「私のことすら忘れてもらおう。」
今さらになって全てを思い出した。アラヤが来る前にも、いつも俺のそばにいた存在を。
「末…那…!」
「その様子だと最後の最期になって、やっと思い出したか。」
何もかも不自由だった蜘蛛の巣で、お前と話すことで今を忘れることができた。でも俺が大切にすればするほど、俺を従えるための格好の的になった。
「下手に動けばその螺旋は深く食い込む。」
「あぐっ…、うぁ…!」
肩に螺旋が突き刺さった妹がいた。俺が任務を終わらせれば暗証番号を教えると言った。心臓に突き刺さなかったのは温情だとほざいた。
「…大丈夫か、末那。」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが早く戻ってきてくれたから。」
笑いながらそう言う末那の肩には歪な傷跡が残った。それから末那は傷跡を隠す様にずっと長袖の服を着る様になった。俺が気負いしない様に。
俺がアラヤを連れて帰った時、末那は笑顔で接してた。けれど、俺は見てしまった。その時のお前はすごく寂しそうな顔をしてた。
「末那、俺がアラヤを連れて帰ったところでお前を蔑ろにはしない。」
「…姉さんにはお見通しだね。」
俺は末那を抱きしめた。自分の事は後回しにするくせに、誰よりも寂しがり屋な俺の妹。
「私がアラヤを守るために残るよ。」
そう言った末那を見て、俺はとても不安になった。あの親方どもが腹いせにアラヤ諸共無惨に殺すと思ったから。自分が親方を食い止めると自信満々に言ってたお前の手が震えてるのを見てしまったから。
「止めろ……。」
「もうここまで来てしまった。」
末那が刀を振るう。その度に数多の斬撃が俺たちを襲う。
「この景色が夢であって欲しかった。」
末那が親方みたいな剣術を使う。模倣じゃない、自分だけの型の剣術を。
「でも、約束をしてたから。」
徹底的に狙い、でも予測不可能で。力強く、でも滑らかに。
「私が狂えば、あの子がどうなってしまうか。」
それに達するまで、あいつらの暴力にどれだけ耐えたんだ。
「記憶がないのは覚悟していた。」
心を隠すのが上手なお前が、自身の内を吐き出す。
「でも帰ってきたのは、あの子の名前すら忘れてしまった人だった。」
そこまで追い込んだ親方も…俺自身も許せない。
「焦がれるように待ち、切実に期待し…。」
地慧星刀が蒼く輝く。
「来たる時のためにずっと応えてきたから。」
末那の攻撃を防ぐが、他の奴らは肉片に変わり果てていった。斬撃によって辺りに火が立ち込める。まるで末那の怒りを表してるようだった。
「その刀を振るうなら、今話していることも覚えているのだろうか。」
あの時の綺麗に輝く漆黒の目じゃ無く、血走ったような赤い目には怒り、憎しみ、失望が見える。
「約束した言葉すらも忘れてしまったようだから。」
そんな気持ちを抱えてすら尚、お前は何かを隠しているのが分かる。
「ここで断ち切ってしまおう。」
断ち切らないでくれ。断ち切らせないでくれ。
「お前の妹は去り、二度と戻っては来ない。」
鍔迫り合いをする。
「お前がしたように。」
まだ居る。お前は…、"私"の妹は…。
「去って…ない…!」
次の攻撃を予測し、刀を大きく振るう。
「………。」
けれど俺の予測とは違い、末那は……。
「………!」
受け止めるように、俺の刀に切られた。