Fate/OverBORDER   作:宇津木 沙坂

4 / 4
青のキャスター①

 玉狛支部は現在大騒ぎである。

 何せ、ライネスの客人三人が全員、美しい女性なのだから。

 必然、連れてきた修達は質問攻めに遭い。そこから逃げる為にも、迅は本部へとアサシンとの模擬戦をしに行ったのだ。

 太陽のような美貌と、輝く笑顔を浮かべるキャスターと、星のように目を惹く美しさのセイバー。

 セイバーは、川が見たい、と屋上に出たので、必然残ったキャスターがターゲットになった。

 

 因みに、彼女達はそれぞれ、トリオンで編み上げられた服を着ている。

 清楚、と言う言葉を体現するような白のロングスカートのワンピースがキャスター。

 クールでスタイリッシュでスリムなスラックスと、軽そうな黒のジャケットとワイシャツが、アサシン。

 時代にそぐわない和服がセイバーである。

 

「それでそれで!サンドラちゃんは遊真のことどう思ってるの⁉︎」

「うーん、えへへ、とっても頼りになる人だと思います!」

「お、ありがと」

 

 嘘はついていないようなので、遊真は素直に受けとった。

 小南筆頭に、玉狛女性陣は、明るく可愛らしいキャスターと、とても楽しげに会話している。

 

「それでそれで!遊真くんのどの辺りが頼りになるって思ったの⁉︎」

「大丈夫って言ってくれたからですね!」

「あー分かる。遊真くんの大丈夫は本当に大丈夫なやつだもんね」

「当然よ!あたしの弟子なんだから!」

 

 宇佐美的には、余り大丈夫な大丈夫じゃない後輩がいるので。

 同じ眼鏡仲間でこそあるが、もう少し落ち着きを持って欲しいというか。

 二年近く前の、第二次大規模侵攻終盤の例のアレは、それほど記憶に残っているというか。

 それと比べると、相棒はかなり安心できるので。

 

「その、サンドラちゃんは、どうしてボーダーに?」

 

 千佳のその質問への答えは、玉狛マスター勢との話し合いで、既に用意済みだ。

 即ち。

 

「────実はわたし、未来視のサイドエフェクトがあるんです」

 

 逸話と嘘をごっちゃにしちゃおう大作戦だ。

 

「えっ」

「えっ、未来視⁉︎マジで⁉︎」

「へぇー、迅さん以外にもいたんだぁ」

 

 コナミとチカの反応はまだ分かるが、ウサミは少々薄くないかな?

 サンドラ改めキャスターは、そんなことを思った。

 

「はい。それで、その、未来視があることを、どうしても信じてもらえなくて」

 

 ここまでは本当。

 

「で、そんな時にライネスさんに会ったんです」

 

 ここからは嘘。

 

「何でも、ライネスさんは海外にもボーダーの活動を広げる為に、唐沢さんが交渉していた人らしくて、それで、サイドエフェクトのこととか色々知っていたそうです」

 

 この辺りは本当と嘘のごちゃ混ぜ。

 真実は、『バシレウス』の宣戦布告を受け取ってすぐに唐沢が時計塔に向かい、ロードエルメロイⅡ世の紹介の元、ライネスと共に大戦の準備をしてから三門市に帰ってきて、その道中で、トリオンとトリガーの基本的な要素を教えた、というのが真実だ。

 

「それで、偶々わたしのことを目に留めたらしく、検査の結果、わたしにも未来視のサイドエフェクトがあることが分かったので、こちらまで来ました」

 

 嘘だ。

 ライネスと唐沢とエルメロイ教室は、触媒となる聖遺物選抜の際、彼女が生前身につけていたとされる衣服の成れの果てを確保し、しかしその逸話から、召喚することを見送るつもりだったのだが。

 未来視を持ちながら確かに組織の役に立っている迅を知り、空閑遊真の『嘘を見抜く』サイドエフェクトを知る唐沢は、キャスターの第一候補として、熱烈に推薦した。

 実際、その触媒を見た迅は、それを遊真に託したことで、彼女は遊真の元に召喚されたのだ。

 即ち。

 

「何でも玉狛支部には、嘘がわかる方と、同じく未来が見える方がいらっしゃるそうなので」

 

 遊真のいる玉狛支部は、青のキャスター『カッサンドラ』にとって、理想的な空間であるはずだ、と。

 

「───そう、なんだ」

 

 千佳は、少しだけ、気まずそうだった。

 サイドエフェクトに振り回されてきた人間を、このボーダーで何人も見てきた。

 ………きっと、この子も。

 

「セイ───じゃ無かったミカさんは、元々ご先祖様がボーダー、というか三門市に縁がある方らしく。

 ヤイバさんは、中東の方から、高いトリオン能力からスカウトされた人材らしいです」

 

 ついでに、セイバーとアサシンの嘘の経歴も話しておく。

 多分対人能力はキャスターが一番かもな。遊真はそんなことを考えていた。

 青の陣営の対人能力は、上から順にキャスター、ランサー、ライダー、アサシン、セイバー、アーチャー、バーサーカーだろう。

 人懐っこく明るい上で、気遣い上手なキャスターは不動のナンバーワン。

 爽やかで話しやすくて正直なランサーは、安心安全のナンバーツー。

 厳格で厳粛で威圧感がある、が、話してみると普通に答えてくれるライダーは、納得のナンバースリー。

 必要最低限のやり取りしかせず、それはそれとして、雑談やら何やらにもちゃんと乗ってくれるアサシンも、まぁ話しやすい部類に入る。

 セイバーはその、かなりマイペースというか、本人の女神らしい美貌もあって、話しかけづらい部類に入る。

 アーチャーは変人。

 バーサーカーは、その、多分対人恐怖症じゃないかな?

 

「玉狛支部は良いところですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 遊真は、キャスターの口から、黒い煙が出ているのを感じ取った。

 

「そうだサンドラ。街が見たいって言ってたよな。案内するよ」

 

 上着を羽織りながら、遊真は立ち上がった。

 キャスターは、素直に了承して。

 

「ちょっ、遊真!アンタ二人きりで大丈夫な訳!」

「安心してよ小南先輩。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「わ、わたしも手伝おっか?」

「大丈夫。千佳は、のんびりしててくれ」

「安心してください!ユウマくんの補助は、わたしにお任せを!」

「………うん、分かった」

 

 そうして、遊真とキャスターは、支部の外に出て。

 車の側で、レイジが待機しているのに気付いた。

 

「お、レイジさん」

「街まで向かうんだろ。乗せてくぞ」

「かたじけない」

「ありがとうございます!」

 

 流石は落ち着いた筋肉。頼りになるな。

 キャスターは扉を開けて、遊真の手を軽くとって支えながら、丁寧に車に迎え入れる。

 

「段差、気を付けてくださいね」

「ありがと」

 

 やっぱり、キャスターは優しいな。

 遊真は、心からそう思った。

 キャスターが扉を閉めて、レイジはゆっくりと車を出した。

 レイジの運転はいつもこうだ。落ち着いた筋肉に相応しい、丁寧な落ち着いた運転である。

 不意に、ルームミラー越しに視線を向けながら、レイジが問い掛ける。

 

「────遊真。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ふむ。流石はレイジさん。参考までに、どうしてそう思ったのか聞いてもいい?」

 

 丁寧に順を追って、レイジが説明する。

 

「ミカさんは、歩き方に殆どブレが無かったからな。あそこまでブレない人を見たことがない。相当な腕前を持つと見て間違いない。

 ヤイバさんも同じように。ただ彼女の恐ろしいところは、にも関わらず殆ど()()()()()()()()()()()

 サンドラさんは、瑠可と同じような雰囲気がする。どこかの国の王族か貴族なんじゃないか?

 まぁ、近界民(ネイバー)、というわけでは無さそうだがな」

「………成程。玉狛支部は実力派集団、というジンの発言に、嘘偽りは無いようですね」

 

 流石に、彼女の知る神話の英雄達には及ばないだろうが、彼ら彼女らは、恐らくは生前経験したトロイア戦争においても、一定の活躍はしただろう。

 これが、この都市を守るボーダーか。

 

「ま、レイジさんの言う通り、サンドラもミカさんもヤイバさんも近界民(ネイバー)でこそ無いけど、特殊な人達だよ。他のみんなには内緒でお願い」

「分かった。手が必要になったら言ってくれ。出来る範囲で手を貸そう」

「ありがと」

「感謝します。レイジ」

 

 街に到着した遊真とキャスターは、車から降りる。

 その時も、キャスターは丁寧に遊真を補助した。

 

「帰りはどうする?」

「うーん。多分、()()()()()()

「───分かった。気を付けろよ」

 

 さて、任務までまだ時間があるし。

 

「───食べ歩きでもする?」

「………好きにしたら」

 

 これまでの礼儀正しく明るい顔とは打って変わって、ぶっきらぼうで無愛想な顔を見せるキャスター。

 遊真はとても嬉しそうに笑った。

 

「───成程、そっちが素ってわけね」

「当たり前でしょう?王族ってのは為政者であると同時に偶像(アイドル)なの。変に敵意を持たれるような振る舞いは、すべきじゃないわ」

「ふーん。古代ギリシャの王族は、もっと横暴な感じだと思っていたんだけどな。それ、どっちかって言うと中世ヨーロッパとかその辺りじゃない?」

 

 ここに来てからの二年で、遊真は様々な知識を身に付けた。

 まぁ、この地に骨を埋めるつもりだし。

 特に世界史が好みだ。人の歴史を学ぶのは、思ったよりも楽しい。

 

「ま、私は時代に比べたら、あまり王族らしくない王族ではあると思うわ。その辺りの自覚はあるもの」

 

 古代ギリシャの王族は、基本的に横暴で、力こそ正義を体現しているものが多い。

 自身の兄は中々の例外よりだし、それを真似た訳ではないが、自身もまた例外寄りではあるだろう。

 

「───さっきはごめん。配慮が足りてなかった」

「………別に、余り気にしていないわ」

「おれには嘘をつかなくて良いよ」

「………ほんとは凄い気にしてる」

 

 遊真とキャスターの相性は確かに最高に近い。

 だが、迅とキャスターの相性は最悪だ。

 何せ迅は、未来視の力で持って、確かに組織に貢献し、最悪の未来を回避している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 羨望と嫉妬と、仄かな憎悪を抱いても不思議ではない。

 

「何でわたしはああなれなかったのか、なんて、考えなくても分かることなのにね」

 

 何せ、彼女は、カッサンドラは。

 悲劇の王女であると同時に。

 

「────わたしは、()()()()()()()()()

 

 責任から逃げてしまった王族でもある。

 

 街を歩きながら、キャスターはどうでも良さそうに、人の営みを眺めている。

 ………いつかのトロイアを思い出す。当たり前の、幸福な日常。

 もし、あの日、自分が。

 そんなたらればに意味はないことなど分かっているのに、それでも、後悔は止められない。

 思考を断ち切って、隣のマスターの様子を見る。

 歳の頃は十七歳、即ち自分と同い年のはずだが、自分よりも少し背が低い。

 その義手と義足が、何か関係しているのだろうか。

 

「おっと」

 

 義手だと、やはり上手く掴めないのだろう。

 しゃがんで硬貨を拾おうとして、マスターの生身の左腕とぶつかった。

 …………なんだか、周りからの視線が生暖かい気がする。

 別にそういう関係ではないのに。

 

「わたしが拾うわ。あと、わたしが払う。財布、貸して頂戴」

「悪いね。ありがとう」

「………別に、礼なんて良いわ」

 

 聖杯から与えられる現代知識のお陰で、貨幣と経済の概念はちゃんと理解している。

 …………それにしても、どうしてわざわざ生身なのだろうか。トリオン体という便利な物があるのに。

 マスターの代わりに鯛焼きを受け取って、そこで気付く。

 入っている鯛焼きは二つ。成程。

 

「ちょっと、そこの公園で休もう」

 

 鯛焼き屋から少し離れて、マスターが指差す先には、人気の無い、廃れた公園。

 人一人分だけスペースを開けて、二人は隣り合ってベンチに座った。

 袋に入っている鯛焼きを一つ取り出して、マスターの左手に手渡す。

 自分も、一つ取り出して。えっと、確か、この国の作法では。

 そっと、鯛焼きを綺麗に揃えた両膝の上に置いて、丁寧に両手を合わせる。

 

「───いただきます」

 

 両手で溢さないように持ちながら、背鰭から一口。

 熱いあんこが、口の中に広がり、まろやかな甘さと衣のしっとり感が、大変素晴らしい。

 

「───ん〜〜〜」

 

 満面の笑みを浮かべながら、美味しそうに鯛焼きを頬張るキャスターを、遊真は穏やかに眺めていた。

 

「ご馳走様でした」

「ご馳走様」

 

 食べ終わった後、キャスターはハンカチで丁寧に口元を拭いた。

 本当に、ありとあらゆる動作に品があるというか。流石は王族、というべきだろう。

 

(一応陽太郎も王族なんだけどな)

 

 未だに求婚を繰り返しているあのお子様を思い出す。

 学校に行っていて会えなかったが、三人に会ったら即座に求婚するだろう。

 

「…………その、マスター」

「ん?なに?」

「答えづらかったら答えなくても良いのだけど、どうしてあなたはトリオン体を使わないの?

 あれを使えばもっと楽に生活できるのに」

「あー、もしかして補助疲れちゃった?」

「そこはどうでも良いの」

 

 嘘はついていない。

 …………本当に、優しい子だ。

 

「………まぁ、ちゃんと生きたいから、だな」

「生きる、ね」

 

 全部、話した方がいいと、遊真思った。

 

「おれさ、実は近界民(ネイバー)何だよね」

「………そうなの。驚いたわ」

 

 あまり驚いていないようだが。ていうか嘘じゃん。

 

「もしかして予想ついてた?」

「………まぁ、ね。

 この平和な国で、あなたがそれ程の怪我を負うとしたら、交通事故か災害、それか、第一次侵攻。

 でもあなたは、車を恐れることはなかった」

 

 ここに来る時も、街へ出る時も、至極平然と車に乗っていたから、車に恐怖を覚えるような体験では、ない。

 

「川の上にある玉狛支部へも特に恐れることなく入っていたことから、水害の類で失ったわけじゃない」

 

 それに。

 

「警戒区域の崩れた家々を見ても、あなたは怯えていなかった。地震で失ったわけでもない」

 

 本部から出る時に目に映る警戒区域を、遊真は至極普通に見ていた。

 

「そして、警戒区域を平然と視界に収められる時点で、第一次侵攻が原因じゃない」

 

 第一次侵攻の被害者の三輪は、複雑な表情を浮かべていたのに。

 

「────つまり、あなたがその怪我を負ったのは、最低でもこの国の外になる訳だけど。

 そうなると、外国よりも可能性の高い説が生まれてくる」

 

 聖杯から得た知識には、近界(ネイバーフッド)についてのものもあった。それによれば。

 

近界(ネイバーフッド)は常に戦争中のようね。

 この時代の紛争地帯から日本に来た可能性よりも、近界(ネイバーフッド)からこちらへ来た近界民(ネイバー)の可能性の方が高いわ」

 

 だからこそ。

 

「───あなたは、戦争に巻き込まれて手足と片目を失った近界民(ネイバー)だと推測した」

 

 遊真は素直に関心した。

 いや、凄く頭良いなこの子。

 

「やるじゃん。でも惜しいね、おれは、巻き込まれたんじゃない。参加していたんだ」

「…………まだ十七歳でしょうに」

「…………それ、キャスターが言うのか?」

「…………それもそうね」

 

 

 まぁ、色々と、話すとしますか。

 

「親父に連れられてね、色んな国々を渡り歩いてきたんだ」

 

 それで、ある国に立ち寄った時、その国の指揮官と親父は古い友人だったらしくてな、戦争に参加することになったんだ。

 で、まぁ、おれも半人前なりに、そこそこ役には立ってた。

 

「……………それ、何年前なの?」

 

 六年前だから、まぁ、十一歳の時だな。

 

「……………正気じゃないわね。あなたの親父さん」

 

 ま、そう言われても仕方ないけど。

 で、ある日親父に今日は出るなって言われたんだよね。ヤバいやつが出たみたいで。

 でも、おれは戦場に飛び込んだ。

 

「……………それで、そのヤバいやつにやられたのかしら」

 

 察しがいいね。

 運悪く遭遇しちゃってさ、なす術なく完敗。トリオン体は破壊されて、ついでに生身で攻撃喰らっちゃったから、酷かったよ。

 右手と左足吹っ飛んで、右目やられて、ついでに横腹盛大にぶち抜かれた。

 

「……………よく、生きてたわね」

 

 いや、一回死んだみたいなもんだよ。

 全部、親父のおかげだ。

 

「……………親父さんは、何をしたのかしら」

 

 (ブラック)トリガー作って死んだ。

 ほら、トリオン体と生身って入れ替わるだろ?親父は(ブラック)トリガーで、それを半永久的に行うことにしたんだ。

 お陰で、死にかけのおれの生身は、異空間、というか、この指輪の中に閉じ込められて、そこで時間が殆ど止まってた。

 だからおれ、こんなにちっちゃいんだよね。十一歳の頃から成長していないから。

 最近は、生身に戻ったから、少しだけ伸びてるけど。

 

「……………殆ど、ということは」

 

 うん。ゆっくりと死に向かっていた。

 多分本当だったら、おれはもう、時間切れだったんだと思う。

 

「でも、今あなたは生きてる。生身の身体で」

 

 修達のお陰だよ。

 初遠征が終わってしばらくした頃に、こっちの世界の最新医療技術を修が取り付けてくれてさ。

 鬼怒田さんたち開発室が、親父の(ブラック)トリガーを解析して、生身の肉体を取り出して、で、最新の医療技術で、一命を取り留めたって訳。

 

「そう。良かったわね」

 

 ありがと。

 で、こうして生身の身体に戻って、色々不便だーってことに気付いてさ。

 それで感じたんだよね。おれ、生きてるんだなぁって。

 

「……………そうね。生きることは、不便だもの」

 

 うん。だからおれは、生身でいたい。

 だって、生きているから。

 だから、勉強も凄く頑張ってるんだぞ?最近、漸く赤点取らなくなって来たんだ。

 

「すごいすごい」

 

 ……………おれの話は、ひとまずここまで。

 

「……………そうね。次は、わたしの話ね」

 

 あなたはある程度調べたようね。

 まぁ、一応念のため。

 わたしの生まれたトロイアは、かなり大きな都市国家だったわ。わたしはその国の王族として、勤めを果たしていた。

 大体五歳ぐらいから、アポロン様の神官も務めていたのよ?すごいでしょ。

 

「それはすごい」

 

 ふふん。

 それで、わたしが七歳の頃、アポロン様から交際を申し込まれたの。

 

「……………ロリコンだな。アポロン様」

 

 まぁ、時代が時代だったもの。

 王族として、神の血を引く子を産むことも、わたしの務めだと思っていたし、わたしも、自分の意思で受け入れたのだけれど。

 初夜の日に、アポロン様の真実を知ったの。 

 

「……………真実?」

 

 アポロン様、というか、ギリシャの神々はね、機械だったの。まぁ、そのときは機械なんて物を知らなかったのだけれどね。

 

「わお」

 

 十二機神。彼らはそう呼ばれているわ。

 思い返すと、色々とえすえふ?のようなが、わたしの周りにもあったのよね。

 例えばヘクトールお兄様なんて、肘からロケットブースターを点火していたのよ?

 

「ロケットパンチだ」

 

 ふふ。そうね。まぁ、拳が飛ぶわけではなかったのだけれど。

 ………………そこが、嫌だったわけじゃないの。

 でもね、アポロン様に言われたの。

『君はもしかしたら、私の端末となり得るかもしれない』って。

 

「端末?」

 

 ようは、わたしの身体にアポロン様のクリロナミア、まぁ、ナノマシンね。それを流し込んで、わたしを生体ユニットとして、アポロン様の本来の力を引き出すの。

 ほら、わたしって、自分で言うのもアレだけど、賢かったから。

 

「でも、生体ユニットってことは」

 

 …………そうね。

 そうなれば、わたしの自我は消え失せる。アポロン様の代役として、機能を果たすだけの機械になるの。

 それが、どうしても耐えられなかった。

 わたしは泣きながら懇願したわ。『いやです』って。

 哀れに思ったアポロン様は、交際も取りやめて、代わりに、わたしの瞳に、アポロン・クリロナミアを流し込んだ。

 そうして、わたしの瞳には、未来視の力───どちらかと言うと予測ね。その力が宿った。

 それが、わたしの逸話の真実。

 

「…………でも、それだと変じゃないか?だって、アポロンは、キャスターを哀れんだから力を授けた訳で。

 別に、呪いを受けた訳じゃなかったんだろ?」

 

 えぇ。そうね。

 でも、あの時代に、神からの交際を断るようなことをすれば、どうなるか。

 これが、市民だったら、良かったのだけど。

 わたしは王族だったから。

 

「……………それが、呪いの真実か」

 

 ……………そうね。辛かったわよ。それまでわたしを褒め称えて来た人々が、掌を返してわたしを責め立てる光景は。

 わたしはみんなからの信用を失った。

 王族として果たさなければならない責任を果たせなかった。

 

「………………生体ユニットになるのが、どうしてそんなに嫌だったんだ?答えたくなかったら、答えなくてもいいけど」

 

 恋をしたかったの。

 ほら、良く言うでしょ『恋に恋するお年頃』って。

 わたしはちょうどそれだった。

 アポロン様との交際の中で、この(ひと)に恋をしてみたいって思いもあったの。

 だから、恋ができなくなるのが嫌で、拒絶した。

 

 ───────その果てに、わたしは、何も、守れなかった。

 国も、家族も、わたしの、恋も。

 誰かに恋する前に、わたしの純潔は奪われて。

 最期には、復讐に巻き込まれて死んだ。

 

 だからね、わたしが、聖杯にかける願いは、単純に。

 

「今度こそ、わたしはアポロン様の端末になる。

 あの日の決断を、やり直す。そうして、あの戦争を、勝利に変える。

 それが、わたしの願いよ」

 

 遊真は、その覚悟に、何も言えなかった。

 だって、彼女は。

 

「………掌を返した市民のことを、恨まなかったのか。

 だって、そのときは七歳だろ?」

「まぁ、何も思うところがないわけじゃないんだけど。

 でも、あくまでついでよ。ヘクトールお兄様たちを助けるついでに、トロイアも助けるの。市民達もね」

 

 遊真は、何も言えずに、そっと、空へと視線を向けた。

 

「…………キャスターが、願いを話してくれたなら。

 おれも、話さないとな」

 

 おれには、親父の他に、もう一人の家族がいる。

 レプリカって言うんだけどさ。生まれた時からいたんだ。トリオン兵なんだけど。

 そいつ、今もずっと、壊れたままでさ。

 

「…………直らないの?」

 

 形は戻った。

 だけど、内部構造が完全に壊れちゃっているらしくて、初期化しないと、再起動できないんだって。

 

「…………初期化ってことは」

 

 全部消えちゃうんだ。

 おれと、レプリカの思い出。

 …………だから、ずっと、再起動は先延ばしにしているんだけど。

 

「聖杯の力なら、初期化させずに再起動出来るかもしれない。

 おれは、それに賭けたい」

 

 願いを共有した二人は、静かに、沈みゆく夕陽を眺める。

 

「あなたの願い、叶うといいわね」

「………………ありがとう。キャスター」

「………………わたしの願いには、何も言わないのね」

「キャスターが、そうしたいと思ってるんだろ?」

「えぇ。わたしが、そうするべきだと思ったから」

「………ほんと、どいつもこいつも、それを言うんだな」

 

 夕陽が沈み、街が暗くなると同時に。

 不意に、キャスターの瞳が、光を帯びる。

 

「────来る」

 

 市街地に、(ゲート)が開いた。

 

 サイレンが響き、三門市内中にアナウンスが届く。

 

(ゲート)発生。(発生)。市街地に(ゲート)が発生します。近隣の皆様は、落ち着いて避難してください。繰り返します。近隣の皆様は、落ち着いて避難してください』

 

 (ゲート)から現れたのは、トリオン兵、ではなく。

 トリオン兵の中身をくり抜いて、魔獣を入れたような、正しく、トリオンと神秘の融合体だった。

 開かれた(ゲート)は六つ。出現したトリオン兵の数は。

 

「観測完了。数は七十二。どの個体も、トリオン兵の鎧を被った魔獣のようね」

 

 キャスターは瞳を輝かせながら、視界のあらゆる事象を的確に観測、解析する。

 

「了解。キャスター」

 

 補助を必要とせずに、遊真は立ち上がる。

 その身は、黒い戦闘服に身を包んだ、トリオン体。

 即ち、(ブラック)トリガー。

 

「さーて、いっちょやるか」




 カバー裏風キャラ紹介。

 義手はサイコガン  空閑遊真

 二年の歳月で生身の肉体を取り戻し義手と義足を手に入れた実質サイボーグ。実は義手はサイコガンかも知れないしそうじゃないかも知れない。最近勉強も頑張っている。好きな科目は世界史。基本的に面倒見の鬼が補助しているが、聖杯大戦中はキャスターが補助する。キャスターを心から気に掛けている。

 
 年齢的には女子高生(サイボーグ) 青のキャスター

 あまりにも重い過去話をぶち込んできた本作執筆のキッカケとなるキャラクター。カッサンドラをサーヴァントにする遊真が見たいからこの作品は始まった。気付いたらメガネ染みた面倒見の良さと意思の強さを発揮。天性の遊真キラーかも。次回初戦闘。本作メインヒロインの一角のEカップ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。