ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
二号機の映像は。
その後も。
解析室の端末に残されていた。
直接閲覧は制限。
だが。
完全隔離には。
まだ至っていない。
*
ユノが。
モニターの前で。
立ち止まった。
誰かに呼ばれたわけではない。
用事があったわけでもない。
ただ。
気づけば。
画面を見ていた。
白いノイズ。
その中に。
自分。
ユノ自身が。
立っている。
ユノ「……」
映像は停止している。
それなのに。
目が離れない。
一歩。
近づく。
もう一歩。
イズモ「ユノ?」
返事がない。
イズモが。
顔を上げる。
ユノは。
まるで。
画面の奥へ。
吸い込まれるように。
歩いている。
イズモ「ユノ」
反応。
なし。
手が伸びる。
画面へ。
イズモ「映像落として」
技術士官「え?」
イズモ「今すぐ」
暗転。
同時に。
イズモは。
二号機映像への接続を。
物理的に遮断する。
イズモ「ネットワーク切断」
技術士官「了解」
イズモ「バックアップも」
「はい」
イズモ「閲覧権限全部停止」
ユノの指が。
黒いモニターの直前で。
止まった。
*
ユノ「……?」
瞬き。
周囲を見る。
ユノ「私」
自分の位置を確認する。
ユノ「何を?」
イズモ「覚えてます?」
ユノ「二号機の映像を」
イズモ「その後」
ユノは。
内部ログを検索する。
ユノ「……もう一度」
一拍。
ユノ「見ようと思いました」
イズモ「理由は?」
沈黙。
ユノ「分かりません」
イズモの表情が。
変わった。
イズモ「認識汚染を疑います」
カー博士「映像だけで?」
イズモ「理由の説明できない閲覧欲求」
暗転したモニター。
イズモ「それも」
一拍。
イズモ「直前まで本人が自覚してない」
*
診断。
外部コード。
なし。
異常プロセス。
なし。
記憶破損。
なし。
運動制御。
正常。
カー博士「機械的には問題ありません」
イズモ「だから嫌なんですよ」
カー博士「なぜ?」
イズモ「壊れてないのに」
ユノを見る。
イズモ「行動だけ変わってる」
*
イズモ「ユノ」
ユノ「はい」
イズモ「映像」
一拍。
イズモ「何が見えてました?」
ユノ「私です」
イズモ「ずっと?」
ユノが。
止まる。
ユノ「……いいえ」
イズモ「途中から?」
ユノ「変わりました」
カー博士「何に?」
ユノは。
言葉を探す。
長い。
演算ではなく。
感覚を。
翻訳している。
ユノ「輪郭が」
イズモ「輪郭?」
ユノ「なくなりました」
イズモ「人型じゃなくなった?」
ユノ「はい」
一拍。
ユノ「でも」
ユノは。
自分の胸へ。
手を置く。
ユノ「大きくなった、ではありません」
イズモ「じゃあ?」
ユノは。
少し。
困ったように。
首を傾けた。
ユノ「私が」
一拍。
ユノ「地球になってた……?」
誰も。
笑わなかった。
*
ユノ「海がありました」
ユノ「大気がありました」
ユノ「大陸がありました」
ユノ「人がいました」
カー博士「地球を外から見ていた?」
ユノ「違います」
即答。
ユノ「全部」
一拍。
ユノ「私でした」
イズモは。
何も言わない。
ユノ「海の温度」
ユノ「大気の組成」
ユノ「地中の元素」
ユノ「全部」
ユノ「自分の身体みたいに」
イズモ「元素が消えた時は?」
ユノの表情が。
僅かに。
歪んだ。
ユノ「……痛かった」
イズモ「どこが?」
ユノ「全部です」
そして。
少し間を置いて。
ユノ「でも」
イズモ「何?」
ユノ「ネガアースも」
全員が。
ユノを見る。
ユノ「私でした」
ユノ「QEXも」
ユノ「流れていく元素も」
ユノ「全部」
自分の手を見る。
ユノ「自分の中を移動しているように」
*
イズモは。
暗転したモニターを見る。
綾音は。
別の自分。
ユノは。
地球そのものになった自分。
そして。
自身が。
以前観測した。
一つの可能性。
十一次元に残った。
最上イズモ。
イズモ「……待って」
カー博士「何です?」
イズモ「これ」
一拍。
イズモ「映像が、自分を見せてるんじゃない」
ユノ「では?」
イズモは。
十一次元モデルを開く。
無数の線。
無数の分岐。
そして。
観測者。
イズモ「自分を基準に」
一本。
枝を選ぶ。
イズモ「別の可能性を」
線が。
別世界へ。
伸びる。
イズモ「映してる?」
鏡。
ではない。
そこに映っていたのは。
現在の自分ではない。
存在し得た。
別の自分。
イズモは。
ゆっくり。
表示を拡大した。
イズモ「パラレルワールドの」
一拍。
イズモ「投影……?」