ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者―   作:最上 イズモ

3 / 6
∅3 ずれた現在

 

 表示された数字を、イズモはもう一度確認した。

 

 同期誤差。

 

 ――三百二十一年。

 

イズモ「再測定」

 

技術士官「はい」

 

 数秒。

 

「……同じです」

 

レン「三百二十一年って何が?」

 

イズモ「分かりません」

 

キアラ「分からないの?」

 

イズモ「分からない時は分からないって言った方が安全なので」

 

 イズモは測定器を再起動した。

 

 時刻同期は、ポータルを使う上で基本中の基本だった。

 

 惑星は動く。

 

 恒星系も動く。

 

 空間座標だけを合わせればいいわけではない。

 

 時間まで含めて固定しなければ、安全な転移先にはならない。

 

 なのに。

 

イズモ「ポータル側の同期は正常」

 

技術士官「はい」

 

イズモ「現地環境を基準にすると三百二十一年ずれる」

 

ユノ「矛盾しています」

 

イズモ「そうなんですよね」

 

     *

 

 その日の調査は、QEXの追跡に切り替えられた。

 

 先ほどの個体を遠距離から観察する。

 

 QEXは森の中を移動し、複数の鉱石を摂取していた。

 

 狩猟行動は見られない。

 

 別の小型個体が近づいても攻撃しなかった。

 

キアラ「こんなにじっくりQEXを観察すること、あんまりなかったかも」

 

レン「見つけたら回収するからな」

 

イズモ「その回収っていつから?」

 

レン「元素消失が始まってから」

 

イズモ「QEXは?」

 

ユノ「ネガアースで確認されるようになった時期について、正確な年代情報は不足しています」

 

イズモ「地層調べましょう」

 

レン「地層?」

 

イズモ「こいつらが最近できた生物なのか、昔からいる生物なのかで話が変わります」

 

     *

 

 数時間後。

 

 簡易掘削機が地面を削る。

 

 第一層。

 

 第二層。

 

 第三層。

 

 そこから。

 

技術士官「生体由来物質」

 

イズモ「QEX?」

 

「組成が近いです」

 

 さらに下。

 

「こちらにも」

 

イズモ「年代測定」

 

 結果が出る。

 

 イズモが黙った。

 

レン「どうした?」

 

イズモ「古い」

 

キアラ「どれくらい?」

 

イズモ「最低でも数百年」

 

 沈黙。

 

レン「でも元素消失はそんな昔からじゃない」

 

イズモ「地球では」

 

ユノ「……地球では?」

 

 イズモは立ち上がった。

 

 地層モデルを空中へ表示する。

 

 高濃度元素層。

 

 QEX由来物質。

 

 そして。

 

 その上。

 

 さらに別の高濃度層。

 

イズモ「一回じゃない」

 

ユノ「何がですか?」

 

イズモ「元素流入」

 

 指先で層をなぞる。

 

イズモ「ネガアースには、何度も大量の元素が入ってる」

 

キアラ「回収した元素がまた来たとか?」

 

イズモ「まだ分かりません」

 

 また。

 

 その言葉。

 

 だが今度は。

 

 イズモの表情が明らかに変わっていた。

 

     *

 

 ピースギア側へ通信をつなぐ。

 

綾音『三百二十一年?』

 

イズモ「測定値です」

 

綾音『機械故障』

 

イズモ「三系統で同じ」

 

綾音『じゃあ現地時間の定義がおかしい』

 

イズモ「それも考えてます」

 

 イズモは地球とネガアースを並べた。

 

イズモ「一つの仮説として聞いてください」

 

 レン。

 

 キアラ。

 

 ユノ。

 

 全員が画面を見る。

 

イズモ「地球とネガアースで、時間の流れ方が違う」

 

レン「時間の流れ?」

 

イズモ「例えば」

 

 二つの時計。

 

 一方だけを高速で進める。

 

イズモ「地球で一時間」

 

 ネガアース側。

 

 何年。

 

 何十年。

 

イズモ「こっちではもっと長い時間が経ってる可能性」

 

キアラ「でも私たちは普通に来れてる」

 

イズモ「人間の転移時間と、元素が移動する時間が同じとは限らない」

 

ユノ「元素だけ別の時点へ到達している可能性?」

 

イズモ「そう」

 

 地球の現在から。

 

 線を引く。

 

 ネガアースの現在には繋げない。

 

 もっと過去へ。

 

イズモ「地球から今消えた元素が」

 

 線が。

 

 ネガアースの古い地層へ刺さる。

 

イズモ「こちらの数百年前へ流れ込んでいるかもしれない」

 

 誰もすぐには話さなかった。

 

     *

 

 イズモはもう一つの線を描く。

 

 逆。

 

 ネガアースから地球。

 

イズモ「だとしたら」

 

レン「何?」

 

イズモ「あなたたちが回収して地球へ返してる元素」

 

 線が途中で止まる。

 

イズモ「本当に地球の『今』へ帰ってます?」

 

 レンの顔が固まった。

 

キアラ「そんなの……」

 

ユノ「確認したことは?」

 

 沈黙。

 

 答えはなかった。

 

イズモ「まずそこからです」

 

綾音『優先順位変更』

 

イズモ「はい」

 

綾音『元素流出を止める方法を探す前に』

 

 一拍。

 

綾音『私たちが』

 

 地球。

 

 ネガアース。

 

 二つの時計。

 

綾音『いつにつながってるのか確認して』

 

イズモ「了解」

 

 通信が切れる。

 

 イズモは地層を見た。

 

 三百二十一年。

 

 故障なら。

 

 まだ楽だった。

 

 だが。

 

 もし正しいなら。

 

 問題は元素ではない。

 

 この二つの世界は。

 

 そもそも。

 

 同じ「現在」に存在していない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。