽しそうに笑った。
まさか現代に、自身を殺すほどの戦士がいるとは。
運命というものは、こうも美しい姿をしているのだな。
「────さて」
不意に、迅はあるお菓子の袋を取り出した。
それこそが、彼のトレードマークにして、決め台詞の一つ。
「────ぼんち揚げ食う?」
お菓子を食べれば仲良くなれるのだ。どこから取り出したのかとかは気にしてはいけない。
「…………頂こう」
何故この流れでお菓子を取り出すのかはよく分からないが、アサシンは素直に受け取った。
普通にうまいな。これがぼんち揚げか。
瓦礫に腰掛けながら、アサシンは穏やかに笑っていた。
上層部会議室では。
「信じられん………あの迅が、『風刃』まで使っているというのに……」
鬼怒田の脳裏には、かつての
当時のボーダーの出せる最大戦力すらも、容易く撃退した、あの迅悠一と『風刃』の組み合わせを持ってしても。
そして何より。
「彼女はアサシン。これで本領ですらないと………⁉︎」
根付の言うように、アサシンが正面戦闘をしていることの方が異常なのだ。
アサシンの本領。
それは、気配遮断による、不意打ちである。
「ちょっと、予想以上ですね。これは」
あの唐沢ですら、珍しく動揺を隠せていない。
それ程の、驚愕と衝撃である。
「彼女が味方で良かった。と、今は言っておくべきだろう」
忍田は冷静に分析した。
そう。
『影刃のハサン』は、
「────安心したまえ、諸君。
これに関してはアサシン───青のアサシンが例外だ。
迅悠一の実力ならば、通常のアサシンとの正面戦闘ならば、十分に勝ちの目がある。
恐らくは三騎士であっても、防戦に徹すれば、そう簡単に落とされることはない───。
私はそう見るが、君はどうだ、ライダー」
「同意見だ。
よもや現代人に、これほどの戦士がいるとはな」
顎鬚を撫でながら、ライダーは思案する。
「これは、ある種の幸運と言って良いだろう。
迅悠一の天敵であるアサシンは、同時に迅悠一の最良の相棒でもある。
この二人が組めば、青のセイバーであっても倒せる可能性はある」
迅悠一の欠点の一つ、『風刃』は、距離を詰められるとただのブレードになってしまう、その欠点。
アサシンならば、容易く埋められる。
何せ、アサシンが迅悠一の傍にいる限り。
そもそも近付くことなど出来ないのだから。
「流石は未来視、と言っておこう。
アサシンを呼ぶことにしたお前の判断は、正しかったぞ。迅悠一」
組織の最高責任者、城戸は、ライネスに問い掛ける。
「───ひとつ聞こう、ライネス殿」
「何かな。城戸指令」
「この大戦、我々は勝てるか?」
「準備はした。整えられるだけの盤面は整えた。
その上で言えることがあるとすれば、何も分からない。
────何せ、聖杯戦争には、予想外がつきものだからな」
イメージ的には黒トリで並の英霊レベル。
普通だったら迅さんはアサシンとかアーチャーの天敵。普通だったら。
カバー裏風キャラ紹介。
予知予知ドライバー 迅悠一
二年の歳月を経て免許を取得。予知予知歩きから予知予知ドライバーへと進化した。安心感が凄いですとはメガネの談。ピッカピカの新車を乗り回している。これまで貯めてきた給料が火を吹いた。今回召喚したアサシンに三十八回殺されると言う新記録を樹立。これは今後の聖杯戦争で破られることのない新記録。当たり前。アサシンとはちょうど良い距離感のバディ関係を構築できている様子。
必殺仕事人 青のアサシン
最強格のハサンとは、から生まれた超脳筋暗殺者。呪いとか毒とか分身とか不要。速く動いて急所をつけば良い。風間さんレベル999。発想的には狂信者ちゃんと同レベル。即ち実質女騎士。実は虚数魔術の初歩を使える。影の実体化がそれ。本人は自覚なし。そんなことよりも鍛錬だ。マスター殺し三十八回という新記録を樹立したBカップ。