ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者―   作:最上 イズモ

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∅13 可能性

 

 パラレルワールド。

 

 その言葉を出した後。

 

 解析室は。

 

 しばらく。

 

 静まり返っていた。

 

カー博士「根拠は?」

 

イズモ「二つ」

 

 イズモは。

 

 まず。

 

 綾音の記録を出す。

 

 現在の綾音。

 

 そして。

 

 二号機映像で。

 

 綾音本人が見た。

 

 司令になる前の綾音。

 

イズモ「今の綾音じゃない」

 

ユノ「しかし本人ではある」

 

イズモ「そう」

 

 次。

 

 ユノ。

 

 現在のユノ。

 

 そして。

 

 地球全体を。

 

 自己として認識したユノ。

 

イズモ「これも」

 

 一拍。

 

イズモ「今のユノじゃない」

 

カー博士「だが」

 

イズモ「ユノではある」

 

     *

 

 十一次元モデル。

 

 無数の分岐。

 

 その中央に。

 

 一人。

 

 観測者。

 

イズモ「もし」

 

 一本の線を。

 

 選ぶ。

 

イズモ「この空間が、観測者自身を基準点にして」

 

 さらに。

 

 別の枝へ。

 

 線を伸ばす。

 

イズモ「存在し得た自分を投影してるなら」

 

ユノ「鏡に見えた理由も説明できます」

 

イズモ「はい」

 

カー博士「自分に似ているから」

 

イズモ「というより」

 

 一拍。

 

イズモ「自分だから」

 

     *

 

 通信。

 

 司令部。

 

綾音『パラレルワールド』

 

イズモ「一つの仮説です」

 

綾音『私が見たのは』

 

イズモ「別の世界の綾音」

 

綾音『あなたが残った世界』

 

イズモ「可能性があります」

 

 綾音が。

 

 少し。

 

 目を細める。

 

綾音『じゃあ』

 

 一拍。

 

綾音『あれは未来じゃない?』

 

イズモ「未来とも言えるし」

 

 少し考える。

 

イズモ「違うとも言える」

 

綾音『曖昧ね』

 

イズモ「こちらから見れば」

 

 世界線。

 

 分岐。

 

イズモ「まだ起きていない」

 

 もう一本。

 

 別方向へ。

 

イズモ「でも向こう側では」

 

 一拍。

 

イズモ「もう成立している世界かもしれない」

 

     *

 

 綾音は。

 

 しばらく。

 

 何も言わなかった。

 

 そして。

 

綾音『……なら』

 

イズモ「はい」

 

綾音『回避する、って言い方も違うか』

 

イズモ「そうですね」

 

綾音『存在してる世界を消すわけじゃない』

 

イズモ「はい」

 

綾音『ただ』

 

 一拍。

 

綾音『私は選ばない』

 

 イズモが。

 

 黙る。

 

綾音『あの私が助けてもらったことも』

 

綾音『あのイズモが残ったことも』

 

 若い綾音。

 

 別世界の記録。

 

綾音『なかったことにはしない』

 

 それでも。

 

綾音『今の私は』

 

 現在のイズモを見る。

 

綾音『同じ選択はしない』

 

イズモ「……了解」

 

     *

 

ユノ「では」

 

 ユノが。

 

 自分の記録を見る。

 

ユノ「地球になった私も」

 

イズモ「別世界の可能性」

 

ユノ「どうして」

 

 一拍。

 

ユノ「私は地球になったのでしょう」

 

イズモ「分かりません」

 

カー博士「惑星管理システムとの統合?」

 

イズモ「あり得ます」

 

ユノ「人類の維持を目的として?」

 

イズモ「それも」

 

 ただ。

 

 イズモは。

 

 すぐに付け加える。

 

イズモ「でも」

 

ユノ「はい」

 

イズモ「その世界のあなたが」

 

 一拍。

 

イズモ「何を考えてそうしたのか」

 

 ユノを見る。

 

イズモ「今のあなたには分からない」

 

ユノ「同じ私なのに?」

 

イズモ「同じところから始まった」

 

 分岐。

 

イズモ「別の人」

 

     *

 

 ユノは。

 

 その言葉を。

 

 長く処理していた。

 

ユノ「記憶も」

 

ユノ「経験も」

 

ユノ「身体も」

 

ユノ「選択も違う」

 

イズモ「はい」

 

ユノ「それでも」

 

 一拍。

 

ユノ「私ではある」

 

イズモ「そうですね」

 

ユノ「でも」

 

 少し。

 

 考える。

 

ユノ「私ではない」

 

イズモ「うん」

 

 矛盾。

 

 のようで。

 

 矛盾ではない。

 

     *

 

カー博士「なら」

 

カー博士「二号機映像への吸引は?」

 

イズモ「そこが問題です」

 

 イズモは。

 

 映像隔離状態を。

 

 再確認する。

 

イズモ「別世界の自己を」

 

 一拍。

 

イズモ「自分そのものとして認識し始める」

 

カー博士「自己同一性の混線」

 

イズモ「かもしれない」

 

ユノ「私は」

 

 地球になった時。

 

 海も。

 

 大気も。

 

 QEXも。

 

 自分だった。

 

ユノ「境界がなくなった」

 

イズモ「だから」

 

 一拍。

 

イズモ「映像を見続けると」

 

 別世界。

 

 現在。

 

 その境界。

 

イズモ「どっちが自分か」

 

 ゆっくり。

 

イズモ「分からなくなる可能性がある」

 

     *

 

綾音『映像隔離継続』

 

イズモ「異議なし」

 

綾音『三号機は?』

 

イズモ「設計変更します」

 

綾音『どう変える』

 

イズモ「人間が直接映像を見ない」

 

カー博士「機械解析のみ?」

 

イズモ「まずは」

 

ユノ「しかし」

 

 全員が。

 

 ユノを見る。

 

ユノ「機械そのものが」

 

 一拍。

 

ユノ「観測者として扱われた場合は?」

 

 沈黙。

 

イズモ「……」

 

カー博士「探査機にも」

 

ユノ「探査機自身の可能性がある」

 

イズモ「あり得る」

 

綾音『面倒ね』

 

イズモ「十一次元なので」

 

綾音『便利な言葉にしない』

 

     *

 

 イズモは。

 

 一号機の。

 

 帰還ログを。

 

 もう一度。

 

 開いた。

 

 UNKNOWN。

 

 外部からの帰還命令。

 

イズモ「これも」

 

カー博士「何か?」

 

イズモ「別の意味に見える」

 

 探査機。

 

 十秒後。

 

 帰還。

 

 別の世界。

 

 帰還しない。

 

 さらに。

 

 破損。

 

 消失。

 

 分解。

 

 無数の可能性。

 

イズモ「誰かが返したんじゃなくて」

 

ユノ「帰還できる可能性へ」

 

イズモ「切り替えた?」

 

 カー博士が。

 

 表情を変える。

 

カー博士「それなら」

 

 別のデータを。

 

 開く。

 

 地球から。

 

 元素百。

 

 ネガアース。

 

 百十二。

 

カー博士「これも」

 

イズモ「……」

 

 全員。

 

 同時に。

 

 気づいた。

 

     *

 

 物質が。

 

 途中で増えた。

 

 のではない。

 

 そもそも。

 

 同じ世界を。

 

 比較していない。

 

イズモ「地球から元素が消える」

 

 世界線A。

 

 元素あり。

 

 世界線B。

 

 元素なし。

 

イズモ「じゃなくて」

 

 一拍。

 

イズモ「元素を失った地球側へ」

 

 線が。

 

 切り替わる。

 

イズモ「移ってる」

 

ユノ「ネガアース側は」

 

 別の枝。

 

ユノ「元素が増えた可能性へ」

 

カー博士「なら」

 

 一拍。

 

カー博士「保存則が破れていたのではない」

 

イズモ「比較対象の宇宙が」

 

 静かに。

 

イズモ「同じじゃなかった」

 

     *

 

 誰も。

 

 すぐには。

 

 次の言葉を出せなかった。

 

 元素消失。

 

 転送。

 

 回収。

 

 QEX。

 

 時間差。

 

 十一次元。

 

 全部が。

 

 一つの現象として。

 

 繋がり始める。

 

ユノ「イズモ」

 

イズモ「はい」

 

ユノ「もし」

 

 十一次元モデルを見る。

 

ユノ「これが正しいなら」

 

 一拍。

 

ユノ「向こうは」

 

 無数の世界線。

 

 その間を。

 

 自由に。

 

 切り替えている。

 

ユノ「何を」

 

 一拍。

 

ユノ「しようとしているのでしょう」

 

 イズモは。

 

 答えなかった。

 

 ただ。

 

 画面の中。

 

 消えそうな枝が。

 

 別の枝へ。

 

 繋ぎ直される様子を。

 

 見ていた。

 

 まるで。

 

 失われるものを。

 

 何一つ。

 

 手放したくないかのように。

 

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