ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
最初に異常を拾ったのは、ピースギア外縁観測局だった。
空間位相の微細な揺らぎ。
通常なら自然現象か観測誤差として自動処理される程度のものだった。
だが、その日だけは違った。
「……照合、もう一度」
技術士官が端末を操作する。
比較対象は、超銀河平和維持機構ピースギアが日常的に使用する空間転移装置――ポータル。
結果。
六十七パーセント。
「高すぎる」
自然発生した空間異常が、人工的なポータル制御波形と六割以上一致する。
偶然と呼ぶには、少し出来すぎていた。
*
数十分後。
中央司令部の大型ホログラムに、問題の空間異常が表示されていた。
黒い楕円。
もちろん、実際にそう見えているわけではない。
観測値を人間が理解しやすい形へ変換したものだ。
綾音「六十七パーセント?」
イズモ「正確には六十七・二です」
綾音「細かい」
イズモ「こういうのは細かい方がいいんですよ」
最上イズモは表示を拡大した。
座標固定。
空間境界の維持。
転移先との同期。
どれもピースギアの技術思想に似ている。
だが、完全には一致しない。
綾音「昔のピースギア製とか?」
イズモ「該当なし」
綾音「他文明が真似した」
イズモ「それなら面倒ですね」
綾音「自然現象」
イズモ「もっと面倒です」
綾音は軽く息を吐いた。
綾音「で、向こう側は?」
イズモ「あります」
綾音「何が」
イズモ「世界が」
表示が切り替わる。
大気。
重力。
温度。
生命反応。
そして、人工電波。
イズモ「少なくとも真空ではない。地球型に近い環境。生命反応多数。文明活動らしき信号も拾ってます」
綾音「交信は?」
イズモ「応答なし」
綾音「救難信号?」
イズモ「それも分かりません」
イズモはそこで言葉を切った。
イズモ「ただ」
綾音「何?」
イズモ「向こう側からも、こちらを測っているような反応があります」
室内の空気が少し変わった。
綾音「観測されてる?」
イズモ「可能性としては」
綾音「……嫌ね」
イズモ「同感です」
*
綾音はしばらくホログラムを見つめた。
未知の世界。
未知の文明。
そして、自分たちの技術によく似た空間接続。
放置する選択肢はない。
だからといって、大部隊を送り込めば侵攻と受け取られる。
綾音「一個中隊」
イズモ「はい」
綾音「現地調査。救難活動。文明圏があるなら接触して事情確認」
別の編成表が開く。
綾音「一個大隊はこっちに残す」
イズモ「ポータル維持?」
綾音「それと帰還者の受け入れ。未知物質、未知生物、情報汚染まで全部想定」
イズモ「情報汚染まで?」
綾音「未知世界でしょ」
イズモ「慎重ですね」
綾音「あなたが行くからね」
イズモ「どういう意味です?」
綾音「そのまま」
イズモは何も言わなかった。
綾音「最悪の場合、境界を切断する」
イズモ「了解」
綾音「交戦規定は最低限。自衛と救命のみ」
イズモ「軍事介入は?」
綾音「禁止」
綾音はイズモを見る。
綾音「今回は転移災害対策」
イズモ「はい」
綾音「英雄ごっこしに行くんじゃないからね」
イズモ「しませんよ」
綾音「本当に?」
イズモ「……多分」
綾音「今、多分って言った?」
イズモ「準備します」
「逃げた」
*
二時間後。
現地調査中隊がポータル前へ集結していた。
武装は最低限。
医療装備。
環境測定器。
無人偵察機。
そして大量の記録装置。
イズモは境界の向こうを見る。
黒い膜。
その奥に何があるかは見えない。
技術士官「接続安定」
イズモ「時間同期」
技術士官「誤差、測定限界以内」
イズモ「帰還座標」
技術士官「固定完了」
通信が入る。
綾音『イズモ』
イズモ「はい」
一瞬。
綾音が何か言おうとして。
やめた。
綾音『……行ってらっしゃい』
イズモ「行ってきます」
イズモが一歩踏み出す。
境界を越える。
重力が揺れる。
光が裏返る。
そして。
足元に地面が戻った。
空。
風。
植物らしきもの。
見たことのない地平線。
技術士官が息を呑む。
「大気、活動可能」
「生命反応……多数」
イズモ「文明反応は?」
「前方にあります」
イズモが顔を上げる。
遠くで。
巨大な何かが動いた。
生物。
その体内から。
異常なほど大量の元素反応。
イズモ「……なんだ、あれ」
その瞬間。
未知世界――ネガアースとの最初の接触が始まった。