ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
表示された数字を、イズモはもう一度確認した。
同期誤差。
――三百二十一年。
イズモ「再測定」
技術士官「はい」
数秒。
「……同じです」
レン「三百二十一年って何が?」
イズモ「分かりません」
キアラ「分からないの?」
イズモ「分からない時は分からないって言った方が安全なので」
イズモは測定器を再起動した。
時刻同期は、ポータルを使う上で基本中の基本だった。
惑星は動く。
恒星系も動く。
空間座標だけを合わせればいいわけではない。
時間まで含めて固定しなければ、安全な転移先にはならない。
なのに。
イズモ「ポータル側の同期は正常」
技術士官「はい」
イズモ「現地環境を基準にすると三百二十一年ずれる」
ユノ「矛盾しています」
イズモ「そうなんですよね」
*
その日の調査は、QEXの追跡に切り替えられた。
先ほどの個体を遠距離から観察する。
QEXは森の中を移動し、複数の鉱石を摂取していた。
狩猟行動は見られない。
別の小型個体が近づいても攻撃しなかった。
キアラ「こんなにじっくりQEXを観察すること、あんまりなかったかも」
レン「見つけたら回収するからな」
イズモ「その回収っていつから?」
レン「元素消失が始まってから」
イズモ「QEXは?」
ユノ「ネガアースで確認されるようになった時期について、正確な年代情報は不足しています」
イズモ「地層調べましょう」
レン「地層?」
イズモ「こいつらが最近できた生物なのか、昔からいる生物なのかで話が変わります」
*
数時間後。
簡易掘削機が地面を削る。
第一層。
第二層。
第三層。
そこから。
技術士官「生体由来物質」
イズモ「QEX?」
「組成が近いです」
さらに下。
「こちらにも」
イズモ「年代測定」
結果が出る。
イズモが黙った。
レン「どうした?」
イズモ「古い」
キアラ「どれくらい?」
イズモ「最低でも数百年」
沈黙。
レン「でも元素消失はそんな昔からじゃない」
イズモ「地球では」
ユノ「……地球では?」
イズモは立ち上がった。
地層モデルを空中へ表示する。
高濃度元素層。
QEX由来物質。
そして。
その上。
さらに別の高濃度層。
イズモ「一回じゃない」
ユノ「何がですか?」
イズモ「元素流入」
指先で層をなぞる。
イズモ「ネガアースには、何度も大量の元素が入ってる」
キアラ「回収した元素がまた来たとか?」
イズモ「まだ分かりません」
また。
その言葉。
だが今度は。
イズモの表情が明らかに変わっていた。
*
ピースギア側へ通信をつなぐ。
綾音『三百二十一年?』
イズモ「測定値です」
綾音『機械故障』
イズモ「三系統で同じ」
綾音『じゃあ現地時間の定義がおかしい』
イズモ「それも考えてます」
イズモは地球とネガアースを並べた。
イズモ「一つの仮説として聞いてください」
レン。
キアラ。
ユノ。
全員が画面を見る。
イズモ「地球とネガアースで、時間の流れ方が違う」
レン「時間の流れ?」
イズモ「例えば」
二つの時計。
一方だけを高速で進める。
イズモ「地球で一時間」
ネガアース側。
何年。
何十年。
イズモ「こっちではもっと長い時間が経ってる可能性」
キアラ「でも私たちは普通に来れてる」
イズモ「人間の転移時間と、元素が移動する時間が同じとは限らない」
ユノ「元素だけ別の時点へ到達している可能性?」
イズモ「そう」
地球の現在から。
線を引く。
ネガアースの現在には繋げない。
もっと過去へ。
イズモ「地球から今消えた元素が」
線が。
ネガアースの古い地層へ刺さる。
イズモ「こちらの数百年前へ流れ込んでいるかもしれない」
誰もすぐには話さなかった。
*
イズモはもう一つの線を描く。
逆。
ネガアースから地球。
イズモ「だとしたら」
レン「何?」
イズモ「あなたたちが回収して地球へ返してる元素」
線が途中で止まる。
イズモ「本当に地球の『今』へ帰ってます?」
レンの顔が固まった。
キアラ「そんなの……」
ユノ「確認したことは?」
沈黙。
答えはなかった。
イズモ「まずそこからです」
綾音『優先順位変更』
イズモ「はい」
綾音『元素流出を止める方法を探す前に』
一拍。
綾音『私たちが』
地球。
ネガアース。
二つの時計。
綾音『いつにつながってるのか確認して』
イズモ「了解」
通信が切れる。
イズモは地層を見た。
三百二十一年。
故障なら。
まだ楽だった。
だが。
もし正しいなら。
問題は元素ではない。
この二つの世界は。
そもそも。
同じ「現在」に存在していない。