薬指の廊下に入り、親指はLCBに向かう扉へと入った。
「さあ、娘を迎えに行くとするか。」
入った先には人が大勢いた。突然扉から現れた私たちを認識する間もなく命が絶えていく。
「急げ!急いで連絡を…、ガァッ……!」
「侵入者、侵入者だ!」
人を殺しながら後に来るであろう姉の足止めのため、幻想体などが入っている部屋の扉を壊す。
「応答…応答願う……。本社研究所が…、しゅ、襲撃を……。」
人差し指の大人が連絡を取っていた人を殺し、その無線を取る。
「愛しい我らが娘よ、元気にしてたかい?そろそろ遊ぶのは終わりにして、家へ帰ってこなきゃならないだろ?」
無線を切り、こちらに歩いてくる。
「……悪趣味ですね。」
「そんなことはない。迎えに来たことを伝えるのは当然だろう、それに…。」
なんともまあ、気持ち悪い笑顔だ。
「糸を張り巡らせていけば、いずれ引っかかってくれるはずさ。」
人差し指の大人は淡々と事務処理のように、中指の大人は『ヨシヒデ』と叫びながら暴れ散らす。薬指の大人は生かさず殺さず、人を自身が思う芸術品に変えていった。
「レン、いるか。」
「ここにおりまする。」
作戦通りに行かなくては、ここに来たもう一つの目的のために。
「元地慧星はヨシヒデに舌を切られている。つまり話すことができない。」
「……。」
「もし、私たちがヨシヒデにあったならこう言え。『また会えて本当に嬉しいよ、良秀。』と。」
「…不躾ながら、何故でございましょうか。」
「『良秀』、それはアラヤがヨシヒデにつけた名前だ。それすらも聞き逃したならば…。」
残念だけど……。
「アラヤに会わせる価値はない。子を無い者として見る親はもう散々だ。」
阿頼耶識にどこまで切られたか、自分の憎しみに飲まれ、アラヤすら忘れてしまったなら…。
「私の悪い予想にはならないでくれよ。」
突然、無線が届く。人差し指の大人からだ。
『娘を見つけた、とても元気そうだ。』
すぐに無線を切った。
「よろしいのでございますか?ヨシヒデ様が……。」
「あいつらの情報などあまり当てにするな。」
さっさと移動しよう。こんなくだらないものを早く終わらせよう。
「主様、薬指の子方がこちらに向かってきます。」
「では、基本的な会話はお前に任せる。作戦を疎かにしないように。」
「承りました。」
武装した者や白衣を着た者を切り伏せ、奥の部屋へと入る。目的のものは恐らくここだろう。
「………。」
「主様、ここに。」
母と姉がよく吸っていたタバコを燃やす。残念ながら私はタバコを吸う趣味はないので、ただ燃やして浪費するだけだ。タバコの匂いが辺りに充満する。
「……過・悪・蔓・延。」
この独特な略し方、ついに見ることができる。
「………。」
まるで母が生き返ったように振る舞う。
「………は。」
姉の目が鋭くなる。
「俺は、俺の五人の親方のせいで…、この世で一番大切なものを置いてきた。」
"大切なもの"…、名前すら忘れてしまったの?
「だから…取り戻さなきゃならない。」
アラヤの名前すら忘れてしまったが、その思いだけでも忘れることはなかった…。
「また会えて本当に嬉しいよ、良秀。…と、主様が申し伝えよとおっしゃいました。」
気づけ、気づいてくれ。あの大人たちはあなたをヨシヒデと呼ぶ。
「…小指の親方。」
その言葉で私の気持ちは落ちていく。
「(あの子がつけてくれた名前も、憎しみには勝てないか…。)」
「主様はこの卑しき身に多くのことを望まれました。」
姉の目線がレンの方に向く。きっと標的を自分に向けるために…。
「そなたが、蜘蛛の糸を辿ってこちらにお越しくださった恩により…、さらに主様の御心にお仕えする機会を得た次第でございます。」
薬指の子方、アルビナがレンの隣に行く。
「…準備は整い申しました。お立てになった計画を、お忘れではございますまいな。」
次は良秀の記憶を書こうと思います。