「押せ押せー!」
「お前も押せ!」
「押してるよー!」
「もっと力を入れて!」
道路の上を一台の軽トラックがゆっくりと進んでいました。
運転席には私、しぐれ。そして車の後ろでは、こむぎさん、なめこさん、きなこさんの三人が必死になって車体を押しています。
「重い!」
「そりゃ軽トラだからな!」
「軽くないじゃん!」
「名前に騙されるな!」
ギャアギャアと騒ぎながら、三人がケイちゃん二号を押しています。私はハンドルを握りながら、ちらりとバックミラーを見ました。
「……」
三人とも汗だくです。それでも車はほとんど進みません。
「しぐれちゃん! これ本当に進んでる!?」
「一応進んでます!」
「時速何キロ!?」
「……歩くよりちょっと遅いくらいです」
「遅い!」
こむぎさんの悲鳴が聞こえます。
「だから言っただろ! 出発前にガソリン残量確認しろって!」
なめこさんが怒鳴ります。
「だってー!」
こむぎさんが反論します。
「海から帰るまで持つと思ったんだもん!」
「その考えが甘いんだよ!」
「なめこだって海で楽しんでたじゃん!」
「それとこれとは話が別だ!」
「一番はしゃいでたくせに!」
「うるせぇ!」
「二人とも喧嘩しないでください!」
私が注意します。しかし後ろからは、まだ言い争う声が聞こえてきます。
「だいたい予備のガソリンくらい積んどきなさいよ!」
きなこさんが呆れたように言います。
「足りると思ったんだよ!」
こむぎさんがすかさず返します。
「きなこちゃんだって何も言わなかったじゃん!」
「私は車の管理担当じゃないもの」
「なめこちゃんだって!」
「私は運転しねぇ!」
「じゃあ誰が悪いの!?」
「お前だ!」
「なんで!?」
……。
私は深いため息を吐きました。運転席に座っている私には、後ろで繰り広げられている口喧嘩が全部聞こえてきます。
「うるさい」
小さく呟きます。しかし三人には聞こえていないようです。
どうしてこうなったのでしょう。
そもそも、なぜ私達は今、ガソリンの切れた軽トラックを押しているのでしょうか。……そう。これは、今から七時間ほど前の話です。
♢
「海へ行きましょう!」
朝。
作戦会議室兼校長室で、こむぎさんが突然そんなことを言い出したのが始まりでした。というか私のモノマネをしないでください。
「何故海へ?」
あずきさんが聞きます。
「夏といえば海でしょう!」
こむぎさんが両手を広げます。
「海! 砂浜! 水着! スイカ割り!」
「却下だ」
あずきさんが即答しました。
「早い!」
「却下だ」
「二回言った!」
こむぎさんが机を叩きます。
「なんで!? 海だよ!? 夏だよ!?」
「ここ、学校は避難所だぞ」
あずきさんが腕を組みます。
「全員で遊びに行ってどうする。ゾンビが来たら誰が学校を守るんだ」
「ゾンビなんて最近来てないじゃん!」
「来てからじゃ遅いだろ」
「正論!」
こむぎさんが机に突っ伏しました。正論には弱いようです。
「そもそも海ってどこの海?」
くるみさんが聞きます。
「ここから一番近いところ!」
「それでも百キロくらいあるよ」
「行ける行ける!」
「何を根拠に?」
「ケイちゃん二号!」
こむぎさんが窓の外を指差します。ガレージには、我らが軽トラック、ケイちゃん二号が停まっています。
「車なら百キロなんてすぐだよ!」
「往復二百キロだけど」
「……行ける行ける!」
ちょっと間がありました。
「私は残るぞ」
あずきさんが言います。
「誰かが学校を守らないといけないからな」
「えー、あずきちゃんも行こうよ!」
「駄目だ」
「水着着ようよ!」
「興味ない」
「泳ごうよ!」
「興味ない」
「スイカ割ろうよ!」
「目隠しする意味が分からん。普通に割ればいいだろ」
「そういう遊びなの!」
あずきさんにスイカ割りをやらせたら、棒どころか拳で粉砕しそうです。
「うちも行きたいんやけどねぇ」
さおりさんが困ったように笑いました。
「畑があるからー」
「あっ」
こむぎさんが黙ります。学校の校庭には、さおりさんを中心にみんなで作った畑があります。今では私達の大事な食料源の一つです。
「この時期は水やりもあるし、丸一日空けるのはちょっとねぇ」
「一日くらい大丈夫じゃない?」
「こむぎちゃん」
「はい」
「帰ってきたら野菜が全部しおれててもええの?」
「ごめんなさい」
こむぎさんが素直に謝りました。食料が絡むと強く出られないようです。
「くるみちゃんは?」
「無理だね」
こちらも即答でした。
「なんで!?」
「ケイちゃん一号」
くるみさんが窓の外のガレージの方を指差します。ケイちゃん二号の隣には、現在修理中のケイちゃん一号が停まっています。私達のために大破した英雄です。
「部品も揃ったし、今日中にある程度直しておきたいんだよね」
「明日でいいじゃん!」
「昨日もそう言われた」
「じゃあ明後日!」
「永遠に直らなくなるよ!」
「海より車のほうが大事なの!?」
「大事だよ!」
「即答!」
「ここ、ゾンビだらけの世界だよ?」
「そうだった!」
忘れていたのでしょうか。忘れていたのでしょうね。
「じゃあ三人は留守番?」
「そうなるな」
あずきさんが頷きます。
「海へ行くなら、残りの四人で行ってこい」
「四人?」
私は首を傾げました。
こむぎさん。なめこさん。きなこさん。
そして――。
「……私も数に入ってます?」
「もちろん!」
「いつ参加すると言いました?」
「行かないの?」
「うーん……」
私は少し考えます。海は嫌いではありません。ただ、一つ大きな問題があります。
「日焼けしたくないです」
「そこ!?」
こむぎさんが叫びました。
「だって焼けるじゃないですか」
「日焼け止め塗ればいいじゃん!」
「それでも焼けます」
「じゃあパラソル!」
「ずっとパラソルの下にいるなら、学校にいても同じでは?」
「海を見ようよ!」
「海を見るためだけに百キロ……」
あまり魅力を感じません。すると、なめこさんが手を挙げました。
「あたしは行くぞ」
「おお!」
こむぎさんの顔が明るくなります。
「泳ぎたい」
「さすがなめこちゃん!」
「最近暑いしな。一回くらい海で泳ぐのも悪くないだろ」
「分かってる!」
二人がガッチリと握手を交わします。なんでしょう。ものすごく頭の悪そうな同盟が結成されました。
「きなこちゃんは!?」
「行くわ」
「やった!」
即答でした。少し意外です。
「きなこさん、海好きなんですか?」
「別に」
「じゃあ泳ぎたいとか?」
「そんなに」
「海を見たい?」
「特には」
「じゃあ、なんで?」
「しぐれの水着が見たいからよ」
「…………」
私は椅子を少しだけきなこさんから離しました。
「なんで離れるのかしら?」
「身の危険を感じたので」
「大丈夫よ。見るだけだから」
「余計に怖いです」
「楽しみね」
「行くとは言ってません!」
なぜ私の参加が確定しているのでしょう。
「これで三人!」
こむぎさんが嬉しそうに指を三本立てます。
「あとしぐれちゃんだけ!」
「だから私は――」
「海には魚もいるぞ」
あずきさんが何気なく言いました。
「……魚?」
私は反応しました。
「いるだろ。海なんだから」
「…………」
そういえば。新鮮な魚さんをしばらく食べていません。
学校に保存食はあります。畑では野菜も採れます。肉だって、手に入ることはあります。でも。新鮮な魚介類を最後に食べたのはいつだったでしょう。
「貝もおるかもねぇ」
さおりさんが言います。
「貝……」
「カニとかもおるかもしれんなぁ」
「カニ……」
「海藻も採れるんちゃう?」
「海藻……」
「しぐれちゃん」
こむぎさんがニヤニヤしながら私の顔を覗き込みます。
「行きたくなってきた?」
「……別に」
「顔に出てるよ」
「出てません」
「魚食べたい?」
「……」
「お刺身」
「……」
「焼き魚」
「……」
「海鮮丼」
「行きます」
「よっしゃあ!」
負けました。だって海産物ですよ。久しぶりに食べたいです。サバ缶も海産物ですが流石に飽きました。
「じゃあ決まり!」
こむぎさんが勢いよく立ち上がりました。
「参加者は私、なめこちゃん、きなこちゃん、しぐれちゃん!」
「私は魚を捕りに行くだけですからね」
「はいはい」
「泳ぐとは言ってませんからね」
「はいはい」
「水着も着ませんからね」
「それは駄目よ」
「なんでですか!?」
きなこさんから即座に異議が入りました。
「海に行って水着を着ないなんて何しに行くのよ」
「魚を捕りに行くと言ったでしょう!」
「却下」
「なんであなたに却下されるんですか!」
「しぐれの水着が見られないなら、私が海へ行く意味がないじゃない」
「帰ってください!」
「まだ出発すらしてないわよ」
そうでした。
「まあ、なんだ。羽目を外しすぎるなよ」
あずきさんが呆れながら言います。
「何かあったらすぐ戻ってこい。ゾンビがいることも忘れるな」
「分かってるって!」
こむぎさんが元気よく返事をします。
「海だー!」
「泳ぐぞ!」
「しぐれの水着……」
「魚……」
目的が全員バラバラです。
こうして。遊びたいこむぎさん。泳ぎたいなめこさん。私の水着が見たいきなこさん。そして、久しぶりの海産物に釣られた私。
四人だけで、約百キロ先の海へ行くことになったのでした。
♢
海へ行くことが決まった私達は、さっそく準備を始めました。
とはいえ、日帰りの予定なので大した荷物はありません。飲み物と軽食。レジャーシート。タオル。着替え。
その他、海で必要になりそうな物をケイちゃん二号の荷台へ積み込んでいきます。
「お菓子持った!」
「飲み物もあるぞ!」
「シートも積んだわ」
こむぎさん、なめこさん、きなこさんが次々と荷物を確認しています。
一方、私は。
「釣り竿、よし。釣り針、よし。クーラーボックス、よし」
「しぐれちゃん」
「炭、よし。網、よし。トング、よし」
「しぐれちゃん?」
「包丁、よし。まな板、よし。お醤油は……」
「しぐれちゃん!」
「はい?」
振り返ると、こむぎさんが私を見ていました。
「何その荷物?」
「必要な物です」
「海水浴に?」
「海産物を食べに」
「目的変わってない?」
「最初からこれが目的です」
何を今さら。
私は釣り竿を荷台へ積み込みます。さらにバーベキュー用のコンロも積みます。
海。魚。貝。カニ。焼きたて。
「ふふっ」
「しぐれちゃん、めちゃくちゃ楽しみにしてるじゃん」
「別に」
「今笑ってたぞ」
「笑ってません」
「あたし見たぞ」
「見間違いです」
私はクーラーボックスを荷台の奥へ押し込みました。楽しみになんてしていません。ただ久しぶりに新鮮なお魚さんが食べられるかもしれないだけです。
それだけです。
「ところで」
なめこさんがケイちゃん二号の運転席を覗き込みました。
「ガソリン大丈夫なのか?」
「ん?」
助手席の足元に荷物を置いていたこむぎさんが顔を上げます。
「ガソリン」
「あー」
こむぎさんが燃料計を確認します。
「多分大丈夫!」
「多分?」
「まだあるから!」
「百キロ先だぞ?」
「大丈夫だって。往復できるできる!」
「本当か?」
「本当本当!」
「……ならいいけどよ」
なめこさんが運転席から離れます。
「心配性だなぁ、なめこちゃんは」
「途中でガス欠したら洒落にならねぇから言ってんだよ」
「大丈夫だって!」
「予備は?」
「ない!」
「おい」
「大丈夫だから!」
こむぎさんは自信満々です。
その自信がどこから湧いてくるのかは分かりません。まあ、本人が大丈夫と言っているので大丈夫なのでしょう。多分。
「それより水着よ」
きなこさんが言いました。
「そういえば私達、水着持ってないね」
こむぎさんが自分の服を見下ろします。
「途中で調達すればいいでしょ」
「どこで?」
「季節洋服店よ」
きなこさんが当然のように答えます。
「あそこ大きいし、水着くらい置いてあるわよ」
「なるほど!」
「途中に一店舗あったはずだから、そこで寄りましょう」
「賛成!」
話がまとまったようです。私は特に興味がないので聞き流します。水着なんて泳げれば何でもいいでしょう。そもそも私は魚を捕るのが目的です。
「しぐれ」
「はい?」
「あなたの水着は私が選んであげるわ」
「結構です」
「遠慮しなくていいのよ」
「遠慮じゃなくて拒否です」
「ビキニがいいかしら」
「話を聞いてください」
「白?」
「聞いてください」
「黒も捨てがたいわね」
「きなこさん」
「何?」
「学校に置いてきますよ?」
「ごめんなさい」
素直でよろしい。
「準備できたー!」
こむぎさんが運転席へ乗り込みます。
「じゃあ行こう!」
「おー!」
私は助手席へ乗り込み、なめこさんときなこさんは荷台へ。
「なんで私達が荷台なのよ」
「早い者勝ちです」
「しぐれ、なめこと代わりなさい」
「嫌です」
「しぐれの隣がよかったわ……」
「運転席なら空いてますよ」
「免許持ってないわよ」
そもそも、こむぎさんも持っていない気がしますが、まあ、今さらでしょう。
荷台にはレジャーシートや軽食。クーラーボックス。釣り道具。バーベキュー用品。そして、なめこさんときなこさん。
「なんか私達まで荷物扱いされてない?」
「気のせいだろ」
準備は万端です。
「目的地、海!」
こむぎさんがキーを回します。ケイちゃん二号のエンジンが元気よく動き始めました。
「出発!」
「おー!」
「魚!」
「水着」
「一人だけ目的がおかしいです!」
こうしてケイちゃん二号は、学校の門を出ていきました。
♢
「水着がない!」
季節洋服店に到着して数分。店内にこむぎさんの悲鳴が響き渡りました。
「水着がないよ!」
「そりゃそうでしょう」
私はハンガーに掛けられた服を眺めながら答えます。
「パンデミックが起きたの、四月ですし」
「四月……」
「はい」
店内を見渡します。春物のシャツ。薄手のパーカー。カーディガン。それから、申し訳程度に残っている冬物。夏物らしい夏物は、ほとんど見当たりません。
「この世界、四月で止まってるんですよ」
「そんな……」
こむぎさんがその場に膝をつきました。
「世界が滅びた時期が悪い!」
「そこに文句言う人、初めて見ました」
「あと二ヶ月耐えてよ!」
「誰に言ってるんですか」
「世界!」
「世界に言ってた」
なめこさんが呆れています。
「別に水着なんて着れれば何でもいいだろ」
「よくない!」
こむぎさんが勢いよく立ち上がりました。
「せっかく海に行くんだよ!?」
「だから?」
「可愛い水着着たいじゃん!」
「服着て泳げ」
「嫌だよ!」
「じゃあ下着」
「もっと嫌だよ!」
「全裸」
「捕まる!」
「誰に?」
「…………」
こむぎさんが黙りました。警察はいません。
「捕まらない……?」
「そこで可能性を感じないでください」
嫌な予感しかしません。ふと、隣を見ると。きなこさんが無言で立っていました。
「きなこさん?」
「…………」
「どうしました?」
「……ない」
「何がです?」
「水着がない……」
声に力がありません。
「だから今話してたじゃん」
こむぎさんが言います。
「そうじゃないのよ……」
きなこさんが俯きます。
「しぐれに着せる可愛い水着が……ない……」
「まだ諦めてなかったんですか」
「私、今日何のためにここまで来たと思ってるの?」
「海水浴では?」
「しぐれの水着よ」
「帰ってください」
「私の夏が終わったわ……」
「始まってもいませんよ」
きなこさんは完全に燃え尽きていました。まだ海にすら着いていないのに。
「もういいだろ」
なめこさんが適当な服を手に取ります。
「Tシャツと短パンで泳げば」
「風情がない!」
「泳げりゃ同じだ」
「違う!」
「何が違うんだよ」
「全部!」
「めんどくせぇなぁ」
なめこさんが頭を掻きます。
「じゃあスポーツ用品店でも探すか?」
「スポーツ用品店?」
こむぎさんが顔を上げます。
「競泳水着とかならあるんじゃねぇの? ああいうの季節関係なく売ってるだろ」
「なるほど!」
こむぎさんの目に光が戻りました。
「水着!」
一方。
「競泳……」
きなこさんも顔を上げます。
「競泳水着……」
「なんで復活したんですか」
「まだ可能性はあるわ」
「何の可能性ですか」
「行きましょう」
「嫌な予感しかしません」
こうして。
私達は何も手に入れないまま、季節洋服店を後にしました。
♢
それからしばらくして。
私達は無事、スポーツ用品店へ辿り着きました。例のごとくゾンビが数体いましたが、海に飢えている三人にすぐさま制圧されました。今日のゾンビは運が悪いです。
「あった!」
今度は喜びの声でした。
水泳用品のコーナー。そこには確かに水着があります。
「競泳水着!」
「フィットネス用もあるぞ」
「ラッシュガードもありますね」
さすがスポーツ用品店。季節洋服店とは違い、四月でも水泳用品が置かれていました。
「これで泳げる!」
こむぎさんが水着を手に取ります。
「サイズ合うかな?」
「着てみりゃいいだろ」
「試着室行ってくる!」
こむぎさんが走っていきました。なめこさんも適当に競泳水着を選んでいます。
「これでいいか」
「早いですね」
「泳げりゃ何でもいい」
本当に何でもいいようです。私もラッシュガードを手に取ります。長袖です。これなら日焼けも多少は防げそうです。
「私はこれにします」
「しぐれ」
「はい?」
背後から声がしました。振り返ります。きなこさんがいました。両手に競泳水着を持っています。
「どっちがいい?」
「何がです?」
「しぐれの水着」
「自分で選びます」
「こっちのほうが身体のラインが――」
「自分で選びます」
「でも――」
「自分で選びます」
「……はい」
きなこさんが水着を戻しました。危ないところでした。
結局。高校生組は競泳水着。私は競泳水着の上からラッシュガード。
その他、ゴーグルやビーチサンダルなど、使えそうな物もいくつか頂いていくことになりました。
「よし!」
店を出たこむぎさんが両手を上げます。
「今度こそ海!」
「おー!」
なめこさんも続きます。
「しぐれの水着……」
「諦めてください」
どんだけ自分の選んだ水着を着せたいんですか。
そんなことより海産物です。私の身体が海産物を求めています。
「魚……」
「お前が一番楽しみにしてない?」
「してません」
私はウキウキでケイちゃん二号へ乗り込みます。
準備はできました。水着も手に入りました。釣り道具もあります。バーベキューの準備も万端です。あとは海へ向かうだけ。
ケイちゃん二号は再び走り出します。
目指すは海。青い海。新鮮なお魚さん。
「ふふっ」
「しぐれちゃん、また笑ってるよ」
「笑ってません」
「絶対笑ってたぞ」
「気のせいです」
窓の外を流れていく景色を眺めながら、私はクーラーボックスを確認しました。
たくさん捕れたらどうしましょう。焼き魚にお刺身。貝があれば網焼きもいいですね。できればカニも――。
「しぐれちゃん」
「はい?」
「よだれ」
「出てません!」
海までは、もう少しです。