ピースギア×エレメントハンター ―11次元の観測者― 作:最上 イズモ
信号が止んだ後も。
観測室では。
誰も席を立たなかった。
地球。
ネガアース。
その間に存在する。
二十七・四秒の空白。
イズモ「ここ」
イズモは。
二つの世界を結ぶ線を消した。
代わりに。
中央へ。
一つの領域を置く。
カー博士「中継地点?」
イズモ「かもしれない」
だが。
普通の空間ではない。
三次元座標へ落とそうとすると。
位置が定まらない。
距離。
方向。
時間。
どれも。
観測するたびに変わる。
技術士官「三次元モデルへの変換、失敗」
イズモ「次元数上げて」
「四次元?」
イズモ「順番に」
*
四。
失敗。
五。
不一致。
六。
七。
八。
計算量だけが増えていく。
カー博士「こんなもの、本当に意味があるんですか」
イズモ「分かりません」
九。
十。
そして。
技術士官「……十一」
イズモ「止めて」
初めて。
観測値が。
崩れなかった。
完全ではない。
それでも。
地球から消えた元素。
ネガアースへ現れた元素。
同期信号。
時間差。
すべてが。
一つのモデル上に収まった。
カー博士「十一次元?」
イズモ「仮定です」
即座に。
付け加える。
イズモ「観測値を説明するのに十一個の自由度が必要だった。それ以上の意味はまだありません」
ユノ『ですが』
通信越し。
ユノがモデルを見る。
ユノ『三次元では存在しない座標も』
イズモ「十一次元なら置ける」
*
モデルを。
三次元へ投影する。
その瞬間。
全員が黙った。
カー博士「……これは」
道ではない。
一本の通路でもない。
無数の線。
無数の交点。
網。
それが。
視界いっぱいに広がっている。
イズモ「地球とネガアースだけじゃない」
技術士官「接続候補……多数」
カー博士「多数?」
「測定限界を超えています」
ネガアース。
そこから。
何本もの線。
地球。
さらに。
観測不能の場所。
世界。
時代。
あるいは。
それ以外。
ユノ『ネガアースが中心?』
イズモ「それも怪しい」
ユノ『なぜ?』
イズモ「三次元へ潰した結果、中心に見えてるだけかもしれない」
巨大な立体を。
紙へ描けば。
重なった場所が。
中心に見える。
だが。
本当に。
そこが中心とは限らない。
イズモ「一本道だと思ってた」
モデルを回転させる。
イズモ「高速道路のインターチェンジどころじゃないな」
*
司令部へ。
解析結果が送られる。
綾音『で』
イズモ「はい」
綾音『入るとか言わないよね』
イズモ「……」
綾音『イズモ』
イズモ「かなりリスクにはなるけど」
綾音『言うんだ』
イズモ「いずれ十一次元空間へ行くことになる」
綾音『却下』
イズモ「まだ今すぐとは」
綾音『却下』
イズモ「話くらい」
綾音『無人機』
即答だった。
綾音『人間を入れる前に、探査機』
イズモ「はい」
綾音『独立した測定系を最低三つ』
イズモ「はい」
綾音『時間差』
イズモ「はい」
綾音『通信維持』
イズモ「はい」
綾音『帰還後の物質再構築率』
イズモ「……はい」
綾音『全部確認できるまで有人進入禁止』
イズモ「了解」
*
ユノ『イズモ』
イズモ「何です?」
ユノ『私なら』
イズモ「ダメです」
ユノ『まだ最後まで言っていません』
イズモ「人工身体だから人間より適応できる可能性がある、ですよね」
ユノ『はい』
イズモ「それでもダメ」
ユノ『理由は?』
イズモ「あなたは現地協力者です」
一拍。
イズモ「ピースギアの実験対象じゃない」
ユノ『しかし』
綾音『ユノさん』
通信へ。
綾音が割り込む。
綾音『私からも禁止します』
ユノ『……』
綾音『危険かどうか分からない場所へ、現地の人を先に放り込む組織じゃないので』
ユノ『了解しました』
少しだけ。
不満そうだった。
*
探査機の設計は。
その日のうちに始まった。
直径。
三十センチ。
内部時計。
構造センサー。
位置同期。
通信装置。
帰還命令。
滞在予定。
十秒。
カー博士「十秒だけ?」
イズモ「最初は」
カー博士「それで何が分かる?」
イズモ「帰ってくるか」
それだけで。
十分だった。
*
二日後。
探査機一号。
ポータル前。
技術士官「内部時計同期」
イズモ「構造チェック」
「正常」
イズモ「帰還プログラム」
「十秒後、自動実行」
ユノ『ネガアース側観測準備完了』
綾音『無理はしない』
イズモ「探査機に言ってください」
綾音『あなたにも言ってる』
イズモ「了解」
境界。
その向こう。
三次元では。
場所すら存在しない。
イズモ「一号機」
一拍。
イズモ「投入」
探査機が。
光の中へ消える。
時計が動く。
一秒。
二秒。
三秒。
十秒。
帰還反応。
なし。
二十秒。
一分。
カー博士「……戻りませんね」
イズモ「待つ」
一分三十秒。
二分。
そして。
二分十三秒。
空間が。
突然。
裂けた。
技術士官「帰還反応!」
床へ。
探査機が落ちる。
損傷。
なし。
イズモ「内部時計!」
技術士官が。
表示を見る。
止まった。
カー博士「どうした?」
「……十秒です」
イズモ「え?」
「探査機内部では」
一拍。
「正確に十秒しか経っていません」
外部。
二分十三秒。
内部。
十秒。
そして。
技術士官「三佐」
イズモ「何?」
「もう一つ」
帰還ログ。
自動帰還命令。
実行者。
探査機。
ではない。
地球。
でもない。
ネガアース。
でもない。
表示。
《SOURCE : UNKNOWN》
イズモは。
画面を見たまま。
小さく呟いた。
イズモ「……誰かに」
一拍。
イズモ「返された?」