ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
パラレルワールド。
その言葉を出した後。
解析室は。
しばらく。
静まり返っていた。
カー博士「根拠は?」
イズモ「二つ」
イズモは。
まず。
綾音の記録を出す。
現在の綾音。
そして。
二号機映像で。
綾音本人が見た。
司令になる前の綾音。
イズモ「今の綾音じゃない」
ユノ「しかし本人ではある」
イズモ「そう」
次。
ユノ。
現在のユノ。
そして。
地球全体を。
自己として認識したユノ。
イズモ「これも」
一拍。
イズモ「今のユノじゃない」
カー博士「だが」
イズモ「ユノではある」
*
十一次元モデル。
無数の分岐。
その中央に。
一人。
観測者。
イズモ「もし」
一本の線を。
選ぶ。
イズモ「この空間が、観測者自身を基準点にして」
さらに。
別の枝へ。
線を伸ばす。
イズモ「存在し得た自分を投影してるなら」
ユノ「鏡に見えた理由も説明できます」
イズモ「はい」
カー博士「自分に似ているから」
イズモ「というより」
一拍。
イズモ「自分だから」
*
通信。
司令部。
綾音『パラレルワールド』
イズモ「一つの仮説です」
綾音『私が見たのは』
イズモ「別の世界の綾音」
綾音『あなたが残った世界』
イズモ「可能性があります」
綾音が。
少し。
目を細める。
綾音『じゃあ』
一拍。
綾音『あれは未来じゃない?』
イズモ「未来とも言えるし」
少し考える。
イズモ「違うとも言える」
綾音『曖昧ね』
イズモ「こちらから見れば」
世界線。
分岐。
イズモ「まだ起きていない」
もう一本。
別方向へ。
イズモ「でも向こう側では」
一拍。
イズモ「もう成立している世界かもしれない」
*
綾音は。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
綾音『……なら』
イズモ「はい」
綾音『回避する、って言い方も違うか』
イズモ「そうですね」
綾音『存在してる世界を消すわけじゃない』
イズモ「はい」
綾音『ただ』
一拍。
綾音『私は選ばない』
イズモが。
黙る。
綾音『あの私が助けてもらったことも』
綾音『あのイズモが残ったことも』
若い綾音。
別世界の記録。
綾音『なかったことにはしない』
それでも。
綾音『今の私は』
現在のイズモを見る。
綾音『同じ選択はしない』
イズモ「……了解」
*
ユノ「では」
ユノが。
自分の記録を見る。
ユノ「地球になった私も」
イズモ「別世界の可能性」
ユノ「どうして」
一拍。
ユノ「私は地球になったのでしょう」
イズモ「分かりません」
カー博士「惑星管理システムとの統合?」
イズモ「あり得ます」
ユノ「人類の維持を目的として?」
イズモ「それも」
ただ。
イズモは。
すぐに付け加える。
イズモ「でも」
ユノ「はい」
イズモ「その世界のあなたが」
一拍。
イズモ「何を考えてそうしたのか」
ユノを見る。
イズモ「今のあなたには分からない」
ユノ「同じ私なのに?」
イズモ「同じところから始まった」
分岐。
イズモ「別の人」
*
ユノは。
その言葉を。
長く処理していた。
ユノ「記憶も」
ユノ「経験も」
ユノ「身体も」
ユノ「選択も違う」
イズモ「はい」
ユノ「それでも」
一拍。
ユノ「私ではある」
イズモ「そうですね」
ユノ「でも」
少し。
考える。
ユノ「私ではない」
イズモ「うん」
矛盾。
のようで。
矛盾ではない。
*
カー博士「なら」
カー博士「二号機映像への吸引は?」
イズモ「そこが問題です」
イズモは。
映像隔離状態を。
再確認する。
イズモ「別世界の自己を」
一拍。
イズモ「自分そのものとして認識し始める」
カー博士「自己同一性の混線」
イズモ「かもしれない」
ユノ「私は」
地球になった時。
海も。
大気も。
QEXも。
自分だった。
ユノ「境界がなくなった」
イズモ「だから」
一拍。
イズモ「映像を見続けると」
別世界。
現在。
その境界。
イズモ「どっちが自分か」
ゆっくり。
イズモ「分からなくなる可能性がある」
*
綾音『映像隔離継続』
イズモ「異議なし」
綾音『三号機は?』
イズモ「設計変更します」
綾音『どう変える』
イズモ「人間が直接映像を見ない」
カー博士「機械解析のみ?」
イズモ「まずは」
ユノ「しかし」
全員が。
ユノを見る。
ユノ「機械そのものが」
一拍。
ユノ「観測者として扱われた場合は?」
沈黙。
イズモ「……」
カー博士「探査機にも」
ユノ「探査機自身の可能性がある」
イズモ「あり得る」
綾音『面倒ね』
イズモ「十一次元なので」
綾音『便利な言葉にしない』
*
イズモは。
一号機の。
帰還ログを。
もう一度。
開いた。
UNKNOWN。
外部からの帰還命令。
イズモ「これも」
カー博士「何か?」
イズモ「別の意味に見える」
探査機。
十秒後。
帰還。
別の世界。
帰還しない。
さらに。
破損。
消失。
分解。
無数の可能性。
イズモ「誰かが返したんじゃなくて」
ユノ「帰還できる可能性へ」
イズモ「切り替えた?」
カー博士が。
表情を変える。
カー博士「それなら」
別のデータを。
開く。
地球から。
元素百。
ネガアース。
百十二。
カー博士「これも」
イズモ「……」
全員。
同時に。
気づいた。
*
物質が。
途中で増えた。
のではない。
そもそも。
同じ世界を。
比較していない。
イズモ「地球から元素が消える」
世界線A。
元素あり。
世界線B。
元素なし。
イズモ「じゃなくて」
一拍。
イズモ「元素を失った地球側へ」
線が。
切り替わる。
イズモ「移ってる」
ユノ「ネガアース側は」
別の枝。
ユノ「元素が増えた可能性へ」
カー博士「なら」
一拍。
カー博士「保存則が破れていたのではない」
イズモ「比較対象の宇宙が」
静かに。
イズモ「同じじゃなかった」
*
誰も。
すぐには。
次の言葉を出せなかった。
元素消失。
転送。
回収。
QEX。
時間差。
十一次元。
全部が。
一つの現象として。
繋がり始める。
ユノ「イズモ」
イズモ「はい」
ユノ「もし」
十一次元モデルを見る。
ユノ「これが正しいなら」
一拍。
ユノ「向こうは」
無数の世界線。
その間を。
自由に。
切り替えている。
ユノ「何を」
一拍。
ユノ「しようとしているのでしょう」
イズモは。
答えなかった。
ただ。
画面の中。
消えそうな枝が。
別の枝へ。
繋ぎ直される様子を。
見ていた。
まるで。
失われるものを。
何一つ。
手放したくないかのように。