Fate/OverBORDER 三門聖杯大戦   作:宇津木 沙坂

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青のアーチャー①

 三門市郊外の山奥に、初心者マークが輝く、ピッカピカの新車が走っていた。

 

 運転するのは迅悠一。

 助手席に行儀よく背筋を伸ばして座るのはアサシン。

 後部座席では木虎と、堅琴を奏で続けているアーチャー。

 

 車内BGM要らずだが、横で演奏しているアーチャーに、木虎はイラつきを隠せていなかった。

 

「───ねぇアーチャー?あなたは演奏をやめたら死ぬのかしら?」

「無論だとも、マスター」

 

 ポロロン。

 

「ボクという英雄にとって、演奏は正しく、ボクの具現にして証明にして逸話」

 

 ポロロロロン。

 

「ボクが演奏を辞めたのは、後にも先にも妻が死んだときぐらいさ」

 

 ポロロン。ポロロロロン。

 

「………はぁ。神話に語られるだけあって、本当に、心惹かれるぐらいは上手いのが腹立つわね」

「褒め言葉として受け取っておくよ。マスター」

 

 ポロロロロン。

 うーん。近代的な車内には本当に似合わないな。

 だが、セイレーンすらも聞き惚れたというのには、本当に納得だ。

 

「さて、マスター。この先には何がある?」

「推定、白の陣営の魔獣使いの拠点だ」

 

 恐らく、クラスはキャスターだとは思うが。

 まぁ、キャスター以外の可能性も常に考え続けるとしよう。

 楽しそうにハンドルを指で叩きながら、迅は笑っていた。

 運転は良い。このエンジンの振動。やはり最高だ。

 

「成程。異次元からではなく、こちら側に拠点を」

「そう。まぁ本拠地は遠征艇だと思うけど」

 

 ネズミ型のトリオン魔獣は、アフトクラトルのように、バムスターの中にいたんじゃない。

 敵側の魔術師三導脩が、この郊外の山奥に仕掛けた、誘導装置の効かない(ゲート)発生装置を通じて、この山奥に拠点をつくった。

 

「んで、その拠点でネズミ型のトリオン魔獣を呼んで、この山道を抜けて、街に潜伏させていたわけ」

 

 キャスターと迅の合わせ技だ。

 迅がこれからもイレギュラー(ゲート)事件が起きることを観測。

 その原因がトリオン兵では無いことを、キャスターが解析。

 出所を開発室総出で探った結果、この山奥に行き着いた。

 

「多分、この森はもう、魔獣の森って言って良いぐらいには、トリオン魔獣がうじゃうじゃいる。

 だから、アーチャーの出番ってわけ。対魔獣のスペシャリストだからな」

 

 嘗てアルゴナウタイにおいて、セイレーンを撃退したその演奏。

 かの冥府の番犬すらも眠らせたその腕前ならば、トリオン魔獣を眠らせるなどお茶の子さいさい。

 そして、ぐっすり眠ったトリオン魔獣を、一体ずつ丁寧かつ高速で処理していく為に、アサシンを連れてきたというわけだ。

 

「…………あの魔獣。なんというか、キマイラのように見えました。ギリシャのエキドナがいる可能性もありますね」

「それは危険だよマスター」

 

 ポロロロロン。

 と堅琴を演奏しながら、アーチャーはマスターに注意する。

 

「魔獣使いの英霊なんて、探せばいくらでもいるさ。脳裏に入れておくべき情報は魔獣使いであるということだけ。今の段階では、英霊の真名なんて、予測できないからね」

 

 そう。アーチャーの言う通り。

 予測できるだけの情報は、現在皆無なのだ。

 ポロロロロン、と、堅琴の音が響き渡る。

 

「………流石は、アルゴー号の乗組員ね」

 

 オルフェウスのもう一つの有名な逸話。

 彼は、イアソンが指揮するアルゴー号に同乗していた、無類の英雄たちの一人なのだ。

 

「実際、イアソンとかヘラクレスとかメディアとかアタランテとか、どんな人だったの」

 

 アーチャー、オルフェウスの脳裏によぎるのは、愚かな小物で、しかし、語る夢はどこまでも純粋な、我らの船長(キャプテン)と。

 誠実で寡黙で実直な、武人らしい武人であったヘラクレス(最強)と。

 献身的で盲目的で、恐ろしいほど純粋だった、魔女(メディア)と。

 美しい野生の獣のような、それでいて子供思いな狩人(アタランテ)

 それ以外にも、偏屈で、されど誰よりも命に向き合い、神となった医者(アスクレピオス)

 神らしく傲慢であり続けた神と人の双子(ディオスクロイ)

 不死となった嘗ての乙女(カイニス)

 彼らは皆、確かに英雄だった。

 

「────我が人生における、次善の時間さ。一番は、妻と過ごした時間なのだが」

 

 愛妻家のオルフェウスにとって、妻の次に大事な思い出。

 それが、アルゴー号である。

 

「…………そういやおれ、アサシンのこと、あんま知らないな」

「なんだ?私のことが気になるのか、マスター」

「ま、そうだね。十八人の山の翁は、十八人いた、ということぐらいしか伝わってないし」

「暗殺教団の頭目などそのようなものさ。特に私は、二代目だからな。初代の次だ。もう殆ど残っていないだろう」

 

 木虎は、アサシンのその言葉に、興味を惹かれたようだった。

 

「初代『山の翁』は、とても凄まじい英雄と聞きます。どのような英雄だったのですか?」

 

 アーチャーの堅琴の音が響く中で、アサシンの、『影刃のハサン』の過去が、語られる。

 

「───威厳と、それから少しの茶目っけを持っていた、私の師匠だ」

「そういや、二代目ってことはそうなるのか」

「あぁ。他の『山の翁(ハサン)』とは違い、私は生前、まぁつまり、『死の具現』となる前の、ただの文官であった頃のあの人を知っている」

 

 初代『山の翁』、ハサン・ザッバーハは、嘗てはただの文官でな。

 しかし、文官が身体を鍛えないのはおかしいとか言って、剣を振るう変人でもあった。

 

 ある日、あの人は、地獄を見たらしい。

 そうして、彼は、あの教団を立ち上げた。

 

「まぁ、私としても、師匠についていくと決めていたからな」

 

 だから、師匠がハサン・ザッバーハとなり、初代の頭目となった後も、自身を鍛え続けながら、その背を追い続けていた。

 いつか師匠を超える。ただそれだけの為に。

 だが、いつの間にか、師匠はいなくなっていた。

 その場に残っていたのは、師匠が自らで掻き出したのだろう内臓のみ。

 私はその後を継ぎ、二代目『山の翁』として、信仰に生き続けていた。

 だが、どれほど鍛えても、どれほど考えても、どれほど挑んでも、私は結局、師匠の影すら踏めなかった。

 

「アサシンが影も踏めなかったって、どんだけヤバいんだよ。初代は」

 

 三十八回殺された身としては、これでもまだ欠片も届かない実力者というのは、もはや引く。

 

 そうだな。

 恐らくは師匠なら、青のセイバーすらも、容易く殺せるのかもしれん。

 そうしてある日、老衰で膝をついた日に、髑髏の剣士に首を切られた。

 

「それが、師匠だった。

 師匠は生きていた。………いや、生きているのか死んでいるのか、それすらも分からない領域に至っていた。

 正しく死の具現。死の象徴。始まりのハサン・ザッバーハにして、終わりの山の翁。

 人を超越したナニカに、師匠は至っていた」

 

 それが、悲しかったわけじゃない。

 それほどまでに、信仰に身を捧げられた師匠は、尊敬に値するし、実際尊敬している。

 だが。

 

「私は、また、師匠と瞑想がしたかった。

 師匠と一緒に、修行がしたかった。

 人を超越した師匠と共に修行出来るようになるには、私も人を超えるしかない。

 そのための、聖杯戦争だ」

「聖杯に、人を超えることを願うつもり?」

「いや違う。嘗て師匠が歩んだ地獄を、私も歩みたいのだ。

 師匠から剣を教わったものとして。

 いつか、師匠を超える為に」

 

 歴代の『山の翁』は、初代を畏敬し、尊敬し、常に自身の上に置いている。

 ────だが、『影刃のハサン』は、例外である。

 彼女は、自身の上に、置いてはいない。

 畏敬はする。尊敬もする。それでも。

 彼女にとっての山の翁は、ただの変人の文官でもあるが故に。

 

「私の技術も、この刃も全て、師匠を超える為に作り上げたものだから」

「なるほど。実に美しき師弟愛だ」

 

 オルフェウスは謳う。

 弟子の、師匠を超えたいという、その想いを、高らかに。

 美しい演奏を、響かせながら。

 

「挑み続け、死に続けるが良い、アサシン。

 いつの日か、かの死を乗り越えるために」

 

 ポロロロロン。

 神話に語られる、美しき演奏が、車内を満たして。

 

 

 ふと、迅は、ある未来を見た。

 

「───木虎、トリガー起動しといて」

「了解。トリガー起動(オン)

 

 すぐさまトリオン体に換装。

 予知を持つ迅さんがこういうということは。

 

「狙撃ですか?」

「みたいだね。でも、この新車を壊させるわけにはいかない。まだ一年も経ってないんだからねっ‼︎」

 

 勢いよくハンドルを切って、ドリフト走行。

 放たれた矢は、確かに躱して。

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 車から爆炎と共に飛び出て来た四人、特に迅は、凄い顔をしていた。

 泣いているのか、怒っているのか分からない顔である。

 

「………迅さんでも躱せないなんて」

 

 これが、英霊の───。

 

「いや、今のは単純な技量ではないな。確かにマスターは躱していた」

「ボクにもそう見えた」

 

 だとしたら、どうして?

 

「恐らくは因果逆転。当たったから射ったのだろう」

 

 ──────なんて、出鱈目。

 

「………そんなの、どうしようもないじゃない」

「………おれの車ぁ」

 

 ピッカピカの新車は一年で死んだ。

 おのれ、恐らくは白のアーチャー。

 これまで貯め込んできた給料なのに。

 

「………ころす」

「落ち着けマスター」

「今の音で、魔獣たちがこちらに向かっているようだ。マスター。宝具使用の許可を頼む」

「分かったわ。魔獣たちを眠らせてちょうだい」

「承った」

 

 アーチャーが謳うために堅琴を構えた瞬間、魔獣たちが襲いかかるが、恐れることなく、謳うように詠唱を開始する。

 彼の宝具は、ある意味詠唱そのものである。

 

 「鳴り響くは鎮魂歌の元祖

  我が音色に聞き惚れないものはなく

  我が音色に心揺れぬものもない

  怪面鳥は恐れをなし、冥府の番犬は眠りに落ちる

  神を二度欺きし罪人すら心揺れ

  血族殺しも涙を流す

  息子殺しは乾きを忘れ

  復讐の三女神よ、心ゆくまで聞き惚れよ

 

 その詠唱が響き、森中に存在する、全ての魔獣は、深い眠りに落ちた。

 そしてアーチャーは、真名を告げる。

 

 「蘇りの子守唄(リライブ・ナヌリズマ)

 

 眠りに落ちた魔獣など、案山子も同然。

 

「全員殺せ。アサシン」

「心得た」

 

 迅らしくもない、些か冷たすぎる声と要求である。

 アサシンは、50秒以内で、森中に存在する、トリオン魔獣の心臓を貫き、首を落とした。

 案山子を一体殺すのに、0.1秒もいらない。0.01でもまだ遅い。おおよそ0.005秒。

 即ちアサシンは、一万体を超える魔獣を、一分以内に殺し切ったことになる。

 ついでに拠点を見てみたが、すでにもぬけの殻だった。

 

「───すでに拠点は放置されていたようだな。白のアーチャーの狙撃で足を止め、魔獣による包囲戦で打ち倒すつもりだったのだろうが」

「アーチャーを連れて来た迅さんの判断は、正しかったようですね」

「………おれのくるまぁ」

 

 代わりに、迅の新車で愛車は犠牲となった。

 享年一年の命である。

 

「ふむ。その心を慰める為に、謳うとしよう」

「いつでもどこでも謳ってるじゃない。迅さん。狙撃の可能性は?」

「………視た感じ、もう無いっぽい。アサシンなら迎撃されると思ったのかな?」

「そうだな。もう一発打ち込んでくれれば、位置を特定できたものを」

 

 そうなれば、速攻で向かっていって、残像すら残らない速さの為に狙いも定められずに距離を詰められ、心臓に一突きで終わりである。

 

「まぁ、拠点を潰せただけでもよしとするか」

「帰りはどうするんですか?」

「徒歩で帰るよ」

「えぇ?迎え呼びましょうよ」

「山降りるまでは徒歩ね。その時間なら、始発の電車で帰れるし」

「そうですけど……」

「まぁ良いじゃないか木虎。夜の道の散歩みたいなものだ。安心しろ、暴漢も熊も私が始末してくれよう」

「いいや、そんな野蛮なことをする必要などないさ。ボクが眠らせてあげよう。眠りが深すぎて、魂が冥界に向かってしまうかもしれないがね」

「二人とも。熊はともかく、民間人には手を出さない」

 

 普段は振り回す側の迅さんが振り回されているなんて、さすがは英霊だ。

 

「そうそうマスター。マスターはセイバーのマスターと仲が良いんだったね」

「…………まぁ、否定はしないけど」

 

 仲が良いか悪いかで言えば、良い方ではある。

 

「なら、気をつけたほうがいい。セイバーのマスターは、目を惹きつける綺麗な女性を観衆の前で召使扱いする、凄まじいドSらしいからね」

「待ちなさい何よその噂」

「ぶはっ、待ってアーチャーその噂詳しくおしえて」

「勿論だとも。ジン」

 

 三雲修マスター呼び事件を詳しく教えられた木虎と迅は、あまりにもあんまりな理由で、酷い勘違いを受けている三雲に心から同情して。

 

 自身のサーヴァントに、人前でマスター呼びはしないように、厳命するのだった。

 

 

「………あのアサシン、なんたる速さだ」

 

 白のアーチャー。金色の鎧を身に纏った、四十代程の、威厳のある顔立ち。

 

「君が生前共に戦ったあの大英雄と、どっちが速い?」

「直線勝負ならばアキレウスだが、入り組んだ道ならば奴の方が速いかもしれん」

「ほう。流石は、ハサン最強格と言って良いな」

「亜種聖杯戦争の記録を集めて来た、バーサーカーのマスターの手柄だな」

 

 三導集の集めた記録により、かの英霊の真名は割れた。

 割れたところで、だからなんだという話ではあるのだが。

 

「あのアーチャーは、恐らくはオルフェウスだろう」

「獣を眠らせることに関しては、奴の右に出るものはいないだろう。貴様の天敵だな。アサシン」

「それを言うなら、青のアサシンは君の天敵じゃないか?」

「いや、私の天敵は、青のキャスター、カッサンドラだ。………此度の聖杯大戦で、やつに再び会えたこと、実に幸運だ。

 今度こそ、戦利品として、存分に使ってやる」

 

 そう、この、白のアーチャーこそ。

 トロイア戦争における、アカイア軍の総大将であった、ミュケナイの王。

 

「君が召喚されていること。それは、彼女の不運を象徴しているね」

 

 アガメムノンよ。

 

 白のアサシンは、青のキャスターを、心から憐れんだ。





 カバー裏風キャラ紹介

 A級のA級によるA級のための  木虎藍

 二年の歳月を経ても、良くも悪くも変わらない。強いて言うなら、修を明確にライバル視しているぐらいか。今回召喚したサーヴァントが相当な変人のため、とても苦労している。アルゴー号の英雄なら、個人的にはアタランテを呼びたかった人。オルフェウスも普通にありよりだったが、実物があまりにも変人すぎて疲れが溜まっている。それはそれとして、かなり良好な関係は築けているEカップ。

 変人演奏家  青のアーチャー

 ずっとハープだと勘違いしてたが、オルフェウスな引いてたのは実は堅琴だと知って、慌ててその辺りを書き直した、琴を引くからアーチャーのサーヴァント。クラス定義の曖昧さをこれ以上ないくらいに活かしている。お前実質キャスターだろとか言ってはいけない。前線で実際にガッツリ戦闘したら高確率で死ぬ。やっぱりこいつはキャスターでは?
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