今後は一日一話投稿できればいいな、って感じです。
「今まで黙ってたけど重大なことがあります」
作戦会議室兼校長室で、こむぎさんが机の上で手を組んで言います。
「なんだ」
あずきさんが聞きます。
「どうせしょうもないことよ」
きなこさんが言います。私もそうだと思います。
「重大なこと……それは!」
こむぎさんが机をバンと叩いて立ち上がります。びっくりするのでそれ止めて欲しいです。
「救援物資に入っていたス●ッチ2は、ネット環境がないとゲームが起動できないのです!」
こむぎさんが大声で言いました。皆がぽかんとした表情になります。
そういえば救援物資にそんな物入っていましたね。だいぶ前のことで忘れていました。
沈黙が数秒続きました。
「……それが重大なことなの?」
きなこさんが心底どうでもよさそうに聞きます。
「重大だよ! せっかくあるのに遊べないんだよ!?」
「私はてっきり食料が減ったとか、校舎のどこかが壊れたとか、そういう話かと思ったわ」
「こむぎの重大は軽いな」
あずきさんまで呆れています。私も同感です。
「でも遊べないのは困るじゃん! くるみ、ネット回線ってどうにかならない?」
こむぎさんが希望を託すようにくるみさんへ顔を向けました。機械に強いくるみさんなら何とかしてくれると思っているのでしょう。
「無理」
即答でした。
「早っ!」
「回線そのものが生きてないからね。学校の設備をいじればどうにかなるとか、そういう問題じゃないよ。基地局も交換局も向こう側の設備も必要なんだから」
「じゃあ衛星とか!」
「持ってるの?」
「持ってない!」
「じゃあ無理だね」
夢が三秒で終わりました。
こむぎさんは机へ突っ伏し、しばらく「せっかく最新機種なのに……」とぶつぶつ言っていました。救援物資を送ってくれる誰かも、まさか文明がほぼ止まった世界でネット接続を要求されるとは思わなかったのでしょう。いえ、そこまで考えたうえで送ってきたのならかなり性格が悪いです。
やがて、こむぎさんが勢いよく顔を上げました。
「じゃあ旧型を探しに行こう!」
「立ち直るの早いですね」
「昔のス●ッチなら、ゲームソフトさえあればネットなくても遊べるでしょ?」
「物によるけど、少なくとも今あるやつより可能性は高いね」
くるみさんが答えると、こむぎさんの目が輝きました。
「よし! 決まり! 旧型ス●ッチ探索隊、参加者募集!」
そう言って片手を高く上げます。
誰も動きませんでした。
「……あれ?」
こむぎさんが周囲を見回します。
「ゲーム機のために街へ出るの?」
きなこさん。
「今日は畑の手入れしたいんよ」
さおりさん。
「私は学校に残る」
あずきさん。
「昼飯の仕込みあるし」
なめこさん。
次々と断られていきます。
「みんな夢がない!」
「ゾンビのいる街へゲーム機探しに行く方が夢見すぎなんですよ」
私も参加する気はありませんでした。数日前まで命懸けで突進してくるゾンビと戦っていたのです。今日はできれば学校から出たくありません。
そんな中、一人だけ静かに手が上がりました。
「……行く」
いちごさんでした。
「いちごちゃん!」
こむぎさんの顔がぱっと明るくなります。
「……ゲーム、したい」
「同志!」
「……ん」
いちごさんももう少し高く手を上げようとして、その瞬間、顔をしかめました。
「……っ」
「いちごさん?」
脇腹を押さえています。
「まだ痛むんデスカ?」
隣にいたカヌレさんがすぐに立ち上がりました。
「……ちょっと」
「ちょっとじゃないでしょう。まだ肋骨折れてるかもしれないんですよ」
数日前、突進ゾンビにまともに吹き飛ばされたばかりです。普段の生活なら歩ける程度まで回復してきましたが、戦闘ができる状態ではありません。
「……行ける」
「行けません」
「……ゲーム」
「ゲームは逃げません」
いちごさんは明らかに不満そうでしたが、こればかりは駄目です。
「分かりマシタ!」
カヌレさんが胸を張りました。
「私がいちごの代わりに行きマス!」
「……カヌレ」
「安心してください! 必ずス●ッチを持ち帰りマス!」
「……頼んだ」
二人の間で何か大きな使命が引き継がれました。
「世界を救いに行くみたいになってますけど、ゲーム機ですよね?」
「いちごのためなら重要任務デス!」
「……重要」
「そうですか」
そこまで言われると否定しにくいです。
「僕も行こうかな」
今度はくるみさんが手を上げました。
「おお!」
「家電屋なら、工具とか工作に使える機械が残ってるかもしれないし。ゲーム機探しのついでに見ておきたい」
「よし、これで四人!」
「三人ですよ?」
こむぎさん、カヌレさん、くるみさん。三人です。
「え?」
こむぎさんが不思議そうに私を見ました。
「しぐれちゃんいるじゃん」
「なんで私は最初から数に入ってるんです?」
「行かないの?」
「行くとは一言も言ってません」
「でも行くでしょ?」
「その自信はどこから来るんですか」
「いつも来るし」
言われてみれば、だいたい参加しています。
「……」
「四人!」
「勝手に決めないでください」
「じゃあ三人で行く?」
「……行きます」
「ほら!」
なんか負けた気がします。
♢
こうして、こむぎさん、くるみさん、カヌレさん、私の四人で出発することになりました。
最初の目的地は、学校から車でそれほど離れていない家電量販店です。くるみさんが運転するケイちゃん一号で向かい、十分ほどで大きな駐車場へ到着しました。
店の前には数体のゾンビがふらついていましたが、どれも普通の個体です。数日前のせいで、走ってこないだけで少し安心します。
「今日は普通のやつだね」
「普通のゾンビを見て安心する日が来るとは思いませんでした」
いちごさんはいませんが、なんとなく「……分かる」という同意の声が聞こえた気がしました。
駐車場のゾンビは手早く片付けました。カヌレさんが刀で一体を倒し、私が槍で二体。こむぎさんとくるみさんも残りを仕留め、周囲が静かになったところで店内へ入ります。
「ゲームコーナー!」
「あ、こむぎちゃん!」
くるみさんが止めるより早く、こむぎさんは店内を走っていきました。
「一人で行かないでください!」
「大丈夫大丈夫!」
「その台詞を言う人、大体大丈夫じゃないんですよ!」
急いで追いかけます。
薄暗い店内には商品棚が並び、床には倒れた箱や広告の紙が散らばっています。外から差し込む光だけでも歩けますが、棚の陰はかなり暗いです。
こむぎさんはそんなことを気にする様子もなく、ゲーム売り場の案内表示を探していました。
「ゲーム、ゲーム……あっち!」
角を曲がった瞬間です。棚の陰から店員服のゾンビが飛び出しました。
「こむぎさん!」
「うわっ!?」
完全に不意を突かれました。こむぎさんは肩を掴まれ、そのまま床へ倒されます。
「ちょ、待って待って!」
ゾンビが馬乗りになり、顔を近づけようとします。
「助け――」
私達が駆け寄ろうとした、その時でした。
「ゲームするまで死ねるかぁぁぁ!」
「そこ!?」
こむぎさんが下からゾンビの身体を押し上げました。両足を腹へ入れ、その勢いのまま後方へ投げ飛ばします。
見事な巴投げでした。
背後の商品棚へ突っ込み、その勢いで棚ごと向こうのガラス扉へ倒れ込みました。ガラスが大きく割れ、ゾンビの身体が枠の破片へ引っ掛かります。どうやらガラスが刺さって死んだようです。
しばらく誰も何も言えませんでした。
「やった!」
こむぎさんが立ち上がります。
「何ですか今の」
「ゲームしたい底力?」
「そんな底力初めて聞きました」
「火事場のアホ力ってやつデスネ!」
「ちょっと惜しいです」
「こむぎ、怪我ない?」
くるみさんが確認します。
「大丈夫!」
「ならいいけど、次から一人で突っ走らないこと」
「はーい」
返事が軽いです。
その後は慎重に店内を回り、残っていた数体のゾンビも全員で片付けました。安全を確保してから、改めてゲームコーナーへ向かいます。
「ある!」
こむぎさんが棚へ飛びつきました。
「ス●ッチ!」
「本体あります?」
「箱はある!」
「中身は?」
「……ない」
空箱でした。
「こっちにもありマス!」
カヌレさんが別の棚から持ってきた箱を見せます。
「ス●ッチ2デス!」
「それはいらない!」
「新しい方なのに扱いがひどいデス!」
「だって遊べないんだもん!」
探しても、旧型の本体は見つかりませんでした。展示用の空箱ばかりで、残っている実物は新しい方ばかりです。
こむぎさんはゲーム売り場の床へ膝をつきました。
「そんな……ここまで来たのに……」
「まだ一軒目ですけど」
「私の冒険はここで終わった……」
「始まったばかりです」
その横で、くるみさんは工具や小型機械の売り場を見ていました。こちらは何点か使えそうな物があったらしく、満足そうです。
「私は収穫あったよ」
「裏切り者!」
「目的が違うからね」
私は売り場を見回しながら、ふと思い出しました。
「そういえば」
「何?」
「町外れに中古ゲームショップありませんでしたっけ」
以前、車で近くを通った時に看板を見た記憶があります。大きな店ではありませんが、ゲームや中古家電を扱っていたはずです。
こむぎさんがゆっくり顔を上げました。
「本当?」
「たぶん」
「行こう!」
「復活早いですね」
「中古なら旧型あるかも!」
「可能性は高いね」
くるみさんも頷きます。
「いちごのためにも行きマショウ!」
「……ということで、次ですね」
こうして私達は家電量販店を後にし、今度は町外れの中古ゲームショップへ向かいました。
♢
中古ゲームショップは、道路沿いに建つ平屋の小さな店でした。看板は色褪せていますが、建物そのものはほとんど壊れていません。
入口の前にもゾンビはいません。
「これは期待できる」
「静かすぎるのも怖いですけどね」
中へ入ると、家電量販店とは違って商品がかなり残っていました。
ゲームソフトのケースが並ぶ棚。コントローラー。古いゲーム機。そして。
「あったぁぁぁ!」
こむぎさんの声が店中に響きました。
「ス●ッチ!」
棚の奥に、旧型の本体が何台も並んでいます。
「こっちにゲームもありマス!」
カヌレさんが別の棚を指します。
レースゲーム、パーティーゲーム、対戦ゲーム。複数人で遊べそうなソフトもかなり残っています。
「天国だ……」
「いちご、喜びマス!」
「皆で遊べますね」
私も少しだけ楽しみになってきました。
「これと、これと……コントローラーも追加で必要だよね」
「ドックとケーブルも確認しよう。持って帰ってから足りないってなるの嫌だし」
くるみさんが現実的です。
四人で必要な物を集めていると、店の奥から何かが倒れる音がしました。
「……?」
全員の動きが止まります。
「何かいますね」
「ゾンビかな」
奥のスタッフルームへ続く扉がゆっくり開きました。そこから出てきたものを見て、私は思わず見上げました。
「大きい……」
身長は二メートル近くありそうです。
しかも、とんでもなく太っています。店員用らしいシャツは腹の辺りが裂け、首からは名札がぶら下がっていました。
「店長?」
こむぎさんが名札を読みます。
「本当に店長って書いてある……」
「店長ゾンビデス!」
「そのままですね」
店長ゾンビはこちらを見つけると、低く唸りました。次の瞬間、身体を揺らしながらこちらへ向かってきます。
「来ます!」
体重があるせいか、商品棚へ肩がぶつかるたびに棚ごと倒れていきます。ゲームソフトやケースが床へ散らばり、それでも止まりません。
「これボスじゃない!?」
こむぎさんがバールを構えました。
「ありそうですね!」
私も槍を構えます。くるみさんは改造ネイルガン。カヌレさんは日本刀を抜きました。
「いちごのためにも負けられマセン!」
「来ますよ!」
店長ゾンビがさらに速度を上げました。私達は一斉に身構えます。
その時。店長ゾンビの右足が、床に落ちていたゲームソフトのケースを踏みました。足が滑ります。
「あ」
巨体が前へ傾きました。
「え?」
そのまま倒れていた商品棚へ頭から突っ込みました。棚の角へ首が引っ掛かり、体重に押されて不自然な方向へ折れ曲がります。そのまま倒れました。
また沈黙です。
こむぎさんがバールを構えたまま、恐る恐る聞きました。
「終わり?」
私は槍の先で店長ゾンビの肩を軽く突きました。
反応なしです。
「……終わりみたいです」
「エエ……?」
カヌレさんも刀を構えたまま固まっています。
「ボス戦じゃなかったんデスカ?」
「勝手に転んで死にましたね」
「私達、何もしてないよね?」
「してません」
くるみさんが床へ落ちたゲームケースを拾い上げました。
「ゲームショップでゲームソフトに足を取られて死ぬって……」
「因果を感じマス!」
「感じません」
ゲームのようなこの世界で、ゲームショップの店長がゲームソフトを踏んで自滅しました。
少しだけ気の毒になりました。
♢
学校へ帰った頃には、もう夕方になっていました。
「いちご!」
職員室へ入るなり、カヌレさんが戦利品を掲げました。
「見つけてきマシタ!」
横になっていたいちごさんが、ゆっくり身体を起こします。
「……おお」
「旧型ス●ッチ! ゲームもたくさんありマス!」
「……カヌレ」
「ハイ!」
「……えらい」
「もっと褒めてくだサイ!」
嬉しそうです。
その後、くるみさんが本体を確認し、職員室のテレビへ接続しました。電源を入れると、今度はちゃんとゲームが起動します。
「動いたぁぁぁ!」
こむぎさんが両手を上げました。
「静かにしてください」
「だって動いたんだよ!」
「分かりましたから」
いつの間にか全員が集まっています。最初に選んだのは、四人で遊べるレースゲームでした。
「私やる!」
「……私も」
「いちごさんは座ったままでやってくださいね」
「……分かってる」
「私も参加しマス!」
「じゃあ私も!」
こむぎさん、いちごさん、カヌレさん。
「しぐれちゃんもやるよね?」
「なんでまた当然のように数に入れるんです?」
「四人目だから」
「……まあ、やりますけど」
コントローラーを受け取ります。ゲームが始まりました。
「ちょ、いちごちゃん強くない!?」
「……ゲーム、好き」
「カヌレさん逆走してます!」
「日本のゲームは難しいデス!」
「しぐれちゃん待って! アイテム投げないで!」
「勝負なので」
「性格悪い!」
「戦術です」
後ろから、あずきさんが画面を覗き込んでいます。
「これ、私もできるのか?」
「次ね!」
「早く終われ」
「応援してよ!?」
なめこさんもきなこさんも、さおりさんもくるみさんも、結局みんな興味を持ったようで、順番待ちができました。
外にはゾンビがいて、電気も使える場所は限られていて、ネット回線なんて当然ありません。
それでも。
「もう一回!」
「……まだやる」
「私も次こそ勝ちマス!」
画面の前では、そんなことを忘れるくらい騒がしいです。
文明が滅んだ世界で、わざわざゲーム機を探すためにゾンビのいる街へ出掛ける。冷静に考えれば、かなり馬鹿なことをした気がします。
でもまあ。こんな馬鹿なことができるくらいには、私達の生活にはまだ余裕があるということでしょう。
「しぐれちゃん、次もやろ!」
「……もう一回だけですよ」
その「もう一回」が何回続いたのかは、数えていません。