ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
司令部。
二号機の記録映像は。
注意書き付きで。
綾音の端末へ届いていた。
《映像データは単一》
《観測者によって知覚内容が異なる可能性あり》
《長時間視聴非推奨》
綾音「……最後の一文が嫌ね」
再生。
白いノイズ。
輪郭の定まらない光。
そして。
人影。
綾音「……」
自分だった。
黒い髪。
顔。
体格。
間違いない。
だが。
綾音の指が。
停止ボタンの上で止まった。
綾音「違う」
司令服ではない。
肩章もない。
今より。
少し若い。
まだ。
ピースギアを指揮する立場ではなかった頃の。
自分。
*
綾音は。
映像を止める。
巻き戻す。
再生。
やはり同じ。
若い自分が。
こちらを見ている。
綾音「イズモは」
報告書を開く。
《最上イズモ:自己像》
《ユノ:自己像》
《カー博士:自己像》
綾音「全員、今の自分に見えた」
なのに。
自分だけ。
違う。
画面の中の綾音が。
唇を動かす。
音声はない。
だが。
意味だけが。
頭の中へ落ちる。
――まだ。
綾音「……まだ?」
もう一度。
再生。
――まだ。
何度見ても。
同じ。
*
綾音は。
しばらく。
画面を見つめていた。
若い自分。
この姿を。
知っている。
正確には。
記憶ではない。
以前。
イズモが見せた。
一つの記録。
可能性。
別の世界。
別の時間。
まだ司令ではない自分が。
十一次元へ取り込まれ。
そこから。
イズモによって帰還させられた。
代わりに。
イズモ自身が。
戻らなかった。
綾音「……あの私」
画面の中の自分が。
胸へ手を当てる。
次に。
画面の外側を。
指す。
綾音は。
反射的に横を見る。
誰もいない。
司令室。
静寂。
綾音「何を見せたいの」
返事はない。
*
通信。
地球側研究所。
イズモ『はい』
綾音「見た」
イズモ『二号機?』
綾音「うん」
イズモ『どう見えました?』
少し。
間が空いた。
綾音「私」
イズモ『やっぱり』
綾音「でも」
綾音は。
映像を横へ表示する。
綾音「今の私じゃない」
イズモの表情が。
変わる。
イズモ『どの時期?』
綾音「司令になる前」
沈黙。
イズモ『……』
綾音「たぶん」
一拍。
綾音「あなたが見た可能性の中にいた私」
ユノが。
通信画面の端で。
こちらを見る。
ユノ『何か言っていましたか?』
綾音「言葉じゃないけど」
イズモ『何に感じた?』
綾音「『まだ』」
再び。
沈黙。
ユノ『イズモには「見えてる」』
イズモ「うん」
カー博士『私は「来た」』
綾音「ユノさんは」
ユノ『「認識した」です』
四つ。
違う。
だが。
綾音「……並べたら」
イズモ「文章っぽい」
見えてる。
認識した。
来た。
まだ。
カー博士『偶然でしょうか』
イズモ「可能性はあります」
綾音「でも」
若い自分を見る。
綾音「私だけ時間に関係する言葉」
イズモも。
画面を見る。
イズモ「姿も過去の綾音」
綾音「正確には」
一拍。
綾音「別世界の私」
*
しばらく。
誰も話さなかった。
やがて。
綾音が言う。
綾音「イズモ」
イズモ『はい』
綾音「もし」
映像。
若い自分。
綾音「これが警告なら?」
イズモ『あり得る』
綾音「誘導なら?」
イズモ『それも』
綾音「どっちだと思う?」
イズモは。
少し考え。
イズモ『まだ決めません』
綾音「そう言うと思った」
イズモ『警告なら無視しない』
一拍。
イズモ『誘導なら乗らない』
綾音「じゃあ」
綾音は。
画面を閉じる。
綾音「有人進入は禁止継続」
イズモ『はい』
綾音「本当に?」
イズモ『本当に』
綾音「二人で帰れない状況になったら?」
イズモ『撤退』
綾音「撤退できなかったら?」
イズモ『その状況を作らない』
綾音は。
少しだけ。
満足そうに頷いた。
綾音「よろしい」
*
通信終了。
司令室。
一人。
綾音は。
最後に。
一度だけ。
二号機の映像を再生する。
若い自分。
こちらを見る。
――まだ。
綾音「……何が、まだなのよ」
当然。
返事はない。
だが。
映像が暗転する直前。
綾音には。
ほんの一瞬。
若い自分の背後に。
誰かが立っているように見えた。
青い光。
細い輪郭。
見慣れた姿。
綾音「……イズモ?」
即座に停止。
拡大。
ノイズ除去。
何もない。
生データ上。
そこには。
誰も記録されていなかった。
それでも。
綾音には。
確かに。
見えた。
十一次元の奥で。
自分を帰し。
一人残った。
もう一人の。
最上イズモが。